春ジャガイモの大規模栽培方法! 輪作体系や連作に強い品種は?
春ジャガイモと呼ばれる、ジャガイモ(馬鈴薯)の春作は基本的に丈夫で育てやすく、水稲や大豆、緑肥、アブラナ科野菜類などとの輪作が可能です。春ジャガイモの品質と収量アップをめざし、農機を活用した大規模栽培のポイント、連作障害対策、注意すべき病害を解説します。
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目次
ジャガイモ(馬鈴薯)は、年間を通して需要の高い作物です。ジャガイモ(馬鈴薯)の主な作型には春作と秋作がありますが、春ジャガイモと呼ばれる春作は、水稲との輪作にも向いており、短い期間で大収穫が見込める効率のよさが魅力です。
当記事では、農機を用いた春ジャガイモの大規模栽培をする上で、気を付けるべき栽培のポイントと連作障害対策を紹介します。
【栽培暦】春ジャガイモの植え付け&収穫時期
Mac / PIXTA(ピクスタ)
春ジャガイモは、おおよそ2月中旬~3月上旬に種芋を植え付けます。収穫時期は梅雨の時期の5月下旬~6月上旬です。
これは平均的な目安であり、地域や品種により適した時期は異なります。特に新芽は霜に弱いので、遅霜の恐れのある時期を避けるなど、地域の気候に合わせて最適な時期を見極めましょう。
春作の収穫後、8月中旬には秋ジャガイモと呼ばれる秋作のジャガイモ(馬鈴薯)の植え付け時期になります。秋作の収穫時期は11月下旬~12月中旬です。
なお、ジャガイモ(馬鈴薯)の春作は、主に中国地方から九州地方の暖地で行われています。大産地としては、長崎県と鹿児島県が有名です。
春植えジャガイモ(馬鈴薯)は水稲・大豆と並行した栽培も可能
春ジャガイモの栽培に要する月ごとの労働時間のピークは、植え付け時期の3月と収穫時期の6~7月です。田植え時期の4~5月と収穫期の9月以降が繁忙期となる水稲とは労働時間のピークが重ならないので、水稲を主穀作として平行して栽培することもおすすめです。
その際には、春ジャガイモと同じ6~7月頃に播種で労働時間のピークを迎える大豆を輪作の基幹品目にすると効率的です。
春作に適した品種とその特徴
MIKO / PIXTA(ピクスタ)
春ジャガイモには多くの品種があり、新種も続々と誕生しています。2020年現在、市場に流通している主要な春ジャガイモは以下の品種です。
・男爵:市場における主力品種。栽培しやすいが大芋では中心空洞が発生しやすい。
・とうや:早生で早期によく肥大し、大粒になりやすい。裂開を生じることがある。
・はるか:コロッケに多く加工される品種であり、多収が見込める。芽が赤いのが特徴。
・ニシユタカ:春作ではかなりの多収となり、収穫が遅れた場合は肌荒れすることもある。
省力化できる工程は? 春ジャガイモの大規模栽培方法
ジャガイモ(馬鈴薯)は多収品種が多く、大規模栽培に向いています。そしてその大規模栽培の際に特に重要となるのが、機械を導入し栽培を効率化させることです。そこでこの章では、機械化により春ジャガイモを大規模栽培する際のポイントを解説します。
ほ場の準備 土作り
この段階で注意すべき点としては大きく5つあります。
・ほ場の選定について
最初に注意すべきポイントが、ほ場の選定についてです。
ジャガイモ(馬鈴薯)は連作障害が出やすいので、直近3年間はナス科の野菜が植えられていないほ場が適します。また、ナス科の野菜はジャガイモ(馬鈴薯)の近くで植え付けしないよう、注意が必要です。なお、ジャガイモ(馬鈴薯)の輪作年限は2~3年とされています。
また、イネ科の牧草を栽培したほ場や未熟な有機物が鋤きこまれたほ場も、ハリガネムシ発生の原因となるので避ける必要があります。
・排水対策について
次に注意すべきポイントが排水対策です。
春ジャガイモは天候が不安定な春先に植え付けるため、前年の11月頃までに排水対策などをしておく必要があります。湿度が高く湿害が出やすいほ場の場合は、額縁排水溝や弾丸暗渠を設置して、地表排水と地下排水それぞれの対策を万全にしましょう。
・堆肥の使用時期について
3つ目に注意すべきポイントが、堆肥の使用時期です。
堆肥の施用は、植え付け直前にすると、肌荒れで商品価値が下がるそうか病などの土壌病害が起きやすいので、前年の秋に済ませる必要があります。さらに秋耕としてプラウなどで反転・深耕をしておくと前作の残さの腐敗促進、雑草の防除になります。
さらに、ジャガイモ(馬鈴薯)が十分に根を伸ばせるよう、深さ25cm以上耕します。土壌が十分に乾いた状態で耕し、砕土率60%(土塊2cm以下の土の重量が60%)以上にしましょう。
・施肥量について
4つ目に注意すべきポイントが、肥料の施用量 です。施肥量は品種によって異なり、主な品種の化成肥料の施肥量(畝内施肥の場合)の目安は以下の通りです。
■男爵・はるか:
窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)それぞれ10a当たり9.6kg
■とうや:
窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)それぞれ10a当たり6.4kg
■ニシユタカ:
窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)それぞれ10a当たり12.0kg
上記を目安として、土壌にあった施肥量を調整しましょう。
なお、基肥は畝立てと同時に行うと効率的です。
・土壌pHについて
最後に注意すべきポイントが、土壌pHについてです。土壌pHが高い場合はそうか病が発生しやすくなるため、石灰は使用せずpH5.7前後に保つよう努めましょう。
ほ場の準備 畝立て
茎葉が過密にならないように畝幅は85cmほどとし、22~25cmほどの高さの畝にすると水はけがよくなります。
畝立ては、農機の利用で大きく省力化できます。自動操舵ガイダンスシステムを導入すれば、初心者でも10a当たり40分もかからずに等間隔の畝立てが行えます。
種芋の準備
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
種芋は、1a当たり20~25kgを目安に準備しましょう。2S~S玉を使って全粒植えをする場合は、10a当たり130~140kgになります。
種芋を購入後は、早めに「アグレプト水和剤」などの農薬で消毒を行い、表皮の病原菌を防除します。芽や切り口に農薬が入り薬害を生じさせないように、萌芽前に消毒を行い農薬が十分に乾いてから切断します。
種芋はビニールハウスを使って浴光育芽をすることで欠株や生育のばらつきが小さくなり、収量が安定します。浴光育芽は、植え付け予定から逆算して50日以上前から行い、芽の長さを5mmほどにそろえます。
ハウス内は換気を十分にしながら温度を10~20℃にし、湿度は低く保ちます。コンテナなどに入れた種芋は1週間に1回は上下を入れ替え、まんべんなく光を当てましょう。芽が5mm程度になったら植え付けの時期です。
植え付けの前に腐敗している種芋や病害に侵されている種芋は取り除き、大きさをそろえて仕分けておきましょう。
植え付け
春ジャガイモの植え付けは、雪が解け降霜がなくなったら速やかにほ場を乾かして準備をしましょう。耕起後に雨が降ると土壌が乾きにくいので、耕起と植え付けは1日で行うのが理想です。
適した栽植密度は、畝幅を85cm、株間26cm、1条植えでほ場利用率を90%とした場合、10a当たり約4,100株です。小粒のニシユタカは、株間を22cmとすると10a当たり4,800株です。
覆土量は台形畝の場合は7~8cm、かまぼこ型畝の場合は13cm程度です。マルチを張る場合はあらかじめ追肥を入れておき、覆土を15~20cmと厚めにします。60 日程度で分解する生分解性マルチを利用すると、マルチ剥ぎ作業が省けます。
植え付け作業の日程に余裕のないには、半自動野菜移植機などの農機を利用するのもおすすめです。一人でも簡単に植え付けでき、半自動でも10a当たり1時間半足らずで作業できます。
植え付け後は、ゴーゴーサン乳剤などの土壌処理除草剤をほ場全面に散布し、初期の雑草を防ぎます。
土寄せ
ジャガイモ(馬鈴薯)の露地栽培では、土寄せが欠かせません。土寄せには、以下のような効果が期待できます。
・畝間の除草
・ジャガイモ(馬鈴薯)表面の緑化防止
・保水力の維持
・中心空洞や二次生長の予防
土寄せは萌芽後10~20日の間で、芽が15cmくらい伸びた頃に1回目、10~20日後くらいに2回目の計2回行います。土寄せも機械化する際には、高床のトラクターを利用して土寄せを行えば、10a当たり50分足らずで作業することもできます。
茎葉処理
茎葉が黄色く変わってきたら、ジャガイモ(馬鈴薯)の収穫時期です。収穫を機械で行う場合は一気に行えますが、その準備として茎葉処理をしておく必要があります。
茎葉処理は、切断面がすぐに乾くように天気のよい日に行いましょう。収穫する株を、培土を削らないように地際から10cmほどの高さで行います。
なお、刈払い機を使って茎葉処理を行うと10a当たり3時間強かかりますが、専用の茎葉引抜機だと10a当たり2時間半足らず、トラクターとフレールモアを使えば10a当たり1時間強で作業できます。
茎葉処理後は、疫病・軟腐病を防ぐために「Zボルドー」などの農薬を散布したり、雑草が多い場合は除草剤を散布したりします。マルチ栽培の場合は、高温障害などを防ぐためにマルチも剥がしておきます。
収穫
nanairo / PIXTA(ピクスタ)
茎葉処理後7~10日ほど経ったら、ほ場の乾いた天気のよい日に収穫します。収穫の際は芋を傷つけないように丁寧に掘り起こしましょう。
収穫作業でも、農機を活用することができます。トラクターと掘取機を使って掘りあげ、コンベアーで後ろに運び地面に収穫されたジャガイモ(馬鈴薯)が置かれます。収穫に要する時間は10a当たり約40分で、手作業よりも大幅に省力化できます。
そのあとは、小粒芋や緑化した芋を選別しながら拾い上げる作業があります。これも、ピッカーを活用することで、3人の選別員が流れ作業で選別することができ、省力化につながります。作業条件にもよりますが、10a当たり5時間かからずに選別作業できる場合もあります。
失敗を防いで品質のよいジャガイモ(馬鈴薯)を栽培するコツ
たけちゃん / PIXTA(ピクスタ)
より品質のよいジャガイモ(馬鈴薯)を栽培するためには、病害防除、追肥などのポイントがあります。
病害防除は「初期防除」が肝要
病害防除の基本は、早期発見・早期防除です。
疫病の防除
ジャガイモ(馬鈴薯)で特に注意が必要な疫病の対策として、発生が増える5月下旬から早めに防除を開始しましょう。「フォリオゴールド」など、伸長部位へ成分が移行するような農薬を散布するとよいでしょう。
農薬散布開始後は7~10日おきに、10日以上間隔をあけずに行うことがポイントです。
軟腐病の防除
高温期には「軟腐病」の発生が増えます。6月中旬からは軟腐病に効果のある「カスミンボルドー」などの農薬を、茎葉処理をするまで定期的に散布します。
梅雨の期間は耐雨性の高い「ザンプロDMフロアブル」が効果的です。被害株の早期除去やほ場周辺の除草、適正な施肥など、耕種的防除も組み合わせると農薬の効果が上がります。
肥大化に大きな影響を及ぼす「1回目の」追肥
春ジャガイモの追肥タイミングは、植え付けから20日ほどの時期です。
土寄せの1回目と同時に施肥するとよいでしょう。この時期はイモの肥大化が始まるので、初期に肥料不足を起こさないための追肥です。窒素(N)・リン酸(P)・カリウム(K)の割合が同じ化成肥料を株から離れた場所に、追肥をまきます。
2回目の土寄せの際にも、同時に追肥を行います。ただし、追肥が必要ない場合もあるので、降雨量やジャガイモ(馬鈴薯)の生育状況をよく確かめ、適量を判断する必要があります。マルチを張っているほ場には、追肥は必要ありません。
張るべき? 「マルチ栽培」のメリット・デメリット
ジャガイモ(馬鈴薯)をマルチ栽培にすると、肥料や土壌の流出がないので、追肥や土寄せの手間を省くことができます。また、地温が高くなるため生育が促され、早採りができたり収穫量が増えたりします。黒マルチを利用すれば、緑化を抑制できるといったメリットがあります。
この特性を利用して、大規模栽培の場合、作付面積の1/3ほどだけをマルチ栽培にし、収穫時期を早めて分散化することもできます。ただし、地温が上がりすぎると高温障害が出やすくなるので注意が必要です。茎葉処理を行う際に、マルチは除去しましょう。
春ジャガイモの輪作体系例&連作するためのポイント
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
ジャガイモ(馬鈴薯)は一度作付けをしたら同じほ場で再び作付けするまでに2~3年の期間を置く必要があります。ここでは、春作ジャガイモ(馬鈴薯)の連作障害対策を紹介します。
輪作に適した作物
連作障害を防ぐにはさまざまな方法がありますが、最も効果的な方法は輪作です。長崎県の諫早湾干拓地でのジャガイモ(馬鈴薯)栽培では、連作障害を回避するために玉ねぎや緑肥などとの輪作体系がくまれています。
枝豆や大豆などの豆類も、後作におすすめです。特に枝豆は、7月に播種し秋に収穫するので、春ジャガイモの後作には適しています。
キャベツや小松菜などのアブラナ科の葉菜類も、ジャガイモ(馬鈴薯)の後作に適しています。葉物野菜は土中の窒素をよく吸い、収穫までの期間が短く、7月に播種をしても晩夏には次の作物を栽培できるという点でも、輪作に向いています。
春・秋ジャガイモを連作するには?
北海道に次ぐ産地である長崎県では、暖地であることから春作と秋作の二期作を行っている農家が多くあります。そのため、そうか病や青枯病、ジャガイモシストセンチュウといった病害虫に悩まされてきました。
これらの病害虫に抵抗性を持つ「さんじゅう丸」(注)という品種が生まれ、西南暖地で人気が出てきています。
(注)「さんじゅう丸」:長崎県農林技術開発センターが、そうか病とジャガイモシストセンチュウに抵抗性があり、多収で見た目もよい品種をめざして育成し、2010年に品種登録を出願。同センターの試験では、そうか病については長崎県の主力品種「デジマ」「ニシユタカ」よりも強い抵抗性を示し、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性を有する、とされている。
このような病害虫に強い品種を用いたり、収穫ごとに天地返しや土壌消毒を徹底したりすることで、できる限り病害虫や生理障害を抑えながら連作することが可能になります。
春ジャガイモは比較的栽培しやすく、水稲や小麦の裏作として輪作も可能です。病害虫が多く、連作障害が起こりやすいなどの点に気を付ければ、農機を活用した大規模栽培も可能です。病害虫防除や栽培管理のコツを理解し、よく肥大した春ジャガイモを収穫しましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。