【玉ねぎ栽培】追肥のポイントは? 品種・栽培地域による違いを解説
玉ねぎ栽培では、生育に合わせた栽培管理が大切です。特に追肥の仕方は玉ねぎの品質と収量に大きく影響します。品種の早晩性や作型に応じたの追肥の仕方は、収益確保のために押さえておきたいポイントです。
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玉ねぎには、寒冷地の春まき栽培、一般地・暖地の秋まき栽培、新しい作型の冬春まきまで、様々な作型があります。
そこでこの記事では、玉ねぎの品種や作型に応じた追肥のポイントについて解説します。
玉ねぎ栽培|基本の作型
追肥の仕方に触れる前に、玉ねぎの基本的な作型について見ていきます。
夏から初秋に収穫される北海道の玉ねぎ
オクケン / PIXTA(ピクスタ)
主な産地
国内の主な玉ねぎ産地は、北海道、佐賀県、兵庫県、長崎県、愛知県などです。特に北海道は、全体の収穫量の6割以上を占める大産地です。
出典:農林水産省 作物統計調査 作況調査(野菜)「令和元年産野菜生産出荷統計」よりminorasu編集部作成
作型と品種
寒冷地の北海道では春に播種し夏に収穫を、その他の地域では秋に播種し初夏に収穫をするのが一般的です。
初夏に収穫される佐賀県白石町の玉ねぎ
野村詩朗 / PIXTA(ピクスタ)
また東北以南の地域では、冬に播種し夏から秋までの端境期に収穫・出荷する新作型の「冬春まき栽培」も開発されています。産地によって、適した品種や栽培暦が変わります。
出典:JA全農営農販売企画部「東北以南における玉ねぎの冬春まき栽培マニュアル」、サカタのタネ園芸通信「タマネギの育て方・栽培方法」よりminorasu編集部作成
早生種・極早生種は栽培期間が短く、主に暖地で栽培されます。市場では「新玉ねぎ」として流通しており、球は小さめで辛みが少ないのが特徴です。代表的な品種は「ソニック」「春いちばん」「スーパーアップ」などです。
barman / PIXTA(ピクスタ)
中生種から晩生種になるほど、栽培期間が長くなります。暖地から寒冷地で栽培され、球は大きく早生種よりも身が締まり保存が利きます(品種によっては半年ほど)。代表品種は「ネオアース」「アトン」「ケルたま」「ターボ」などです。
mix / PIXTA(ピクスタ)
玉ねぎ栽培|施肥の基本
玉ねぎは休眠を挟むこともあり、生育期間の長さのわりに大量の肥料を必要としません。栽培期間や地域によっては、追肥を減らすこともあります。
肥料不足はトウ立ちや肥大不足を招きますが、肥料過多も生育不良や根傷みなどの原因になるので、施肥は「適切なタイミングで過不足なく行う」ことが大切です。
施肥の内容とタイミング
kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)
玉ねぎは、保水・排水性がよく肥沃な土壌でよく育ちます。酸性土壌に弱いので、定植前に苦土石灰と堆肥を入れてよく耕し、酸性度を調整しておきましょう。
目安として苦土石灰は10a当たり10~15kg、堆肥は2~3tを、2週間ほど前に入れます。1週間前には化成肥料を入れて耕し、排水性をよくするため畝を作り平らにならしておきます。
基本的な施肥は、基肥と2~3回の追肥です。
基肥は播種時に窒素(N):リン酸(P):カリウム(K)を1:2:1の割合で施すのが目安です。
リン酸は基肥で全量を基本とし、窒素とカリウムは生育に応じて追肥で与えるようにします。早生系の品種は生育期間が短いので、追肥の回数を減らします。
品種・地域による違い
栽培期間が異なるように、施肥の仕方も地域や品種によって変わります。
北海道の春まき玉ねぎ
北海道の春まき玉ねぎは定植から収穫までの生育期間が短いため、基肥をしっかりと施せばその養分のみで生育可能です。そのため、追肥は行わないのが一般的です。
暖地の極早生種
主に暖地で栽培される極早生系の玉ねぎも、定植から収穫までの生育期間が短く、冬の間の休眠もほとんどありません。
またマルチ栽培が一般的で肥料の流失も少ないため、緩効性肥料を含んだ一発肥料を使うのが主流です。
@ism / PIXTA(ピクスタ)
そのほかの品種
そのほかの品種については栽培期間と生育に合わせて追肥をします。次の章でポイントをまとめます。
玉ねぎ栽培|追肥のポイント
ilyakalinin - Adobe.stock.com
玉ねぎの追肥は播種後の生長期に行いますが、多肥にならないことと止め肥のタイミングが非常に大切です。
タイミングを外すと生育不良やトウ立ちの原因となりますし、多肥や止め肥の遅れは病害虫の発生や貯蔵性を損なう原因になります。
北海道の春まき玉ねぎと極早生種は追肥を行わないのが主流のため、ここでは主に、そのほかの地域の秋まき栽培について見ていきます。
秋まき栽培の場合(主に暖地)
秋まき栽培の場合は、播種・定植後、冬から春にかけてはゆっくりと生長し、本格的に寒くなる冬は一時的に生長が止まります(休眠:早生系を除く)。
ミック / PIXTA(ピクスタ)
そのため、追肥は定植後と春先の生長期に行います。施肥の割合は、早生種の場合は基肥3分の2・追肥3分の1とし、中晩生種の場合は基肥と追肥を半量ずつとします。
1回目は、定植の2週間後から行います。早生種の場合は12月中旬~1月上旬頃、中晩生種の場合は1月初旬~中旬頃になります。
2回目は、早生種の場合は2月上旬~中旬頃、中晩生種の場合は2月中旬~下旬頃になります。春になると根が一気に生長するのでこの追肥で必要な養分を蓄えます。
早生種の場合は2回目の追肥を止め肥とし、中晩生種の場合2月中旬~3月上旬に最後の追肥を行います。
4~5月が球の肥大期になりますが、肥料の遅効きは球の肥大成熟を遅らせ貯蔵性を悪くするので、止め肥は3月で終わらせるようにします。
Yoshitaka / PIXTA(ピクスタ)
冬春まき栽培の場合(主に寒冷地)
新型の冬春まき栽培は生育期間が短く、球肥大期に窒素が多いと病害や腐敗が多発する恐れがあるので、追肥はほとんど不要です。
追肥を行う場合は、西日本で3月上旬、東日本では遅くとも5月上旬までに終えるようにします。
玉ねぎ栽培|施肥方法や減肥の工夫
収益作物として玉ねぎ栽培に大規模に取り組む産地も多いなか、長い栽培期間の間の肥料コストと手間を減らすため、減肥の試みも行われています。
定植時に種子の真下に施肥することで初期生育を促進したり、緩効性肥料の活用や局所施肥などで効率よく肥料を効かせようとするものです。効率的な施肥ができれば収益面でも大きなメリットになります。
リン酸肥料の直下施肥による減肥
トマト大好き / PIXTA(ピクスタ)
日本の農地に多く見られる火山灰土壌では、窒素やカリウムに比べてリン酸が効きにくくなります。
リン酸は玉ねぎの根や茎の発育に欠かせないため、不足しないように吸収量を大きく上回る量を入れますが、これは肥料のコスト増にもつながります。
そこで、火山灰土壌のほ場で直播栽培をする場合、リン酸を効果的に効かせる方法として考えられたのが、リン酸肥料を玉ねぎの種子の直下に施用する「直下施肥」です。
具体的には基肥リン酸量の3分の1~4分の1(リン酸成分量で10a当たり約10kgの過リン酸石灰)を、コート種子直下約2~4cmへ局所施用し、残りの基肥(3分の2~4分の3のリン酸、窒素及びカリウム)を全層施用します。
これにより初期生育が促進され、基肥リン酸の約30%を削減しながら従来と同等の収量を確保することができます。
出典:農研機構 北海道農業研究センター「タマネギ直播栽培における直下施肥を用いたリン酸肥料の減肥技術」
「全量基肥の局所施用」による減肥と省力化
kurga / PIXTA(ピクスタ)
需要が高い加工・業務用玉ねぎでは、質と収量の確保と低コスト生産の両立が求められます。
そこで取り組まれているのが、緩効性肥料を用いた「全量基肥の局所施用」による減肥と省力化です。
慣行では、基肥を全層全面に施し、さらに追肥を行っています。これに対し、基肥を苗の定植位置から5cm下に筋状に肥料を入れる「局所施用」では、減肥することが可能です。
この試験では、慣行の施肥体系と、基肥を局所施用し追肥を行う施肥体系(A)、追肥を行わない全量基肥で緩効性肥料を局所施用する施肥体系(B)で、減肥の影響を比べています。
その結果、基肥の局所施用+追肥(A)では、窒素量で30%減肥しても、可販収量10a当たり5t以上を確保できることがわかりました。それ以上減肥するとL品率が落ちてしまいます。
緩効性肥料を用いた全量基肥の局所施用(B)では、窒素量で50%減肥しても、可販収量10a当たり5t以上を確保できL品率も落ちないことがわかりました。
慣行の場合とのコスト比較(肥料と追肥作業)も行っています。
基肥の局所施用+追肥(A)で30%減肥の場合は約15%、緩効性肥料を用いた全量基肥の局所施用(B)で50%減肥した場合は約25%のコスト削減となると報告しています。
出典:茨城県農業総合センター園芸研究所「タマネギ秋移植栽培における局所施肥・減肥栽培技術」
一発肥料による省力化
定植時に施用すれば、玉ねぎの生育とともに緩く長く効く「一発肥料」も市販されています。
一発肥料は表面を特殊コーティングすることで肥効のタイミングが異なる肥料を複数混ぜてあり、一度に肥料が効きすぎることがないように作られています。特にマルチ栽培ではマルチを取り外しする手間がなく便利です。
ただし、普通の肥料よりは割高であること、汎用性に乏しいこと、最初に入れる量や天候によって肥料不足になり得るなどのデメリットもあります。
一発肥料を使う場合でも、生育状況を見ながら施肥管理することが基本です。
pritsadee / PIXTA(ピクスタ)
玉ねぎ栽培で留意したい追肥の仕方、品種と作型による違いについてまとめました。近年では産地化に取り組む地域の増加や新作型の開発に伴い、減肥栽培技術も進みそうです。
適切な施肥管理が収量と質、収益確保につながるので、改めてポイントを押さえておきましょう。
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柳澤真木子
父の実家が農家で母も生活協同組合を活用していたことから、農業や食料に関心を持ち、 大学卒業後の5年間をJAの広報部門で、以後5年を食品小売会社の広報として働く。 消費者向け農業メディアの企画執筆経験や、JAグループ・農林水産省の広報紙の記事執筆経験がある。 その後、出産・育児を経て、2019年からライターとして活動を開始。 ライフスタイル、ヘアケア、農業など複数ジャンルでの記事執筆を手がけている。