【そうか病】原因と対策、ジャガイモ(馬鈴薯)の抵抗性品種を解説

そうか病は、病斑が見た目を損ない、品質低下や出荷制限を招くジャガイモ(馬鈴薯)の代表的な病害です。主な原因は土壌中の病原菌で、みかんなど他の作物にも影響する可能性があります。本記事では、耕種的防除や種いも処理など、そうか病の対策方法を解説します。
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そうか病とは?主な症状と原因

そうか病の病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
そうか病とは、ジャガイモ(馬鈴薯)の塊茎表面にかさぶた状の病斑を形成する土壌伝染性の病害です。
そうか病にはジャガイモ(馬鈴薯)などの根菜類に感染するものと、みかんなどの柑橘に感染するものがあります。どちらも症状は似ていますが、病原菌が異なり、感染原因も予防や防除の方法も違います。この記事では、ジャガイモ(馬鈴薯)を対象とします。
そうか病の感染を防ぎ、効果的な防除対策を講じるために、まずは主な症状と発生原因について説明します。
そうか病の主な症状
そうか病は、漢字では「瘡痂病」と書き、瘡痂とはかさぶたを意味します。名前の示す通り、ジャガイモ(馬鈴薯)の表皮にかさぶたのような病斑が現れるのが特徴です。
病斑は主に5〜10mm程度の褐色で、凸凹がほとんどないものが一般的です。そのほか、中央が陥没した大型の病斑や、クッション状に盛り上がった病斑もよくみられ、それらの病斑が融合して広範囲を覆うこともあります。
病斑の下の組織はわずかに腐敗しますが、澱粉価や収量に影響はなく、病斑部分を厚めに剥けば食べられます。しかし、見た目が劣るので商品価値が下がり、発病率15%以上で商品価値を失うといわれています。
そうか病が発生する原因
ジャガイモ(馬鈴薯)のそうか病の病原菌は、「ストレプトマイセス属菌」という放線菌(細菌の一種)です。土壌の中で有機物を栄養源にしながらかなり長い期間生存します。菌を含む土が何らかの理由で混入したり、種いもから持ち込まれたりして伝染するのです。
そうか病が多発する要因として、次の点が挙げられます。
- 塊茎の形成期であること
- 肥大初期である6月中旬~7月中旬頃に20℃以上と地温が高く、乾燥した環境であること
- ジャガイモ(馬鈴薯)の連作や根菜類ばかりを栽培することによる土壌中の菌の増殖
- 土壌pHが6.5以上とアルカリ性に傾いていること
- 未熟堆肥の施用などによる土壌交換酸度(注)の低下
(注)土壌交換酸度:土壌に塩化カリウムを加えて抽出した酸性物質(主に交換性アルミニウム)の量。交換酸度は、pHによって変化し、pH7付近でほぼゼロ、pHが下がるにつれて増加する。
そうか病の防除対策
続いては、そうか病を発生・増殖させないための4つの対策について、具体的に説明します。
※ここで紹介する農薬は、2025年5月31日現在、ジャガイモ(馬鈴薯)のそうか病に登録のあるものです。実際の使用に当たっては、使用時点での作物に対する農薬登録情報を確認し、ラベルをよく読み、使用方法や使用量を守ってください。
1:土壌pHを5.3以下に調整する
そうか病菌は低pH条件に弱く、土壌のpH値を低く調整することで増殖を抑制できます。ほ場全体の病いも率が30%以上といった多発状態でも有効です。
ほ場全体のpH値が高ければ「フェロサンド」などの土壌酸度調整資材を散布し、全面全層施用でpHを5.3以下に調整するのもよいでしょう。輪作の場合は後作への影響を防ぐためにpH5.0以上を保ち、収穫後にプラウ耕起してpH値をもとに戻しましょう。
全面全層施用では大量の資材を必要とするため、コスト高になるのが難点です。種いもの周辺だけpHを下げる「帯状施用」にすれば、全面全層の4分の1程度までにコストを大幅にカットできます。
2:無病種いもや浸漬処理した種いもを使用する

ykokamoto / PIXTA(ピクスタ)
最大の予防は、ほ場に原因菌を持ち込まないことであり、そのためには無病の種いもを入手することが大切です。感染のリスクが非常に低い検査合格証票がついている種いもを入手しましょう。
無病の種いもであることを見極めるのは難しいため、「バクテサイド水和剤」などの消毒剤による浸漬処理を行うことで、より確実に病害のリスクを軽減できます。
また、ジャガイモ(馬鈴薯)の種いも消毒には「アグリマイシン-100」「アグレプト水和剤」「フロンサイド水和剤」などが登録されており、いずれも所定の希釈倍率で調製し、ラベルに記載された使用方法を遵守して処理してください。
3:そうか病に強い「抵抗性品種」を植え付ける
ジャガイモ(馬鈴薯)の品種によって、そうか病への抵抗性に差異があることが世界的に確認されています。日本でも、そうか病にかかりにくい抵抗性品種が開発されているため、抵抗品種を選んで作付けすることはかなり有効な防除方法といえるでしょう。
抵抗性品種には、次のようなものがあります。
・ユキラシャ
抵抗性区分は「強」。男爵で病いも率56~80%の発生が見られるほ場でも高い耐病性を示し、発病抑制効果が確認されています。ジャガイモシストセンチュウへの抵抗性はありません。
中早生で白肉。男爵と比べて収量が多く、澱粉価もやや高めで、業務・加工用途にも適しています。
・スノーマーチ
抵抗性区分は「強」。男爵での病いも率が56~80%にもなる条件下であっても、病いも率を15%以下に抑える高い効果が報告されています。ジャガイモシストセンチュウへの抵抗性も「強」です。
中生で白肉。収量は男爵と同程度、澱粉価はやや高め。煮崩れしにくく、加工向きの特長を持ちます。
・スタークイーン
抵抗性区分は「やや強」。比較的強い耐性を持ちますが、強い汚染ほ場では病徴が現れることがあります。ジャガイモシストセンチュウへの抵抗性があります。
黄白肉で大粒・多収。澱粉価が高く、コロッケやサラダなどの加工用途に適しています。
・春あかり
抵抗性区分は「やや強」。2002年に暖地向けの2期作品種として登録され、ジャガイモシストセンチュウへの抵抗性も有しています。ただし、疫病・青枯病・粉状そうか病には弱い傾向があります。
やや小ぶりながら外観に優れ、淡黄色の肉色と滑皮・浅い目が特長です。澱粉価は11.8%とやや低めです。
・西海30号
抵抗性区分は「中」。デジマやニシユタカといった既存品種よりも強いそうか病抵抗性を持つ、暖地2期作向けの病虫害複合抵抗性系統です。ジャガイモシストセンチュウへの抵抗性もあります。
肉色は淡黄色で粘質、煮崩れしにくい性質があります。大粒で芽が浅く、外観に優れますが、収量はやや控えめです。
4:イネ科やマメ科の作物・緑肥などと輪作を行う

Buntan2019 / PIXTA(ピクスタ)
ジャガイモ(馬鈴薯)の連作や根菜類に偏った輪作を続けていると、土中の原因菌が増殖し、感染しやすくなります。これを防ぐために、ジャガイモ(馬鈴薯)の前作としてイネ科やマメ科の作物を作付けすると軽減効果があります。特に大豆やえん麦野生種は高い効果が期待できます。緑肥の栽培も効果的でしょう。
例として、茨城県で2007〜2009年に、ジャガイモ(馬鈴薯)のそうか病が発生したほ場で、ヘアリーベッチとレタスを作付けして輪作を行ったところ、そうか病の発病が抑制された事例があります。この事例では、ジャガイモ(馬鈴薯)の休栽1年では軽減効果はわずかでしたが、休栽期間を2年にしたところ、効果が顕著に見られたとのことです。(ヘアリーベッチ→ヘアリーベッチとレタス→ジャガイモ)
出典:茨城県農業総合センター農業研究所所収「輪作を主としたジャガイモそうか病の発病軽減効果」
また、北海道ではジャガイモ(馬鈴薯)、ビート、豆、麦による4年輪作の確立により連作障害を抑え、安定的な収量確保を実現しています。
複数の異なる品種による輪作が、そうか病を始めとした連作による障害や病害を軽減し、持続可能な農業の確立に近づけるかもしれません。
以上の4つの対策のほか、土壌水分を保持するために腐植を導入したり、マルチなどで覆って水分の蒸発を防ぐことも効果的です。
そうか病にそっくり? 「粉状そうか病」について

粉状そうか病の病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
そうか病と同じように、見た目の悪さで商品価値を下げてしまう「粉状そうか病」という病害もあります。症状はよく似ていますが、原因や発生しやすい条件が異なり、防除方法も違います。
正しく病害を判断し、的確な防除ができるよう、違いについて詳しく説明します。
※ここで紹介する農薬は、2025年5月31日現在、ジャガイモ(馬鈴薯)の粉状そうか病に登録のあるものです。実際の使用に当たっては、使用時点での作物に対する農薬登録情報を確認し、ラベルをよく読み、使用方法や使用量を守ってください。
「そうか病」と「粉状そうか病」の見分け方
粉状そうか病は、初期には表皮の下が紫色を帯び、表皮に円形で淡褐色〜赤褐色の病斑を生じます。
そうか病との違いは、表皮の下が紫色を帯びている点と、次第に病斑が拡大して表皮が破れ、そこに黄褐色の粉状物が見られることです。破れた表皮の破片がひだ上に残ることでも見分けが付きます。
黄褐色の粉状物は休眠胞子塊で、罹病株の根にコブを形成し、その中にも休眠胞子塊が見られます。
粉状そうか病が発生する原因
粉状そうか病の原因は、少し前までは糸状菌とされていました。現在では、アブラナ科作物の「根こぶ病」の病原体と近縁の原生生物の一種と考えられています。原生生物とは、菌でも植物でも動物でもない真核生物の総称です。
土壌中や罹病種いもの中に含まれる胞子が感染源となり、土壌感染・種いも感染します。胞子は土壌中で3〜4年は生存し、家畜の消化器官を通っても死滅しないといわれます。
「そうか病」と「粉状そうか病」は発生条件が異なることに注意
そうか病と粉状そうか病では土壌水分やpH値、土壌温度などの発生しやすい条件が異なります。
乾燥・高温・土壌pHは中性を好むそうか病に対し、粉状そうか病は多湿な土壌で13〜20℃という比較的低温な環境で感染しやすく、20℃以上になると抑制されます。また、酸性土壌を好みます。
そうか病と粉状そうか病の発生条件は正反対といえるほど異なるので、病害が発生した際の土壌や気温などの条件も、病気を見分ける際の判断基準になります。
防除についても、それぞれ異なります。粉状そうか病もジャガイモ(馬鈴薯)の品種によって抵抗性に差がありますが、ユキラシャの抵抗性は「強」、北育7号・スタークイーンは「やや強」、春あかりは粉状そうか病には弱いなど、そうか病に対する抵抗性とは少し異なります。
また、使用する農薬は、そうか病と共通のものもありますが、粉状そうか病だけに適用があるものもあります。
「オラクル顆粒水和剤」「オラクル粉剤」は、粉状そうか病に対する防除効果が認められており、主に種いもの浸漬処理として使用されます。
一方、「フロンサイドSC」「スキャブロックSC」「ガスタード微粒剤」などは、粉状そうか病を含む複数の病害に適用があり、施用方法としては、植え付け前の土壌への全面散布・混和、または植溝散布が推奨されています。

川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
そうか病は地上では目立った特徴がないため発見が遅れ、甚大な被害になるおそれがあります。病原菌が繁殖しないよう無菌の種いもを使用して、連作を避ける、適切なpH値を保つ、抵抗品種を作付けする、土壌保水性を保つといった対処をしましょう。適切な環境を整えることで、同時に粉状そうか病も防ぐことが可能です。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。