新規会員登録
BASF We create chemistry

マンガン欠乏症の症状とは? 発生原因と有効な対策例

マンガン欠乏症の症状とは? 発生原因と有効な対策例
出典 : ライダー写真家はじめ / PIXTA(ピクスタ)

「マンガン欠乏症」はムギ類、陸稲などのイネ科作物、小松菜や春菊などの葉菜類、イチゴやメロン、トマトなどの果菜類、桃や梨、ブドウなどの果樹、バラなどの花きといったようにほとんどの作物によく見られる生理障害です。この記事ではその原因や対処方法について詳しく解説します。

  • 公開日:

記事をお気に入り登録する

作物には、病害や害虫による被害のほかに土壌の養分や作物の作用によって起こる生理障害があります。その中でも、生理障害の起こりやすい微量要素「マンガン」の欠乏症について、原因や症状、対策などについて詳しく解説します。

果樹

TATSU/PIXTA(ピクスタ)

作物の生理障害「マンガン欠乏症」とは?

マンガンはホウ素や亜鉛と同じく植物に必要な「微量要素(注)」の1つで、土壌中に含まれ根から吸収されます。チッソやカリウムのように多量には必要ありませんが、養分として適量とされる範囲が狭く、欠乏や過剰を起こしやすいのが特徴です。

(注)微量要素:作物の生育に必要な栄養素のうち、作物体内に0.01%以下で存在するもの。マンガン、ホウ素、鉄、銅、亜鉛などが該当する。

植物の光合成に関わる栄養素「マンガン」

植物にとってマンガンはどのような働きを持ち、欠乏するとどのような症状が現れるのでしょうか。

マンガンは植物の葉緑体の中に多く含まれ、光合成において水を分解し酸素を発生させる作用に関わっています。また、葉緑素の生成にも不可欠と考えられています。マンガン自体が酵素の構成成分になるのではなく、賦活剤(注)の役割を果たしています。

(注)微量要素のうち、鉄や銅などのように酵素の構成成分とはならず、作物の体内の酵素反応を促進する働きをしているもの。

マンガン欠乏症の主な症状

植物中のマンガンが欠乏すると葉緑素の生成が阻害され、葉に白化または黄化(クロロシス(注))が生じます。マンガン欠乏症による白化や黄化には、いくつかの特徴があります。

(注)クロロシス:植物の葉中のクロロフィル濃度が低下して、光合成とそれによる糖の合成を行う能力が失われた状態になること。白化、黄化。

1. 症状は、麦類では下位葉に多く現れ、野菜類では主に上位葉から中位葉に見られます。症状が葉の一部にしか見られないのは、マンガンが比較的移行性の悪い成分であることに起因します。欠乏した場合でも、すでに植物体内にあったマンガンが移動せず、ほかの葉に行きわたらないというメカニズムのためです。

2. 広葉植物では葉脈の間が斑点状または網目状に、イネ科植物では新葉が縞状に淡色化します。症状によって黄色や淡緑色、白っぽい色になります。

3. 症状が進むと葉全体が淡色化したり、茶褐色の壊死がみられたりします。光合成が十分にできなくなり、果樹の場合は、果実の肥大不足や糖度不足が起こることもあります。

マンガンが欠乏してしまう原因

マンガンが欠乏するのは、主に以下の3つが原因です。

1. マンガンの不溶化

マンガンは鉄などと同様、もともと土壌中に多く含まれています。多くの場合、マンガン欠乏症の原因はマンガンの施用不足によるものではなく、マンガンが不溶化し植物に吸収されにくくなることにあります。土壌のpHが6.5より高いややアルカリ性に寄った土壌では、マンガンが不溶化して欠乏しやすくなります。

2. 土壌中のマンガンの欠乏

土壌が砂質で水の浸透量が多いと、土壌中の鉄やマンガンが溶け出して有効態のマンガンが少なくなるため、欠乏症が起きやすくなります。水田からの転換畑の場合は特に注意が必要です。

また、有機質資材の過剰施用によっても、微生物の働きで次第に土壌中のマンガンが欠乏するといわれています。

3. 根の機能の低下

土壌の過乾燥や、害虫による食害などにより根が傷み、土壌から十分な養分が吸収されない場合、適量範囲の狭いマンガンは比較的早く欠乏症が起こります。

マンガン欠乏症になりやすい作物

マンガン欠乏症はさまざまな植物で起こりますが、農業においては、特に以下の作物にマンガン欠乏症の症例が多く見られるので注意してください。

麦類と陸稲などイネ科の作物

マンガン欠乏症になると新しい葉が縞状に白化し、進行すると葉の一部に壊死も起こします。

果樹

柿、桃、柑橘類などほとんどの果樹に発生します。梨では光合成の低下による実の小型化・糖度低下、ブドウでは果実に未着色粒が残る「ゴマシオ症」が発症しやすくなるので早期の対応が必要です。

ほうれん草、春菊、小松菜などの葉菜類

葉菜類では、葉の黄化・白化により商品価値が下がりますが、早期の対応により緑色への回復が可能です。

このほかにも、トマトやメロン、きゅうり、ナス、スイカなどの果菜類や、花きにも症例があるので注意が必要です。

マンガン欠乏の症状が現れたら? 効果的な対策

葉脈間の黄化・白化

RewSite/PIXTA(ピクスタ)

葉脈間の白化・黄化といった症状が現れたら、まずはよく観察し、マンガンの欠乏が原因かどうかを確認します。ほかの生理障害の可能性もあり、原因を見極めないと間違った対処をして悪化する可能性もあります。

マンガン欠乏症に似ている生理障害と見分け方

土壌ph 測定

deyangeorgiev/PIXTA(ピクスタ)

生理障害にはマンガン欠乏症のほかにも微量要素の欠乏症があり、マンガン欠乏症の症状にとてもよく似ています。生理障害の原因を正しく見極めるために、それぞれの特徴と見分け方を紹介します。

亜鉛欠乏

亜鉛欠乏でも、葉の葉脈間に白化・黄化が見られます。ただし、葉脈だけなぞったように濃い緑色が鮮明に残るため、葉脈の色を確認してマンガン欠乏症と見分けます。

苦土欠乏

苦土欠乏の症状も同じく葉の白化・黄化ですが、下位葉から中位葉で症状が発生することと、主脈を残して葉の縁や先端から黄化・緑化するという特徴があります。

野菜類の場合はマンガン欠乏症では上位葉から中位葉に多く発生するため、発生部位からマンガン欠乏症と見分けることができます。

マンガン肥料の施肥(葉面および土壌)

マンガン欠乏であることが確認できたら、以下の対処を行いましょう。状態によっては症状が回復する可能性があります。

マンガン欠乏症に対する応急処置として、0.2%の硫酸マンガン水溶液を葉面散布します。散布は数日おきに数回、気温の低い早朝または夕方に行います。新しく生じる葉には効果が高いものの、すでに白化・黄化した葉は回復しないこともあります。

土壌のマンガン含有量が不足している場合は、微量要素複合肥料のFTEやBMようりん、硫酸マンガンを施用します。ただし、マンガンは過剰症も引き起こしやすいため、FTE・BMようりんなら10a当たり2〜4kg、硫酸マンガンなら10a当たり20kg程度を目安に、施用量に注意しましょう。

土壌pHの影響も考慮する

先述の通り、マンガン欠乏症の原因は、土壌のマンガン含有量そのものよりも、多くの場合、土壌pHが高すぎることによるものです。マンガン欠乏症が疑われる場合にはまずpHを調べ、6.5より高い場合は(注)石灰質資材の施用を中止してpHを下げます。

(注)作物によって生育に適した土壌pHは異なります。あくまで目安とお考え下さい。

多すぎてもいけない、「マンガン過剰症」とは?

土作り

patrapee5413/PIXTA(ピクスタ)

マンガン欠乏症と逆の環境では、マンガン過剰症が発症することがあります。

症状は主に下位葉に発生し、葉脈に沿って赤紫やチョコレート色の斑が現れます。症状が進むと次第に色が濃くなり壊死が生じます。また、鉄欠乏症を誘発することもあります。

pHが6.0未満の酸性に傾いた土壌や、通気性・水はけが悪い環境下で有機物を多量施用して酸素が少なくなった土壌では、マンガンが大量に溶け出してマンガン過剰症の原因になります。

また、気温の高い夏の間に作付けを休んでいたほ場や太陽熱消毒を行ったほ場でも、その後の作付けでマンガン過剰症の発生が多く見られます。死滅した大量の微生物の体から還元糖が発生し、これに反応してマンガンが大量に溶け出すためとされています。

対処法としては、カルシウム肥料などを施用してpHを上げてpH6.0~6.5程度に保つことと(注)、土壌の水分含量を適切にすることです。また、リン酸肥料を施用することで、マンガンの吸収を抑えることができます。

(注)作物によって生育に適した土壌pHは異なります。あくまで目安とお考え下さい。

マンガン欠乏症はほとんどの作物で発生する可能性のある生理障害です。作物によっては商品価値を著しく下げ、農家の収入に大きな影響を与えます。

土壌のpHを適切に保ち、通気性をよくするほか、水田からの転換畑など、マンガン不足が予想されるほ場ではマンガンを補うなどの土壌管理を行って発症を防ぎましょう。

記事をお気に入り登録する

minorasuをご覧いただきありがとうございます。

簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)

あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。

※法人農家の従業員は専業/兼業農家の項目をお選びください。

ご回答ありがとうございました。

お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。

大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

おすすめ