緑肥作物の種類と効果一覧!緑肥のメリットや注意点、すき込み方法も解説
有機肥料とも化学肥料とも異なる、緑肥の活用法を紹介します。緑肥にはさまざまな種類があり、目的に合わせて適切な植物を選択しなければなりません。それぞれの特徴や効果を知り、緑肥作物を使って農業の効率化にチャレンジしてみましょう。
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土壌改良や地力(ちりょく)回復に効果があるとして、緑肥作物の有効活用が注目されています。ほ場が空いた時期に緑肥となる植物を育てるだけなので、手間がかからず規模の大きな農家にもおすすめの方法です。
ただし、植物なら何でもよいというわけではなく、正しく効果を理解したうえで、適切な緑肥作物を選択する必要があります。ここではその選び方や緑肥の使い方、すき込み方法について解説します。
緑肥(りょくひ)とは
「緑肥(りょくひ)」とは名前の通り、植物そのものを肥料の一種として利用することです。緑肥作物としては、主にイネ科やマメ科の植物が使われます。
作物を栽培して収穫すると、本来その土壌に備わった地力が失われます。土壌中の肥料成分が不足したり、窒素や微生物のバランスが悪化したりします。これらを本来のレベルにまで回復させることが、緑肥の最も重要な役割です。
緑肥にはさまざまな種類と効果がありますが、第一に土壌に有機成分を供給する働きがあります。また土壌中への窒素の固定や、微生物の増殖促進の効果もあります。
さらに土壌を物理的に改良する効果も高く、団粒(だんりゅう)構造の形成を促進するほか、透水性の改善や土壌病害を抑えるなどの効果も期待できます。緑肥作物は肥料と土壌改良剤とを合わせた働きをする植物なのです。
緑肥として使える主な植物の種類と効果一覧
アヒル/PIXTA(ピクスタ)
代表的な緑肥作物には、イネ科とマメ科の大きく二種類があります。
イネ科植物には、主に土壌への肥料分や有機物の補給と、微生物の増殖を助ける効果があります。またマメ科の植物には、根粒菌の作用によって窒素を固定する効果と、土壌中に団粒構造を形成する働きがあります。
ここからはイネ科とマメ科それぞれに、よく用いられる緑肥作物の種類や効果について紹介します。
クロタラリア(マメ科)
クロタラリアは草丈が1.5~2mにもなるマメ科植物で、窒素固定効果とサツマイモネコブセンチュウを抑える高い効果を発揮します。播種の時期は中間地では4~7月、暖地では4~8月が適していて、7~10月にすき込みを行います。
セスバニア(マメ科)
草丈が3~4mにもなり、根も1m以上に伸びるため、防風や土壌の透水性改善にも効果があります。小麦・大麦・ネギなどのほ場の緑肥に向いており、6~7月に播種を行い、草丈が伸び切った8~10月にすき込みを行います。
ヘアリーベッチ(マメ科)
Tiny Nature/PIXTA(ピクスタ)
ヘアリーベッチはつる性植物で、特に枝豆用の緑肥として用いられます。ヘアリーベッチを利用すると、窒素を施さなくても慣行栽培と同程度の収量・品質が確保できると報告されています。前年の秋9~10月に播種し、翌年5~6月に草丈が伸び切ったところですき込みします。
クリムゾンクローバー(マメ科)
fox☆fox/PIXTA(ピクスタ)
緑肥としての効果以外にも、春には美しい花を咲かせて景観を楽しむことができる植物です。ダイズシストセンチュウを抑える効果があり、通常3~4月と9~11月の年2回播種することができます。切り花や鉢植えにして販売することも可能です。
レンゲ(マメ科)
昔から水稲用の緑肥として使われてきたレンゲは、美しい花畑が景観アップにも貢献する植物です。窒素の固定以外にも、菌根菌を増殖させて土壌にリン酸を供給します。一般地では9~10月、寒冷地では8~9月が播種の目安です。
ソルゴー/ソルガム(イネ科)
Noppharat/PIXTA(ピクスタ)
土壌中への有機物補給効果が非常に高く、窒素やカリの吸収力も高いため、過剰な肥料成分の除去に最適な植物です。播種期は一般地が5~8月で、寒冷地では5~7月が目安です。ナスなどのバンカークロップ(害虫の天敵を保護・利用するための植物)としても効果的です。
エンバク(イネ科)
hiro/PIXTA(ピクスタ)
根菜類やレタスなどの大敵である、キタネグサレセンチュウを抑える効果がある緑肥作物です。播種の時期は春・夏・秋が可能で、播種から60日程度で草丈が1m弱になったころにすき込みます。
大麦(イネ科)
緑肥の効果と同時に、リビングマルチ(生きた植物を土壌表面を覆うマルチとして利用すること)としても人気がある作物で、「らくらく麦」や「てまいらず」などの専用品種も販売されています。
にんじん、大根、ごぼうなどの根菜類に被害をもたらすキタネグサレセンチュウの発生や雑草を抑える効果があります。播種期は一般地が4~6月、寒冷地では5~7月で、マルチ利用の場合は刈り取りも不要です。
ひまわり(キク科)
ひまわりはキク科ですが、以前から緑肥として使用されています。主に土壌の菌根菌を増やして、後作の作物のリン酸吸収を促します。また、深根性のため土壌の透水性改善効果もあります。全国的に5~8月が播種に適しており、農地の景観アップには最高の植物です。
緑肥のすき込み方法
Anesthesia/PIXTA(ピクスタ)
ほ場に合わせて栽培した緑肥作物は、種類にもよりますが夏季は2~3ヵ月、冬季は4~5ヵ月生長させた後、腐熟期間を計算に入れてすき込みを行います。
種子ができてしまうと土壌内で分解しにくくなるので、イネ科の緑肥作物は出穂直前に、マメ科の緑肥作物は開花直前には刈り取ってすき込みを行います。作物によっては草丈が非常に高くなり、刈り取り量もかなり多くなるため、専用の機械を使って作業する必要があります。
刈り取りは、トラクターに、フレールモアやハンマーナイフモアなどの裁断機を接続して行います。これらの機械で緑肥作物をなるべく細かく破砕することで、すき込みの効率を高めるためです。
次にすき込み能力の高い砕断ロータリや超砕土ロータリ、または荒起こしを行うチゼルプラウなどを使って、作土層まですき込みを行います。
すき込み後は20~30日間、緑肥の腐熟期間を設けます。10日から2週間おきにロータリで耕うんを行い、緑肥の腐熟を促進すると、その後の効果がより高まるでしょう。
緑肥作物の栽培で得られるその他のメリットと注意点
緑肥作物には本来の役割以外にも、農家にとって役立つさまざまな効果があります。その代表的なものを紹介します。
まずはリビングマルチとしての効果です。特に大麦がおすすめで、ポリマルチや敷きわらの代わりになるので、コスト削減にもつながります。雑草の抑制、乾燥防止、鳥害の軽減などの効果があり、自然に立ち枯れるため省力化にも貢献します。
また最近では緑肥作物が持つアレロパシーも注目されています。アレロパシーは、ある植物が環境中に放出する化学物質によって、他の植物が直接または間接的に害を受ける現象を指しますが、害虫を抑制したり、雑草を抑制したりする効果として知られています。特にヘアリーベッチやエンバクは、センチュウ類の増殖を抑制してくれます。
このように緑肥作物を活用することで、農地環境の保全や農家の労働量軽減を図ることもできます。
注意点は、緑肥作物には外来種も含まれるため周辺環境への影響を考慮すること、緑肥作物そのものの種子代や裁断機などのコストがかかることです。コストに関しては有機作物栽培推進事業などの形で、補助金の対象になる場合もあります。地方自治体やJAなどに相談してみることをおすすめします。
本記事ではイネ科やマメ科など緑肥として利用できる植物の紹介と、その効果やすき込み方法についてまとめました。農地が空いた時期に緑肥作物を作ることで土壌を回復でき、さらにその緑肥作物を販売するなどして有効活用できれば、利益向上につながる好循環を生み出すことができます。
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大澤秀城
福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。