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農業の新しいカタチを創る~前編:経験ゼロで始めた大規模施設栽培と「選択と集中」による業務改善

農業の新しいカタチを創る~前編:経験ゼロで始めた大規模施設栽培と「選択と集中」による業務改善
出典 : 写真提供 株式会社サラダボウル

株式会社サラダボウルの田中社長は「金融機関出身の農業経営者」として山梨県中央市を本拠地にトマト農場を全国7ヵ所に展開しています。先進的な経営による「農業の新しいカタチ」を模索し、スタッフには「やりたいことをやって楽んで!」と語りかけている田中社長に、これまでの軌跡を伺います。

株式会社サラダボウル 代表取締役 田中 進(たなか すすむ)さんプロフィール

株式会社サラダボウル 代表取締役 田中 進さん

株式会社サラダボウル 代表取締役 田中 進さん
写真提供:株式会社サラダボウル

山梨県のトマト農家の次男として生まれた田中 進さん(以下役職・敬称略)。横浜国立大学を卒業後、株式会社UFJ銀行(現・株式会社三菱UFJ銀行)で5年間、プルデンシャル生命保険株式会社で5年間勤務し、2004年に農業生産法人・株式会社サラダボウルを設立。

データドリブンな農業経営を実践し、トマトやレタスなどの大規模施設栽培を成功させた。2016年からはベトナムでも事業を開始し、国内外8つのグループ会社を経営している。

金融マンから農業経営者に転身した理由

田中さんは、子供のころからトマト農家だった父親の手伝いをする一方で、「もう農業をする時代じゃないから、いい会社に勤めろ」といわれて育ったといいます。そして大学卒業後は、大手銀行と外資系保険会社に勤務し、何度も社内トップ営業として表彰されるなどの高成績を上げていました。

そんな田中さんが、金融業界の敏腕営業マンから農業経営者へ転身したのには、どのような背景があったのでしょうか。

経営改善の支援を通じて生まれた「ゼロから生み出したい」という想い

外資系保険会社における田中さんの営業スタイルは、中小企業の経営課題を見つけ出し、その解決策や改善策をアドバイスする右腕的存在として経営者に寄り添い、結果として保険に入ってもらうというものでした。営業マンではありますが、お客様のほとんどが経営者のため経営コンサルに近い仕事をしていたと田中さんは語ります。

しかしその仕事は、どこまでいっても経営者の支援でしかありませんでした。様々な経営者とともに経営改善に取り組む中で、田中さんには1つの強い想いが生まれたそうです。

それが「自分もゼロから何かを生み出したい」という想いでした。

農業経営に感じた大きな可能性

金融業界で働いている間も、田中さんの心の中にはいつも子供のころから見てきた「農業」という言葉が息づいていたそうです。「やるんだったら農業をしたい」という思いが次第に強くなっていったのです。

株式会社サラダボウル 代表取締役 田中 進さん(以下、敬称・役職略) 同僚と話す機会があれば農業について多く語る自分がいたり、仕事でお付き合いしたお客さまの会社の業務改善の内容が、自分の中で自然と農業にオーバーラップしてくるんです。

例えば「5S活動を農業の現場に取り入れたらどうなるか」とか「他産業では当たり前のホスピタリティや商品開発を農業に取り入れたら何ができるだろうか」なんてことをいつも考えていました 。

そんなときに脳裏に浮かんだのが、とにかく目の前のことにがむしゃらに一生懸命だった父親の姿です。

自分がこれまで培ってきた経営の知識を、農業という世界で活かすことができれば、もっと新たな可能性が開けるはず、と田中さんは確信しました。そして2004年に、農業生産法人・株式会社サラダボウルを設立したのです。

農業経験ゼロから立ち上げたサラダボウル

山梨県北杜市にあるサラダボウルのグループ会社・アグリサイト

山梨県北杜市にあるサラダボウルのグループ会社・アグリサイト
写真提供:株式会社サラダボウル

農家の息子であった田中さんですが、農業の知識やスキルはあったのかと尋ねたところ「まったくなかった」という答えが返ってきました。

田中 僕は父の農園を継いだわけではなく、新たにサラダボウルという会社を立ち上げたわけです。父の営んでいた農業と、サラダボウルがめざす事業は、少し違っていました。

しかし、経験ゼロ、スキルなしでの起業でも、不安はなかったと田中さんは語ります。

田中 ベンチャー企業の経営者を見ていると、知識も経験も何もない状態から始めている人が多くいます。

わからないことがあれば、その都度勉強したり、知識のある人に教えていただいたりしながら、事業の立ち上げに取り組んでいくうちに、必要なものを計画的に身に付けていったといいます。

ビジネスの拡大とともに生じた悪循環

会社を立ち上げた当時を振り返り、「不安はなかった」と語る田中さんですが、実は創業初期の頃のサラダボウルは事業拡大とともに、経営の悪循環に陥っていったのです。

手探りの中で膨らみ続けた農地と取引先

サラダボウルの事業は、耕作放棄地を開墾して野菜を作ることから始まりました。
しかし、事業を立ち上げて間もなく、農地と取引先が集まりすぎて、想像以上に規模が膨らんでしまったといいます。

耕作放棄地の開墾から始まったサラダボウル

耕作放棄地の開墾から始まったサラダボウル
写真提供:株式会社サラダボウル

田中 創業当時の社会背景として、耕作放棄地が増えていたことが挙げられます。そのため農地は順調に増え、同時に「うちに出荷してほしい」という取引先が次々と現れました。

サラダボウルがスタートした2004年は、農業法人が認められたばかりの時代です。そのため農業法人を立ち上げる側も許可する側も手探りの状態でした。

田中 そんな状況の中、十分な経営資源を持たないサラダボウルが、生産技術力を伴わないまま スタートしてしまったのですから、挫折の連続になるのは当然です。

規模が拡大するごとに単位面積当たりの売上高が減少

創業当初のサラダボウルのメンバーは、田中さんと社員1名、パート従業員6名を合わせた8名体制でした。赤字を出さないためには、1日十数時間働かなければなりませんでした。

経営資源(ヒト、モノ)の不足や生産技術の不足を、とにかくマンパワーで押し切っていたのです。

田中 農地が増えるごとに、単位面積当たりの売上高は下がっていきました。社員は長時間働いて乗り越えるしかない、という悪循環に陥ってしまいました。

事業の悪循環を断ち切った「選択」と「集中」

悪循環に陥った経営を改善するため、田中さんは経営戦略を「選択」し、経営資源を「集中」させました。

田中 サラダボウルは「耕作放棄地の増加」「担い手(後継者)不足」「農業人材の育成 」「消費者ニーズの多様化に対応」という4つの社会的要請に応えるために誕生した農業法人でした。

しかし、ビジネスとしての足腰が固まらないうちに耕地面積や取引先が拡大し、さまざまな事業に着手して、成長ではなく膨張してしまったのです。

そこで軌道修正するために、事業として「やること」と「やらないこと」を線引きし、「やらないこと」を決断していきました。「やることを増やす」考えから「やらないことを決める」考えに転換し、自分たちがめざすカタチをはっきりさせたのです 。

その結果、最大70品目まで拡大していた作物の種類を、大幅に絞り込みました。さらに事業領域を野菜類の生産に絞り込み、当時取り組み始めていた飲食事業や野菜の加工事業も、きっぱりと切り捨てたといいます。

「選択」と「集中」で見えてきた成長への道筋

田中 取り組む事業を絞りこんだ結果、会社のカタチ が変わってきました。やみくもな膨張が計画的な展開に変わり、きちんとした意思のもとで経営戦略・経営計画が立てられるようになったのです。

「選択」と「集中」によってめざす方向を明確にしたサラダボウルは、次にトマトの大規模施設栽培に着手しました。その理由はどこにあったのでしょうか?

株式会社サラダボウル トマトの高度環境制御型 大規模施設栽培

トマトの高度環境制御型 大規模施設栽培
写真提供:株式会社サラダボウル

農業経営スタイルを明確にする

田中 農業生産にはさまざまなスタイルがあると思います。寿司屋に例えると、予約がなかなか取れない超高級寿司店から、1皿100円の回転寿司まであるようなものです。

その中で、自分たちはどんなスタイルの農業経営をめざすのかを明確にすることが大切でした。

社会的要請に対応した高度環境制御型の大規模施設栽培を実現

農業生産法人であるサラダボウルがめざしたスタイルは「お客様がほしいものを、ほしいときに、ほしい価格で提供する」というものでした。そのためには、365日安定した価格と品質で作物を提供し続けられる「高度環境制御型の大規模施設栽培」の体系が必要だったのです。

サラダボウルの全売上の95%以上を占める主力商品 トマト

全売上の95%以上を占める主力商品のトマト
写真提供:株式会社サラダボウル

今のサラダボウルの事業内容について、田中さんは「社会的要請に自分たちが得意とすることを適合させた結果」だといいます。

田中 世の中が急速に変化する中で、それに呼応するように農業のあり方もまた変化していきます。作物を提供する農業法人としての立ち位置を決めた結果、「高度環境制御型の大規模施設栽培」というスタイルに辿り着きました。

そして今も自分たちの得意なことを、社会から求められることにフォーカスしているのです。

後半では、そんなサラダボウルの事業を、より詳しく見ていきます。

福馬ネキ

福馬ネキ

株式会社ジオコス所属。「人の心を動かす情報発信」という理念のもと、採用広告を中心にさまざまな媒体で情報発信を手がける株式会社ジオコスにてライターを務める。

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