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収益性の高い玉ねぎ栽培とは? 加工・業務用玉ねぎ栽培のポイント

収益性の高い玉ねぎ栽培とは? 加工・業務用玉ねぎ栽培のポイント
出典 : sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)

玉ねぎは年間を通じて安定した需要があり、畑作物の中では収益性が高い作物の1つとされています。この記事では、近年需要が高まっている加工・業務用を中心に、基本の作型と近年の品種開発、市場ニーズなど、“収益作物としての玉ねぎ栽培”で知っておきたいポイントを紹介しましょう。

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国の「水田フル活用ビジョン」の推進や、中食・外食に伴う加工用玉ねぎの需要拡大を背景に、水稲の裏作として加工・業務用の玉ねぎ栽培に取り組む産地が増えてきました。

また、消費者のニーズにあわせ、生食用の品種の栽培や、玉ねぎの出荷端境期を狙った新しい作型も注目されています。

新しい取り組みが行われる一方で、省力化が課題となっています。古くからの大産地である北海道では、大規模化・機械化が進んでいますが、都府県では、玉ねぎ栽培で最も作業時間をとられる収穫・調整(根切り・葉切り)を手作業で行っている場合も多いようです。

そこで今回は、玉ねぎ栽培で生産性・収益性を上げたい方、大規模化を検討したい方向けに、基本の作型と近年の品種開発、市場ニーズなど、“収益作物としての玉ねぎ栽培”で知っておきたいポイントを紹介しましょう。

基本の作型と近年の栽培傾向 

農業 イメージ

Fast&Slow:/ PIXTA(ピクスタ)

秋冬に出回るイメージが強い玉ねぎですが、近年は調理用、生食用、加工・業務用など、多様化するニーズに合わせて新品種の開発も進み、従来の作型とは異なる新しい作型での栽培も行われるようになりました。

また、北海道以外の都府県の産地でも、機械による省力化に取り組み、成果を挙げている産地もあります。

基本の作型

温暖な地域では、秋に播種し春先から夏にかけて収穫する「秋まき初夏どり」、国内最大の産地である北海道(寒冷地)では冬の寒さが厳しいため、春先に播種し夏に収穫する「春まき夏どり」で栽培されます。

また、近年では夏から秋までの品薄になる端境期の需要に応じ、新型の「冬春まき栽培」も開発されています。


玉ねぎの主な産地は、北海道、佐賀、兵庫、長崎、愛知などです。

図) 主な産地と収穫量

玉ねぎの収穫量ランキング

出典:農林水産省 近畿農政局 「農林水産統計」(令和元年8月27日公表)よりminorasu編集部作成

図)栽培暦

玉ねぎの産地別栽培暦

出典:JA全農営農販売企画部「東北以南における玉ねぎの冬春まき栽培マニュアル」、サカタのタネ園芸通信「タマネギの育て方・栽培方法」よりminorasu編集部作成

近年の栽培傾向

玉ねぎの農業所得は10a当たり20万円弱程度と、ナス、きゅうり、トマトなど、ほかの露地野菜の100~120万円程度に比べて決して高くはありません。しかし、用途が広く、貯蔵がきき、家庭用から加工・業務用まで安定した需要が見込めます。

出典:農林水産省「品目別経営統計」

特に加工・業務用の玉ねぎのニーズは高く、水稲の裏作としても普及が進んでいます。

家庭での調理用向けと異なり、加工・業務用向けは出荷規格が簡素で、調整作業の負担が軽いことも、新たに栽培する産地にとっては、労働生産性の高い作物として魅力があるといえます。

そのため、需要の増加に応じて栽培面積を拡大し、加工・業務用の玉ねぎ栽培の機械化・大規模化(大規模向け機械化一貫体系)に取り組む産地も増えてきました。

前述の「冬春まき栽培」のような新たな作型開発も、そうした流れの中から生まれたものです。短期栽培で収穫できる、全国的に流通量が減る端境期をカバーできるなどのメリットが注目されています。

加工・業務用玉ねぎの産地形成の動き

玉ねぎ 選果

Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

玉ねぎの需要量は年間150万tで、約6割の約90万tは加工・業務用向けとして消費されています。そのうち約4割は中国などから輸入されています。

出典:農林水産省「野菜の生産・消費動向レポート 平成31年2月」6ページ「主要野菜の用途別仕向量の推移」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai/attach/pdf/index-67.pdf

一方、加工・業務用玉ねぎの仕向け先となる食品製造業や外食産業では、調達する野菜類には国内産を使いたいというニーズが高いことが報告されています。

出典:農林水産省「加工・業務用野菜をめぐる現状 平成25年1月」4ページ「国産野菜のニーズの高まり」
出典:公益財団法人食の安全・安心財団「平成27年度 国産食材利活用情報提供支援事業 事業報告書」99ページ「国産野菜の仕入れについての社内見解と現状」


こうした中、国内では加工・業務用玉ねぎの新たな産地の開拓や、新品種の開発が進んでいます。

加工・業務用玉ねぎの品種開発

加工・業務用玉ねぎには、加工工場などでの作業効率が上がる、大球で皮むきがしやすい縦長の形状が求められます。

北海道で育成された「カロエワン(北交1号)」は、国内初の加工・業務用専用品種として開発され、縦長・大球で歩留まりが高く、加工時の作業性がよいのが特徴です。

国や自治体も加工・業務用玉ねぎ栽培を推進

日本国内の需要に応えるため、国としても、加工・業務用の玉ねぎ栽培の拡大を図っています。需要が安定していること、出荷規格が簡素であること、水稲との競合作業が少ないこと、水田でも栽培ができることなどを前面に押し出して、大規模化・機械化と併せて推進しています。

地方自治体の加工・業務用玉ねぎ取り組み事例

加工・業務用玉ねぎの増産は、支援事業として補助を受けられるケースがあるため、2010年前後から地域を挙げて導入・増産に取り組む例が増えてきました。地方自治体、JAの取り組み事例を紹介します。

1.長崎県県北地域(平戸市・松浦市)

長崎県・県北地域は、従来は水稲地帯であり「吊り玉ねぎ」の産地でもありましたが、吊り玉ねぎは収穫後の調整にかかる労力や乾燥設備の負担が大きく、栽培戸数・面積とも先細りする傾向にありました。

そこで、水稲の裏作として、単価と需要が安定している加工・業務用玉ねぎ栽培に着目しています。

そして、加工・業務用玉ねぎの需要、栽培等についての啓発、機械化一貫体系の導入、共同利用機器整備、他地域の研究などを行い、栽培に取り組む農家を支援しました。

【成果】
2011年から2014年の3年間で、栽培面積は0.5haから11.8haへと拡大し、栽培農家の戸数も3戸から20戸に増加しました。

出典:農林水産省「普及活動事例」所収「長崎県|県北地域における「加工用たまねぎ」の推進」

2.新潟県

米どころの新潟県では、水稲と両立できる加工・業務用玉ねぎ栽培に着目し、2010年より本格導入を開始しました。
県の主導で機械化一貫体系を推進し、必要な機械、ほ場の排水・砕土対策などを共有し、産地全体で効率化を図りながら増収につなげました。

【成果】
2012年から2017年の5年間で、栽培面積は2倍(11haから20ha超)に、単収(単位面積当たり標準的収入額)は10a当たり1.5tから3.5tへと伸び、品質・収量とも改善傾向にあります。栽培技術の構築も進んでいます。

出典:農林水産省「普及活動事例 協同農業普及事業の成果事例(平成29年度) 所収「新潟県|たまねぎの機械化と生産の安定化による面積拡大」

3.富山県(JAとなみの)

JAとなみのがある砺波地域は富山県の中でも有数の稲作地帯で、農地の98%が水田として整備されています。しかし米の生産調整が進む中、経営の複合化に迫られ、水稲に代わる作物として新たに加工・業務用玉ねぎ栽培を導入しました。

取り組み3年目(2011年)までは湿害対策や水田での栽培技術の確立に苦労したものの、地域一体となって機械化体系の構築、営農指導、共同育苗、加工施設整備などに継続して取り組み、成果につなげました。

【成果】
2009年から2014年の5年間で、栽培農家は24戸から98戸、作付面積は8haから66haへ、出荷量は119tから2,700tへ、販売金額は950万円から2億3,000万円へと、いずれも大きく飛躍しています。

出典:農林水産省「普及活動事例」所収「新潟県|たまねぎの機械化と生産の安定化による面積拡大」

玉ねぎ栽培で生産・収益性を上げるポイント

玉ねぎ栽培で生産性、収益性を上げるためには、先に紹介した取り組み成功事例にも見られるように、いくつか共通するポイントがあります。

1.機械化

収益化に成功した産地ではいずれも、「機械化一貫体系」の構築に取り組んでいます。加工・業務用向けの栽培ではまとまった収量が必要であり、機械化、大規模化、効率化が前提になります。

人力では大幅に生産性を上げることが難しく、小規模経営や個人経営、こだわり栽培では収益化のための玉ねぎ栽培には向かないといえます。

2.基幹作物の裏作栽培

大規模産地である北海道などを除けば、水稲やサツマイモ(甘藷)など栽培時期が重ならない作物の裏作として玉ねぎ栽培に取り組み、複数の柱で収益を上げていくことも大切です。複合経営にすることで、ほ場、農機、人手の有効活用ができます。

農業地域には水田として整備されている農地の割合が高い地域も多く、特に、水稲の裏作作物として適した玉ねぎ栽培が注目されています。

3.新しい作型の導入

差別化、収益化の一つとして、慣行の露地栽培とは異なる新しい作型の導入も挙げられます。

従来の作型では、北海道の「春まき夏どり」と本州・九州の「秋まき初夏どり」が一般的で、7月~8月下旬は市場での流通量が減ります。

新たに玉ねぎの生産拡大に取り組む場合、こうした端境期に出荷できる新作型の導入も検討するとよいでしょう。

新作型の導入は、東北以南の冬季温暖地域でよく見られます。具体的には、6~8月に収穫する「冬春まき栽培」(東北地域)や、「初夏まき秋どり」の極早生種(北陸)、「秋まき春どり」の極早生種(兵庫)などがあります。

品薄の時期に出荷することで付加価値がつき、収益化にもつながります。

玉ねぎ栽培導入段階における栽培管理のポイント  

前項までの収益化のポイントを踏まえ、次に、栽培・導入段階の留意点を見ていきましょう。

玉ねぎ 畑

kiki / PIXTA(ピクスタ)

基幹作物として、または収益性の高い裏作作物として玉ねぎ栽培に取り組む際に、押さえておきたいポイントを整理します。

栽培時期を守る

基本的なことですが、品種と産地の気候に適したタイミングで栽培します。

例えば播種の時期は、同じ品種であっても、播種適期は産地によって異なります。
播種が早すぎれば、大苗になる、トウ立ちする、逆に遅ければ球の肥大が悪くなるなど、栽培のタイミングのずれは収量や品質の低下につながります。

玉ねぎの生育には気温と日照時間が大きく関わるため、播種以外の栽培管理も、産地の気候に応じた適期を調べ、適期内に作業できるように計画しましょう。

作型により病害虫対策が必要

病害虫に強いとされている玉ねぎですが、作型によっては病害虫対策が必要です。

2月に播種し7、8月に収穫する「春まき栽培」では、生育後期は高温多湿下の栽培となるため、害虫や細菌性病害の発生リスクが高まります。排水対策に加え、定期的に農薬散布を行い病害虫の早期防除に努めます。

水田活用は排水対策を

水田を活用して玉ねぎを栽培する場合、水はけが悪いとべと病などの病害が発生しやすくなります。そのため、排水対策は必須です。

水田の耕盤破砕や、高畝形成、排水路を整備するなど、ほ場の環境・土壌の状況に応じた対策を行い、ほ場に水が溜まることのないようにしましょう。

洋食化、外食や中食の普及といったライフスタイルの変化により、加工・業務用野菜の需要は伸びており、玉ねぎはその代表格です。

安さと使い勝手のよさから輸入品が占める割合も多いものの、今年(2020年)は新型コロナウィルスの影響で輸入量が大きく減ったこともありました。国内産のニーズは高く、さらなる生産拡大が期待されています。

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柳澤真木子

柳澤真木子

父の実家が農家で母も生活協同組合を活用していたことから、農業や食料に関心を持ち、 大学卒業後の5年間をJAの広報部門で、以後5年を食品小売会社の広報として働く。 消費者向け農業メディアの企画執筆経験や、JAグループ・農林水産省の広報紙の記事執筆経験がある。 その後、出産・育児を経て、2019年からライターとして活動を開始。 ライフスタイル、ヘアケア、農業など複数ジャンルでの記事執筆を手がけている。

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