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【農業経営に求められる戦略視点とは】第5回 戦場(事業環境)の選択③ 販路の考え方 (2)

【農業経営に求められる戦略視点とは】第5回 戦場(事業環境)の選択③ 販路の考え方 (2)
出典 : maramicado / PIXTA(ピクスタ)

第3回で取り上げた販路の考え方の続編です。第3回では、「作物を誰に売るか」の視点で体系的な整理を試みました。本記事では、「どのように売るか?」の視点について、事業拡大の視点で6次産業化を例に取り上げて考えていきます。

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農家の周辺にある事業とは?

本記事では、作物の売り方について考えていきます。まずは、一旦視野を広げて農業の周辺事業について考えてみます。

農業のバリューチェイン|川上と川下

農業のバリューチェイン

出典:minorasu編集部作成

多くの農家にとって事業の中核は、「作物を生産すること」だと思います。では、周辺にある事業とは何でしょうか?大きくは、川上と川下に分かれます。

川上は、農家が作物するための前工程にかかわる事業です。例えば、種苗事業や資材、農機製造・販売などの領域です。

一方、川下は、作物を作った後の工程に関わる事業です。例えば、作物の加工、物流配送、小売販売等が挙げられます。

生産の周辺にある「顧客がお金を払ってでも必要としていること」は事業になり得る

つまり、第3回に挙げたような「誰に売るか?」を工夫するだけでなく、商品の付加価値を変えることによって、「どのように売るか?」によって独自性を出せる可能性があります。

▼独自性を武器にした成功事例として、下記のインタビュー記事をご覧ください

6次産業化とは、生産者が川下領域の事業も取り込んでいくこと

6次産業化のイメージ

REI / PIXTA(ピクスタ)

6次産業化はよく耳にするワードです。6次産業とは、先程述べた生産の周辺領域の事業も生産と併せて行うことを指します。

農家が生産以外に事業を拡張する場合、川下領域が現実的です。川上領域は、大規模な設備投資を伴う事業が多く、一農家が打って出るにはハードルの高い事業が多いためです。

川下領域への事業のかかわり方の一例を図で説明すると、下記のようなイメージです。

6次産業化と事業の付加価値

資料提供:株式会社コーポレイトディレクション

関係する事業は、大きくは1次、2次、3次産業であることから、複合的な付加価値を生み出すという意味合いで掛け算をした「6次産業化」という言葉が生まれたようです。

戦略視点から見た6次産業化の魅力とリスク

新たな試みをする際にはリターンとリスクがそれぞれ訪れます。まずはリターン、つまりは魅力について見ていきます。

6次産業化の魅力

収入増のイメージ

taikichi / PIXTA(ピクスタ)

6次産業化の魅力は、新たな収入源の獲得による「収入増」、及び、作物生産以外の収入獲得による「事業リスクの分散」があります

特に、後者の魅力は、農家の皆様にとっては大きいのではないでしょうか。保険等の制度面のインフラは存在しつつも、農家の事業は、天候リスク等、自らがコントロールしにくいリスクに晒されています。

天候リスクに左右されにくい事業を組み合わせることは「できることなら是非取り組んで安心したい」ことではないでしょうか。

農業の天候リスク 大豆の水害、園芸施設の雪害、果樹の風水害、稲の冷害

ニヤデザイン / PIXTA(ピクスタ)・cozy / PIXTA(ピクスタ)・ dr30 / PIXTA(ピクスタ)
taka / PIXTA(ピクスタ)

6次産業化のリスク

一方で、リターンとリスクは表裏一体です。リスク面で大事なことは、自社がコントロールできるリスクを「選ぶこと」と「コントロールすること」です。

リスクとリターンのマトリックス

Herman - stock.adobe.com

「ハイリスク・ハイリターン」という言葉は誰しもご存じかと思います。

「ローリスク・ハイリターン」にするための道は、普通は「ハイリスク・ハイリターン」なことを、「他社ではできないけど自社だとできるリスクを選んでコントロールする」ことによって、「ローリスク・ハイリターン」に近づけることを指します。

前置きが長くなってしまいました。しかし、リスクとリターンの関係については常に考慮いただければ幸いです。さて、では6次産業化のリスクとはなんでしょうか?

これはまさに上述で触れた通りで、「他社でもできることを自社もやってしまう」もしくは「他社の方がうまくできることを自社が挑んでしまう」際に起こってしまう、期待していた収入の未達や想定外のコスト高を指します。

大手食品メーカーの製品が並ぶジャム売場

takas / PIXTA(ピクスタ)

6次産業化で例を示します。例えば自社でとれた作物をジャムにして大規模に販売しようとします。大規模にジャムを生産するということは、設備投資をそれなりに要します。ジャム自体はできるでしょう。

しかし、果たして競合他社や大手ジャムメーカーにはない付加価値をつけ、消費者にとって高すぎない、農家にとって安すぎない適正価格で売れるでしょうか?

ついつい、新しい事業を始める際はこの視点が抜けがちです。リスクをとるべきかどうかを考える重要な問いですので、検討されている方は是非向き合ってみてください。

▼6次産業化のリスクについては、下記記事もご覧ください。

6次産業化の成否をきめるものとは?

6次産業化の魅力とリスクをここまで見てきました。リスクとリターンは裏返しの関係にあることがイメージできたかと思います。

6次産業化の成否は、戦略次第

では、その中で少しでも成功率を高めるにはどうするかといえば、リスクを適切に選択肢し、リターンを最大化できる取り組みをすること。すなわち戦略にかかってきます。

では、戦略視点で見ていきましょう。これまでの連載で取り上げてきた視点と基本的には変わりません。

6次産業化とは、新たな競争を仕掛けるということ

「戦場(事業環境)」(自社・競合・顧客)と「武器(強み)」の枠組

資料提供:株式会社コーポレイトディレクション

「何らかの商売を行っている限り、どこかの誰かと顧客の獲り合い(競争)をしています。」(連載第1回

6次産業化は新たな事業を始めることに他なりません。つまり今までとは異なる競争相手と競争を行うということになります。

上記で述べたジャムの例ですと、大手ジャムメーカーや地場のジャムメーカーと戦うことになります。

顧客が喜ぶ独自性をつくることができるか?

体験型の6次産業化 イメージ

Table-K / PIXTA(ピクスタ)・マハロ / PIXTA(ピクスタ)

競合よりも選ばれるには、どのような独自性を作るかが重要です。

加工事業であれば、「美味しい」「使いやすい」等があげられます。観光事業であれば、「得られない経験」「学習体験」「自然体験」「親切なサービス体験」等があり得ます。

ポイントは、日本一になる必要はないということです。ターゲットとする顧客を決めて、その顧客が一番に喜ぶことを自社ができるか?が大事です。そして後述の通り、その取り組みは自社資源の身の丈にあっているかを確認する必要があります。

▼体験を楽しんでもらう観光農園「平田観光農園」のインタビュー記事

新たな事業は、既存の資源を活かせるか?

ペーストの瓶詰 設備と作業

Alex Desanshe - stock.adobe.com

競争において誰も無限に資源(金・人・時間)を持っているわけではありません。資源が限られている中で、新しくやろうとしていることは、今持っている資源と相性がよさそうかを考えることはとても重要です。

例えば、またジャムを例に挙げると、仮に品質が競合に比べて劇的に高くないとしても、農家の従業員が手が空いている時期や時間があって、かつ、ジャムづくりのノウハウと多少の設備があったのならば、失うものが少なく、作りすぎなければ十分に取り組んでみる余地はあります。

▼地域の農家が集まり、ジャンボ落花生に絞って、ブランド化、製品化(アイスクリーム)を実現した「ぼっちチェルリーズ」の事例

戦略視点のまとめ

3C分析の枠組み

tiquitaca / PIXTA(ピクスタ)

ここまでの連載で聞いたことのあるような話が続いたかもしれません。戦略の考え方自体は変わらないからです。戦場(事業環境)を3Cで見ていくことが大事なのです。

顧客が喜ぶ独自性とは、
市場・顧客⇒顧客が欲しい作物/農産物とは?そもそも顧客は誰か?

新たな競争とは、
競争⇒顧客はどの事業者(農家に留まらない)と商品購入を比較しているか?

自社の資源とは、
自社(Company)⇒事業を行う上で、自社資源はあるか?その特徴は何か?

6次産業化については、既に存在する事業(作物生産・出荷)の今後の位置づけと、新事業との相乗効果が見えるかについて、特に注目する必要があります

▼3C分析は、連載第2回で詳しく解説していますので、是非ご覧ください。

まとめ

ここまでお読みいただきありがとうございました。今回は戦略視点を、売り方の拡大に当ててみました。

特に6次産業化は、事業の拡張として1つのキーワードです。6次産業化については、私としては強い推奨も否定もありません。

大事なことは、本文中で述べた、リスクとリターンの裏表の関係です。

すなわち、新たな試みに対して、自社は、コントロールできるリスクを選択しているか?リターンは十分にやる意義を見込めるレベルか?最大化できるか?と向き合うことが成功の一歩であると考えます。

▼minorasuでは、本記事中で紹介したほかにも、6次産業化の記事を掲載していますので、是非ご覧ください。

<前回までの連載>

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芳賀正輝

芳賀正輝

株式会社コーポレイトディレクション マネージングコンサルタント。 東京工業大学工学部卒。同大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。工学修士(経営工学)。外資系化学メーカーBASFコーティングス株式会社、株式会社星野リゾートを経て、現在に至る。

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