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世界一高いブドウ「ルビーロマン」を特別たらしめた3つのブランディング戦略

世界一高いブドウ「ルビーロマン」を特別たらしめた3つのブランディング戦略

世界で一番高価なブドウとして知られている「ルビーロマン」。行政、JA、生産農家の3者が連携して生産、販促を行っている、国内でも珍しい赤い大粒のブドウです。ルビーロマン創出の背景と、その成功のカギである栽培難易度の克服、品質維持、ブランディングについて伺いました。

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石川県を挙げて挑んだ「人気の大粒ブドウ」の開発とブランド化

石川県農業総合研究センター農業試験場中央普及支援センター担当課長 中野眞一さん(写真右)、石川県農業総合研究センター農業試験場砂丘地農業研究センター主任研究員 井須博史さん(写真左)

石川県農業総合研究センター農業試験場中央普及支援センター担当課長 中野眞一さん(写真右)
石川県農業総合研究センター農業試験場砂丘地農業研究センター主任研究員 井須博史さん(写真左)

日常の食事だけでなく、ギフトとして選ばれることもあるブドウ。その中でも、「世界で一番高いブドウ」の存在をご存知でしょうか?石川県で栽培されているブドウ「ルビーロマン」は、2021年7月の初競りで、過去最高額の1房140万円という価格がつきました。

ルビーロマンは、そのおいしさや価格の高さから評判を呼び、国内だけでなく国外からも特集取材のオファーが来たほどだといいます。

年々、注目度が高まるルビーロマンですが、開発や栽培、ブランディングや販売には、多くの人々の努力と熱意が詰まっています。なぜなら、石川県を挙げて「大粒ブドウ品種開発を成功させたい」という強い想いがあったからです。

ルビーロマン(左)、巨峰(中央)、デラウェア(右)の比較

ルビーロマン(左)、巨峰(中央)、デラウェア(右)の比較
画像提供:ルビーロマン公式ホームページ

石川県でも人気の大粒種を開発したかった

ルビーロマンが開発されるまで、石川県で栽培されるブドウといえばデラウェアという品種のものでした。赤く小粒な種なしブドウであるデラウェアは、全国的にもポピュラーな品種です。そんな中、県を挙げて大粒のブドウ栽培を始めた理由は、ブドウ市場の人気が「小粒種から大粒種に変わった」からだそうです。

石川県農業総合研究センター農業試験場砂丘地農業研究センター主任研究員 井須博史さん(以下役職・敬称略) デラウェアの生産状況が悪いというわけではなかったのですが、黒い大粒の種なしブドウである「巨峰」や「ピオーネ」などの人気が高まるにつれて、石川県でも大粒のブドウを栽培しようという声が上がるようになりました。

このような背景から、デラウェア中心だった石川県でも「ブランドとなる大粒のブドウ」の品種開発をすることになったのです。

「大粒」で「赤い」ブドウで差別化したい

黒い大粒ブドウが人気の中で、赤い大粒ブドウにこだわったのには理由があるそうです。

井須 大粒のブドウの育種といっても、既に全国で食べられている黒い大粒のブドウを作るだけでは他の地域と差別化できません。そこで当時、ほかに流通していなかった「赤い大粒ブドウ」の品種開発をすることにしたのが、ルビーロマンの始まりです。

行政・生産農家・JAが力を合わせルビーロマン栽培・販売・研究に取り組む

ルビーロマンへの取り組みは、石川県とJAグループ石川、ルビーロマンを栽培する生産農家が、それぞれ役割を分担しながら推し進めてきたそうです。

・県は、栽培方法の研究、指導やプロモーション
・JAグループは、出荷・販売に関わる取りまとめ
・農家は、厳格な商品化基準に基づくルビーロマンの生産


という形で役割を担っています。

400粒の種子からただ1粒の選抜で生まれた「ルビーロマン」

「赤くて大粒」をめざしたルビーロマンの品種開発は大変だったそうです。黒い大粒の品種である「藤稔」をベースとした交配からスタートしたのですが、試験的に播種された400粒の種子の中から発芽したのはわずか4本。その中で赤い大粒のブドウが結実したのはたった1粒でした。これが後のルビーロマンです。

念願の大粒ブドウの課題は栽培難易度

やっと誕生したルビーロマンでしたが、栽培難易度の高さが商品化のハードルになったそうです。

「花ぶるい」が多発

石川県農業総合研究センター農業試験場中央普及支援センター担当課長 中野眞一さん(以下役職・敬称略) ルビーロマンは念願の赤い大粒のブドウではありましたが、当初から栽培難易度が高く、商品化できるのはほんのわずかでした。

最初の課題は実がつかないことでした。「花ぶるい」といって、花はつくのに実がつかない、大きくならない。さらに、実が大きくなっても思うように色がつかないということが多発したのです。

その後、花ぶるいの多発は、農業試験場の栽培研究や生産農家の努力によって解決に至ります。

栽培労力に対して対価が見込めないため、栽培に難色を示す農家が多かった

花ぶるいの多発というハードルは乗り越えられましたが、地元のブドウ農家へルビーロマンをお披露目した当初は、栽培に難色を示す農家が多かったそうです。なぜなら、ビニールハウス内の温度管理や摘房・摘果にかかる負担が、ほかのブドウ品種と比べて大きいからでした。

中野 いくらよいブドウだといっても、栽培にかかる労力に見合う対価が見込めないのであれば、栽培したいとは思いません。既にほかの作物を栽培している農家さんがほとんどですから、進んで栽培を引き受けてくれる農家さんはとても少なかったです。

実をつけ始めた頃のルビーロマン

実をつけ始めた頃のルビーロマン
画像提供:ルビーロマン倶楽部 Facebook

KSFその1:栽培難易度の高さを克服するためのスマート農業

栽培難易度が高く、求められるクォリティも高いルビーロマンを栽培するのは、経験豊富な農家にとっても簡単なことではありません。ましてやほかの作物の栽培も行いながらルビーロマンを栽培するのは大変な負担です。

そこで石川県農業試験場では、ルビーロマンの品質を維持した上で収量を上げるために、職員が定期的に農家を視察し、指導を行っています。それだけではなく、開発したスマート農業技術の活用を促しているといいます。

井須 開発したのは、ルビーロマン栽培に長けた篤農家の栽培技術をマニュアル化し学習できるアプリと、ルビーロマンの赤を出すために重要な棚目の明るさを計測するためのアプリです。

篤農家の技術を学べるアプリケーションで技術指導を効率化

ルビーロマンは、ほんのわずかな環境変化だけで商品化できなくなってしまうので、栽培技術を身に付けるのには多大な時間がかかります。そこで定期的に開催される生産農家向けの研修会以外にも、いつでも栽培技術を学べるようにアプリ開発が進められました。

井須 ルビーロマンの生産農家の中でも、特に栽培技術が高い数人にヒアリングを実施し、その内容をマニュアル化しました。アプリなら、ほ場にいないタイミングでも、気になったときに動画や写真を見て、手軽に栽培技術を学ぶことができます。

ルビーロマンの赤色を管理するアプリケーションを開発

ルビーロマンとして販売できる赤色を出すためには、気温や棚目の明るさを厳密に管理する必要があります。しかし、気温計測はできても、棚目の明るさを客観的に評価する方法はありませんでした。

そこで、スマートフォンで明るさを計測できるアプリケーションを開発しました。職員が農家を視察に行くタイミングで計測できるようにするのが大事だったそうです。

中野 ルビーロマンの栽培は、他品種のブドウとは違うポイントが多くあります。いかに細やかに管理し、正しく栽培するかが、ルビーロマンをルビーロマンたらしめているといっても過言ではありません。

ルビーロマンの棚目の明るさを計測するアプリ

ルビーロマンの棚目の明るさを計測するアプリ

KSFその2:高品質の理由は「栽培方法(腹八分目運動)」と「厳格な商品化基準」

ルビーロマンが高品質であり続け、ブランドイメージを保つためには、「腹八分目運動」と呼ばれる摘房の最適化と、厳格な商品化基準だそうです。

高い商品基準を維持するための「腹八分目運動」

高い商品基準のルビーロマンを栽培するには、さまざまな細かい栽培管理が必要です。その中でも、通常のブドウ栽培より多く摘房することを農家に納得してもらうのが大変だったそうです。なぜなら摘房するほど収量が下がるからです。

そこで生まれたのが「腹八分目運動」で、ルビーロマン栽培における摘房の重要性を伝え、推進していったのです。

中野 規格通りのルビーロマンを栽培するに当たって、天候や摘房・摘葉が重要になります。最適な気温、最適な明るさを保つことができなければ「ルビーロマンの赤」にはなりません。

もったいないからと摘房数を減らすと、基準に沿った十分な大きさ、糖度をもつルビーロマンはできません。農家がこれくらいでよいだろうと考える量の8分目を目安に摘房してもらいます。

過去のロビーロマン栽培講習会の様子

過去の栽培講習会の様子
画像提供:ルビーロマン倶楽部 Facebook

クォリティにこだわった商品化基準

ルビーロマンには、高付加価値商品に見合ったクォリティが求められます。そのために厳格な商品化基準を適用しています。その結果、収穫したルビーロマンのうち、ルビーロマンという名を冠して出荷できるのは約5割です。

井須 ルビーロマンの商品化基準には大きく4つのポイントがあります。1粒3cm以上の大きさ、20g以上の重さ、糖度は18度以上、色見本に対応する色づきです。

この条件をクリアする必要があるため、収量のおよそ半分は商品化できなくなります。しかし、この条件をクリアできているからこそ「ルビーロマン」の希少価値が高まり、ブランド力を保つことができているのです。

他品種と比較してもひと粒ひと粒が大きいのがルビーロマンの特徴のひとつ

他品種と比較してもひと粒ひと粒が大きいのがルビーロマンの特徴のひとつ

KSFその3:希少性を高めて高級感を演出するブランディング戦略

栽培難易度の高さと商品化基準の高さから出荷量が多くないルビーロマン。それでも利益を上げるためには商品単価を上げる必要があります。

ブランディングの決め手は「希少性を付加価値にする」こと

そこで、石川県はブランディングプロデューサーを民間から招聘し、ルビーロマンの商品化率が低いことを逆手に取り、希少性を訴求するブランディングを実施しました。

井須 ブランディングを主導されたのは有限会社 良品工房の白田典子さんです。出荷可能なブドウの数が少ないことを逆手にとり、希少性を高めることで付加価値を高めるブランディングを行いました。

「苗木の限定頒布」と「出荷市場の調整」によりブランドイメージを固める

井須 作物についての研究を担う農業試験場の立場からすると、よい作物が収穫できれば、より多くの農家に栽培してほしいですし、東京の大田市場へ出してより多くの方に食べてほしいと思ってしまいます。しかし、それでは希少性をアピールできません。

そこで希少性を高めるために、まず苗木の頒布を県内のみに限定しました。加えて、ルビーロマンを栽培できるのはルビーロマン倶楽部に入っている農家に限られています。「既存のブドウ農家であること」「ルビーロマンの栽培法や販売法を遵守すること」が加入の条件です。

ルビーロマン 過去の競りの様子

過去の競りの様子
画像提供:ルビーロマン倶楽部 Facebook

井須 2020年のルビーロマン初出荷にあたり出荷する市場を石川県内に限定し、「石川県に行かないと入荷できない」という状況を作り出し、簡単には手に入らない高級なブドウというブランドイメージを作り上げました。

現在は東京、大阪の市場にも販路を拡大しており、より多くの方の元へルビーロマンのおいしさを届けられるようになりました。需要に合わせて販路を開拓しつつ、転売対策などブランドイメージを守るための工夫を日々行っております。

知名度を上げた広報戦略は「サポーター制度」

商品を売り出すためには広報戦略も欠かせません。なかなか手に入らない高品質なブドウがあること、その魅力を広く知ってもらうことが必要です。そのために、ルビーロマンでは全国的にも珍しい「サポーター制度」を導入していました。

ルビーロマンの固定客となりえるファンを獲得しつつ、ファンによる口コミで知名度を上げることを可能にしたサポーター制度により、出荷前から多くのファンを獲得することに成功しています。

井須 このサポーター制度はルビーロマンが初出荷される前から始められました。サポーターの皆様には栽培方法の研修会や収穫会に参加していただいたり、口コミの発信をお願いしていました。

ルビーロマンの実食ができるイベントなども行っておりましたので、消費者の素直な感想を広めていただいたことで、より多くの方にルビーロマンを知っていただくことができたと実感しております。

ルビーロマンのロゴマークはブランドプロデューサーの白田さんが考案。名称は公募で選ばれた

ルビーロマンのロゴマークはブランドプロデューサーの白田さんが考案。名称は公募で選ばれた
画像提供:ルビーロマン倶楽部 Facebook

地元農家・JA・行政がなぜ協力できたのか?

ルビーロマンの開発や栽培、ブランディングや販売には、地元農家・JA・行政が協力し合うことが必要です。その状況を作り出すのに、現在「ルビーロマン倶楽部」の会長を務める大田昇会長の存在は大きかったそうです。

大田会長のリーダーシップ

イベントの際には「ルビーロマン倶楽部」会長の大田昇氏がインタビューや挨拶を行うことも

イベントの際には大田昇氏がインタビューや挨拶を行うことも
画像提供:ルビーロマン倶楽部 Facebook

ルビーロマンの開発当初は進んで栽培しようとする農家は少なかったということは先に触れましたが、そんな中でルビーロマンを栽培しようと各農家に働きかけていた人物が、現在ルビーロマン倶楽部の会長を務める大田会長です。

かほく市で長く農家をしていた大田会長の人脈は広く、つながりのある農家にルビーロマンを栽培しないかと働きかけていたそうです。その中で、「大田さんがそんなに言うなら」とルビーロマン栽培に乗り出した農家も多かったといいます。

井須 大田さんは、かほく市で長く農園を営んでおり、近隣の農家から信頼の厚い農家です。ルビーロマンのお披露目後、大田会長はルビーロマンをとても気に入ってくださり、現在も生産農家としてルビーロマン栽培に携わっています。

JAや行政にも働きかけプロジェクトの軸となる

生産を担う農家と、販売・流通を担うJA、プロモーションや栽培サポートを行う行政の連携に関して、農業試験場の井須さんや中野さんは「今のルビーロマンがあるのは大田会長の存在とリーダーシップが大きい」と語ります。

井須 農家、JA、行政という3者の間での情報共有は定期的に行っていますが、どんなプロジェクトでも関わる人数が増える分、行き詰まってしまったり、方向性を見失いそうになる瞬間が訪れます。

そういったときにプロジェクトメンバーに喝を入れ、引っ張ってくれたのが大田会長でした。特に生産農家の中には、「民間の専門家と一緒にブランディングを推進するプロジェクト」という点がピンと来ない方もおられました。

そういった農家の皆様とプロジェクトチームの架け橋となってくださったのが大田会長です。ご自身もルビーロマン生産農家である大田会長の後押しがあったからこそ、プロジェクトチームと生産農家との連携が実現したのです。

ルビーロマンをどのような存在にするかというビジョンがブレてしまえば、ブランディングは成功しなかったでしょう。プロジェクトの中で軸となって引っ張ってくれる存在があったからこそ、今日のルビーロマンがあるのだと思います。

今後の課題「より多くの人々にルビーロマンの魅力を伝えるために」

国内だけでなく、国外からも注目を集めるルビーロマンですが、課題点はまだあるといいます。

中野 目下の課題は、収量と商品化率の低さです。例に漏れず、石川県内の農家の数は減少傾向にあります。その中で収量の低さや商品化率を上げるためには、より効率的に、高確率で商品化できるレベルのルビーロマンを栽培するほかありません。

ルビーロマンを栽培するための正しい方法を農家の皆さんに遵守していただき、各農家の栽培技術を向上させることができれば、今よりさらに多くの方にルビーロマンをお届けできると考えています。

出荷前のルビーロマン

出荷前のルビーロマン
画像提供:ルビーロマン倶楽部 Facebook

「ルビーロマン」が「なかなか手に入らない特別なブドウ」として成功した舞台裏には、地元農家・JA・行政が一丸となって、栽培難易度の高さを克服し、品質を担保するための栽培管理を徹底し、規模ではなく希少性を追求したブランディング戦略に取り組んでいった軌跡があります。

ルビーロマンに携わる人々の、今も弛まぬ努力は、全国でより多くの方に愛されるブドウとして実を結ぶのではないでしょうか。

▼ルビーロマンのホームぺージ、Facebookページも是非ご覧ください

公式ホームページ:石川県生まれの甘くて、赤くて、大きなぶどう「ルビーロマン」
Facebookページ:ルビーロマン倶楽部

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福馬ネキ

福馬ネキ

株式会社ジオコス所属。「人の心を動かす情報発信」という理念のもと、採用広告を中心にさまざまな媒体で情報発信を手がける株式会社ジオコスにてライターを務める。

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