農業用ハウスを利用するメリットとは?ハウスの種類や価格についても解説
農家にとって、急激な気候変動や悪天候による病害の発生はできるなら避けたいものです。そうした災害から作物を守る方法の1つに、ハウス栽培があります。そこで、農業用ハウスの利用メリットや、農業用ハウスの種類、価格などについて詳しくご紹介します。
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作物の効率的な栽培や、安定した収穫を可能にするハウス栽培の導入を検討している人は多いでしょう。しかし、施設栽培のための農業用ハウスにはまとまった費用がかかることもあり、思い悩むところです。
そこで、今回はそうした農家のためも、農業用ハウスのメリットや種類、購入方法などについてご紹介します。導入を検討されている方は、ぜひご参考ください。
農業用ハウスを利用するメリット
masy / PIXTA(ピクスタ)
ハウス栽培は、農地をより高度に利用する施設園芸農業の一形態で、高収益をもたらす栽培が可能となります。そのため、作付面積や収益の拡大を考えている農家にとって、農業用ハウスの導入がコストに見合うのかは重要なポイントといえるでしょう。まずは、農業用ハウスの2つの大きなメリットについて、それぞれ詳しく見ていきましょう。
作物に合わせた環境の調整ができる
農業用ハウスを利用する最大の利点は、作物に適した日照時間や温度、湿度、水分量などを管理・調整できる点です。作物にとって最適な環境での栽培が可能となり、安定した収穫をもたらします。
また、作物の日射量や温度などを調整することで、収穫時期をずらすことも可能です。作物の市場価値が高い時期を見計って収穫すれば、収益の向上にもつながるでしょう。降雪地域では、屋外での作業ができない冬の時期でも作物の栽培が可能となるため、収入の増加に貢献します。
外部から作物を守れる
農業用ハウスには、豪雨や日照りなどの悪天候や鳥獣被害から作物を守ってくれるというメリットもあります。また、外部環境から作物を隔離するため、カビなどの原因菌が侵入する経路を遮断する効果が期待できます。
農業用ハウスを利用すれば、作物を天候災害から守るだけではなく、天候の変化による作業計画への影響を抑えることができ、効率よく栽培を進められます。そのほか、農家にとって大きな悩みの1つであるキツネやタヌキ、鹿、などによる鳥獣被害も、露地栽培と比べて格段に抑えることができます。
一方で、寒冷紗などの被覆資材で開閉部を覆っている一般的な農業用ハウスでは、開閉による害虫の侵入を完全に抑えられないとはいえ、露地栽培と比べ害虫防除は行いやすいといえます。
害虫の防除の際、露地栽培の場合は、散布した農薬が飛散する可能性が高く、散布する日時や周囲の作物や人家への影響を考えなければなりません。しかし、農業用ハウスでは周囲への配慮は格段に減ります。
また、露地栽培とくらべ、農薬の作物以外への飛散が少ない分、効率よく散布でき、費用や作業時間を削減できます。万が一病害虫が発生したとしてもハウス内でとどめることができるため、被害の拡大を最小限に抑えることもできます。
農業ハウスの種類
Edophoto / PIXTA(ピクスタ)
農業用ハウスには、地域の気候や特性、栽培する作物に応じた種類があり、主に使用する被覆資材と骨材によって分類されます。ただし、こららの資材の呼び方は、地域によって変わる場合もあるため、その点は注意が必要です。
プラスチックハウス(ビニールハウス)とガラスハウス
農業用ハウスは、覆われている部分(被覆)の資材によって「プラスチックハウス(ビニールハウス)」と「ガラスハウス」に分類されます。
ガラスハウスは名前の通りガラスを利用しています。ガラス以外の被覆資材の農業用ハウスは、総称してプラスチックハウスと呼ばれます。
プラスチックハウスの被覆資材としては、「農ビ(農業用塩化ビニルフィルム)」という安価で透明度が高いビニールや、「硬質フィルム」という耐候性の高いフィルム、「硬質板」というプラスチック系の素材でできた板など、価格や耐久性などに応じてさまざまな種類があります。
前述した「寒冷紗」と呼ばれる被覆資材は、ポリエチレンなどの化学繊維や綿、麻などを荒く織り込んだネット状の布のことをいいます。雨や風は通しますが、日差しや害虫の防除には適しているため、プラスチックハウスの両サイドや妻面のドアなど開閉部の被覆に用いられます。
パイプハウスと鉄骨ハウス
農業用ハウスは、使用する骨材によって「パイプハウス」と「鉄骨ハウス」に分けられます。
多く目にする、U字型のパイプ素材を支柱として利用するプラスチックハウスは、一般的にパイプハウスと呼ばれます。
一方、コンクリートや鉄製の柱が利用されるプラスチックハウスは、鉄骨ハウスと呼ばれています。鉄骨ハウスは、大規模な農業用ハウスを建設する場合や、台風や豪雪による被害を防ぐため強固な基礎を必要とする場合に用います。非常にしっかりした構造になっており、ソーラーパネルや排気ファンを取り付けることも可能です。
農業用ハウスの価格
sammy_55 / PIXTA(ピクスタ)
農作物を栽培する上で非常にメリットの多い農業用ハウスですが、数十万円のものから数百万円のものまで、価格はピンキリです。価格を左右する要因は主に次の4点です。
・間口や奥行きなどの大きさ
・工事費・資材の質や量
・オプションの有無
さらに、栽培する作物の種類や地域の特性によって素材やオプションのセットが異なるため、費用の目安は一概にはいえません。特に、台風や降雪量が多い地域では農業用ハウスの強度が必要になるため、必然的に価格が高くなりますし、パッカーなどでフィルムを固定・補強する資材にも追加費用がかかります。
購入の際は、地域の特性や栽培する農作物、期待する効果を検討し、耐久年数などのコストパフォーマンスも含めて検討するとよいでしょう。
農業用ハウスの購入方法
本格的に農業で利用する場合は、農家向けの資材販売店やJA(農協)から購入します。
購入方法によっては、購入者と販売業者の間に仲介業者が入ることもあります。価格は少し上がりますが、農業用ハウス購入のためのアドバイスや、購入後のフォローも行ってくれる場合が多いです。 仲介業者を利用することで、トラブルを避けやすくなるでしょう。最近はオンライン購入が可能な場合もあるので、一度インターネットで調べてみることも1つの方法です。
農業用ハウスの施工期間
農業用ハウスは比較的小規模なパイプハウスであれば自力で組み立てることも可能ですが、大規模なものやガラスハウスの場合には、施工を業者へ委託する農家が一般的です。
施行期間の目安は、簡易的なもので数日程度、本格的なものでは1ヵ月以上かかる場合もあります。棟数や1棟の大きさ、土壌の状態によっても異なりますが、プラスチックハウスであれば、2週間から1.5ヵ月程度が目安です。具体的な期間が知りたい場合は、資材販売店やJA(農協)、施工業者に相談しましょう。
農業用ハウスの耐久期間
農業用ハウスの実際の耐久期間は使い方によっても異なります。税法上では「減価償却資産の耐用年数等に関する省令第1条第1項、別表第一」によって、下記の通り定められています。建設した農業用ハウスが「構築物」に該当するかどうかで耐久年数は異なります。
【構築物に該当する場合】
・金属造:14年
・木造:5年
・その他:8年
【構築物に該当しない場合】
・金属造:10年
・その他:5年
使用されている資材の種類や、構築物に当てはまるかどうかで5年〜14年まで開きがあります。しかし、上記はプラスチックハウスの場合であり、ガラスハウスの場合は規定で定められていません。ガラスハウスは、プラスチックハウスよりも耐久性に優れており、20年以上はもつといわれています。その時々の用途や予算に応じて、ガラスハウス・プラスチックハウスのどちらを選択するかを決定しましょう。
今回は、農業用ハウスのメリットや価格、耐久年数などを紹介しました。ハウス栽培はメリットの大きい栽培方法ですが、ハウス自体は決して気軽に購入できるものではありません。綿密に計画を立ててからの購入をおすすめします。
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鎌上織愛(かまがみおりえ)
北海道出身。両親は北海道で農業を営む現役の農業者で、自身も幼少期より農作業を行う。農作物はもち米・人参・アスパラガス・とうもろこしを中心に、ハウス一棟を自家菜園として様々な種類の野菜を育成する。現在は食生活アドバイザーとして、ライターなどの執筆活動の傍ら、こどもの食育などに力を入れている。