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農福連携とは? 農家が取り組むメリットと、障害者雇用の成功事例

農福連携とは? 農家が取り組むメリットと、障害者雇用の成功事例
出典 : StockSeller / PIXTA(ピクスタ)

農福連携とは農業と福祉活動を融合させる取り組みのことで、各地でさまざまな事業が行われています。では、具体的にはどのような取り組み事例があり、どのような成果が挙がっているのでしょうか。ここではその事例やメリットについて検証していきます。

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日本の農業は、慢性的な人材不足に悩まされています。一方で障害者のみなさんは、就業の機会がなかなかつかめないといった状況に置かれています。

農福連携とは、この両者を結びつける取り組みのことです。この記事では農福連携の概要と、具体的事例について解説します。

農林水産省が推進する「農福連携」の取り組みとは?

minorasu(ミノラス)の画像

農林水産省・厚生労働省が2019年に主催した「農福連携推進フォーラム」のポスター
出典:ソーシャルワイヤー株式会社

農福連携とは

農福連携とは、農林水産省・厚生労働省・文部科学省・法務省が中心になり、農業と福祉活動をさまざまな角度から支援する取り組みです。現在は「全国農福連携推進協議会」を設置して、都道府県・企業・団体、そして個人も参加する大規模なネットワークになっています。

農福連携は農業と福祉活動を結びつけながら、農業分野での人材不足の解消と、障害者の社会参加ならびに就業機会の創出を目的としています。また、公的な補助金制度の対象にもなっており、人材育成のための研修制度も整備されています。

日本の就農者の推移をデータで見てみると、農業就業人口が年々減少すると同時に、農業従事者の高齢化は確実に進行しています。一方で障害者の就業率は、ほとんどすべての年代で一般よりもかなり低い状況です。

そうした中で、農業分野での障害者雇用は、毎年少しずつですが増加を続けています。しかも、農福連携に取り組む農家の多くが、障害者を貴重な労働力として評価しています。では、障害者が農業に取り組む場合、どのような方法があるのでしょうか。大きく2つのケースに分けて紹介していきます。

出典:農林水産省ホームページ「農福連携の推進」所収のパンフレット「福祉分野に農作業をver.8(法務省・文部科学省・農林水産省・厚生労働省)」

障害者の職業紹介状況等 平成20年度~令和元年度 全体・農林漁業の職業

出典:厚生労働省「障害者の職業紹介状況等 平成20年度~令和元年度」よりminorasu編集部作成

農家が障害者を雇用するケース

農業法人のほか、農業関連企業が子会社や別法人を設立して、新たに農業へ参入する際、積極的に障害者の雇用を行っている事例があります。

このケースでは、障害者を雇用するだけの事業体力が求められることから、個人農家での受け入れはなかなか難しいかもしれません。

障害者福祉施設が農業を行うケース

これは障害者福祉施設のように、障害者を支援する機関が農業に参画して、障害者に就業の場を提供するケースです。加えて、障害者福祉施設が農業事業者と契約を結び、事業者のほ場で障害者が作業を行う「施設外就労」という働き方もあり、この場合は季節限定での就労も可能です。

障害者雇用により黒字を達成。20年以上にわたって農福連携を行う農家の事例

農福連携 工夫次第で様々な農作業を任せられる

Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

実際に、20年以上継続的に障害者を雇用して、売上アップと黒字経営を達成している静岡県浜松市で13代続く農家の京丸園株式会社の事例を紹介します。

京丸園では、総面積1.3haに35棟のハウスを設置して、ミニチンゲンサイ・ミツバ・芽ネギなどの水耕栽培を行っています。そのほかに1.3haの田畑で、米やいも類も栽培しています。

障害者の雇用を開始したのは1996年のことで、以来、毎年1名の障害者雇用を継続し、現在は知的・身体障害者25名が通年就業中です。県立浜松特別支援学校から実習生を受け入れており、それが毎年の雇用につながっています。

京丸園では、障害者だからといって簡単な作業に制限するようなことはしていません。扱いやすい器具を考案したり、作業を補助する機械を導入するなど、独自の工夫をすることで作業効率を高めています。以前は、熟練者だけに可能だった難易度の高い作業も、今では多くの障害者ができるようになりました。

成功の秘訣は、雇用する障害者ひとりひとりの能力に合わせた作業方法を考案し、小分け包装した野菜など、消費者に人気のある商品を販売していることです。その結果、生産性と収益性が高まり、現在は毎年黒字を計上しています。

京丸園株式会社ホームページ内 農福連携の考え方を紹介するページ「ユニバーサル農業」

農林水産省の平成30年「食料・農業・農村白書」でも、農業経営者が障害者を直接受け入れる事例として同社が紹介されています。
「自分の存在が誰かの役に立っている」を実感できる場面を創造 ~京丸園株式会社(静岡県)~

このような事例から見えてくるのは、障害者であっても十分に効率的な農業に従事できるということです。やり方しだいでは、農福連携の可能性はさらに広がるでしょう。

農福連携の導入事例については、北海道の特定非営利活動法人どりーむ・わーくすの活動を紹介したこちらの記事もご覧ください。
【農福連携】障がい者が「農家の戦力」となり、地域農業を支えるまで~前編:農福連携事業化への挑戦
【農福連携】障がい者が「農家の戦力」となり、地域農業を支えるまで~後編:モデル事業の確立

農福連携に農家が取り組むメリット

続いては、農福連携を農家側のメリットから検証してみましょう。農福連携を推進することで、人材確保以外にもいくつものメリットが見えてきます。

農業労働力を確保し、経営拡大が目指せる

農家にとっての障がい者を受け入れることによる効果

農家にとっての障がい者を受け入れることによる効果
出典:一般社団法人日本基金「平成30年度農福連携の効果と課題に関する調査結果」よりminorasu編集部作成

まず、障害者にとって重要な就業のチャンスが増えることで、農家にとっても貴重な人材確保につながります。

しかし、農家にとってのメリットは人材確保だけではありません。

一般社団法人日本基金が、実際に障害者を受け入れている農家に対して行ったアンケート調査の結果を見ると、人材確保以外にも、「営業等の時間が増えた」「作業の見直しによる効率向上」「経営規模の拡大」「新たな販路開拓につながった」など経営拡大につながる副次的な効果も数多く挙げられています。

また、「継続して農業を行っていく動機になった」という回答にあるように農業の継続という面でも効果が期待できることがわかります。

継承者がいない地域では、荒廃農地などの拡大も問題になっており、放置すればその土地は農地として利用できなくなることも考えられます。障害者を積極的に受け入れることで、こういった問題の解消が期待できるでしょう。同時に、縮小を続ける地域コミュニティの活性化にもつながるかもしれません。

農林水産省の補助事業による交付金が受けられる

農福連携に取り組む農家は、農林水産省による補助事業のサポートを受けることも可能です。補助事業には2種類あり、それぞれに補助金が交付されます。その概要は以下のとおりです。

農福連携支援事業

主に障害者の作業能力向上のための支援で、専門家の指導による生産技術・加工技術習得のための研修や、作業効率を上げる指導などに利用できます。補助金の交付率は一定額で、上限は150万円ですが、農福連携整備事業の「農業経営支援型」と同時に活用する場合は300万円までに拡大されます。

農福連携整備事業

障害者の受け入れ環境を整備するための支援で、農業に関わる生産・加工施設の整備や、その関連施設の整備に活用できます。補助金の上限は最大で2,500万円です。

農福連携支援事業と農福連携整備事業は、原則的に併せて実施する必要があります。また、支援の対象は法人に限られることにも注意してください。

詳細は、農林水産省ホームページ「農福連携の推進」の「3.交付金事業]の項をご覧ください。令和3年度予算への公募は終了していますが、随時相談できる窓口が紹介されています。
農山漁村振興交付金(農福連携対策)の相談先一覧

より活動を広げるには? 農福連携における今後の課題

農林水産省・厚生労働省が2019年に主催した「農福連携推進フォーラム」のポスター

農林水産省・厚生労働省が2019年に主催した「農福連携推進フォーラム」のポスター
出典:ソーシャルワイヤー株式会社

全国から農福連携の成功事例が報告されている一方で、今後農福連携を推進するためにはまだ課題も残されています。その1つは、「農福連携とは何か」という周知活動が不足していることです。また、障害者に対して技術を指導できる人材も不足しています。

こうした課題を解決するためには、全国的に「農福連携」の知名度向上を図りながら、農家が農福連携を利用するきっかけとなるモデルケースの構築や、農業と福祉をつなげるマッチング・システムの整備が必要になるでしょう。


農福連携を周知し機運を醸成する取り組みとして、関係省庁(林水産省・厚生労働省・法務省・文部科学省)、地方公共団体、経済団体、農林水産業団体、福祉団体などが参画する「農福連携等応援コンソーシアム」が2020年3月に設立されました。

ホームページ「ノウフクWEB」開設、農福連携についての情報発信を行っています。

日本の農業で常に問題になっている人材不足と、障害者の雇用確保を上手にマッチングさせる取り組みが農福連携です。

農家にとって障害者を受け入れることには課題もありますが、障害者の能力を活かせれば収益アップが見込める可能性もあります。事業拡大と社会貢献を両立できる農福連携を、ぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。

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大澤秀城

大澤秀城

福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。

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