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大規模農家の経営効率化を実現!農林水産省が推進する「スマート農業」とは?
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  • 農業経営

大規模農家の経営効率化を実現!農林水産省が推進する「スマート農業」とは?

農業が「きつい、汚い、危険」の3Kといわれたのはもはや昔のこと。科学技術の進歩によって社会全体がどんどん変化しているように、農業の現場でもIT技術やAIを活用した作業・経営の効率化が徐々に進んでいます。それを象徴するのが、農林水産省が提唱する「スマート農業」です。

農業の未来を切り拓くスマート農業

農業 AI イメージ

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農業の現場では、ロボット技術やビッグデータ、AIといった先端技術を活用する「スマート農業」の普及が進んでいます。農林水産省が大規模農家やIT企業などの協力のもと、研究・実証に取り組んでおり、「2025年までに農業の担い⼿のほぼすべてがデータを活⽤した農業を実践(注)」と掲げています。

(注)農林水産省が、内閣府の未来投資戦略・構造改革徹底推進会合に提出した資料「スマート農業の社会実装に向けた取組について(平成30年11月)」による

設備やシステムの導入コストの負担は決して軽くないとはいえ、大規模農家ほど経営効率化によって見込める効果は大きく、具体的にどんなサービスやメリットがあるのか、気になるのではないでしょうか。

そこでこの記事では、これから大規模経営を目指す農家、スマート農業の導入を意識している農家向けに、スマート農業の概要、国内での取り組み状況、メリットと課題を解説します。

スマート農業推進の背景

農業の現場では、農家の高齢化の進行と担い手の減少による労働力不足が深刻な課題となっています。

作物や栽培管理の工程によっては、人手に頼る部分や熟練者にしかできない作業がどうしても残ります。省力化が進みにくい作物の産地では、人手不足や労働負担に拍車がかかっています。

一方で、国としては食料を輸入に依存しすぎず、国内で安定供給し、農家の経営も安定させたいと考え、技術革新や大規模化を後押ししています。

2000年代からは企業による農業への参入の規制が緩和され、農業は家族経営から法人経営に移行しつつあります。

こうした背景のもと、機械化やデータ活用を進めて作業負担を軽減し、効率化を図り生産性を上げる農業のスマート化が注目されています。

スマート農業で変わること

農業 収益向上

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農業のスマート化によるメリットは、効率化だけに留まりません。スマート化は収益や人材確保といった経営課題の解決にもつながります。以下ではスマート農業の導入で期待される点をまとめます。

1.収益向上

農作業には、選果などのように細かい手作業、ほ場の耕起や施肥、ハウスの管理など、長時間にわたって身体を使う作業が多くあります。

こうした作業を自動化できれば、農家の作業負担は軽くなり、結果として労働生産性は高まります。さらに、生育データなどを活用して栽培管理に活かせれば、さらなる生産性向上・収益向上につながります。

2.経営に注力できる

経営志向の農業では、作物を生産して終わりではなく、さらなる改善や規模拡大、販路の開拓なども考えなくてはなりません。農作業にかかる時間と労力が減れば、年間を通した作付け計画や、6次産業化まで見込んだ販路開拓といった経営部分にも注力できるようになります。

3.後継人材の確保・育成

作物の栽培管理に技術と時間がかかり、気候にも大きく左右される農業は、“きつくてハイリスク”、“手間はかかるが儲からない”というイメージを持っている人も少なくありません。

また、栽培管理や機械の操作などは経験を積まないとできない部分があり、新規参入の妨げにもなっています。

こうした部分をロボットやデータ活用によって自動化・マニュアル化できれば、人の負担が減って経験が浅くても参入しやすくなるというメリットが生まれます

4.日本農業の活性化、国際競争力の強化

農業人口の減少や少子高齢化、食生活の変化などの社会環境の変化に伴って、日本の食料自給率は約40%(カロリーベース)と低い水準に留まっています。

スマート農業によって技術革新と生産性向上が実現すれば、高品質の農産物をより安定的に生産することが可能となり、国際競争力の強化にもつながります。

広がるスマート農業導入への取り組み

スマート農業 収穫ロボット

出典:sompongtom / PIXTA(ピクスタ)

国を挙げて「スマート農業」の普及推進が進む中、各メーカーからもロボット農機、農業用ドローン、ICTを活用したデータ蓄積サービスが開発・リリースされるなど、具体的な動きが出てきました。これまでのスマート化の流れと現在の動き、今後の展望を追ってみましょう。

スマート農業実現へのロードマップ

スマート農業は未来の農業の姿として注目されていたものの、初期費用が高いことや導入例が少なく費用対効果が見えづらいことなどから、長い間、研究段階に留まっていました。

しかし、ここ数年で具体的なシステムや製品が開発を終えて市場に出てきたことや、スマート化の実証例が出てきたことから、急速な進展を見せています。

現時点ではロボット農機やほ場管理などの生産・栽培支援システムが稼働し始めていますが、今後は気象や市場ニーズなど、他分野のデータとも連携した販売・経営支援が充実してくる見通しです。

国としては、「2025年までに農業の担い⼿のほぼすべてがデータを活⽤した農業を実践」(農林水産省)し、研究や実証の成果を産学官で共有しながら、農家が⽣産性向上と経営改善に挑戦できる環境を作る、としています。

【スマート農業実現へのロードマップ】

スマート農業実現へのロードマップ

出典:農林水産省・内閣府のスマート農業についての各資料からminorasu編集部作成

取り組み事例ピックアップ

スマート農業推進のため、農林水産省は2019年から全国で「スマート農業実証プロジェクト」を開始しています。先端技術を実際の生産現場に導入して技術実証を行うとともに、技術の導入による経営への効果を明らかにして、国内のスマート農業の社会実装を加速することが狙いです。

全国69ヵ所の取り組み(2019年9月時点)の中から、農業の抱える課題解決に直結する事例をピックアップして紹介します。

1.株式会社鹿中農場(北海道津別町)

栽培品目:てんさい、麦、豆、ジャガイモ(馬鈴薯) など
取り組み開始:令和元年度(2019年度)
実証課題:中山間地適用通信技術を活用する自動操舵一貫体系およびセンシング技術の多目的利用体系の実証

中山間地域では、平坦地と比べ農業の担い手不足が深刻化しています。スマート農業の導入による少人数の営農が望まれますが、通信環境・地形特性からスマート農業の適用が困難でした。

そこで、衛星情報・センシング技術を活用し、中山間地域でもスマート農業が適用でき、省力化・生産性向上が実現できることの実証を目指しています。

具体的には、中山間地域の通信不感地帯においても利用可能な中山間地適用自動操舵システム、衛星情報と生育センシングデータの連動による土壌改良システム、可変施肥システムなどを導入して実証を行います。

2.株式会社トマトパーク(栃木県下野市)

栽培品目:てんさい、麦、豆、ジャガイモ(馬鈴薯) など 
取り組み開始:令和元年度(2019年度)
実証課題:中山間地適用通信技術を活用する自動操舵一貫体系およびセンシング技術の多目的利用体系の実証

中山間地域では、平坦地と比べ農業の担い手不足が深刻化しています。スマート農業の導入による少人数の営農が望まれますが、通信環境・地形特性からスマート農業の適用が困難でした。

そこで、衛星情報・センシング技術を活用し、中山間地域でもスマート農業が適用でき、省力化・生産性向上が実現できることの実証を目指しています。

具体的には、中山間地域の通信不感地帯においても利用可能な中山間地適用自動操舵システム、衛星情報と生育センシングデータの連動による土壌改良システム、可変施肥システムなどを導入して実証を行います。

3.土屋ライスファームほか(千葉県東金市)

栽培品目:落花生  
取り組み開始:令和2年度(2020年度)
実証課題:スマート農業技術を活用した落花生生産の機械化~ 一貫体系による大幅な労働工数削減と品質確保の実証 ~

千葉県では全国の 8 割の落花生が生産されています。国内の落花生栽培は、海外と比べて機械化が大きく遅れており、栽培から調整までのほとんどを人手に頼っています。また、露地乾燥は気候の影響を受けやすく、最近の台風や長雨では大きな被害も起きています。

そこで、自動運転トラクターを活用した生産工程の省人化、熟練者でなくても収穫適期が判断できるシステム、気候に左右されない屋内での工業的乾燥技術を導入。これらスマート農業技術の導入によって、圧倒的な労働工数の削減と品質の確保が可能になることを実証しようとしています。

4.サンライズファーム西条(愛媛県西条市)

栽培品目:野菜(玉ねぎ、レタス、キャベツなど) 
取り組み開始:令和2年度(2020年度)
実証課題:スマートフードチェーンによる野菜生産強靭化の実証

西条市では、以前から総合6次産業都市を目指し、産学官が連携して農産物の生産・加工・貯蔵・流通・販売の機能の集積化に取り組んできました。

しかし最近では、異常気象による野菜の生育障害と病虫害の多発、人出不足や消費者ニーズの多様化などにより、農家収入が不安定なっていることが課題となっていました。

そこで、スマート農業技術の導入による二毛作における裏作の強化、栽培から販売まで通したスマートフードチェーン構築による高収益化を目指しています。

具体的には、IoTやAI を駆使し、初心者もベテランも活用できる最適な栽培サポートを提供しようとしています。また、市場の需要に応じてタイムリーに供給できる生産計画・販売計画の立案支援について実証も目指しています。

スマート農業の課題

minorasu(ミノラス)の画像

スマート化で得られるメリットは大きい反面、本格導入に向けての課題もあります。

初期費用が高い

スマート農業の製品やサービスは初期費用が高く、普及段階であるため費用対効果が見えづらいことから、大規模経営の農家でないと導入検討は難しいといえます。

しかし、国や自治体の補助金活用や、リースでの導入が可能な製品・サービス、導入コストはかからず出来高で課金されるサービスもあります。今後のリース活用の拡大や、商品の標準化、低価格化が期待されます。

さらなる普及促進の必要性

スマート農業の実証データを集めて広範囲で活用する(スマート化のメリットを活かす)ためには、関連する製品やサービスの普及を推進することが必要です。普及が進むことで、農家の負担となる初期費用を下げることが可能になります。

農業関連のメーカーにとっても、高齢化や担い手の減少といった課題は市場の縮小につながっていくため、農家や農業関係者とメーカーが一体となった普及と市場拡大への取り組みが求められています。

ノウハウを持った人材の不足

スマート化にあたってはITリテラシーやICT機器への対応力が必要ですが、経験に基づく行動をとることが多い高齢者中心の現場では、導入へのハードルが高くなる面もありそうです。

また、スマート農業は、生産から流通まで一貫した流れの中での活用がより効果を上げるため、農業だけではなく流通や経営にも知見のある人材が必要となります。

今後は、農家や生産法人だけでなく、地方自治体や企業、研究機関などが分野を超えて協力し、ノウハウ蓄積や人材育成に関与することが求められます。

スマート農業 トマト 水耕栽培

出典:hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

スマート農業の導入は、各地で行われている実証実験や具体的なサービスや製品の登場によって、より広い地域・範囲への拡がりを見せ始めています。農家にとっても現実的な検討課題となりつつあり、今後の展開により一層注目していきたいところです。

柳澤真木子

柳澤真木子

父の実家が農家で母も生活協同組合を活用していたことから、農業や食料に関心を持ち、 大学卒業後の5年間をJAの広報部門で、以後5年を食品小売会社の広報として働く。 消費者向け農業メディアの企画執筆経験や、JAグループ・農林水産省の広報紙の記事執筆経験がある。 その後、出産・育児を経て、2019年からライターとして活動を開始。 ライフスタイル、ヘアケア、農業など複数ジャンルでの記事執筆を手がけている。

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