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【玉ねぎ栽培マニュアル】発生しやすい病害・害虫一覧! 防除方法を一挙解説

【玉ねぎ栽培マニュアル】発生しやすい病害・害虫一覧! 防除方法を一挙解説
出典 : bee / PIXTA(ピクスタ)

玉ねぎは年間を通して需要が高く、比較的育てやすい作物です。とはいえ、ネギ類に特有の病害虫も多く、収穫後の貯蔵中に甚大な被害を受けた例もあります。注意すべき病害虫の症状や発生原因、防除方法を知り、早期防除するための情報を詳しく解説します。

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需要が高く全国で栽培可能な玉ねぎは、農家にとって頼れる作物です。しかし、玉ねぎにも病害虫が発生するため、栽培を始める前に防除のポイントを押さえる必要があります。

ここでは、中間地~暖地における栽培暦に沿って症状・発生原因・防除方法について詳しく説明します。

玉ねぎの生育に適した気温は? 中間地~暖地における栽培暦

淡路島の玉ねぎのほ場 高畝による排水対策

けいわい/ PIXTA(ピクスタ)

玉ねぎは、全国各地でその土地の気候に合わせた栽培暦で栽培されています。この記事では、関東から西の中間地~暖地における一般的な作型である「秋まき春(初夏)どり」の栽培暦に沿って、生育段階に応じた病害虫対策を紹介していきます。

それ以外の気候で栽培している農家にも病害虫の発生条件や環境などを把握しやすいように、まずは中間地~暖地での「秋まき春(初夏)どり」の栽培暦を、生育段階の適温に触れながら簡単に紹介しましょう。

玉ねぎの発芽・生育適温は15~20℃です。早生であれば9月上旬、中生なら9月中旬、中晩生・晩生は9月下旬が播種適期です。育苗期間は播種からそれぞれ約2ヵ月で、11月中に定植します。

越冬し、十分に球肥大させてから収穫します。球肥大適温は平均して15~25℃で、極早生品種では10~13℃、晩生種では約20℃と差があるので、品種による適温をよく確認しましょう。

ただし、球肥大には日長も重要です。早生は12時間前後、中生で13時間前後、晩生で13.5時間前後の日長で肥大開始するので、そこから十分な期間を経てから収穫します。

収穫期は、早生は4月中旬~5月中旬、中生は5月中旬~6月中旬、中晩生・晩生は6月で、その後、それぞれ8月中旬、12月いっぱい、2月いっぱいまでが貯蔵可能期間です。

以上が平均的な栽培暦です。これを基準として生育段階に沿って注意すべき病害虫の症状・原因・発生条件・防除について解説します。

なお、この記事で紹介する農薬はすべて2021年3月10日現在で登録のあるものです。農薬の使用に当たってはラベルの記載内容をよく確認し、使用方法を守って正しく散布してください。

【育苗期】気温15度前後で雨が多いと多発する「べと病」

育苗期に注意すべきべと病について、症状や原因、防除方法を解説します。

育苗期の玉ねぎ

モンキチ/ PIXTA(ピクスタ)

べと病の主な症状

べと病には、全身感染型と二次感染型の2種類があります。
全身感染型は秋に感染し、冬の間に病原菌が全身に広がって2~3月になって発病します。これを「越年罹病株」といいます。

ベと病に感染すると生育が遅れ、葉に光沢がなくなって淡黄緑色になり、横にやや湾曲するように伸びます。春になり暖かくなると全身に白色のつゆ状または暗紫色のかびが発生し、葉は病斑部で折れ枯死することもあります。

二次感染型は秋と春に発生し、特に降雨の続く春に多く見られます。葉に黄白色で楕円形または紡錘形の比較的大きな斑点を生じ、多湿時には白色または暗紫色のかびが発生します。被害葉の多くは折れて枯死します。

玉ねぎのべと病発病葉 典型的な病斑

玉ねぎのべと病発病葉 典型的な病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真酒

べと病が起きる原因と、発生しやすい条件

病原は糸状菌(かび)で、生きた植物の細胞でしか生きられない絶対寄生菌です。卵胞子の状態で、土壌中に10年以上も休眠し、植物に寄生する機会を待ちます。主な感染原因は秋に苗床やほ場で降雨や農作業による泥はねが葉上に付くことです。

生育前~中期に発病する場合と、生育後期に発病する場合があります。重症の場合は秋のうちに枯死しますが、軽症の場合は越年罹病株になります。春の二次感染の多くは越年罹病株の胞子が飛散して感染します。

胞子の発芽適温は10℃前後で、発病適温は13~20℃です。卵胞子の発芽には適度な水分が必要なため、気温15℃前後の多雨の春季に多発します。

防除の時期・方法と、発生してしまった場合の対策

耕種的防除

苗床やほ場の土中に罹病株の残さがすき込まれると、卵胞子が残ってしまいます。べと病が発生したら、罹病株周辺の株や土を残さずほ場外に撤去しましょう。連作を避け、水稲や大豆、アブラナ科の作物などとの輪作がおすすめです。2年以上玉ねぎを休作すると土中の卵胞子を大幅に減らせるといわれています。

ほ場の排水性が悪いと活着不良や病害が発生しやすくなるので、暗渠や明渠を整備したり、畝を高く立てたりして排水をよくする耕種的防除が重要です。密植を避けて疎植にするなど、多湿を避ける工夫も必要です。

また、「秋まき春(初夏)どり」の場合、収穫後の夏の高温期に50日ほどの湛水処理を行うと土中の卵胞子を大幅に減らし、発生を抑えられます。早生品種の「ソニック」、中生の「ターボ」など、べと病に強い品種を選ぶのもよいでしょう。

苗床の土壌消毒

苗床には、播種前に太陽熱や「バスアミド微粒剤」による土壌消毒を併せて行うと効果的です。育苗期間が長引くとべと病の感染リスクが上がります。ほ場に病原菌を持ち込まないようにして健全苗の適期定植に心がけましょう。

農薬による防除

以前べと病が発生した、地域で発生しているなど、感染の恐れがある場合は、耕種的防除に加え、「シグナムWDG」や「ジマンダイセン水和剤」などの農薬の予防的散布を行います。

発生を認めたら、感染直後の治療効果も期待できる「リドミルゴールドMZ」「ザンプロDMフロアブル」 などの農薬を用いた防除をすると効果的です。

多発してからの農薬散布では効果が得られない場合があるので、予防的防除と発生初期の防除が肝心です。防除のタイミングを逃さず行ってください。

また、玉ねぎの葉は散布液が付きにくいため、展着剤を多めに添加して葉が十分濡れる程度に丁寧に散布するのがコツです。

【生育期~貯蔵中】貯蔵中の被害が大きい「灰色腐敗病」

生育期および貯蔵中に注意すべき灰色腐敗病について、症状や原因、防除方法を解説します。

淡路島の玉ねぎ貯蔵(吊るし玉ねぎ)

Cybister / PIXTA(ピクスタ)

灰色腐敗病の主な症状

3~4月頃、葉に感染し罹病すると下葉の2~3枚が黄化や軟化し、萎れるというのが主な症状です。球の肥大も悪くなります。症状が進むと立枯れたようになり、葉が鮭肉色や白に変色・萎凋して枯死します。地下部から鱗茎上部にかけて軟化して赤褐色となり、灰白色で粉状のカビが生じます。

収穫までに感染した場合は、収穫後、貯蔵中に発生することもあります。形がやや縦長になり、鱗茎上部の表面に黒色で大型の菌核が生じ、その周りに灰緑色のカビが密生します。

灰色腐敗病が起きる原因と、発生しやすい条件

病原は糸状菌(かび)で、ボトリチス属菌の一種です。冷蔵中の被害球やほ場の作物残さから胞子が風雨により飛散して、葉に付着することで感染します。

病原菌の発育適温は15~20℃、発育限界温度は5~30℃で、ほ場では冷涼で多湿な年に発生しやすく、貯蔵中には、乾燥が不十分で多湿な場合や冷蔵している場合に多く発生する傾向があります。

また、立毛中の1~3月に雨が多かったり、収穫前にほ場が冠水して球が水に浸かったり、収穫時に雨に当たったりすることも、貯蔵中に発生しやすくなる要因です。

防除の時期・方法と、発生してしまった場合の対策

耕種的防除

ほ場では、多湿を避けるために高畝にして排水をよくします。窒素が多いと発生を助長するため、窒素肥料の多用を避けましょう。被害株は早期に見つけてほ場から撤去し、貯蔵庫には持ち込まないことが何より重要です。

病原菌は土壌中の腐植残さで1年以上生存するので、一度発生したら輪作などで2~3年玉ねぎの栽培を休むと激減します。極早生品種である「マッハ」や、中生品種の「ターボ」など、灰色腐敗病に耐性のある品種を選ぶのもよいでしょう。

農薬による防除

以上のような耕種的防除に加え、定植直前には「トップジンM水和剤」「シグナムWDG」などで苗浸漬処理を行います。

定植後は、「カンタスドライフロアブル」「アフェットフロアブル」「ベルクート水和剤」などの農薬を散布して防除します。

進行してしまうと効果が得にくいので、発見したら早めに散布するのがポイントです。農薬散布に当たっては収穫何日前まで使用可能かを確認して予定を立ててください。

【追肥時期】球肥大期までに暖かく雨が多いと発生「灰色かび病」

生育過程末期の追肥時期に注意すべき灰色かび病について、症状や原因、防除方法を解説します。

収穫前のよく肥大した玉ねぎ

STRIPED OWL / PIXTA(ピクスタ)

灰色かび病の主な症状

生育過程後半の温暖期に発症し、感染初期は下葉に汚白色~淡黄色で楕円形の斑点が現れます。斑点は2mm程度の輪郭が不明瞭なかすり状で、表面にかびが生じることはありません。ネギや玉ねぎに発生する小菌核病もよく似た症状ですが、輪郭がはっきりした白い斑なので見分けがつきます。

葉に萎縮などの奇形は現れませんが、症状が進行すると葉が枯れ、次第に上葉に広がります。

灰色かび病が起きる原因と、発生しやすい条件

病原は灰色腐敗病と同じボトリチス属菌の一種ですが発生時期や症状、防除方法も異なります。4月以降に、雨が多く多湿で温暖な環境で発生しやすくなるのが特徴です。

特に2日以上連続した降雨や10mm以上のまとまった降雨のあと、7日以内に発生することが多く、18℃以上の平均気温で初発しやすい傾向があります。

防除の時期・方法と、発生してしまった場合の対策

耕種的防除

ほかの病害と同様に多湿を好むので、高畝、暗渠や明渠の整備など、ほ場の排水をよくすることや適切な株間・条間を取ることが基本的対処法です。

収量を維持するために、球肥大が進む生育期後半に葉が萎れないよう維持しましょう。早生品種の「ソニック」など、灰色かび病に強い品種を選んで植え付けるのも効果的です。

農薬による防除

発生を確認したら、できるだけ早く「カンタスドライフロアブル」「シグナムWDG」「ファンタジスタ顆粒水和剤」などの農薬を散布し、早期防除に努めましょう。

できたら初発直後5日以内に散布を開始し、各農薬の使用回数を守りながら定期的に散布します。倒伏期の半月ほど前には散布を終えるとよいでしょう。

【追肥時期~収穫期まで】株を枯死させる害虫「ネギアザミウマ」

玉ねぎに寄生する害虫・ネギアザミウマについて、被害と生態、防除方法について解説します。

玉ねぎの収穫期

onestep / PIXTA(ピクスタ)

ネギアザミウマによる被害の特徴

ネギアザミウマは幼虫・成虫とも葉から吸汁し、その跡は退色しかすり状に白くなります。多発すると株が弱り、枯死に至ることもあります。

「秋まき春(初夏)どり」の作型では、収穫末期の5月頃に多発しますが、吸汁による実害はそれほどありません。ただし、タマネギえそ条斑病(IYSV)のウイルスを媒介するので注意が必要です。

ネギアザミウマの生態と発生しやすい条件

成虫でも体長は1mm程度で、見つけるのは困難です。暖かくなる3月頃、周辺の雑草などから飛来し、根際などに潜みます。

メスは単為生殖で1匹で100個以上の卵を産み、好条件下では2~3週間で卵から成虫になります。玉ねぎでは3~5月頃にかけて繁殖し、高温乾燥が続くと急に大発生することもあります。

中間地~暖地では生育末期から収穫期に当たるので、それほど実害はありませんが、近年は春でも高温になることがあるため、大発生する前に早期の防除が大切です。

防除の時期・方法と、発生してしまった場合の対策

ほ場周辺の雑草で越冬し、春に飛来することが多いので、ほ場とその周辺の除草が重要です。また、青色や黄色に誘引されるので、ほ場周辺に肥料袋など青や黄のものを置かないようにしましょう。

多発してからの防除は困難なので、タマネギえそ条斑病(IYSV)の感染を防ぐためにも早期の農薬による防除が重要です。発生を確認したらすみやかに「グレーシア乳剤」「コルト顆粒水和剤」「ポリオキシンAL水和剤」などの農薬を散布しましょう。

ネギアザミウマの成虫(体長1mm)

ネギアザミウマの成虫(体長1mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

玉ねぎ栽培において注意が必要な病害は湿気を好む糸状菌類が病原菌であることが多いので、耕種的防除としてほ場の排水をよくすることがポイントです。

どの病害虫も早期の対応が効果的です。こまめにチェックをして病変や食害痕をできるだけ早く見つけ、的確に病状を判断して効果の高い農薬を選び、早期防除を行いましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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