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環境制御装置とは? 施設園芸(ハウス)への導入で得られるメリット

環境制御装置とは? 施設園芸(ハウス)への導入で得られるメリット
出典 : グッチー / PIXTA(ピクスタ)

施設園芸では、近年、環境制御装置の導入が推進されています。従来の農業にはなじみの薄いITやICTなどの先端技術を活用した環境制御装置とはどのようなものなのでしょうか。そのメリットやデメリットなど、成功事例を交えながら解説します。

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スマート農業の代表的な例として、施設園芸での環境制御装置が注目されています。従来から使われている空調設備や光源、灌水装置などと、最新のITやICTの技術を活用した環境制御装置との違いを詳しく解説し、2つの成功事例と具体的な導入機器を紹介します。

施設園芸における「環境制御」とは?

農業 IT

Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

ビニールハウス栽培に代表される施設園芸では、近年、ITやICT、IoTといった先端技術を活用してより高度な環境制御が行われています。最新の環境制御について、具体例を挙げて紹介します。

「光・温度・湿度・CO2濃度・気流」の制御・調整

「環境制御」とは、作物の栽培にあたり重要な、光・温度・湿度・CO2濃度・気流などの環境要因を、生育に適した状態に調整することを指します。それにより作物の光合成速度を最大限に高めて生長を促進させ、収穫量を上げることが環境制御の目的です。

施設園芸の先進国であるオランダでは、単位面積当たりで見たトマトの収量が日本の3~4倍にも達します。

品種の違いはあるものの、統合的に環境を制御する高度な技術力や施設・機器の使用が理由として考えられます。先端技術を駆使して環境制御を適切に行うことで、限られた農地でも高い単収が期待できるのです。

環境制御装置の例

環境制御装置には、従来のハウス栽培でも活用されている温風暖房機や送風機、循環扇などの空調設備のほか、遮光・保温・保湿用カーテンなども含まれます。

環境制御システムとは、先端技術を活かしハウス内の装置を統合的にコンピュータで集中管理するしくみのことです。スマートフォンからハウス内の環境を確認したり装置を遠隔操作したりできるほか、装置そのものが環境を判断して自動で作動することもできます。

また、ハウス内環境をモニタリングして、どのように環境を制御するかを決める「環境測定器」も制御装置の一種です。

高価な設備導入だけが「環境制御」ではない

環境制御というと高度なシステムを導入するイメージがありますが、そもそもビニールハウス自体が環境制御装置だといえます。環境を制御するのはコンピュータではなく人でもよいのです。

例えば、光量不足を感じたら、マルチフィルムを白色に変えたり被覆資材の材質や遮光ネットの遮光率を変えたりするだけでも光量を調整できます。空気や温度調節も、窓の開閉やカーテンの取り付けだけで大幅に調整可能です。

自身のほ場や作物にどのような機能が必要かを見極め、人力をベースに必要な装置を部分的に導入するなど、取り入れられそうなところから始めてみるのも1つの方法です。

環境制御装置(環境制御システム)の導入で得られるメリット

スイカ ハウス栽培

Suwin / PIXTA(ピクスタ)

統合的な環境制御システムの導入で期待できるメリットについて、具体的に解説します。

収量の増加と品質の向上

光やCO2濃度、温湿度、養水分、気流などを最適な状態に調整し、光合成速度を向上させ、成長を促進することで収量のアップにつながります。

また、安定した環境下で栽培することで、見た目の揃った品質のよい作物を量産できます。

病害虫の発生を抑制

ハウス栽培において湿度をコントロールし、換気を適切に行うことにより、病害虫の発生を抑えられます。その結果、農薬の使用量を抑えることが期待できるため、コストダウンにもつながります。

データ活用や作業の自動化に伴う省力化・効率化

継続的なモニタリングにより、ハウス内環境や作物の生育状況をデータ化して蓄積します。データを分析することで環境や生育の課題が見つけやすくなり、作業の効率化や改善に活用できます。

また、環境制御のために行っていた窓やカーテンの開閉などの作業を自動化することで大幅な省力化が可能となり、人件費や作業負担を削減できます。

導入コストの高さが唯一のデメリット

ハウス内環境を一括管理・制御できるシステムは大きなメリットがある一方、導入コストが高いという点が唯一のデメリットだといえます。平均的な価格は、メインの環境制御装置だけで百数十万円以上で、なかには300万円以上するものもあります。

コスト面で、高度なシステムを一度に揃えるのが難しい場合は、地方自治体に問い合わせてスマート農業推進の補助金などを活用しましょう。

また、制御装置を自作する方法を紹介する本やインターネットサイトもあり、安価な自作キットも販売されています。栽培規模によっては制御装置を自作するという選択肢もあります。

【トマト栽培】ハウス内環境の一括制御で省力化した成功事例

トマト栽培 環境制御

hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

千葉県在住のご夫婦の個人経営農家の事例を紹介します。

農業法人で4年半働きながら営農のノウハウを学び、2010年に新規就農した当初から制御システムを搭載したハウス栽培を始めました。

現在は10aのハウス施設で高糖度トマト「フルティカ」を専門に栽培しています。

導入した設備・システム

・複合環境制御盤「MC-6001」42万8,000円(税抜)※別途センサー12万円が必要
・かん水制御盤「SPC-5320」
・温風暖房機「ハウスカオンキ」86万4,000円(税抜)※型番HK-3027TCVの場合
・農業クラウドサービス「アグリネット」2,980円~/月(モニタリング料金)
※いずれもネポン株式会社製

得られた効果

複合システムにより、水やりはもちろん、設定した温度・湿度・照度・CO2濃度の値を保持しています。これにより安定した高品質のトマトを生産できるため、小規模でも十分な収入が得られています。

また、ハウス内環境のデータはクラウドサービス「アグリネット」を通じてスマートフォンで確認できるようになりました。遠隔でハウス内の環境を確認できるため夫婦揃っての日帰り旅行も安心だそうです。同製品はほかの環境制御盤に比べて格段に低価格なので、初期費用を大きく抑えられるのも魅力です。

今後は生育状況や蓄積データを見ながら灌水制御の設定を秒単位で設定するなどの試行錯誤を重ね、さらなる収量アップをめざしています。

【イチゴ栽培】品質向上と収量アップに成功した事例

作付面積22aのハウスイチゴ栽培に制御システムを導入したのは、福島県の「ふくしまからはじめよう。攻めの農業技術革新すかがわ岩瀬地域協議会」です。従来の手動での環境制御に限界を感じ、さらなる省力化と品質・収量アップをめざしています。

導入した設備・システム

・環境測定機器「プロファインダーⅢ」(「プロファインダーIV」の場合16万7,000円(本体のみ標準価格))
・統合環境制御盤「プロファインダーNext80」129万5,000円(センサーとのセット価格)
※いずれも税抜、株式会社誠和製

得られた効果

2ヵ所のほ場(1)と(2)で、導入前と実践2年目で収量を比較すると、(1)では単収で10a当たり4,500kgから4,972kgに増加。比率にして110%となり、(2)では単収で4,200kgから5,645kgに増加し、比率にして134%にもなりました。

収量アップだけでなく、年間を通し安定生産ができるようになったこと、湿度が適正に保たれたことで病害虫の発生が減少したこと、品質が向上しばらつきも少なくなったことなどのメリットが見られました。

出典:農林水産省「基本政策|スマート農業|農業新技術活用事例」所収「統合環境制御盤の導⼊によるイチゴの収量・品質向上」(施設園芸【70】)

イチゴ ハウス栽培

Rise / PIXTA(ピクスタ)

環境制御装置は、狭い面積であっても効率化により収量を上げることができるほか、作業時間の短縮や、病害虫の防除作業の負担が軽減でき、コストダウンも図れます。また、品質の揃った作物を安定生産できるなど、多くのメリットが見込め、総合的に収益アップにつながります。

初期費用はある程度かかりますが、できる範囲で栽培品目や規模・環境に合わせ、導入を検討してはいかがでしょうか。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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