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りんごの新品種一覧と特徴、品種改良の方法も紹介

りんごの新品種一覧と特徴、品種改良の方法も紹介
出典 : ごんちー / PIXTA(ピクスタ)

りんご品種のシェアが「ふじ」に集中する中、高温でも着色が安定する「紅みのり」や酸味と色が特徴の「紅の夢」などの新品種が注目されています。気候変動や消費者ニーズに応えるため、各地で加工適性や耐病性に優れた品種開発が進んでいます。りんごの新品種動向をご紹介します。

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りんご品種のシェアは結果樹面積・収穫量とも、「ふじ」「サンふじ」「つがる」「ジョナゴールド」が大半を占めていますが、毎年注目の新しい品種が各産地で発表され、少しずつ導入が進んでいます。

りんごの主な新品種一覧

王林とふじ

ikeda_a / PIXTA(ピクスタ)

りんごの主要品種のシェアをみると、「ふじ(サンふじを含む)」「つがる」「王林」「ジョナゴールド」で、結果樹面積の77%、収穫量で75%を占めています。

2021年産 りんごの主要品種別シェア

出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査(果樹)|確報 令和3年産果樹生産出荷統計」よりminorasu編集部作成

しかし、結果樹面積の長期推移を見ると、全体が減少する中、これらの4品種以外の面積が2010年ごろから増えていることがわかります。

りんごの主要品種別 結果樹面積 長期推移

出典:農林水産省「作物統計調査|作況調査(果樹)|確報 令和3年産果樹生産出荷統計」よりminorasu編集部作成

そこで、2010年以降に品種登録された、主なりんごの新品種について紹介します。

りんごの新品種(2010年以降に品種登録された主なもの)

品種名(よみかた)品種登録者登録年月親系統の掛け合わせ早晩性・収穫時期重さ(g)・形果皮の色
※一部は果肉の色も記載
著色
(高温下)
耐病性貯蔵性
(方法・期間)
日持ちの長さ生食ジュース加熱
加工
弘大みさき
(ひろだいみさき)
弘前大学2010/03ゴールデンデリシャス
×
弘大1号
中生種
10月上旬~中旬
(青森県)
約450~500g
円形
浅黄色
有袋の場合
ほんのりピンク色
紅の夢
(くれないのゆめ)
弘前大学2010/03紅玉
×
赤肉親系統1
晩生種
10月下旬~11月上旬
(青森県)
約300~350g
円から楕円形
果皮は濃い暗赤色
果肉は淡紅色
普通冷蔵
約3ヶ月
あおり24
商標登録名:
はつ恋ぐりん
青森産技2013/03グラニースミス
×
レイ8
中生種
10月中旬~下旬
(青森県)
約300g
円形
鮮やかな緑色~緑黄普通冷蔵
約3ヶ月
あおり25青森産技2013/03メロー
×
リバティ
中生種
10月下旬
(青森県)
約270~300g
扁円形
縞がなく
濃紅色~紫紅色
黒星病
真性抵抗性
普通冷蔵
約3ヶ月
HFF63
商標登録名:
きみと
弘前大学2016/03ふじ
×
東光
晩生種
11月上旬~中旬
(青森県)
350g前後
王林に似た縦長
果皮は黄色で、
陽光面はほんのり赤色がさす
果肉は白色
普通冷蔵
約5ヶ月
約7日
紅はつみ
(べにはつみ)
青森産技2018/05つがる
×
さんさ
早生種
9月上旬
(青森県)
約300~350g
円錐形
鮮紅色
縞は無~不明瞭
普通冷蔵
約1ヶ月
約7日
紅みのり
(べにみのり)
農研機構2019/04つがる
×
ガラ
早生種
8月下旬~9月上旬
約300g濃赤色斑点落葉病
抵抗性
12~14日
錦秋
(きんしゅう)
農研機構2019/04千秋
×
4-4349
(つがる×いわかみ)
中生種
10月上旬
約300g濃赤色斑点落葉病
抵抗性
10~14日

※品種登録者の正式名称
弘前大学:国立大学法人 弘前大学
青森産技:地方方独立行政法人 青森県産業技術センター
農研機構:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構

出典:以下機関の資料よりminorasu編集部まとめ
農林水産省「品種登録ホームページ」
弘前大学農学生命科学部附属生物共生教育研究センター
青森県産業技術センター
農研機構
青森りんごTS導入協議会

上の表を見ると、青森県では加工適性に着目した品種開発が、農研機構では高温下での著色不良の改善に着目した開発に力をいれてきたことがわかります。

新品種のりんご4選

上記で紹介したりんごについて、特に注目したい4品種を以下に紹介します。

紅みのり

早生りんご「紅みのり」

早生りんご「紅みのり」
写真提供:農研機構

地球温暖化による気候変動の影響は、りんご栽培にも及んでいます。東北南部以南の産地では、暑い時期に成熟期を迎える早生の主力品種「つがる」などで、著色不良や果肉の軟化などの品質低下が起きているのです。

農研機構は、高温でも品質低下しにくい品種の開発に取組み、「紅みのり」と、次の項で紹介する「錦秋」を開発しました。

「紅みのり」の概要

品種名紅みのり
読みべにみのり
品種登録者農研機構
登録年月日2019年4月23日
交配親つがる×ガラ
早晩性早生種
収穫時期8月下旬~9月上旬(盛岡)
大きさ300gほど
果皮の色濃赤色
耐病性斑点落葉病 抵抗性
日持ち12~14日

「紅みのり」は、「つがる」と「ガラ」の交雑から育成されました。高温でも着色しやすく、本来の食味がでるまで樹上においておいても果肉が軟化しにくく、「つがる」より日持ちが良いという特徴を持っています。

「つがる」と比べると、成熟期は2週間ほど早く、重さは同程度、果皮が硬いため日持ちは5日ほど長く、糖度はやや低いですが、甘さと酸味のバランスがとれた良い食味です。

また、安定した結実も特徴で、「つがる」よりも1樹当たり収量、累積収量とも多いと報告されています。

※苗木は、農研機構と品種利用許諾契約を締結した一般社団法人日本果樹種苗協会と通常利用権の契約をした種苗店などから購入することができます。これらの苗木には農研機構育成である証紙が貼ってあります。お近くの種苗店にない場合は、日本果樹種苗協会に問合せて、種苗店を紹介してもらってください。

出典:
農林水産省「品種登録データベース|27427」
農研機構「産学連携・品種・特許|品種|品種を探す|果樹|リンゴ属(Malus Mill,)|紅みのり(べにみのり)」
農研機構「プレスリリース・広報|プレスリリース|果樹茶業研究部門|(研究成果)高温でも着色しやすく、軟化もしにくい リンゴ新品種「紅(べに)みのり」
農林水産省「最新農業技術・品種|最新農業技術・品種2021|温暖なリンゴ産地でも着色の良いリンゴ新品種『紅みのり』、『錦秋』」

錦秋

最近は、産地によっては中生品種でも、高温期に成熟期を迎えてしまい、著色不良が問題になっています。

そこで農研機構は、高温下でも著色不良や果実軟化などの品質低下が起こりにくい中生品種として「錦秋」を開発しました。交配親は、「千秋」と「4-4349」(つがる×いわかみ)です。

「錦秋」の概要

品種名錦秋
読みきんしゅう
品種登録者農研機構
登録年月日2019年4月23日
交配親千秋×4-4349(つがる×いわかみ)
早晩性中生種
収穫時期10月上旬(盛岡)
大きさ300gほど
果皮の色濃赤色
耐病性斑点落葉病 抵抗性
日持ち10~14日

新たな中生品種開発の背景には、現在の中生・赤色の主力品種「ジョナゴールド」が、高い糖度を好む最近の消費者の傾向にあわなくなっていることもあります。


実際に「錦秋」を「ジョナゴールド」と比べると、大きさは小さめですが、糖度はやや高く、酸度はやや低く、甘味が強くなっています。また、肉質が緻密で歯ざわりがよいのも特徴です。

前項の「紅みのり」と同様、高温条件でも著色しやすいことに加え、寒冷地で栽培しても十分に果実の大きさや糖度が保てることから、寒冷地から東北南部以南の産地まで、広い産地での普及が期待されています。

※苗木は、農研機構と品種利用許諾契約を締結した「一般社団法人日本果樹種苗協会と通常利用権の契約をした種苗店などから購入することができます。これらの苗木には農研機構育成である証紙が貼ってあります。お近くの種苗店にない場合は、日本果樹種苗協会に問合せて、種苗店を紹介してもらってください。

出典:
農林水産省「品種登録データベース|27428」
農研機構「プレスリリース・広報|プレスリリース|果樹茶業研究部門|(研究成果)高温でも濃赤色に着色しやすく、食味も良い リンゴ新品種『錦秋(きんしゅう)』」
農研機構「産学連携・品種・特許|品種|品種を探す|果樹|リンゴ属(Malus Mill,)|錦秋(べきんしゅう)」

紅の夢

弘前大学農学生命科学部の藤崎農場で育成された「紅の夢」

弘前大学農学生命科学部の藤崎農場で育成された「紅の夢」
写真提供:国立大学法人 弘前大学

「紅の夢」は、弘前大学農学生命科学部の藤崎農場で、りんごの育種プロジェクトの過程で生まれた、赤肉種のりんごです。母系統を「紅玉」とし、これに「スターキングデリシャス」を交配する試験の中で、偶然、別の樹の花粉がついたのですが、それが赤肉品種だったのです。

その後、父系統をつきとめる研究が行われ、アメリカから輸入された「エターズゴールド」のラベルが付いた樹だとわかりました。しかし、本来「エターズゴールド」の果肉は黄色であり、そのラベルの付いた樹は、「エターズゴールド」が枯れ、その台木の実生から育ったと考えられています。

「紅の夢」の概要

紅の夢
読みくれないのゆめ
品種登録者弘前大学
登録年月日2010年3月11日
交配親紅玉×赤肉親系統1
早晩性晩生種
収穫時期10月下旬~11月上旬(青森県)
大きさ300~350gほどの円から楕円形
果皮の色濃い暗赤色
果肉の色淡紅色
貯蔵性普通冷蔵 約3ヶ月

最大の特徴は、果肉が淡い赤色なことです。赤肉品種は「渋くて生では食べられない」といわれてきましたが、「紅の夢」は渋みがなく、酸味が効いている美味しいりんごなのです。

果肉まで赤いりんご「紅の夢」

果肉まで赤いりんご「紅の夢」
写真提供:国立大学法人 弘前大学

収穫時期を早めると酸味がより強い加工品向きに、遅くすると蜜入りの生食向きになります。弘前大学では、果肉の美しさを活かしたジュース、ジャム、洋菓子などへの展開を推進しています。

弘前大学育成新品種「紅の夢」公式ホームページ|紅の夢の活用例

※「紅の夢」の正規取扱店は、2023年9月11日現在、株式会社原田種苗のみです。
販売ページ:株式会社原田種苗「苗木一覧|紅の夢」

出典:
農林水産省「品種登録データベース|23078」
弘前大学育成新品種「紅の夢」公式ホームページ

紅はつみ

「紅はつみ」の概要

紅はつみ
読みべにはつみ
品種登録者青森県産業技術センター
登録年月日2018年5月21日
交配親つがる×さんさ
早晩性早生種
収穫時期9月上旬(青森県)
大きさ300~350gほど
円錐形
果皮の色鮮紅色
縞は無~不明瞭
日持ち20℃で7日間程度
貯蔵性普通冷蔵約1ヶ月

鮮やかな紅色で著色ムラが少なく、気温が高くてもよく着色します。また、収穫前落果が少なく落果防止剤を必要としません


食味は、甘さ・酸味のバランスがよく、早生種としては濃厚な味で、生食のほか、ジュースや加熱調理にも向きます。

※「紅はつみ」の栽培は青森県内に限定されており、苗木の入手は、青森県産業技術センターと利用許諾契約を締結した種苗販売業者に限られます。

出典:
農林水産省「品種登録データベース|26826」
地方方独立行政法人 青森県産業技術センター「農業総合研究所|紅はつみ」
青森りんごTS導入協議会「りんご大学|品種・統計 - りんごの品種 - 紅はつみ(べにはつみ)」
「りんごの新品種「紅はつみ(べにはつみ)」

りんごの品種数は?

りんごの品種 いろいろ

ヤマザクラ / PIXTA(ピクスタ)

りんごの品種数は、世界で約15.000種、日本では約2,000種あるとされています。主要産地である青森県だけでも約50種類のりんごが栽培され、うち40種類が出荷されています。

出典:一般社団法人青森県りんご対策協議会「りんごの品種」

農林水産省の「特産果樹生産動態等調査」によると、2020年産では、102種について生産面積が計上されています。

2020年産 特産果樹生産動態等調査による生産面積 品種ランキング 1~50位

出典:農林水産省「令和2年産特産果樹生産動態等調査|果樹品種別生産動向調査|りんご」よりminorasu編集部作成

りんごの品種改良方法

この章では、研究機関で10年以上の長い年月をかけて行われている交雑育種の方法と、枝変わり品種について解説します。

交雑育種

育種のための接木

akihiro / PIXTA(ピクスタ)

りんごの品種改良は主に「交雑育種」によって行われます。仕組みとしては品種改良の目標となる外観や食味、収穫時期などを設定し、それに基づいて交配親となる品種を選択して交配するのですが、長いプロセスを経て品種登録に至ります。

まず、種子親となる樹の方は、交雑が起きないように開花前に袋掛けをしておきます。蕾がふくらみ出したときに袋を一旦外し、中心花のみをのこして摘花します。

この残した蕾をピンセットで割り、花弁と葯を取り除きます。そして梵天や綿棒で花粉親の花粉を付着させます。授粉が終わったら、また、ほかの品種の花粉が受精しないように袋掛けしておきます。


この交配作業によって結実した果実は、秋に収穫して貯蔵しておき、春に種子を取り出して播種し、実生苗を作ります。1年たった実生苗は、わい性台木に接木し結実を待ちます。

接木してから結実するまでにおよそ2〜3年かかり、ここでようやく、果実特性が見えてきます。

果実の色や形、食味のほか、早晩性や貯蔵性、耐病性や樹形などを総合的に判断して優秀な組み合わせを選び取り、栽培試験を重ねて品種登録のためのデータを揃えて準備をします。

膨大な組み合わせのなかから品種登録に至る品種を育成するまで10年から20年かかるといわれています。

枝変わり品種

ふじの枝変わり品種「みしまふじ」

ふじの枝変わり品種「みしまふじ」
のっち / PIXTA(ピクスタ)

りんごの品種には、突然変異の「枝変わり」をそのまま固定して増殖したものもあります。

一本の樹のうち、ある一部の枝にだけ異なる特性が顕著に見られた場合、その現象を「枝変わり」と呼びます。

この「枝変わり」に「果実の着色が良好」「糖度が高くなる」など、もとの品種よりもよい特徴が見られた場合は、接木による増殖で苗木を生産することができます。

「ふじ」の枝変わりから生まれた品種として、「ふじ」より収穫時期が早い「やたか」や、著色のよい「みしまふじ」などが良く知られています。

新品種開発で注目される遺伝子分析

りんご 遺伝子分析

ビジュアルジェネレーション / PIXTA(ピクスタ)

青森県は、「ふじ頼みからの脱却」をめざし、ブランド力維持に本腰をいれるとして、2023年度から3ヵ年の計画を発表しています。特に注力する施策として、遺伝子解析を導入した新品種開発を挙げています。

勿論、青森県産業技術センターりんご研究所では、これまでも、交配親や自家不和合性の検定、果肉の褐変しやすさ、酸度などについて、DNAマーカーの探索や研究を行ってきました。

今回は、若手研究員を先端の研究機関に派遣し、「形質予測法」の導入を図ります。これにより、選抜の過程が効率化され、20年に及ぶ新品種開発期間を、13年まで短縮できるとしています。


前述したように、通常の交雑育種では交配後の果実の特性がわかるまで、少なくとも数年かかってしまいます。しかし、この「形質予測法」を導入すれば、播種から2〜3週間ほどで果実特性が予測できます。

そうなれば、良好な個体の選抜はもとより、裂果などの品質不良が起きやすい個体の淘汰が早期にでると期待されているのです。

出典:
株式会社東奥日報社「東欧日報 2023年2月22日 朝刊|県、「ふじ」頼み脱却へ 県産リンゴブランド維持本腰 遺伝子解析で開発加速」
日本放送協会「青森 NEWS WEB|遺伝子分析導入でりんごの新品種開発加速へ」(2023年3月6日)
青森県「農林水産部 > りんご果樹課 > りんごの品種改良」
地方独立行政法人 青森県産業技術センター「工業部門|工業総合研究所|平成30年度工業部門研究報告」所収「遺伝子検査を取り入れた次世代リンゴ新品種の効率的作出技術に関する研究」
農研機構「プレスリリース・広報|プレスリリース|果樹茶業研究部門|(研究成果)リンゴ果肉の褐変しやすさに関わる染色体領域を特定」

りんごの品種シェアは「ふじ」が圧倒的で「つがる」「王林」「ジョナゴールド」が続きます。しかし、各産地では、ブランド力を高めようと、ジュースやジャムなどへの加工適性や、高温下での著色の良さなど、時代のニーズにあった新品種開発に取り組んでいます。

新品種開発の動向にアンテナを張り、省力化や高単価での販売につながる新たな品種導入をぜひ検討してみてください。

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大森雄貴

大森雄貴

三重県伊賀市生まれ。京都を拠点に企業・団体の組織運営支援に携わった後、2020年に家業の米農家を継ぐためにUターン。現在は米農家とライターの二足の草鞋を履きつつ、人と自然が共に豊かになる未来を願いながら、耕作放棄地の再生、農家体験プログラムの実施、暮らしを大切にする経営支援などに取り組んでいる。

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