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特例子会社とは?設立要件や定義、農業分野の取り組み例までやさしく解説!

特例子会社とは?設立要件や定義、農業分野の取り組み例までやさしく解説!
出典 : 株式会社 PR TIMES(コクヨ株式会社 ニュースリリース 特例子会社 ハートランド株式会社の作業風景)

2018年に障害者の法定雇用率が引き上げられ、対象となる事業主の範囲も広がって以降、雇用率達成・維持のために特例子会社を設立する企業が増えています。特に農業分野に参入する特例子会社が増加している現状について、事例を挙げながら解説します。

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農業の新たな経営主体として、企業が障害者の法定雇用率を達成・維持するために設立する特例子会社の参入が増えています。障害者が農業を通して地域の中で活躍する機会が広がる中、農業においてはどのような影響や課題があるのでしょうか。農福連携の今後を探ります。

特例子会社とは?その定義・認定要件と、設立数が増え続ける理由<

パーソルグループの特例子会社のパーソルサンクス株式会社では、地域の農家が販売・出荷できなかった作物を集め、製菓工房で加工・販売する農福連携事業を実施

パーソルグループの特例子会社のパーソルサンクス株式会社では、地域の農家が販売・出荷できなかった作物を集め、製菓工房で加工・販売する農福連携事業を実施
出典:株式会社 PR TIMES(パーソルホールディングス株式会社 ニュースリリース 2020年10月15日)

より多くの障害者雇用が企業に求められる中、障害者の安定した雇用を確立・維持するため、特例子会社を設立する企業が増えています。

近年は特に農業分野への特例子会社参入が多く見られ、今後、農業の新たな経営主体として、地域コミュニティとの関わりもますます増えることが予想されます。まずは特例子会社の定義と、今後どのように農業に関わってくるのかについて説明します。

「特例子会社」とは、障害者の雇用を促進・安定させるための制度

特例子会社制度とは、障害者雇用率を安定的に上げるため、「対象となる事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社」を設立できるようにした制度です。「障害者の雇用の促進等に関する法律」によって規定されています。

2021年3月の時点で、従業員43.5人以上の民間企業は、全従業員の2.3%以上の割合で障害者を雇用する義務があります。しかし、通常業務の中で障害者ができる仕事は限られ、日常業務を抱える社員が指導するのも困難です。また、就業規則や職場環境を障害者に対応できるように整えるには、時間もコストも少なからずかかります。

そうした問題から、企業の障害者雇用の取り組みは、なかなか進みません。そのような状況を打開するため、特例子会社の活用が推奨されています。

新たに障害者を雇用対象として配慮した子会社を作り、定められた要件を満たせば、その子会社に雇用されている従業員を親会社の雇用として障害者雇用率を算定できるという特例が認められます。さらに、特例子会社を持つ親会社の企業グループ全体で実雇用率を算定することもできます。

出典:厚生労働省ホームページ 雇用 > 事業主の方へ ~従業員を雇う場合のルールと支援策~の「従業員のタイプ別のルールと支援策」の項、「障害者雇用のルール」所収の「特例子会社」制度の概要

注目されるのはなぜ?特例子会社設立数の推移と、増加に至った背景

企業にとって特例子会社を作るメリットは、障害者の方の特性に配慮した仕事を確保でき、職場環境を整えやすいことです。

施設や備品のバリアフリー化や障害者が働きやすい体制作りもまとめて効率的に行え、設備投資をカットできます。従業員が働きやすい環境になることで、生産性の向上も見込めるでしょう。

また、雇用している障害者の人数を親会社の実雇用率に算入できるため、障害者の法定雇用率を親会社やグループ会社全体でクリアしやすくなるのも利点です。

このような背景もあって特例子会社の数は年々増加を続けており、厚生労働省のデータによると2011年には319社だった特例子会社数が、2020年には542社まで増加しています(2020年6月1日現在)。

特例子会社数と障がい者数グラフ

出典:厚生労働省「特例子会社制度の概要」よりminorasu編集部作成

「農福連携」で農家へのメリットも!農業分野における特例子会社

特例子会社設立が推進される中、特に農業分野への進出が増加しています。そこで、農業における特例子会社ならではの特徴と農業にとってのメリットを、地域の農家との関わりを交えて解説します。

農業分野へ参入する特例子会社の特徴

障害者の雇用は、2000年以前は身体障害者が中心で、受け入れ先は製造業が主でした。2000年以降、特例子会社制度が普及するにつれてサービス業での雇用が増え、知的障害者や精神障害者の雇用者数も増加します。

2008年頃からは農業を主体とする特例子会社が増えはじめ、2017年6月1日時点では特例子会社全体で464社のうち、40社以上が農業分野に進出しています。農業を主な事業としている特例子会社には、知的障害や精神障害を持つ人が多く雇用されている点が大きな特徴です。

事業内容は、自社内で野菜などの栽培や販売を行うケースのほか、地域の農家の農作業を請け負っているケースもあります。

農業の現場では、草取りや袋詰めなど、簡単ながらも非常に重要な作業も多く、また、休耕畑の管理ができず荒れてしまうという悩みを抱える地域もあります。そうした作業を特例子会社が請け負うことで、地域において重要な役割を果たすことができます。

農業と福祉の連携(農福連携)によって、農業における労働力確保と、障害者を中心とした雇用先の確保という課題の解決が見られ、企業にとってもCSR(企業の社会的責任)の取り組みの一環として特例子会社を導入するメリットが生まれます。

農業関連の事業における低収益傾向の課題は、親会社との連結決算・連結納税によって損益通算を行うことや、農作物の生産・加工を親会社から受託する形式をとることによって軽減できます。

出典:農林水産政策研究所
「特例子会社による農業分野の現状と課題」
「企業による農業分野での障害者の 働く場づくりの意義と課題」

障害者雇用支援の株式会社エスプールプラスでは、企業向け貸し農園事業を2021年春に開始している

障害者雇用支援の株式会社エスプールプラスでは、企業向け貸し農園事業を2021年春に開始している
出典:株式会社 PR TIMES(株式会社エスプールプラス ニュースリリース 2020年10月27日)

人手不足解消の一手となる?農家が特例子会社へ農作業を委託するメリット

特例子会社による農業分野への参入は、農家にとっても大きなメリットがあります。

農作業を委託することにより、農繁期のみといった不定期な作業における労働力が確保できます。働き手は特例子会社が手配してくれるので、労務管理の負担軽減も期待できるでしょう。

草むしりなどの日常的な作業を委託すれば、農家は品質向上のための作業や農地拡大といった取り組みに専念できるので、収入アップにもつながります。

また、誰でも作業できるように作業手順をわかりやすくまとめてマニュアル化することで、基準が明確になり作業の質が統一されるというメリットも期待できます。

親会社の事業内容は、物流や住宅建設など、農業とは関わりのない分野であることが少なくありません。そのため、まったく異なる分野が持つ強みやノウハウが、従来の農業で当たり前とされてきた業務の見直しや効率化などに生かせるケースもあります。

【参考事例】農業分野に進出した特例子会社の取り組みと、現状の課題

最後に、農業分野の特例子会社による成功事例の紹介と、今後の課題について解説します。

農作業を請負!「ひなりモデル」が注目を集める、CTCひなり株式会社の事例

CTCひなり株式会社は、IT企業の伊藤忠テクノソリューションズ株式会社を親会社とする特例子会社です。2010年の設立以来、東京本社で清掃作業や軽作業を行うほか、浜松営業所では2020年時点で障害のある社員が28人在籍し、7軒の農家と契約して農作業を請け負っています。

CTCひなりが提唱する「ひなリモデル」は、農業・福祉・企業の三者が互いに連携し、それぞれの役割を明確に表したもので、農福連携の模範として全国から注目されています。

「ひなりモデル」による農福連携

「ひなりモデル」による農福連携
出典:農林水産省「農福連携の取組実践事例集(平成31年4月)」、CTCひなり株式会社「ユニバーサル農業 農・福・企 連携モデル」よりminorasu編集部作成

CTCひなりが契約している農家の1つが、長年にわたって障害者雇用に取り組む農福連携の先駆者である京丸園株式会社です。

CTCひなりの社員が請け負うミニチンゲンサイの栽培作業において、CTCひなり側から作業場の環境改善を求めたり、出荷方法や作業の効率化を提案したり、機械化と人の手による作業の分担を決めたりと、積極的に改善の提案を行っています。

中でも一番の改善点として挙げられるのが、人の動きを正確に管理した作業場の動線の整備です。1歩でも1作業でも無駄にしないという考えは、IT企業である親会社の持つ効率化の視点を農業現場に取り入れた好例といえるでしょう。

京丸園株式会社ホームページ
CTCひなり株式会社の農福連携事業のページ

年間の作業量に波がある、農業分野ならではの課題も

農業の作業量は時季によって繁閑の波があるため、通年の業務を確保することが難しく、黒字経営を達成できない企業が少なくありません。通年で安定した作業受託は、農業分野で業務を請け負う特例子会社の大きな課題です。

この課題を解決するために、CTCひなりの事例のように複数の農家と連携したり、農閑期を活用して農産物の加工・販売を行ったりするほか、名刺印刷など他部門の導入や業務拡大の検討など、さまざまな試みが行われています。

農福連携が地域全体で活性化するように、農家側も特例子会社に任せられる作業をリストアップして積極的に委託し、自身がやるべき業務に注力できるようになれば、課題の解決だけでなく農業経営の成長にもつながることが期待できます。

農閑期にはラベル貼りも

Graphs / PIXTA(ピクスタ)

障害者雇用率向上のための特例子会社制度は、農業における慢性的な人手不足という課題とマッチして、双方にとってメリットのある取り組みが増えつつあります。

農家側でも特例子会社に委託できる作業を整理し、積極的に連携することで、自身の農業経営の効率化や収入アップだけでなく、地域の活性化にもつながることでしょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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