ぶどう栽培の基礎知識|適した気候や作業の流れ、品種選びのポイントを解説
ぶどう栽培に挑戦する方に向け、日本の気候に適した品種や基礎知識、栽培時のポイントを解説します。収益性向上につながる管理方法や注意点、病害虫対策も紹介し、栽培の成功へ向けたサポート情報をお届けします。
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新しくぶどう栽培にチャレンジするなら、事前準備を緻密に行いましょう。なぜなら、ぶどうは栽培中のトラブルが多いうえ、同じ品種の中でも生産技術によって品質に差が生まれやすい果樹だからです。この記事では、地植えでの栽培方法の流れとポイントを紹介し、さらに、初心者でも挑戦しやすいおすすめ品種を解説します。
ぶどう栽培に適した気候
まずは、ぶどう栽培に適した気候を4つの観点から解説し、品種でみた気候との関係性についても簡単にふれます。
気温
質の高いぶどうを育てるには「気温」が重要です。一般的には、平均気温が10~20℃、さらに1日の気温の寒暖差がある地域がぶどうの栽培に向くとされています。
また、「山梨大学大学院附属国際流域環境研究センター」の研究によると、ぶどうはGDD (Growing Degree Day : 生育積算温度)が 2000~2200℃の地域で多く栽培されることがわかりました。
GDDとは、作物の生長を評価するための気温に基づいた指標です。GDDは、ぶどう生育期間(4月から10月)中の有効積算温度(平均気温から10℃を引いた温度)を足して試算します。
出典:水文・水資源学会2017年研究発表会要旨集「山梨県におけるブドウ栽培地の気候・地理的特性の検討」
降水量
次のポイントは「降水量」です。ぶどうの栽培期間にあたる春から秋にかけて、800~900mm程度の降水量が適しています。これは、ぶどう生産地として有名な山梨県でも一部の地域にしか当てはまりません。
日射量
「日射量」は多いほうが望ましいとされています。ぶどうは光合成によって糖分を生成し、甘みを生み出します。そのため、ぶどう農家では南向きの斜面に木を植えるなどの工夫もされています。
標高
「標高」も無視できないポイントです。ぶどうの生産地は標高200~400mであることが多く、ワイン向けの品種にかぎると300~500mの地域に分布しています。この標高は、ほかの果樹とほとんど差はありません。
品種と気候の関係
あずさ/PIXTA(ピクスタ)
ぶどうの品種は大きく「ヨーロッパ種」と「アメリカ種」に分かれており、この品種の違いも栽培条件に影響します。
ヨーロッパ種は乾燥地帯で大量に作られていて、主にワインの原料として有名です。
一方、アメリカ種は多湿に強く、しっかりとした甘みを含みます。
日本では北海道から九州までぶどう農家が広がっていますが、全域的に湿度が高いこともあってアメリカ種のほうが主流となっています。ただし、山梨県や長野県などでは、両方の品種が特産品として知られています。
これら「ヨーロッパ種」と「アメリカ種」の他に「日本種」のぶどうもあります。国際的ワイン品評会で受賞が相次いだこともあり、日本ワインが注目されるようになりました。それにつれて、日本固有の醸造用品種の生産も増えてきています。山梨県固有品種の「甲州」、日本の気候にあわせて品種改良された「マスカット・ベーリーA」などが有名です。
ぶどう栽培の流れと育て方のコツ
テラス/ PIXTA(ピクスタ)
着色不良や病害などが起きやすいため、ぶどうは初心者が栽培するには難易度が高い果樹です。ただし、丁寧にコンディションを保つ努力をすれば決して栽培は不可能ではありません。ぶどうでよくあるトラブル、正しい栽培の手順を調べたうえで挑戦しましょう。
ぶどう園(ほ場)の準備
日射量が多いほど、ぶどうの品質は高くなります。ぶどう園を作るときは、できるだけ日当たりの良い土地を選びましょう。
さらに、水はけや水持ちも重要です。排水がしにくい土地では、側溝や地中パイプなどを用いるのもおすすめです。水はけ・水持ちがよければ土は選びませんが、土壌を改善したい場合は、堆肥、苦土石灰、熔成リン肥などを混ぜます。
植え付け
ぶどうの植え付けは、10~11月か3~4月が適しています。
苗木には接ぎ木苗とさし木苗がありますが、おすすめは虫に寄生されている可能性が低い接ぎ木苗です。植え付け時には、根を広げ、接ぎ木している部分が埋まらないように注意してください。
定植後の苗木は乾燥を嫌うので十分に潅水します。乾燥を防ぐコツとして、稲わらで地面を覆うなどの方法があります。
新梢管理(芽かき、新梢誘引、摘心、副梢管理)
Valerii Honcharuk/PIXTA(ピクスタ)
1節に2芽以上生えているときに、1芽にする作業が「芽かき」です。
3.3平方mに新梢15~18本がぶどう畑の基準です。そして、新梢が重ならないよう、テープナーで固定していきます。この「新梢誘引」では、巻きづるも取り除きます。
新梢の先5mmほどを摘まんでいくのが「摘心(摘芯)」です。摘心には、ぶどうの実が大きくなりすぎることを防ぐ狙いがあります。
「副梢管理」では、副梢の葉を1、2枚に揃えます。
剪定
枝を切る作業が「剪定」です。ぶどうは春になると、新梢に果実となる花穂がつきます。この花穂に十分な養分がまわるよう、冬の間(通常1~2月)に樹勢をコントロールするための剪定を行うのです。
また、剪定は病害虫の点検時期としても重要です。前年の被害枝や巻きひげを取り除き病原菌の発生源を除去したり、「ブドウスカシバ」など枝幹害虫の食入部位を早期に発見して防除することができます。
ぶどうの仕立て方や品種によって適した剪定方法は異なります。大きくわけて、新梢のでるもとの枝(結果母枝)に、4~5芽あるいは7~8芽残す「長梢剪定」と2~3芽を残す「短梢剪定」があります。
ぶどうの剪定は、樹形や樹勢をみながら残す芽の数を決めることに加え、病害虫の点検作業として重要です。知識・技術と経験が必要な判断を伴いますので、初めて取り組む場合は、都道府県の農業技術センターなどが監修した指導書や栽培マニュアル、講習会の出席などで学ぶことをおすすめいたします。
果房管理(摘房、花穂整形、ジベレリン処理、摘粒、袋掛け、傘かけ)
ぶどうの果房を守り、育てることは味に大きく関係します。
まず、基本は1新梢ごとに上質な果房を1房残し、ほかの房は切除します。この工程が「摘房」です。強くない新梢であれば、全ての花を除去して空枝にします。
次に、花穂が伸び切った時点で「花穂整形」を行います。アメリカ種であれば、主穂の房先3.5~4.0cmの花蕾(からい)だけを守り、後は取り除くのがポイントです。
ニコプン/PIXTA(ピクスタ)
種なしぶどうを作るなら、「ジベレリン処理」も施します。満開3日後ほどで、花穂を25ppmのジベレリン液に浸します。
果梗(かきょう)が固くなりやすい種類(ピオーネなど)なら、液の濃度を12.5ppmにして対処します。
満開から10~15日後に2回目のジベレリン処理を行い、「摘粒(てきりゅう)」へと移りましょう。着粒数を調整するため、奇形や傷入りの粒をハサミで切り落とします。
それから病害を防ぐために農薬を散布し、「袋かけ」を行います。日焼けのひどい地域では「傘かけ」をすることも珍しくありません。
収穫
ぶどうの収穫時期は糖度と酸度を目安にします。品種にもよりますが、糖度18%以上、酸度pH3.3以上に達したら収穫の合図です。収穫時期に困ったら、品種ごとに収穫時期を見極めるカラーチャートを利用するのもおすすめです。
収穫は涼しい早朝の時間帯に行います。果粒を傷めないよう注意しながら収穫しましょう。穂軸を持てば果粉(ブルーム)を落とさずに作業ができます。
潅水(水やり)・肥料について
一般的な露地栽培では潅水(水やり)をしません。
ぶどうは水分補給を適度に少なくしてストレスを与えることで、色づきや甘味が増すからです。ただし、生育期(4月~6月)に地面が乾燥している場合は潅水しましょう。
肥料は「元肥」と「追肥」のタイミングを考えることが大切です。葉が落ちてきた10~11月頃に緩効性肥料を元肥として与えます。収穫が終わる頃に樹や葉の状態から追肥が必要であれば、窒素成分を含む速効性肥料を与えましょう。
注意したい病害虫と対策方法
ぶどうは病害が一度発生すると出荷できなくなるだけでなく、鞘から鞘へと感染する危険が生まれます。ぶどう栽培では病害に特に気をつけなくてはなりません。
特に「黒とう病」「べと病」「晩腐病」などの被害が深刻です。これらの病気はカビ(糸状菌)によって引き起こされます。
また、「チャノキイロアザミウマ」「コガネムシ」「ブドウスカシバ」「ブドウトラカミキリ」といった害虫対策も欠かせません。
病害虫の防除情報は、最寄りにあるJAの営農指導員に相談して効果のある適切な農薬を購入し、散布しましょう。
感染した病原菌は越冬して次年度の発病に影響しますので耕種的防除も欠かせません。特に「黒とう病」「晩腐病」は切り残しの穂柄や巻きひげが伝染源になるので、剪定時に除去するようにつとめましょう。
日本で育てやすい品種とその特徴&平均取引価格
高温多湿の地域が多い日本では、これまでは、アメリカ種が育てやすいとみなされてきました。
しかし、生食用の品質でいえば、アメリカ種はヨーロッパ種に劣るケースが少なくありません。
そこで近年では、2つを掛け合わせた「欧米雑種」のぶどうが台頭しつつあります。
ぶどう園を営むにあたっては、収穫時期や生産量を踏まえて、育てやすい品種を選ぶのが賢明でしょう。
東京都中央卸売市場が公開している平成29年11月~平成30年11月までのデータによれば、日本でのぶどうの平均取引価格(円/kg)は1,179円でした。中でも高価なのはアレキサンドリアで2,476円を記録しています。逆に安価なのは甲斐路で848円でした。以下、取引価格も踏まえたおすすめの品種を紹介します。
巨峰(欧米雑種)
日本独自の交配種であり、生食にもワインにも使われています。最も日本で知られているぶどうのひとつといえるでしょう。なお、巨峰は山梨県が主産地で8~9月ごろに旬を迎えます。平均取引価格は1,014円です。
Sunrising/PIXTA(ピクスタ)
ピオーネ(欧米雑種)
山梨県や岡山県で大量に生産されており、9月ごろに出荷時期を迎えるぶどうです。平均取引価格は1,048円です。巨峰よりも大きな果粒が特徴です。
プルースト/PIXTA(ピクスタ)
デラウエア(欧米雑種)
種なしの代表的な品種です。甘みと酸味の配合が絶妙で、主に生食用として広まりましたが、ワインにも利用できます。主な産地は山形県で、7~8月に旬を迎えます。平均取引価格は862円です。
moga/PIXTA(ピクスタ)
シャインマスカット(欧米雑種)
長野県、山梨県、岡山県などで作られている種なしぶどうです。皮ごと食べられることでも有名です。6月ごろから収穫は始まるものの、最も美味しく食べられるのは7~9月あたりです。平均取引価格は1,915円と、やや高く取引されています。
ぱぱ〜ん/PIXTA(ピクスタ)
マスカット・オブ・アレキサンドリア(欧州種)
岡山県で盛んに生産されている高級品種です。生食でもワイン用でも幅広く使われています。9~11月に旬を迎え、平均取引価格は2,476円にも達します。
okimo/PIXTA(ピクスタ)
甲斐路(欧州種)
山梨県の植原葡萄研究所で開発されたぶどうで、生産の約9割が山梨県内となっています。果汁の多さ、果肉の柔らかさなどから生食に向いており、デザートにぴったりの品種です。旬は9~10月、平均取引価格は848円です。
千和/PIXTA(ピクスタ)
これらの種類はあくまで一部であり、ほかにもさまざまな品種のぶどうが日本中で栽培されています。また、次々と新種も開発されているので、環境にあった品種をしっかりと検討しましょう。
日本でぶどう栽培をするのに必要な基本的な知識と、栽培しやすいぶどうの品種について紹介しました。環境にあった品種をリサーチして、ぜひぶどう栽培を経営につなげてください。
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石塚就一
1984年京都府生まれ。会社員を経て、フリーライターに。京都府内でイベント運営や執筆活動する一方で、実家の農業にも従事している。主な生産物は米、ナス、京野菜。実践をともなった見地から、リアルな農業事情を伝えている。なお、京都市の町興しにも参加。目標は「全国区の知名度を誇るイベントを立ち上げて、京都の新しい魅力を広めること」。