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6次産業化はなぜ失敗する?実際の失敗事例から見る成功への道筋

6次産業化はなぜ失敗する?実際の失敗事例から見る成功への道筋
出典 : maramicado / PIXTA(ピクスタ)

農業の6次産業化については、従来のビジネスモデルに当てはまらない部分が多く、難しいとされています。そこで、さまざまな失敗事例をもとに、その問題点や改善策を洗い出しながら農産物マーケティングについて解説します。

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6次産業化は国を挙げて推進しているにもかかわらず、実は失敗事例が多く、二の足を踏む農家が 少なくありません。そこで失敗事例から「なぜ失敗するのか」を検証し、6次産業化を成功に導くマーケティング戦略のポイントを探ります。

そもそも6次産業化とは?

6次産業化とは、1次産業である農林漁業従事者が、生産物を使って2次産業である加工・製造業、3次産業である流通・販売業までを一貫して行う取り組みです。

市場を通さず、価格設定も自らが行うことで生産物自体の価値を上げ、所得の向上や雇用の確保につなげることを目標としています。

6次産業化のよくある失敗例

農家による6次産業化でみられる失敗事例の典型的な3つのパターンを紹介します。どこに問題点があるのかを検証し、失敗を防ぐための対策を考えていきましょう。

ビジネスモデルが曖昧なまま商品を作ってしまった

6次産業化による商品化イメージ 赤カブの漬物

coffeekai / PIXTA(ピクスタ)

よくある失敗例の1つが、「明確なビジョンをもたずに見切り発車してしまった」事例です。

例えば、生産している野菜を使った漬物を「周りの評判もいいから」とパッケージデザインや瓶詰加工などを外部業者に委託し、その商品を道の駅などのなじみの直売所に置いたとします。

しかし、このような場合、既存の商品に埋もれてしまい、期待していた売上にはるかに届かないことが往々にしてあります。

「誰をターゲットに、どのような商品を作り、どのように売るか」といった基本的なビジョンを持たず、ただ身近にあるものを加工し手近な場所で売っても成功するのは難しいでしょう。

新たなビジネスを始める際には、ビジネスモデル、つまり明確な経営方針を立てることが大切です。

まずは「商品にどのような特性を持たせるのか」を考える必要があります。さまざまなアイデアを出して、類似品と差別化でき、なおかつ購買意欲を刺激するコンセプトを決め、それを積極的にアピールするパッケージを作成します。

形になった商品はすぐには量産せず、消費者インタビューなどのマーケティング調査を繰り返して試作を重ね、十分に売れる商品ができてから、工場生産に進みます。

また、始めから設備を導入するのではなく、まずは委託して必要最低限の量を生産し、販路が確定して安定した収益が見込めるようになってから、本格的な設備投資を行うのが確実な方法です。

実行できない無謀な戦略を立ててしまった、生産計画が甘かった

ダイエット製品の原料となる作物 コンニャク

Yoshi / PIXTA(ピクスタ)

せっかく魅力的な商品を作ることができても、生産計画が甘く、ビジネスモデルを見誤ったことで、失敗に陥るケースも少なくありません。

例えば、ダイエット製品の原料となる作物を栽培している農家が、そのダイエット製品の外国人人気が高まっていることに着目し、明確なビジョンのもと、その作物を使って外国人向けにアレンジした商品を開発し、かなり売れるという手ごたえを得たとします。

しかし需要と供給のバランスを考えず、具体的な生産プランもないまま、設備投資をしたり、販売先との大口契約を交わしたりした結果、のちのち供給が追い付かなくなるということも起こり得ます。


場合によっては契約数をこなせなくなり、契約を打ち切られて設備投資の負債が返せなくなるというリスクも生じかねません。

確実に生産できる量を把握し、それに見合った生産計画を立てることが重要です。その際には原価計算に基づく適切な価格設定をして収入予測を立て、無理のない投資を行いましょう。

消費者ニーズを汲み切れなかった

マーケティングリサーチ(市場調査)資料のイメージ写真

freeangle / PIXTA(ピクスタ)

ビジネスにおいて必須であるマーケティングリサーチ(市場調査)ができておらず、ニーズやトレンドを見誤った商品展開をしてしまうのもよくある失敗例の1つです。

どんなに自信のある商品でも、ニーズがなければ思うように売れません。

また、流行しているからといって商品開発を始めても、それが実際に商品化され販売の見通しが立つ頃には流行が収束し、ほとんど売れなくなっていた、ということもよくあるケースです。

消費者のニーズを見極め、「売りたいもの」ではなく「買ってもらえるもの」を作るのが原則です。トレンドの動向を的確に読み取ることは素人には難しいので、商品開発の際には食品バイヤーなどの専門家に相談し、アドバイスをもらうというのもよい方法です。

農家の経営ニーズを読み切れず失敗した企業参入事例

明確なビジネスモデルを持ち、十分なマーケティングリサーチを行ったうえで大手企業が参入したにもかかわらず、6次産業化に失敗した事例もあります。

2009年、株式会社ニチレイフーズは千葉県で農産物を扱う農業生産法人テンアップファームと手を組んで事業組合を設立し、6次産業に参入しました。

事業内容は、農家が収穫した野菜を、高度な貯蔵システムのもと最適な状態で貯蔵し、出荷を平準化することで価格の安定を図ろうとするもので、投資額はニチレイフーズとテンアップファーム、そして国の補助金を合わせて10億円に及びました。

天候不順などによる野菜の出荷量と相場の変動は、農家・食品会社双方にとって経営上の課題であり、計画は非常に合理的に見えました。


しかしスタート当初から、天候不順により野菜の価格が高騰すると、契約を交わしたにもかかわらず事業組合への計画出荷よりも、高値で売れる市場に野菜を出荷してしまう農家が続出しました。

原因は農家の経営課題を解決することを目標にかかげながら、実は農家の経営ニーズを読み切れていなかったことにあります。実は「出荷先は経営する自分たちで決めるもの」「事業組合への出荷は相場が悪くなった時の保険として持っておきたい」という意識の農家が多かったのです。

結果的に契約農家の数は減少していきました。

一方で、ニチレイフーズ側が受け持った販売も、想定通りの売価を確保できず、売り切れない状態が続くことになりました。経営に行き詰まった末、2013年にニチレイフーズは事業から撤退します。

残ったテンアップファームは、設備規模を大幅に縮小し、事業に賛同する農家や出荷先のみに取引先を絞ることで設備の稼働率を上げ、事業を継続しています。

出典:
株式会社日経BP「ニチレイが静かに6次化事業から撤退した」(日経ビジネス 2016年3月4日)
株式会社ニチレイ「レポートライブラリー」所収「CSRレポート2010」
株式会社日本食糧新聞社「ベジポートLLP「旭センター」が竣工 野菜の低コスト生産・流通確立」(日本食糧新聞 2009年6月15日)
株式会社水産タイムズ社「ニチレイF、ベジポート事業から撤退」(冷食タイムス 2016年3月23日)

失敗事例の多い「3J1D」は儲からない?

6次産業化例 ゆずジャム

mizuzo / PIXTA(ピクスタ)

6次産業化での取り組みが多く、失敗も多いのが「3J1D」であるという声もあります。
「3J1D」とは、6次産業化において事例の多い「ジャム」「ジュース」「ジェラート」「ドレッシング」の頭文字をとった総称です(正確にはジェラートはGです)。


「3J1D」の6次産業化に失敗事例が多い理由は、すでに市場に流通している商品数が非常に多く、新規で始めても差別化が難しく埋もれてしまう点にあると考えられます。

とはいえ、山口県の「瀬戸内ジャムズガーデン」のように「3J1D」で成功を収める農家もあります。「瀬戸内ジャムズガーデン」では、「定番商品は作らない」という明確なビジョンのもと、高付加価値のジャムを生産し、1本700~1,000円以上という高めの価格帯ながら安定した売り上げを保っています。そして、平成27年度には6次産業化優良事例表彰において農林水産大臣賞を受賞しました。

※「瀬戸内ジャムズガーデン」のホームページはこちら

出典:
農林水産省「6次産業化フリーペーパー」所収「No.17|特集1」独立行政法人中小企業基盤整備機構「瀬戸内ジャムズガーデン」
独立行政法人中小企業基盤整備機構「瀬戸内ジャムズガーデン」地元の果実にこだわる手づくりジャム」
ランサーズ株式会社「ランサーズ 地方創生の取り組み」サイト内「人とのつながりが、新しい発想を生む。島のジャム屋の島おこし」

6次産業化のマーケティングで大切な「4つのP」

最後に、マーケティングにおいて大切な「4つのP」を紹介します。農産物の6次産業化という特殊な状況においても基本となる普遍的な要素です。

マーケティング 4Pのイメージ

tiquitaca / PIXTA(ピクスタ)

【Product(製品)】どんな製品をつくるか?

商品が消費者に提供する価値は何か?ほかの類似商品との差別化要素は何か?ターゲットは誰か?これらを明確にし、コンセプトをわかりやすい言葉で表します。

そのコンセプトをアピールするためのデザインと消費者の使い勝手をあわせもったパッケージを制作し、具体的な商品化に着手します。商標などに違反はないかなど法務的なチェックも行います。

【Price(価格)】いくらで販売するか?

商品の価格設定は非常に重要です。消費者にとって価格が妥当か?採算はとれるか?という二面から検討します。

消費者にとっての許容ラインとなる価格については、競合調査やインタビューなどの市場調査を行って判断していきます。

損益面では、人件費や設備投資のほか、運送費なども含めた原価計算を的確に行い、損益分岐点を見極めることが重要です。

また、価格は一度設定したら終わりではありません。市場の状況によって消費者が許容する価格は変わりますし、自社の財務状況によってもつけられる価格の範囲が変わってきます。市場ニーズと損益の両面から、適正価格であるかを定期的に確認し、必要に応じて見直しましょう。

【Place(流通経路)】どこで販売するか?

販路の確定もマーケティングの初期段階で行います。現在は、店舗販売のほか、インターネット販売など、さまざまな販路がありますが、検討ポイントは主に以下の3つです。

1. Productで決めたターゲットにリーチできるのか?
2. 販売手数料は妥当な範囲か?
3.受注・発送・在庫管理は負担にならないか?

同時に、受注・発送・在庫管理・顧客対応などの責任者を決め、業務フローを明確にします。

【Promotion(販売促進)】どのように広告するか?

販売促進においても、今やインターネットの活用は不可欠といえます。あわせて、店舗での期間限定販売やセールスプロモーション、チラシやDMといった紙媒体の広告など、さまざまな方法があります。

効果的に販売促進するには、Productで決めたターゲットに向け、どのような媒体でアピールするのかを明確にすることが大切です。またイメージが統一されるよう、使う画像やキャッチコピーの選定、各媒体の連動なども検討しましょう。

成功のポイントは「収益化と事業継続」をつきつめること

6次産業化においては、商品を作ってそれで終わり、ではありません。商品開発をすることで満足してしまい、続かないケースも多く見られます。

商品化の企画はスタート地点にすぎません。収益化を実現し、事業を持続する見通しを立てるところまでが事業計画です。そのうえで6次産業化に踏み切ることが、成功の鍵といえるでしょう。

そのために重要なことは、前述した4つのPの視点で事前のリサーチをしっかり行うこと。そして、事業スタート後も、4つのPの視点でリサーチと分析を行い、実際に改善するという「PDCAサイクル(注)」を継続的に回すことにつきます。

(注)「Plan・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)を繰り返す」ことを表すマーケティング用語

PDCAサイクルによる事業成長のイメージ

タカス / PIXTA(ピクスタ)

農家の視点は、これまではサプライチェーンの川上である生産ステップに向いていました。6次産業化は、これまで意識していなかったサプライチェーンの川下である流通や消費者との関係構築に新たに取り組むということでもあります。

農産物を商品化する部分だけを考えて安易に取り組むと失敗するリスクが高いものの、成功すれば多くのメリットが生まれます。ビジネスの基本を押さえ、マーケティング戦略を明確にして成功の道筋へと踏み出しましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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