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令和に「コメ不足」再来の危機 ? “平成の米騒動”に学ぶ課題と、今 農家にできること

令和に「コメ不足」再来の危機 ?  “平成の米騒動”に学ぶ課題と、今  農家にできること
出典 : xiaosan - stock.adobe.com

日本では現在、新型コロナウイルスなどの影響もあり、「コメ余り」が起こっています。しかし、現状を正しく見れば、今後「コメ不足」が起こる可能性もあるのです。そこで今回は、なぜコメ不足が起こる可能性があるのか、過去の事例をもとに現状について詳しく解説します。

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今の日本では「コメ余り」が起こっていますが、異常気象や水稲を栽培する農家の減少などから「コメ不足」が再び起こりうる可能性もあります。そこで今回は、コメ不足が起こる原因について詳しく紹介するとともに、米農家が今できる取り組みについても紹介します。

▼「需要を捉えた品種選定」など、収益向上を目指す水稲農家の取り組みは以下の記事をご覧ください

新型コロナも影響。米農家を悩ませる「コメ余り」の現状

農林水産省のデータによれば、日本では最近、人口減少や米離れなどが原因で、主食用米の需要量が1年当たり約10万t減少しています。また、2020年以降は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、外食需要が激減したことによってさらに消費量が激減しています。

2021年4月時点における民間の米の在庫量は、玄米換算で230万tです。2020年の同じ月と比べて1割以上増加しており、2014年以来6年ぶりに多い水準まで高まっています。この数字は、2020年産の主食用米の生産量723万tの3割を超えるほどです。

米の民間在庫量の推移(各年4月)

出典:農林水産省「米の相対取引価格・数量、契約・販売状況、民間在庫の推移等」所収の「令和3年産米の相対取引価格・数量(令和4年3月)(速報)」よりminorasu編集部作成

一方で、米の小売価格に注目してみると、東京都区部のコシヒカリ5kg1袋の価格は、2021年3月時点では2,397円、2022年3月は2,290円です。

2015年半ばから2019年10月ごろまで緩やかに上昇していたことからすると、コメ余りの状況に新型コロナウイルス感染症の影響が加わって下落したと考えられるでしょう。

コシヒカリ 5kg 1袋の小売価格推移(東京都区部)

出典:総務省「小売物価統計調査 小売物価統計調査(動向編)」よりminorasu編集部作成

“平成の米騒動”はなぜ起きた? 平成5年「コメ不足」の原因と背景

遡ること30年前の1993年(平成5年)には、現在とは逆にコメ不足が起こりました。このコメ不足は、なぜ起こったのでしょうか? 次にその原因や背景について詳しく紹介します。

根本的な原因は、記録的冷夏と日照不足による生育不良

水稲の収穫量と作況指数の推移

出典:農林水産省「作物統計調査 作況調査(水陸稲、麦類、豆類、かんしょ、飼料作物、工芸農作物)」よりminorasu編集部作成

1993年の米(水稲)の収穫量は、789万1,000tと前年比の74.1%にまで落ち込みました。また、米の作況指数が74と「著しい不良」だったことに加え、1991年も作況指数が95と不足しており、在庫量も23万tと少なかったのです。

このことから“平成の米騒動”と呼ばれるほどのコメ不足に陥りました。原因は、ラニーニャ現象による1913年以来80年ぶりの大冷夏と、梅雨前線が長期間にわたって停滞したことによる日照不足でした。この年は、いったん発表された梅雨明け宣言が8月下旬に撤回されるほどでした。

政府は米の安定供給を確保して価格高騰を防ぐべく、海外から米を約259万t緊急輸入しました。

さらに、その翌年、ラニーニャ現象が発生し、一転して猛暑となったことで大豊作となり、コメ不足は解消されました。農林水産省はこれを受けて米の備蓄制度を設け、不作の年が続いても安定供給できるよう、年間100万t程度を基本として備えを行うようになりました。

コメ不足の騒動を助長した「輸入する米がない」問題

インディカ米とうるち米

SORA / PIXTA(ピクスタ)

前述したように、政府は海外から米を輸入することで安定供給を図ろうとしましたが、これが原因で騒動が大きくなった面もあります。

もともと日本へ輸入できるほどの米を品質、量ともに生産している国がなく、輸入する米が見つからなかったことから、うるち米以外の米を輸入せざるを得なかったからです。

まず、米の不足を受け、1993年の11月にタイからうるち米が輸入されました。しかし、それだけでは量が足らず、翌年にはほかの国からも米を輸入します。輸入先は中国やタイ、アメリカ、オーストラリアなどで、中国からの輸入量は100万tを超えていました。

その多くはインディカ米であり、インディカ米への馴染みがなかった日本人からは「まずい米」と評され、結果的に輸入した分の約98万tが売れ残る事態となってしまいました。

今後日本がコメ不足に陥る可能性は? データに基づく動向予測

前述したように、現在日本ではコメ余りの状況となっていますが、今後日本で1993年のようなコメ不足になる可能性はあるのでしょうか? 次に、農林水産省などのデータをもとに、今後の米事情について予測してみます。

品種改良により、生育不良の不安は減少

日本では1993年のコメ不足以来、リスク回避のために品種の入れ替えや継続的な品種改良が行われており、以前ほど米が足りなくなる状況は起こりにくくなっています。

1993年にコメ不足が発生した際、最も被害が大きかった米の品種はコシヒカリであり、次に被害が大きかったのが、当時コシヒカリに次ぐ全国2位の作付面積を誇るササニシキでした。

宮城県を中心に栽培され、寒さに弱かったササニシキは、このコメ不足を引き起こした気象の影響を受けて、作付面積が一気に減少します。

そのササニシキに代わり、作付面積を伸ばしたのが耐冷性に優れたひとめぼれなどの品種でした。ひとめぼれの全国の作付面積は、2020年産でコシヒカリに次ぐ2位となっています。

令和2年産るち米の品種別作付割合

作付面積割合主要産地
コシヒカリ33.7%新潟県・茨城県・栃木県
ひとめぼれ9.1%宮城県・岩手県・福島県
ヒノヒカリ8.3%熊本県・大分県・鹿児島県
あきたこまち6.8%秋田県・茨城県・岩手県
ななつぼし3.4%北海道
はえぬき2.8%山形県
まっしぐら2.5%青森県
キヌヒカリ1.9%滋賀県・兵庫県・京都府
きむむすめ1.6%島根県・岡山県・鳥取県
ゆめぴりか1.6%北海道
上位10品種合計71.7%

出典:公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構「品種別作付動向」所収の「令和2年産水稲の品種別作付動向について」よりminorasu編集部作成

また、全国5位の作付面積を誇るななつぼしは、ひとめぼれの品種とひとめぼれよりもさらに耐冷性に優れた品種とを掛け合わせた、より寒さに優れた品種です。

これらの品種改良を受けて米の産地はさらに北に進み、亜熱帯が原産の水稲ながら今では北海道が日本で第2位の大産地となっています。そのため、現在は 生育不良によるコメ不足の不安が減少しているといえるでしょう。

「ななつぼし」を始めとする北海道産米

たけちゃん / PIXTA(ピクスタ)

作付面積や農家数の推移は看過できない状況に

しかし、公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構が農林業センサスからまとめたデータによれば、水稲作付農家数は2015年で約94万戸であり、1965年の約489万戸と比べると、50年間で5分の1程度まで減っています。

収穫面積も1965年では約281万haだったのに対し、2015年は約113万haまで減少しました。

水稲の作付農家数・収穫面積の推移

出典:公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構「米の生産関連情報」所収の「水稲収穫農家数及び収穫面積の推移」よりminorasu編集部作成

また、2021年産の水稲の作付面積は156万4,000haが見込まれており、これも前年と比較すると約1万haの減少となっています。主食用で見れば約130万haが見込まれ、これは前年産と比較して6万3,000haの減少となります。

さらに、2021年は6月下旬から7月上旬にかけての日照不足や、8月下旬からの低温、日照不足などの影響もあって予想収量は700万2,000tと、前年産に比べておよそ22万4,000tの減少が見込まれるなど看過できない状況となっています。

出典:農林水産省「令和3年産水稲の作付面積及び予想収穫量(9月25日現在)」

異常気象が重なれば、コメ不足が再び発生する恐れも

これらのことから、このまま米農家の減少が進み続け、さらに異常気象による生育不良が重なることがあれば、今後またコメ不足が発生してしまう可能性が十分にあるといえるでしょう。

事実、近年の日本では、関東で体温を超えるような猛暑が続き、水稲の高温障害が懸念された一方で、その後長雨と低温が続くなど、異常気象ともいえる気象変動の激しさが増しており、これは今後も続くことが予想されます。

また、“平成の米騒動”の際に課題となった「輸入できる米がない」という点に関しては、備蓄制度が設けられたとはいえ、今後再びコメ不足が発生した際にも同様の問題が起こる可能性があります。

以上のことから、コメ不足を起こさないためにも、米農家には収益を保ちながら安定的に米を作り続けるための工夫が求められているのです。

コメ不足を起こさせない! 安定的な栽培を続けるために、今農家ができること

では、コメ不足を起こさないため、米農家としては何ができるのでしょうか? 次に、安定的な栽培を続けるためにできる取り組みについて、実際に行われているものを紹介します。

多品種栽培による「作期分散」で大規模化とコストダウンを実現

水稲の乾田直播

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)

まず1つ目は、多品種の栽培を行って作期を分散することです。効率的かつ大規模な米の栽培が実現するため、作期延長などでコストダウンを行うことが可能となります。

茨城県ではあきたこまちやコシヒカリ、ゆめひたち、マンゲツモチなどの品種と乾田直播などを組み合わせることで、定植や直播の期間を約50日間まで延長しています。

これによって機械施設の稼働率を向上させ、 100ha規模の栽培をわずかトラクター4台と田植機2台、コンバイン1台で運営することに成功しました。同様に15ha以上で栽培を行っている米農家に比べて25%も製造原価を削減しました。

出典:日本政策金融公庫「多品種栽培による作期拡大と米の販売方策(技術の窓 技術の窓 №2110)」

熊本県阿蘇市の有限会社内田農場では、試験栽培を含めた13品種を導入し、異なる収穫時期を組み合わせることで約60haの刈り取りをコンバイン1台で実施するなど、作業量の安定化や低コスト化に繋げています。

主食用米だけではなく、酒米も栽培することで酒蔵などに販路を開拓することにも成功しました。

出典:全国農業共済協会(NOSAI協会)農業共済新聞 2018年9月3週号「生き抜く稲作:作期分散 多品種組み合わせ効率作業 ―― 熊本県阿蘇市 ・(有)内田農場」

米の消費拡大に向けた取り組みを実施

岡山県の郷土料理「ばら寿司」

okimo / PIXTA(ピクスタ)

そのほかに米農家ができる取り組みとしては、米を使ったレシピの発信や、農業に興味を持ってもらうための「農業体験」の実施などが挙げられます。

例えば、JA岡山では女性部が中心となって、郷土料理や地産地消料理を集めた「おこめレシピ」というレシピ集を制作し、管内で栽培される野菜の魅力などを知るとともに食卓を彩る1品の参考となるレシピを紹介しています。

JA岡山女性部監修「おこめレシピ」

福島県猪苗代町の「会津有機米研究会」では、東京にある私立小学校に人口の水田を作り、春から秋にかけて稲作体験学習を実施しています。この体験学習では、10回の授業を通じて村の農耕文化のすばらしさを伝えました。

その結果、夏休みには親子で福島県の水田を訪ねるまでになり、その地域の米の取扱量を月200kgから約5倍の1,000kgまで増加させることに成功しています。

農業の体験学習

V-MAX / PIXTA(ピクスタ)

今回はコメ余りの現状を踏まえつつ、今後“平成の米騒動”と呼ばれたようなコメ不足が起こる可能性について詳しく紹介しました。

米農家の数や作付面積が減少し、異常気象ともいえるほどの気象変動が激しい日本では、今後もコメ不足が起こる可能性があります。

しかし、多品種栽培による作期の拡大や、「レシピの発信」「農業体験」に代表される米の魅力のPRなど、米農家として行えることもまだまだあるのではないでしょうか。

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百田胡桃

百田胡桃

県立農業高校を卒業し、国立大学農学部で畜産系の学科に進学。研究していた内容は食品加工だが、在学中に農業全般に関する知識を学び、実際に作物を育て収穫した経験もある。その後食品系の会社に就職したが夫の転勤に伴いライターに転身。現在は農業に限らず、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。

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