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春ジャガイモの栽培方法|植え付け・収穫時期と品種の選び方

春ジャガイモの栽培方法|植え付け・収穫時期と品種の選び方
出典 : Skylight / PIXTA(ピクスタ)

ジャガイモ(馬鈴薯)の主な作型には春作と秋作があります。春ジャガイモと呼ばれる春作は、短い期間で大収穫が見込める効率のよさが特長で、水稲との輪作にも適しています。 本記事では、春ジャガイモの植え付けや収穫の時期、品種、農機を用いた大規模栽培のポイントを紹介します。

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【栽培暦】春ジャガイモの植え付け・収穫時期

ジャガイモ(馬鈴薯) 植え付け

Mac / PIXTA(ピクスタ)

ジャガイモ(馬鈴薯)の春作は、中国地方から九州地方の暖地を中心に、関東などの中間地でも行われています。

春ジャガイモの植え付けは、関東地方などの中間地では2月下旬~3月下旬頃、九州地方などの暖地では1月下旬から3月下旬頃に行います。

寒さの残る春先に植え付けるため、植え付け後にマルチ栽培が広く行われています。マルチを張ることで地温を上げる効果があるほか、春先に雑草が発生するのを抑えられます。


春ジャガイモの収穫は、中間地・暖地とも5月下旬頃から始まります。植え付けから収穫までの期間はおよそ3~4ヵ月です。

この栽培暦は平均的な目安であり、地域や品種により各作業に適した時期は異なります。特に新芽は霜に弱いので、遅霜の恐れのある時期を避けて植え付けるなど、地域の気候に合わせて最適な時期を見極めてください。

春作の収穫後、8月下旬には秋ジャガイモと呼ばれる秋作のジャガイモの植え付け時期になります。秋作の収穫時期は11月中旬~12月上旬です。

春植えジャガイモは水稲・大豆と並行した栽培も可能

春ジャガイモの栽培期間の中で、労働時間がピークとなるのは、植え付け時期の3月と収穫時期の6~7月です。水稲作の繁忙期である田植え時期(4~5月)と収穫期(9月以降)にピークが重ならないため、水稲と平行して春ジャガイモを栽培すると効率的に作業できます。

また、ジャガイモは連作障害が起こりやすい作物のため、ほかの作物と輪作体系を組み、数年おきにほ場を変えることが重要です。

水稲と春ジャガイモとの輪作には、大豆がおすすめです。大豆は、春ジャガイモの収穫期と同じ6~7月頃に播種を行うので、効率的に作業できることに加えて水稲の作業時期とも重なりません。

また、春ジャガイモ収穫後の7月から播種する大根などの野菜と組み合わせることでも、無駄のない輪作体系が組めます。

春植えに適したジャガイモ品種と選び方

芽が赤いのが特徴のジャガイモ「はるか」

MIKO / PIXTA(ピクスタ)

春ジャガイモには多くの品種があり、新種も続々と誕生しています。春ジャガイモの品種を選ぶ際は、休眠期間が長いものを選ぶのがおすすめです。2024年現在、市場に流通している主要な春ジャガイモの品種は以下の通りです。

  • 男爵:主力品種で栽培しやすいが、大芋では中心空洞が生じることが多い。
  • キタアカリ:男爵よりも果肉が黄色く甘みがある。多収が見込める。
  • メークイン:やや小玉で長細い中早生品種。なめらかな食感が特徴。
  • とうや:早生で早期によく肥大し、大粒になりやすい。裂開を生じることがある。
  • はるか:コロッケなど加工に適した品種で、多収が見込める。芽が赤いのが特徴。
  • ニシユタカ:春作では多収となるが、収穫が遅れた場合は肌荒れしやすいので要注意。

中でも、早生品種である男爵やキタアカリなどは、植え付けから収穫までの期間が短く、育てやすいとされています。

春ジャガイモの大規模栽培におけるポイント

ジャガイモ 収穫 農機

nanairo / PIXTA(ピクスタ)

ジャガイモは多収品種が多く、プロ農家の大規模栽培に向いています。大規模栽培では、機械を導入して栽培を効率化させることが重要です。

この章では、機械化による春ジャガイモの大規模栽培のポイントを解説します。

※ここで紹介する農薬は、2024年10月3日現在、ジャガイモの疫病・軟腐病・そうか病・黒あし病・一年生雑草に登録のあるものです。

実際の使用に当たっては、使用時点での作物に対する農薬登録情報を確認し、ラベルをよく読み、使用方法や使用量を守ってください。

1. ほ場の準備

大型農機で作業するためのほ場準備では、ジャガイモの栽培に適したほ場の選定と排水対策が重要です。

ほ場選び

ジャガイモは連作障害が出やすいので、直近3年間はナス科の野菜が植えられていないほ場が適します。また、ナス科の野菜はジャガイモの近くで植え付けしないよう、注意が必要です。なお、ジャガイモの輪作年限は2~3年とされています。

また、イネ科の牧草を栽培したほ場や、未熟な有機物が鋤き込まれたほ場も、ハリガネムシ発生の原因となるので避ける必要があります。

排水対策

春ジャガイモは湿気に弱く、また、天候が不安定な春先に植え付けるため、前年の11月頃までに排水対策をしておく必要があります。湿度が高いほ場の場合は、額縁排水溝や弾丸暗渠などを設置して、地表排水と地下排水それぞれの対策を万全にするのがポイントです。

2. 土づくり

次に、堆肥の施用やpH調整などの土づくりを行い、基肥を施します。

土壌改良

堆肥の施用は植え付け直前に行うと、そうか病などの土壌病害が起きやすくなるので、前年の秋に済ませる必要があります。さらに、秋耕としてプラウなどで反転・深耕をしておくと、前作の残さの腐敗促進や雑草の防除になります。

耕うんの際には、ジャガイモが十分に根を伸ばせるよう、深さ25cm以上耕します。土壌が十分に乾いた状態で耕し、砕土率60%(土塊2cm以下の土の重量が60%)以上にします。

土づくりで注意すべきポイントが、土壌pHの調整です。pHが高いアルカリ性の土壌は、そうか病などが発生しやすくなるため、石灰は使用せず、pH5.7前後を保ってください。

▼ジャガイモ栽培の土づくりについて、詳しくは次の記事も参照してください。

施肥量の目安

土づくりを行ったら、基肥を施用します。基肥の施用は、畝立てと同時に行うと効率的です。

施肥量は品種によって異なりますが、畝内施肥の場合、主な品種の化成肥料の施肥量目安は以下の通りです。

■男爵・はるか:
窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)それぞれ10a当たり9.6kg

■とうや:
窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)それぞれ10a当たり6.4kg

■ニシユタカ:
窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)それぞれ10a当たり12.0kg

上記を目安として、土壌診断なども参考にしながら施肥量を調整します。

3. 畝立て

茎葉が過密にならないように畝幅は85cmほどとし、22~25cmほどの高さの畝にすると、水はけがよくなります。

畝立ては、農機の利用で大きく省力化できます。畝立て同時施肥ができる機種も多く、自動操舵ガイダンスシステムを導入すれば、初心者でも10a当たり40分もかからずに等間隔の畝立てが行えます。

4. 種芋の準備

植え付け前に種芋の準備を行います。種芋は、1a当たり20~25kgを目安に購入します。2S~S玉を使って全粒植えをする場合は、10a当たり130~140kgです。

種芋を購入後は、早めに「アグレプト水和剤」などの農薬で消毒を行い、表皮の病原菌を防除します。芽や切り口に農薬が入り薬害を生じさせないよう、萌芽前に消毒を行い、農薬が十分に乾くまでは傷を付けないように注意してください。

芽出し(浴光催芽)

種芋は浴光育芽をすることで、欠株や生育のばらつきが小さくなり、収量が安定します。浴光育芽は、雨が当たらないようビニールハウスを使い、植え付け予定から逆算して50日以上前から行います。

浴光育芽の際は、直射日光と30℃以上の高温を避け、ハウス内の換気を十分に行いながら温度は10~20℃、湿度は低く保ちます。種芋はコンテナなどに入れ、1週間に1回は上下を入れ替えてまんべんなく光を当ててください。

芽が5mm程度になったら植え付けの時期です。

切断

芽出し後、80~120g前後の大きい種芋は、1片が40g程度になるように縦に切断します。その際、各片に2〜3つの芽が入るように切ります。 芽数が多い場合は、切断の際に頂芽をそぎ落として調整します。

種芋の切断は、植え付けの4~5日前に行い、陰干しで切り口を乾かします。

5. 植え付け

植え付けの前に、腐敗している種芋や病害に侵されている種芋は取り除き、大きさをそろえて仕分けておきます。

春ジャガイモの植え付けは、降霜がなくなったら速やかにほ場を乾かして準備をします。耕起後に雨が降ると土壌が乾きにくいので、耕起と植え付けは1日で行うのが理想です。

栽植密度の目安は、畝幅を85cm、株間26cm、1条植えでほ場利用率を90%とした場合、10a当たり約4,100株です。ニシユタカなど小粒の品種は、株間を22cmとすると10a当たり4,800株になります。

覆土の深さは、台形畝の場合7~8cm、かまぼこ型畝の場合は13cm程度が目安です。あまり深いと、地上に芽が出るまで時間がかかり、萌芽が不ぞろいになったり「黒あざ病」が発生しやすくなったりするので注意してください。

マルチを張る場合は、あらかじめ追肥を入れておき、覆土を15~20cmと厚めにします。また、60 日ほどで分解される生分解性マルチを利用すると、マルチ剥ぎ作業が省けます。

植え付け作業の日程に余裕がない場合は、半自動野菜移植機などの農機を利用するのもおすすめです。1人でも簡単に植え付けでき、半自動でも10a当たり1時間半足らずで作業できます。

植え付け後は「ゴーゴーサン乳剤」などの土壌処理除草剤をほ場全面に散布し、初期の雑草を防ぎます。

6. 土寄せ

ジャガイモの露地栽培では、土寄せが欠かせません。土寄せには、以下のような効果が期待できます。

  • 畝間の除草
  • ジャガイモ表面の緑化防止
  • 保水力の維持
  • 中心空洞や二次生長の予防

土寄せは萌芽後10~20日の間で、芽が15cmくらい伸びた頃に1回目、さらに10~20日後くらいに2回目の計2回行います。高床のトラクターを利用して土寄せを行えば、10a当たり50分足らずで作業が可能です。

7. 茎葉処理

茎葉が黄色く変わってきたら収穫時期です。収穫を機械で行う場合は、準備として茎葉処理を行います。

茎葉処理は、切断面がすぐに乾くように天気のよい日に行います。収穫する株を、培土を削らないように地際から10cmほどの高さで処理してください。

なお、刈払い機を使って茎葉処理を行うと10a当たり3時間強かかりますが、専用の茎葉引抜機では10a当たり2時間半足らず、トラクターとフレールモアを使えば10a当たり1時間強で作業が可能です。

茎葉処理後は、疫病・軟腐病を防ぐために「Zボルドー」などの農薬を散布し、雑草が多い場合は除草剤を散布します。マルチ栽培の場合は、高温障害などを防ぐためにマルチも剥がしておきます。

8. 収穫

茎葉処理後7~10日ほど経ったら、ほ場が乾いている天気のよい日に収穫します。収穫の際は、芋を傷付けないように丁寧に掘り起こします。

収穫作業でも、農機を活用した大幅な省力化が可能です。トラクターと掘取機を使って掘り上げ、コンベアーで後ろに運び収穫されたジャガイモを地面に並べます。収穫に要する時間は10a当たり約40分です。

収穫作業のあとは、小粒芋や緑化した芋を選別しながら拾い上げます。これも、ピッカーを活用すれば3人の選別員が流れ作業で選別でき、作業時間の短縮が可能です。作業条件にもよりますが、10a当たり5時間かからずに選別作業できる場合もあります。

高品質な春ジャガイモを栽培する3つのコツ

新じゃが 収穫

たけちゃん / PIXTA(ピクスタ)

より品質のよいジャガイモを栽培するためには、病害防除や追肥、マルチの管理などの各作業で、ポイントを押さえておくことが重要です。

病害の初期防除を徹底

春ジャガイモでは、特に疫病やそうか病、軟腐病の発生に注意します。こうした病害を防ぐコツは、早期発見・早期防除です。

疫病

疫病は、葉に病斑やカビが発生し、芋にも黒っぽい病斑が生じる病害で、ジャガイモの栽培で特に注意が必要な重要病害とされています。

防除対策は、疫病の発生が増える5月下旬を目安に、早めに開始します。「フォリオゴールド」「ライメイフロアブル」など、伸長部位へ成分が移行するような農薬が効果的です。梅雨の期間は、耐雨性が高く空中散布も可能な「ザンプロDMフロアブル」がおすすめです。

農薬散布開始後は、農薬ごとに決められた使用回数以内でローテーションを組み、7~10日おきに、10日以上間隔を空けずに散布してください。

そうか病

そうか病にかかると、芋の表皮にかさぶたのような赤褐色の病斑が生じます。見た目が悪くなり、商品価値が著しく下がるため、収益に及ぼす影響は深刻です。

そうか病は発生すると防除できないので、予防が大切です。種芋の消毒や土壌pHを5.6程度に抑えること、未熟な堆肥を使わないこと、連作を避けることなどの予防策を徹底します。

▼そうか病の防除については、以下の記事も参照してください。

軟腐病

高温期には軟腐病の発生が増加します。対策として、6月中旬からは軟腐病に効果のある「カスミンボルドー」などの農薬を、決められた使用回数以内でローテーションを組み、茎葉処理をするまで定期的に散布します。

被害株の早期撤去やほ場周辺の除草、適正な施肥など、耕種的防除も組み合わせると農薬の効果が高まります。

肥大化を促す追肥の実施

植え付けから20日ほどの時期に、肥大化を促すために追肥を行います。

土寄せの1回目と同時に施肥を行うとよいでしょう。この時期はイモの肥大化が始まるので、追肥を行って初期の肥料不足を防ぎます。窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)が1:1:1で配合された化成肥料を、株から離れた場所に施用します。

生育状況を見ながら、必要に応じて2回目の土寄せの際も同時に追肥を行います。降雨量や株の生育状況をよく確かめ、追肥の必要性や適切な施肥量を判断することが重要です。マルチを張っているほ場は、追肥の必要はありません。

マルチの適切な管理

マルチ栽培の春ジャガイモでは、肥料や土壌の流出がないので、追肥や土寄せの作業負担を省くことが可能です。また、地温が高くなるため生育が促され、早どりができたり、収量が増えたりすることも大きなメリットです。

黒マルチを利用すれば、芋の緑化を抑制できるといったメリットもあります。

こうしたメリットを活かして、大規模栽培の場合は、作付面積の1/3ほどをマルチ栽培にし、収穫時期を早めて作業の分散化もできます。ただし、地温が上がりすぎると高温障害が出やすくなるので注意が必要です。高温障害を防ぐためには、茎葉処理を行う際にマルチを撤去してください。

おすすめの後作は?春ジャガイモの輪作体系例

枝豆 畑

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)

ジャガイモは連作障害が起きやすく、1度作付けをしたら、同じほ場で再び作付けするまでに2~3年の期間を置く必要があります。連作障害を防ぐためには、ほかの作物との輪作が有効です。

ここでは、輪作体系を構築する際に知っておきたい春ジャガイモに適した後作や、連作する場合の連作障害対策について解説します。

春ジャガイモに適した後作の例

長崎県の諫早湾干拓地でのジャガイモ栽培では、連作障害を回避するために、玉ねぎや緑肥などとの輪作体系が組まれています。

枝豆などの豆類も後作におすすめです。特に枝豆は、7月に播種し秋に収穫するので、春ジャガイモの後作に適しています。

キャベツや小松菜などアブラナ科の葉菜類も、ジャガイモの後作におすすめです。葉菜類の野菜は土中の窒素をよく吸い、収穫までの期間が短く、7月に播種しても晩夏には次の作物を栽培できるため、輪作に向いています。

春・秋ジャガイモを連作するポイント

ジャガイモを連作する場合には、連作障害を防ぐために病害虫に強い品種を用いたり、収穫ごとに天地返しや土壌消毒を徹底したりするとよいでしょう。これらの対策によって、連作による病害虫や生理障害の発生を抑えられます。

北海道に次ぐ産地である長崎県では、暖地であることから春作と秋作の二期作を行っている農家が少なくありません。

そのため、そうか病や青枯病、ジャガイモシストセンチュウといった病害虫に悩まされてきました。 しかし、これらの病害虫に抵抗性を持つ「さんじゅう丸」(注)という品種が生まれ、西南暖地で人気が出てきています。

(注)「さんじゅう丸」:長崎県農林技術開発センターが、そうか病とジャガイモシストセンチュウに抵抗性があり、多収で見た目もよい品種をめざして育成し、2010年に品種登録を出願。同センターの試験では、そうか病については長崎県の主力品種「デジマ」「ニシユタカ」よりも強い抵抗性を示し、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有する、とされている。

春ジャガイモは比較的栽培しやすく、水稲や小麦の裏作として輪作も可能です。病害虫が多く、連作障害が起こりやすいなどの点に注意をすれば、大規模栽培にも適しています。病害虫防除や栽培管理のコツを理解し、よく肥大した春ジャガイモを収穫してください。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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