減反政策とは? 廃止から4年、米農家の現状と今後の展望を考える
生産過剰となった米の生産量を抑制するために1971年から本格的に実施された減反政策は、2018年に約50年の歴史を経て廃止されています。減反政策が廃止されたことにより、各地で米余りの状態が見られるようになってきました。今後、米農家は何をするべきなのか、現状を分析して解説します。
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1971年から本格的に実施された減反政策は、2018年に廃止されました。廃止されたことにより、作付面積の増加や米余りなどの状態が各地で見られています。今後、米農家は農業とどのように向き合っていけるのか、現状と合わせて見ていきましょう。
減反政策とは?
まりも / PIXTA(ピクスタ)
減反政策とは、生産過剰となった米の生産量を調整するための政策です。米の作付面積の削減をめざし、米農家に転作を支援するための補助金を支払うことで生産量の調整を図ります。1960年代から試験的に実施されていましたが、1971年に本格的に導入されました。
2018年、約50年の実施を経て減反政策は終わりを迎えます。減反政策によって少ない作付面積でも収入を得られるように、高く販売できるブランド米を栽培する農家が増えたため、業務用の米が不足するようになったことが原因の1つです。
業務用の米を多く必要とする外食チェーン店やコンビニなどでは値上げや小型化などに踏み切り、米不足に対応していました。
sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)
2018年以降は国による米の生産目標量の配分は廃止され、米農家は自身の判断で生産量を増やせるようになっています。
しかし、急に多くの米農家が生産量を増やすと、米の生産量が需要を大きく上回って米余りの状態を招くかもしれません。また、米の価格が急落するなど、米の取引市場にも大きな影響を与える可能性が危惧されるでしょう。
そのため、2021年の時点では自治体や農協などの団体が中心となり、米の生産量の目安を農家に提示して、急激な増産を回避するように調整しています。米農家自身が生産量を調整する必要が生じてきたともいえるでしょう。
減反政策の廃止による米農家への影響
減反政策の廃止により、作付面積を増やして所得拡大をめざす米農家が増えました。しかし、作付面積を増やしたことでさまざまな問題が起こっています。どのような問題が起こっているのか、また今後どのような対策を立てていく必要があるのかを見ていきましょう。
水稲の作付面積、および消費量の推移からみる米生産の現状
日本人における米の消費量は、1962年をピークに減少し続けています。2010年の時点で、ピーク時の約半分にまで消費量が減りました。この理由としては、主食の多様化が挙げられるでしょう。パンやパスタ、そば、うどんなどのさまざまな主食を食べる人が増え、朝昼晩の三食を米食にする必要はなくなっています。
※2020年は第1報の概算値
出典:農林水産省「食料需給表」よりminorasu編集部作成
国民の米離れを反映し、作付面積も減っています。減反政策が実施されていたこともあり、2017年までは年々減少していました。しかし、減反政策が廃止された2018年の作付面積は、前年と比べて一気に5,000haも増加しています。
単価の高い主食用米を生産し、所得拡大をめざす動きが各地で生じました。その結果、特に主食用米が過剰に生産される状況になっています。
出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査」よりminorasu編集部作成
出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査」よりminorasu編集部作成
コロナ禍における外食需要の低下が決定打となった「米余り」
さらに米余りを加速させた原因として、新型コロナウイルス感染症の流行により、外食消費が落ち込んだことも挙げられるでしょう。各年6月時点の民間在庫の推移は以下のとおりです。減反政策の影響もあり、玄米の民間在庫量は年々減少していましたが、2020年以降は急上昇しています。
出典:農林水産省「米の相対取引価格・数量、契約・販売状況、民間在庫の推移等」所収の「民間在庫の推移」よりminorasu編集部作成
農家・産地は競争力を高める戦略がより重要に
減反政策の廃止と主食の多様化、米離れ、外食消費の落ち込みなど、さまざまな状況が絡み合い、深刻な米余りを引き起こしています。今後、米農家は米余りの現状で生き残るために、より戦略的な農業経営を行う必要が生じていると見ることができるでしょう。
また、米を生産するだけではなく、米に付加価値を付けて差別化するなど、より一層のビジネス化が加速すると考えられます。
所得を増やすには? これからの農家に求められる工夫
米の消費が落ち込むなか、これからの農家は単価の高い主食用米だけに注力するのではなく、多品種の栽培などに取り組むことが求められます。単価重視型から利益重視型に視点を変えることで、農家としての生き残りと所得拡大をめざすことができるでしょう。
例えば、需要は高いものの単価が低い加工用米や、飼料用米などの収穫時期の異なる多品種を栽培することにより、少ない人員と機械で効率的に多量の米を栽培、収穫できるようになります。
減反政策が終わり、決められた量を生産すれば買い取ってもらえるという状況は終わりました。そのような中、在庫量の多い主食用米だけに注力するのはリスクが高い選択といえます。単価の低い米と組み合わせることで、コストを抑えて収益の向上をめざすことができるでしょう。
作付面積を増やし、大規模化すればさらに収益率を高めることができます。さまざまな品種や作付面積などの組み合わせをシミュレーションし、所得拡大につなげていきましょう。
▼「複数の品種栽培で高品質な米生産を実現するスマート農業」についてはこちらご覧ください
※飼料用多収米についてはこちらの記事をご覧ください。
米の消費拡大を目指す、地域の取り組み事例
日本人の米の消費量は年々下がっているため、米を生産しても売れにくい状況は続いています。そのため、主食用米以外の米の作付を実施するだけでは、短期的な所得増を実現できても、永続的な所得拡大にはつながらないと考えられるでしょう。
米余りの根本的な原因を解消するためにも、農家は米の消費量自体の向上をめざしていくことも重要です。米の消費量拡大に向けた取り組みの事例を2つ紹介します。
「おこめレシピ」を広報誌に毎月掲載 (JA岡山)
okimo / PIXTA(ピクスタ)
JA岡山では、JA岡山女性部が監修したおこめレシピを広報誌に毎月掲載し、米の消費拡大をめざす取り組みを開始しました。
例えば、地域に伝わる米料理を誰でも作れるようにレシピ化したり、米と地元の名産を組み合わせたオリジナルレシピを紹介したりしています。おいしそうな写真やJA岡山女性部の人々の生き生きとした写真を組み合わせ、思わず作ってみたくなるように工夫されている点も特徴といえるでしょう。
なお、JA女性部とは、明るく豊かな地域社会を築くための女性による組織です。食や農業、生活に関心のある女性が集まり、食農教育や地産地消、料理、手芸、環境保全などの幅広い活動を実施しています。20代~90代までの幅広い世代の女性が参加し、同年代との交流だけでは得られないような知見や知恵を得られる点も魅力です。
大型量販店でPRイベントを開催 (滋賀県米消費拡大推進連絡協議会)
滋賀県米消費拡大推進連絡協議会では、近江米のファンを獲得して米の消費量拡大につなげるために、さまざまなイベントを開催しています。例えば県内の大型量販店で近江米の試食や食べ比べクイズなどを実施したり、県内の大学の学園祭に模擬店を出店し、学生たちとも協力して近江米を盛り上げたりしてきました。
また、近江米のファンを増やすために「近江米もっと食べます宣言」を県内外から募集しています。近江米にまつわるエピソードの投稿も募り、ラジオで紹介するなど、さまざまなメディアともつなげて楽しめるようにしている点もオリジナリティあふれる工夫といえるでしょう。
さらに近江米を使用している飲食店にも働きかけ、近江米ミニ看板を提供しています。来店客に近江米ブランドをアピールするだけではなく、近江米ファンの顧客を集客する効果も期待できるでしょう。
なお、滋賀県米消費拡大推進連絡協議会とは1982年に設立された団体で、そのときの滋賀県知事を会長として活動しています。滋賀県農業協同組合中央会や近江米振興協会などの米の生産や流通、消費に関わる28の団体が一体となり、国民の主食としての米を見直して食生活の安定を図るため、米の消費拡大運動を推進することを目的とした団体です。
※近江米についてはこちらの記事もご覧ください
米の消費拡大につなげる工夫を実施していこう
1971年に本格的に始まった減反政策が終わり、2018年以降は国による米の生産目標量の配分が廃止されています。米農家は自身の判断で生産量を増やしたり、生産する米の種類を選んだりできるようになってきました。
しかし、自由度が増えることは必ずしも米農家にとってプラスとなるとは限りません。1962年以来、毎年米の消費量は下がっているため、生産しても売れない状況が続いているのです。また、新型コロナウイルス感染症の流行による外食消費の減少や、主食の多様化も米余りの状況を加速させています。
今後は農家自身が生産計画を立て、収益を拡大するための工夫をしていかなくてはなりません。例えば、単価は安くともニーズの高い加工用米や飼料用米の生産にも取り組み、収穫時期をずらして効率的な農業経営をめざすことも必要なのです。
IYO / PIXTA(ピクスタ)
また、米自体のニーズを高める取り組みも必要です。米料理のレシピを紹介したり、米のおいしさを再発見できるイベントを開催したり、飲食店や大学などとタッグを組んで米のファンを増やしたりすることもできるかもしれません。米農家の明るい未来のためにも、米の魅力を国民に伝え、消費拡大につなげる取り組みを実施していきましょう。
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林泉
医学部修士、看護学博士。医療や看護、介護を広く研究・執筆している。医療領域とは切っても切れないお金の問題に関心を持ち、ファイナンシャルプランナー2級とAFPを取得。