大豆の自給率はなぜ低い? 生産量を増やすために農家ができる3つの工夫
大豆は日本の食卓には欠かせない食材で、特に国産大豆は品質や安全性への信頼から高い需要があります。しかし、その一方で国内自給率は低迷しています。大豆の生産量はなぜ伸びないのか、増産するにはどうすればいいのかについて、最新のデータをもとに解説します。
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大豆の主要生産国では、大規模・機械化栽培が主流です。その技術を取り入れることで日本の良質な大豆を安定的に増産し、自給率の向上も期待できます。そこで、自給率向上の対策として、日本の栽培技術に大規模化・機械化を効果的に取り入れる方法を中心に説明します。
最新データで見る日本の大豆自給率は“6%”
農林水産省によれば、最新のデータである2022年度の大豆の自給率(概算)はわずか6%とあります。
需要量 | うち食品用 | うち国産 | 自給率 | |
---|---|---|---|---|
2015年度 | 338.0万t | 95.9万t | 23.7万t | 7% |
2016年度 | 342.4万t | 97.5万t | 23.1万t | 7% |
2017年度 | 357.3万t | 98.8万t | 24.5万t | 7% |
2018年度 | 356.7万t | 101.8万t | 20.3万t | 6% |
2019年度 | 368.3万t | 103.0万t | 21.0万t | 6% |
2020年度 | 349.8万t | 105.3万t | 21.1万t | 6% |
2021年度 | 356.4万t | 99.8万t | 23.9万t | 7% |
2022年度 | 389.5万t | 100.0万t | 23.4万t | 6% |
※「食品用」「うち国産」については、農林水産省 農産局 穀物課 が食糧需給表から算出した数値
出典:農林水産省「大豆のホームページ」 所収の「大豆をめぐる事情(令和4年(2022年)4月版・令和6年(2024年)7月版)」よりminorasu編集部作成
品目ごとに出される「品目別自給率」は、国内消費仕向量(国内生産量+輸入量-輸出量±在庫の増加または減少量)に対する国内生産量の割合のことで、重量ベースで算出されます。
6%という数値にはインパクトがありますが、なぜ低いのかというと、油や飼料として使われる大豆の多くが輸入大豆で賄われているためです。製油用や種子用、飼料用などを除いた食品用のみの自給率で見ると23%になります。
※「食品用」「国産」については、農林水産省 農産局 穀物課 が食糧需給表から算出した数値
出典:農林水産省「大豆のホームページ」所収「大豆をめぐる事情(令和6年(2024年)7月版)」よりminorasu編集部作成
なお、日本で食用とされる大豆には多くの種類がありますが、ここでは一般的な黄大豆のほか、黒大豆などの有色品種も含まれます。
自給率はあくまでも計算上の数値であり、こまかい値にとらわれる必要はありません。とはいえ、古くから大豆を多く食べ、さまざまな加工品を作り出してきたはずの日本での自給率が2割程度というのは、心もとない数値といえるでしょう。
国産大豆の自給率はなぜ低い?
Katie(カチエ) / PIXTA(ピクスタ)
日本では古くから大豆を重要な食料として、豆腐や油揚げ、がんもどき、卯の花、煮豆、納豆、そして代表的な和食の調味料である味噌、醤油など、幅広い食文化を築いてきました。当然ながら、大豆の栽培も古くから行われ、かつてはほとんどの大豆を国内で賄っていました。
それにもかかわらず、なぜ今、大豆の自給率はここまで下がってしまったのでしょうか。考えられる原因をまとめます。
需要は大きいのに……ネックは“単収の伸び悩み”?
前出「大豆をめぐる事情(令和6年(2024年)7月版)」によれば、国内における大豆の需要動向は堅調で、今後も需要の増加が見込まれています。特に品質のよい国産大豆は信頼が厚く、安定した高需要が期待できます。しかしながら、自給率は低い状態です。
大豆の自給率が需要の高さに比例しない理由の1つとして、単収が安定しないことが挙げられます。大豆は天候の影響や連作障害などで収量や品質が大きく落ちることがあります。
特に近年、日本では気象災害が多いこともあり、生産年によっても地域によっても生産量にばらつきが生じています。それを受けて、国産大豆価格の変動も大きくなってきました。
国内の大豆の収穫量と平均落札価格の推移を見ると、平均落札価格が60kg当たり8,202円であった2018年以降、3年連続で収量が平年収量を下回ったため価格が上昇を続け、2020年には60kg当たり11,295円に上がりました。しかし、2021年以降は60kg当たり9,000円台に下降しました。
出典:公益財団法人日本特産農産物協会「令和4年(2022年)産大豆入札取引の結果」所収「令和5年(2023年)産収穫後入札取引結果総括表」、「過去年次の入札取引結果 1.収穫後大豆入札取引(令和2年(2020年)産~平成12年(2000年)産)」所収 各年の収穫後入札取引結果総括表、農林水産省「作物統計 作況調査(水陸稲、麦類、豆類、かんしょ、飼料作物、工芸農作物)」よりminorasu編集部作成
このような収量や価格の不安定さは、安定的な販路を確保する妨げとなり、結果的に単収の低下につながっています。
一方で、大豆は加工品に利用されることが多く、実需者が望む品種・品質の大豆を均質かつ大ロットで継続的に生産する必要があります。原料の価格が不安定では実需者の収益も大きく変動してしまうため、安価で大量に流通する輸入品量に頼らざるを得ないという現状もあります。
さらに、大豆栽培は播種から収穫・乾燥調製まで半年かかり、中耕作業などがあって労働時間が長く生産コストもかかることなども、生産量が増えない要因になっていると考えられます。
農家数の減少も一因。 一方で、一戸当たりの大規模化が進行中
自給率が上がらないもう1つの要因は、大豆栽培農家数が減少を続けていることにあると考えられます。前項で触れたとおり、大豆は単収が安定しないうえに、作付面積の小さいほ場では省力化が進まず利益を上げにくいため、大豆栽培をやめてしまう農家が少なくありません。
特に作付面積2ha未満の農家の数が大きく減っています。前出の資料「大豆をめぐる事情(令和6年(2024年)7月版)」では、2000年から2020年までの経営耕地の規模別の大豆の作付農家数を比較しています。
作付面積2ha以下の農家戸数は大きく減少しており、特に0.5ha未満の作付けをしている農家は129,737戸から25,209戸と、5分の1程度に減少しています。
大豆の作付農家数
2000年 (農家数) | (構成比) | 2020年 (経営体数) | (構成比) | |
---|---|---|---|---|
0.5ha未満 | 129,737 | 82.0% | 25,209 | 55.1% |
0.5~1.0 | 16,279 | 10.3% | 5,301 | 11.6% |
1.0~2.0 | 7,572 | 4.8% | 4,949 | 10.8% |
2.0~3.0 | 2,276 | 1.4% | 3,063 | 6.7% |
3.0~5.0 | 1,506 | 1.0% | 3,830 | 8.4% |
5.0ha以上 | 907 | 0.6% | 3,379 | 7.4% |
全国計 | 158,277 | 100.0% | 45,731 | 100.0% |
出典:農林水産省「大豆のホームページ」 所収の「大豆をめぐる事情(令和6年(2024年)7月版)」
作付面積2ha以上の農家(経営体)の数は増加していますが、それ以上の勢いで小規模の作付農家が減少し続けているため、なかなか全体の生産量が増えないのが現状です。
大豆供給安定化のためのキーワードは、生産コストと単収のバランスがとりやすくなる「大規模化」といえるので、大規模経営の大豆栽培農家が増えることが重要です。
大豆の自給率を上げるには? 生産量向上を実現する3つのアイデア
大豆の生産量を上げるために、国や各自治体では、耐病性や加工適性などに優れた新品種の開発や、スマートフォンで大豆栽培のWeb診断をするための環境整備など、さまざまな取り組みを進めています。
一方、現在大豆を生産している農家や新たに大豆生産を検討している農家にも、今からできる工夫があります。今後、大豆生産農家が取り組むべき3つのポイントを紹介します。
その1.大規模化による機械化の推進
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
大豆の慣行栽培で最も多くの労働時間を占めているのが中耕除草作業です。前出の出典によれば、2021年産の調査では大豆の直接労働時間は10a当たり5.80時間で、そのうち最も多くの時間を費やすのが中耕除草作業です。
その平均時間は10a当たり1.79時間で、耕起や収穫作業を上回り、全工程の4分の1を超えています。
中耕除草作業を効率的に進める農機も開発されていることから、ほ場を大規模化すればするほど機械化との相乗効果で省力化が進み、労働コストの削減効果が顕著になります。
まずは、近隣の大豆生産農家と話し合い、耕作放棄地や遊休農地なども含めて農地を集約し、できる限り大規模なほ場での作付けをめざすことが省力化の大きなポイントです。
その2.省力化を実現する生産技術の導入
sammy_55 / PIXTA(ピクスタ)
中耕除草作業以外にも、多くの労力や時間を要する播種などの作業があります。それらの作業に対し、積極的に新たな生産技術を導入して省力化することも、生産コストの低減や収量アップにつながります。収穫や乾燥・調整作業などは、外部に作業委託してもよいでしょう。
そのほかに、大豆生産の省力化を実現する栽培手法として、一般社団法人 全国農業改良普及支援協会の「大豆新技術活用の手引き」(令和3年(2021年)度)を参考に、新たな技術を取り入れるのもおすすめです。
これは、同協会が大豆新技術等普及展開事業として作成したもので、新たな2つの技術(汎用コンバインによる収穫、ガイダンスシステムを用いた農作業)など、実際の作業に役立つ技術が多く紹介されています。
「大豆新技術活用の手引き」のダウンロードはこちら
そのほか、 2019年には、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)から、新しい栽培技術として「チゼル有芯部分耕狭畦栽培」が発表されました。
これは「チゼル有芯部分耕播種機」を使用し、正転ロータリで浅耕しながら、大豆の条間に沿って深いチゼル耕を施して播種する方法です。
収量を上げるには、このような新技術を活用しながら、省力化やコスト削減を図ることも有効です。
その3.多品種栽培・作期分散によるリスク低減
大規模化のメリットは大きく、国も推進のための施策を進めています。しかし、大豆は気象の影響を受けやすく年次変動の大きい作物であるため、大規模ほ場で単一品種のみを栽培した場合、不作のリスクも大きくなります。
そうしたリスクを避けるために、農林水産省穀物課では、2020年に「麦・大豆増産プロジェクト」を開始しました。
そして、農業・農村基本計画における2030年の目標として、国産大豆の生産量を34万t、作付面積17万ha、単収は10a当たり200kgまで増加させると発表しました。品目別自給率は10%への向上をめざします。
この目標を実現するため、プロジェクトでは国産大豆の生産量・品質・価格の安定供給をめざし、優れた新品種の開発促進、大規模化による団地化・ブロックローテーションの推進、大型農機や先端技術を活用した新たな技術の導入などを進めるとしています。
さらに、地域に適した品種を選定することで、地域ごとに品種を分散する栽培モデルの構築支援も行っています。
個々の大豆栽培農家も、このプロジェクトを活用しながら、地域やほ場、栽培手法に適した多品種栽培を行い、リスクを分散していくことが重要です。
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)・ taka15611 / PIXTA(ピクスタ)
大豆の自給率向上は、国だけで行っても、農家だけで行っても実現できません。国、自治体、農家、実需者、消費者それぞれが関わる範囲で、できる努力をすることが大切です。
農家においては、自治体やJAも巻き込んで、地域ぐるみによる農地の集約化・大規模化を進めることが重要となるでしょう。長い時間はかかりますが、日本の優れた品質の大豆を守り、世界に広めるためにも、できることから始めましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。