BASF We create chemistry

6次産業化で地域のみかん農業を守る! 老舗卸売問屋・伊藤農園が挑んだ30年

6次産業化で地域のみかん農業を守る! 老舗卸売問屋・伊藤農園が挑んだ30年
出典 : 伊藤農園Facebook

国内でも有数のみかん産地として知られる和歌山県有田市にある伊藤農園は、30年以上前から味わいにこだわったみかんジュースを製造・販売しています。今回は「有田みかん」というブランドを守る伊藤農園の取り組みや、地域農業の活性化につながる活動について伺いました。

株式会社伊藤農園プロフィール

みかんの産地である和歌山県有田市で、1897年に青果卸売問屋として創業。1980年代からいちはやく農業の6次産業化に取り組み、有田みかんを使ったジュースの製造・販売を行う。現在は柑橘類の生産から搾汁、加工、販売まで幅広く手がけながら、有田みかんのブランディングにも取り組んでいる。

株式会社伊藤農園 専務取締役 伊藤 彰浩さん

株式会社伊藤農園 専務取締役 伊藤 彰浩さん

老舗青果卸売問屋が「みかんジュース」を作り始めた理由

老舗青果卸問屋であった伊藤農園が、みかんジュースの開発に乗り出したのは1987年のことでした。その背景には、日本におけるみかん栽培の歴史が、深くかかわっていたといいます。

1960年代から拡大していったみかん栽培

みかんは1960年代に日本農業の成長部門として位置付けられたことで、西日本を中心に栽培規模が拡大していきました。

戦後の食糧難が徐々に回復してきた1950年代に35,400haだった日本のみかんの栽培面積は、1960年代には63,100haにまで拡大しました。そして1973年には、ピークとなる173,100haにまで日本のみかんの栽培面積が広がったのです。

みかんの栽培面積推移

出典:農林水産省「作物統計調査 耕地及び作付面積統計」よりminorasu編集部作成

株式会社伊藤農園 専務取締役 伊藤 彰浩(いとう あきひろ)さん(以下役職・敬称略) 私たち伊藤農園も、時代の歩みとともに順調にみかん栽培と青果卸売業を営んできました。

しかし1970年代に入り、みかんの価格が大暴落したことをきっかけに、風向きが変わってしまったのです。

生産過剰と輸入自由化により価格が暴落した「みかん危機」

拡大していった日本のみかん栽培ですが、みかんの生産量が増えた分、消費も増えたというわけではありませんでした。

1960年代の日本は高度経済成長を遂げ、国民の所得は増えました。そのためほかの果樹を消費する選択肢も増え、みかんの需要増にはつながらなかったと考えられます。

また、同時期に食料品に関する輸入の自由化や制度緩和が進み、海外産の作物が市場に出回るようになりました。

これらの要因に加え、1972年にみかんの生産量が350万tを超えたことで、大量のみかんが余剰となり価格が大暴落したのです。

参考文献:農林中央金庫 農林金融 2002年8月号「みかんの需給動向とみかん農業の課題」

「有田みかん」のブランドを守るために始まったみかんジュース作り

伊藤 みかんの価格が暴落したことで、栽培農家は大きな打撃を受けました。中には農業を続けることができず、離農せざるをえなくなった農家もいます。

この現状を放置していれば、先人が長い年月を費やして築き上げてきた「有田みかん」のブランドまでなくなってしまうような状況でした。

そこで伊藤さんの父であり、3代目として伊藤農園を引き継いだ伊藤修さんが主導となって、有田みかんを栽培する農家を支えるための取り組みが始まりました。

それが「みかんジュース」作りです。

味には問題がないのに、形が悪かったり傷があったりして市場に出回ることなく捨てられてしまう規格外のみかんを高く買い取り、ジュースへの加工を始めたのです。

みかんの品種や栽培時期によってジュースの味わいも変わる

みかんの品種や栽培時期によってジュースの味わいも変わる

有田みかんのおいしさをそのまま届けるこだわりの製造方法

ジュース作りの中で伊藤農園がこだわったのは「有田みかん本来の味」でした。

製造方法・搾汁方法で変化するみかんジュースの味

一口にみかんジュースといっても、搾汁した果汁を濃縮したものや濃縮した果汁を希釈したもの、搾汁した果汁に砂糖などの甘味料を加えたものなど、製造方法によって食品表示は細分化されます。

また、搾汁方法によっても味わいは変わってきます。外皮ごと処理して遠心分離によって固形物を排除する「インライン方式」や、外皮をむいて薄皮ごと裏ごししすり潰す「チョッパー・パルパー方式」などが一般的です。

伊藤 インライン方式やチョッパー・パルパー方式で搾汁する場合、搾汁率は55%から65%前後で、効率よく搾汁することが可能です。しかし、これらの搾汁方法では外皮や薄皮の味が混じってしまいます。

飲みやすくするために砂糖などの甘味料を混ぜるのも方法の1つですが、それでは「有田みかん本来の味」にはなりません。そこで、伊藤農園オリジナルの搾汁方法を考えました。

有田みかんの「おいしいところ」だけ搾り出すオリジナルの搾汁機

伊藤農園では独自に開発した搾汁機により「手搾り」に近い形での搾汁を行っています。
搾汁機にはお椀型の土台がついています。その上に半分に切ったみかんを乗せ、お椀型のカバーでゆっくり押し潰していくことで果肉だけを搾ります。

その後は濾過作業のみ行い、100%果汁だけのみかんジュースが完成します。砂糖や甘味料、そのほかの食品添加物はもちろん、保存料や着色料も加えずに仕上げることで「有田みかん本来の味」のジュースができあがるのです。

熱処理後のみかんジュース

熱処理後のみかんジュース

伊藤 この独自の搾汁方法による搾汁率はおよそ30%です。750mLのみかんジュースを製造するためにおよそ30個のみかんが必要になります。

効率よく大量にジュースを製造できる方法ではありませんが、この搾汁方法によって有田みかんのおいしい部分だけを抽出することができるのです。

この搾汁方法は、みかんジュースを販売するうえでの差別化になります。また、みかん本来のおいしさをそのままジュースにすることで「有田みかん」というブランドに興味を持っていただくきっかけにもなるでしょう。

みかんの外皮もピューレなどの原料として活用している

みかんの外皮もピューレなどの原料として活用している

高価格帯のみかんジュースを販売する難しさ

伊藤農園のみかんジュースが完成したのは、開発開始から2年後の1987年でした。

オリジナルの搾汁機で、有田みかんのおいしさをそのまま引き出した自信作が完成したものの、販売後の売上状況は、順調とはいえなかったそうです。

市場にあふれる安価で多種多様な清涼飲料

伊藤農園がみかんジュースの販売を開始した1980年代は、果実飲料だけではなく、さまざまな種類の清涼飲料水の発売が始まった時代です。

伊藤 伊藤農園のみかんジュースは、効率よく大量生産ができるわけではありません。手間暇かけて製造するみかんジュースで原価を回収し、利益を出すためには、ある程度高い金額を設定する必要がありました。

多種多様な安価でおいしい飲み物が販売される中で、あえて高価格帯のみかんジュースを選んでもらうのは簡単なことではありません。各地を回り営業活動に取り組みましたが、なかなか芽が出ない時期が続きました。

おいしさとブランド価値を守るため、安易な値下げは行わなかった

高価格帯での販売が難しいとはいえ、販売単価を下げれば採算が取れなくなってしまいます。また、有田みかんのみかんジュースと銘打って販売していることもあり、無闇に販売価格を下げてしまうと「有田みかん」のブランド価値にも影響する可能性があります。

有田みかんを使用しているという特別感を損なわず、高価格帯でも消費者に納得して購入してもらうために、伊藤農園ではギフト用の商品として地元の祭りや地方の百貨店を回り、みかんジュースのPRをしていきました。

ギフト用のみかんジュースのパッケージ

ギフト用のみかんジュースのパッケージ
出典;伊藤農園Facebook

販路の選択でブランド価値を高め、徐々に売り上げが拡大

伊藤農園のみかんジュースの販売動向の風向きが変わったきっかけは、1998年に松坂屋やリーガロイヤルホテルとの取引が始まったことでした。

有名企業との取引で「有田みかんジュース」への信頼感が高まった

伊藤 地道な営業活動が実を結び、松坂屋やリーガロイヤルホテルなどの有名企業との取引が始まったことで、徐々に伊藤農園のみかんジュースが知られていきました。誰もが知る有名企業で取り扱われているという事実が信頼感となり、購入につながったのだと思います。

松坂屋名古屋店での販売風景

松坂屋名古屋店での販売風景
出典:伊藤農園Facebook

海外で認められたことでさらに販路を拡大

その後、2008年にはヨーロッパへ販路を広げ、ミシュランガイドにも紹介された星付きのフレンチレストランとの取引が始まりました。海外で販売されているという実績ができたことにより、国内での話題性も高くなったといいます。

伊藤 ヨーロッパでみかんに似た果実といえばオレンジがあります。ですが、オレンジはみかんに比べて酸味が強く、その加工品であるオレンジジュースも酸味の強いものが普及しています。

酸味だけでなく甘みやコクも感じられる日本のみかんジュースは、海外では珍しく、すぐに受け入れられたわけではありませんでした。しかし、日本食ブームによってゆずが注目され始めたことをきっかけに、みかんにも注目が集まるようになりました。

現在は飲料としてはもちろん、創作フレンチの原材料としても有田みかんが使われています。

「ヨーロッパの星付きフレンチレストランで採用されたジュース」という事実は国内だけでなく、海外でも話題になります。海外進出を実現したことにより、国内での売り上げ拡大とともに、海外での販路拡大にもつながりました。

消費者の健康志向の高まりが追い風に

また1990年代の終わり頃から、消費者の中で徐々に健康志向が高まっていったことも、有田みかんジュースの販売拡大の追い風になった、と伊藤さんはいいます。

伊藤 伊藤農園のみかんジュースは和歌山県内のみかんのみを使用した100%無添加の製品です。健康志向が高い方にとって、国産かつ無添加という「付加価値」は購買理由として十分な魅力になります。

有田みかんのブランド存続をかけた伊藤農園の「有田みかんジュース」は、搾汁方法へのこだわりと販路の選択、そして社会のニーズを掴んだことにより、現在も順調に売り上げを伸ばしています。

地域の農業を支える取り組み

青果卸売業と並行してみかんジュースの開発・製造・販売を行っている伊藤農園は、幅広い事業内容を活かし、地域農業を支えるさまざまな活動に取り組んでいます。

地元農家の選果作業を請け負う

有田みかんの収穫の様子

有田みかんの収穫の様子
伊藤農園 ホームページ

伊藤 農家が作物を出荷する際は、収穫の最中や収穫後に作物の状態を確認し、状態ごとに選果していきます。

しかし、この選果作業の負担が大きくなってくると、作業スピードを優先するあまり、原料として使える作物も廃棄されており、結果として作業効率が悪くなっているのが事実です。

伊藤農園では、収穫直後の作物をそのまま引き取り、選果作業を請け負うことで農家の作業負担を軽減しています。そしてこの選果作業の請け負いは、地域農家が栽培した大切な作物を、無駄なく出荷することにもつながっているのです。

農作業の効率化を実践し、就農ハードルを下げる

伊藤農園では、作業負担を少しでも軽減し、利益を上げられる農業を実践しています。その一例が、山の斜面にある自社園地の園内道や石垣の整備、ドローンやIT技術の導入です。

伊藤 石垣が積まれた園地は、傾斜地で安全にみかん栽培ができるように考えられた伝統的な技術でもあります。作業環境を整えることで、伝統的な技術と景観を守りながら、作業負担を軽減させることができます。

また、必要に応じてドローンやIT技術も取り入れています。作業負担を少しでも軽減し、利益を上げられる農業を実践することで新規就農のハードルを下げ、担い手の確保にもつなげることができると考えています。

伊藤農園で新規就農した若手社員も多い

伊藤農園で新規就農した若手社員も多い
出典:伊藤農園Facebook

担い手のいない園地を、自社園地として買取

農林水産省が公開している「耕地及び作付面積統計」によると、1970年代にピークに達したみかんの栽培面積はその後減少を続け、2020年には全国で39,800haにまで減少しています。

みかんの栽培面積の長期推移

出典:農林水産省「作物統計調査 耕地及び作付面積統計」よりminorasu編集部作成

栽培面積減少の背景には、生産余剰の状態を解消するための生産調整が行われたという側面もあります。しかし、農家の高齢化や担い手不足の影響により、営農継続が困難になり園地を手放す農家も多いのが現状です。

伊藤 伊藤農園が6次産業化に乗り出したのは「有田みかんを存続させたい」という目的のためです。しかし、この先離農される農家の数が増えていくと、有田みかんの産地として存続することも困難になってしまいます。

同時に、担い手がいない園地をそのままにしておくと耕作放棄地となり、美しい里山の景観も損なわれてしまいます。有田みかんの産地として、そしてみかん畑のあるこの地域を守るため、私たちは担い手のいない園地を自社ほ場として買い取っています。

この取り組みにより、創業時2haだった伊藤農園の園地は、現在16haにまで拡大しています。

地域の企業とコラボした商品開発

伊藤農園で販売されているみかんの加工商品は、みかんジュースだけではありません。地元企業とコラボして、作物を活用した調味料や、ジュレなどといったスイーツを開発・販売しています。

有田市をはじめ和歌山県では養蜂も盛んに行われており、みかんの花から作られるみかん蜂蜜も地元の養蜂場と共同で作られています。これにより、地域の農家だけでなくほかの産業の雇用も守ることができます。

地域の養蜂場とコラボして開発された蜂蜜

地域の養蜂場とコラボして開発された蜂蜜

消費者を有田の里山に招くために

みかんの樹が立ち並ぶ有田市宮原町の風景

みかんの樹が立ち並ぶ有田市宮原町の風景

これまでは地域外に有田みかんの魅力を発信することに力を注いでいた伊藤農園ですが、今後は外部から人を呼び込む活動に力を入れたいといいます。

伊藤 有田みかんの産地としての魅力を発信していくことで、消費者の皆さんにこの地に来ていただき、有田みかんだけではなく里山の豊かさも伝えたいと考えています。

現在では、みかん狩りとグランピングを組み合わせた「みかんピング」イベントの実施や、伊藤農園本社でのオープンカフェの開催を期間限定で行っています。ゆくゆくは里山でみかん栽培の楽しさを体験しつつ、宿泊も可能な複合施設を作ることが目標の1つです。

みかん狩りとグランピングを組み合わせた「みかんピング」

みかん狩りとグランピングを組み合わせた「みかんピング」
出典:伊藤農園Facebook

老舗卸問屋の伊藤農園が、「有田みかん」という地域の宝を守るために始めた「みかんジュース」製造には、その魅力を最大限に惹きだすための妥協しない工夫が濃密に詰め込まれています。

そして、ブランド価値を毀損しないことを自らのハードルとし、販路を厳選する戦略をとり続け現在の確固たる地位が築かれました。

さらには、有田みかんのおいしさだけではなく、栽培のおもしろさや里山の魅力という新たな付加価値をアピールしていくことで、移住や新規就農の契機を創り出そうとしています。

有田みかんの魅力を伝えるための伊藤農園の挑戦の数々が、これから先の未来にもつながっていくのではないでしょうか。

※伊藤農園の美しく遊び心のあるホームページ、SNSページを是非ご覧ください

株式会社伊藤農園
 ホームぺージ
 Facebookページ
 Instagram
 Youtube 公式チャンネル

福馬ネキ

福馬ネキ

株式会社ジオコス所属。「人の心を動かす情報発信」という理念のもと、採用広告を中心にさまざまな媒体で情報発信を手がける株式会社ジオコスにてライターを務める。

おすすめ