【ドローン?ヘリ?】農薬散布の単価を比較!施肥への活用で収量15%アップする方法
これまで無人ヘリコプターの独壇場だった農薬散布に、ドローンを活用する動きが広がっています。双方ともに農作業の効率アップに貢献しますが、コスト面ではどちらに軍配が上がるのでしょうか。面積当たりの費用単価など、農薬散布の現状を解説します。
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目次
ドローンの性能が飛躍的に高まり、農業分野でも完全に自動航行での農薬散布が可能になりました。では散布費用を考えた場合、業者に依頼するほうがよいのか、それともドローンを購入したほうがよいのか。それぞれの単価とメリットを比較してみましょう。
大規模な農薬散布を容易にする「無人ヘリ」と「ドローン」
これまでの農薬散布では、地上から無線で操作する無人ヘリコプターが活躍していました。しかし近年、3つ以上の回転翼(ローター)を搭載するマルチコプター、またはマルチローターと呼ばれる無人航空機を使った方法が普及してきました。
一般には、自律飛行ができるマルチコプターをドローンと呼んでいます。
ヘリコプターとドローンのどちらも低空からほ場全体に、正確に農薬を散布することが可能で、人力とは比較にならないほど効率的に作業を行うことができます。まずはそれぞれの特徴をまとめてみましょう。
無人ヘリコプターによる農薬散布の特徴
ちった / PIXTA(ピクスタ)
現在ドローンが急速に普及しているものの、農薬散布は依然として無人ヘリコプターが主流です。農業で一般的に使用される無人ヘリコプターは、機体重量が100kg程度で、飛行速度は時速10~20km、認定オペレーターが地上からラジコンで操作します。
無人ヘリコプターによる農薬散布は、機体が大きいため積載できる農薬の量が多く、1度の飛行で広い面積に散布できます。ドローンに比べると、作業効率はかなりよいでしょう。
無人ヘリコプターによる農薬散布は業者に委託するのが一般的で、散布時期になったら目印の旗をたてておきます。農家が実際に作業しなくてもよいのが大きなメリットです。
委託料金は単位面積当たりで決まっており、面積によっては総コストがドローンより低くなるケースもあります。
ただし、機体が大きいことから作業には最低でも3人以上のオペレーターが必要で、小さなほ場では作業が難しいなどのデメリットもあります。
農業用ドローンによる農薬散布の特徴
kazuki / PIXTA(ピクスタ)
一方のドローンには、自動航行という大きなメリットがあります。最新の農業用ドローンは、GPSとRTK(注)という測位システムを搭載していて、プログラミングされたコースで自律的に農薬散布を行います。
(注)RTK:「リアルタイムキネマティック(Real Time Kinematic)」の省略形。GPSなど衛星を用いた測位システムでは、受信機が4つ以上の衛星から信号を受信することで測位を計算します。対して、RTKは、4つ以上の衛星からの信号を、地上の固定局と移動している受信機の2つで受け、双方で通信しながらズレを補正します。そのため、高い精度での測位が可能です。
複雑な地形や狭いほ場でも効率的な作業ができ、機体が小さいのでオペレーター1人でも作業が可能です。(ほか監視員1人が必要)
ヘリコプターに比べると作業音が小さいというメリットもあります。
デメリットとしては、1回の飛行で可能な作業時間が限られることが挙げられます。農薬の積載量が少ないことと、バッテリー駆動の場合は一定時間で交換が必要なことから、長時間連続して作業ができないためです。
値段が安いのはどっち?農薬散布の単価比較
タカス / PIXTA(ピクスタ)
ここではドローンと無人ヘリコプターと、どちらがコスト面でメリットがあるのか単価比較をしてみます。代行業者に作業を依頼する値段と、機体を購入する場合の価格も比べてみましょう。
平均外注単価に大きな差はない
農薬散布を代行業者に依頼するときには、基本的に面積当たりの単価が決まっています。各業者の作業単価を見てみると、1反(10a)当たり2,000〜3,000円程度となっています。使用する農薬代は別料金です。
無人ヘリコプターでも、単価の相場は1反(10a)当たり2,000~3,000円程度で、明確な違いは見られません。単純計算では、10haの水田に1回農薬散布を行うと、作業にかかる費用だけで200,000~300,000円になります。
出典:
株式会社Med-Bridge「ドローン農薬散布代行」
株式会社山進「散布事業」
機体を購入する場合はドローンが安くて便利
1回にかかる代行作業の費用を考えると、機体を購入したほうがコストを抑えられる かもしれません。その場合ほとんどの農家は、ドローンを選ぶことになるでしょう。
最新の産業用無人ヘリコプターは、新品では1機当たり1,000万円を超えます。中古品を検討するとしても、500万円程度からが相場のようです。
出典:日本経済新聞「ヤマハ発動機、産業用無人ヘリ「FAZER R」2018年モデルを発売」
それに対して、十分な機能を備えた小型のドローンであれば、機体価格のみなら100万円を切る製品から選べます。大規模なほ場向けでも、200~300万円程度で新品のドローンが購入できます。
出典:PR TIMES「株式会社マゼックス【大幅進化した新型の農業用ドローン】飛助DX・飛助mini」(2021年3月23日)
機体を購入するなら、ほ場の規模に合わせたサイズのドローンを選択することになるはずです。取り扱いやメンテナンスの面から見ても、無人ヘリコプターの購入は現実的ではありません。
株式会社マゼックス「飛助mini 21年モデル」
商品価格:550,000~630,000円(メーカー希望小売価格、税抜)
出典:株式会社 PR TIMES(株式会社マゼックス ニュースリリース 2021年3月23日)
購入時に考慮したい、機体価格以外の費用負担
ドローンは購入してすぐに飛ばせるものではありません。実際に農薬散布を行うためには、一定時間以上の飛行実績をもとに、使用許可の申請をする必要があります。
操縦技能を学び一定時間の飛行実績を上げるためには、ドローンスクールで資格を取得する方法が一般的です。受講期間は5日間程度で、受講料は20~30万円が相場のようです。
また、万が一の事故などを考慮すると、ドローンにも保険が必要です。大きく分けると、ドローンの航行中に事故などで賠償責任が生じた場合を想定した賠償責任を保障する保険と、機体の破損や水没事故、盗難などを想定した保険の2種類があります。
例えば、損害保険大手の東京海上日動火災のドローン保険では、賠償責任保険の年間保険料は、最高ランクの基本補償支払限度額10億円の場合、10,500円からとなっています。機体保険は機種によって異なり、4,000円前後から6万円前後まで幅があります。
出典:東京海上日動火災保険株式会社「東京海上日動のドローン保険」
また、ドローンメーカーが損害保険会社と連携して専用の保険商品を用意している場合もあります。
もっと低コストにできる?農薬散布用ドローンをできるだけ安く導入する方法
Ystudio / PIXTA(ピクスタ)
農業用ドローンの購入を決めた場合、もっと低コストで導入する方法はないのでしょうか。コストを下げるポイントを2つ紹介します。
ポイントは「必要な機能を見極める」こと
実際に農薬散布をドローンで行うと、高性能、多機能なことがかえって邪魔になる場合もあります。
ドローンを選ぶときには、必要な機能だけに絞って機種選択を行うことをおすすめします。またドローン保険でも、保障内容を絞り込んだタイプがあり、保険料をかなり抑えることができます。
対象となる補助金はぜひ活用しよう
ドローン購入に補助金を申請するのも1つの方法です。以下では2つの補助金を例に挙げて紹介します。詳細は該当する窓口に問い合わせてください。
1. 小規模事業者持続化補助金
補助金は販路開拓や生産性向上の取り組みなどが対象で、ドローン導入で使える通常枠の補助率は2/3で、補助額の上限は50万円です。
出典:全国商工会連合会「小規模事業者持続化補助金(一般型)」
2. ものづくり補助金
補助金は設備導入費が対象で、小規模事業者は3分の2以内、中小企業扱いになると2分の1以内が補助されます。上限はともに1,000万円です。
出典:全国中小企業団体中央会「ものづくり補助金総合サイト」
ほかにも農業経営支援の補助金制度の中で、ドローンの購入に活用できる制度があるかもしれません。1度市町村やJAなどに相談してみるとよいでしょう。
※補助金についてはこちらの記事もご覧ください。
ドローンでの可変施肥も実現! 栽培管理支援システムを活用しよう
ドローンは農薬散布だけでなく、施肥にも活用できます。栽培管理支援システムで可変施肥マップを作成すれば、ドローンでの可変施肥も可能です。
ここでは、総合化学メーカーの大手BASFが提供する「xarvio®(ザルビオ)フィールドマネージャー」を例に挙げ、栽培管理支援システムでできることを解説します。
地力・生育状況が一目でわかる
栽培管理支援システムを利用することで、ほ場の地力や作物の生育状況を確認できます。ザルビオでは、過去の衛星データをもとにした「地力マップ」と、リアルタイムの衛星画像をもとにした「生育マップ」が利用できます。
ザルビオの地力マップ。ほ場内の地力の違いが一目でわかる
画像提供:BASFジャパン株式会社
ザルビオの地力マップを見れば、地力の低い場所がすぐにわかるため、正確な基肥設計を簡単に立てられます。土壌分析する際にも適切な場所を選択できるようになり、精度の高い施肥管理に役立てられます。
ザルビオの生育マップ。ほ場内の生育状況が一目でわかる
画像提供:BASFジャパン株式会社
ザルビオの生育マップを見れば、ほ場に行くことなく生育状況を確認できます。一つひとつのほ場を回る負担を削減できるため、追肥の判断を迅速かつ正確に下すことが可能です。
施肥すべきタイミングがわかる
ザルビオの施肥推奨アラートを活用すれば、施肥すべきタイミングで通知を受け取れます。
ザルビオの施肥推奨アラート。施肥の推奨期間を知らせてくれる
画像提供:BASFジャパン株式会社
AIが生育状況に応じて施肥の推奨期間を導き出すため、ほ場ごとに個別化された作業適期を知ることができます。また、プッシュ通知を受け取れるため、ザルビオを開かなくても施肥の適期がわかります。
近年、異常気象の多発により作業適期を掴むことで難しくなっていますが、AI解析を活用することでより正確な判断が可能になります。
可変施肥マップを作り、ドローンなどのスマート農機と連携できる
ザルビオは、地力マップと生育マップをもとに最適な施肥量を算出することで、可変施肥マップを生成できます。使用量を入力するだけで、システムが自動でエリアごとの散布量を計算します。
ザルビオの可変施肥マップの設定画面。使用量を入力するだけでエリアごとの施肥量を自動で計算してくれる
画像提供:BASFジャパン株式会社
完成した可変施肥マップ。地力の高いエリア(濃い紫)と地力の低いエリア(薄い紫)が細かく分けられている
画像提供:BASFジャパン株式会社
作成した可変施肥マップは、スマート農機に読み込ませることで、地力や生育状況に応じて精密に可変施肥ができます。
ザルビオを導入するだけで、特別な知識や機材がなくても手軽に可変施肥を実施することが可能になります。さらに、施肥の適期判断もサポートしてくれるので、農業用ドローンをより一層活用することができます。
収量15%アップ&肥料コスト25%削減!ザルビオ活用事例
ザルビオを活用して、収量アップとコスト削減に成功した事例をご紹介します。
児玉さんは宮崎県で水稲とサツマイモ(甘藷)を栽培している
画像提供:BASFジャパン株式会社
児玉さんは、6haのほ場で水稲とサツマイモ(甘藷)を栽培しています。兼業農家から専業農家にステップアップする過程で、知識や経験が不足していることに不安を感じていました。
そこで注目したのが、データ活用により精密な農業を可能にするザルビオでした。
児玉さん「はじめはSNSの広告で見かけたのですが、『生育を管理する』というワードが気になりました。自分が知っている営農ツールは「作業を管理する」ものが多いイメージだったので、作物を管理してくれるアプリってなんだろう?と興味を持ちました。」
また、ほ場の地力を確認できる点にも関心を持っていたようです。
児玉さん「その頃は地力にとても関心を持っていたので、本当に地力がわかるならばすごいなと思いました。ただ「なんでこれで地力がわかるんだ?」「ウソでしょ?」というのが本音で、地力がわかるなんて絶対ありえないと思いました。」
初めは半信半疑だったといいますが、導入後は効果を実感したそうです。
児玉さん「地力マップでほ場内でも特に地力が高いと表示されたゾーンは、明らかに雑草の生え方が周りよりも旺盛。全然違っていたんです。それでかなり期待が高まりましたね。」
児玉さんのほ場の地力マップ。地力に差があることがわかる。
画像提供:BASFジャパン株式会社
雑草が旺盛な場所と、ザルビオで”地力が高い”と示された場所が一致していた。
画像提供:BASFジャパン株式会社
これを踏まえ、可変施肥を始めたそうです。
児玉さん「地力マップを参考にして、地力が高いところは肥料の量を減らして、逆に地力が低いところにはたくさん振るようにしました。地力マップで地力の低い場所には肥料を多めに撒いたことで、昨年と比べて収量が15%アップしました。」
可変施肥を実施してから、収量アップに加えて、肥料の使用料は25%程度削減できたそうです。収益アップだけでなく、施肥量をコントロールすることにより、コスト削減にもつなげられます。
児玉さんはザルビオとブロードキャスターで施肥していますが、ザルビオとドローンを活用すれば、さらなる省力化と収量アップやコスト削減が期待できます。
マップは自動作成!ドローンで可変施肥を始める方法
可変施肥マップの作成は、高度な知見や技術が必要だと考えている方も多いのではないでしょうか。確かに、地力や生育状況をご自身の目で確認する場合、大きな労力が必要になりますが、ザルビオを活用すれば、10a当たりの肥料の使用量を入力するだけで可変施肥マップが完成します。
ここでは、ザルビオで可変施肥を始める手順を解説します。
まず、ザルビオ公式サイトで「会員登録(無料)」に進み、アカウントを作成します。
アカウントが作成できたら、ご自身のほ場と肥料を登録します。
次に、可変施肥したいほ場を選択します。
画像提供:YouTube「BASF Agricultural Solutions」
「タスク管理」を選択します。
画像提供:YouTube「BASF Agricultural Solutions」
「施肥」を選択します。
画像提供:YouTube「BASF Agricultural Solutions」
使用する肥料を選択します。
画像提供:YouTube「BASF Agricultural Solutions」
10a当たりに使用する肥料の量を入力します。
画像提供:YouTube「BASF Agricultural Solutions
すると、ザルビオがゾーンごとの施肥量を自動で計算し、可変施肥マップが完成します。
画像提供:YouTube「BASF Agricultural Solutions」
スマート農機と連携して可変施肥を行う場合は、データをダウンロードして農機に読み込ませます。また、可変施肥に対応したスマート農機を持っていない場合でも、マップを見ながら手動で可変施肥することが可能です。
今後スマート農業を推進するうえでも、ドローンを導入する農家は年々増加する予測できます。農薬散布は継続的に必要な作業なので、作業を外注するかドローンを購入するか、コストパフォーマンスや労力を考慮したうえで判断することが重要です。
また、ドローンは農薬散布のほか、施肥にも活用できます。スマート農業に対応したドローンを導入すれば、可変施肥により収量アップやコスト削減が期待できます。
ザルビオでは、衛星画像で捉えた地力・生育状況をもとに、可変施肥マップを自動で作成することが可能です。スマート農業を実践し、収量アップやコスト削減を図りたいと考えている方に最適なツールです。
ザルビオは会員登録無料です。まずは一度、最先端の栽培管理支援システムをお試しください。
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大澤秀城
福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。