新規会員登録
BASF We create chemistry

【イチゴ栽培】pHとECの適性値は? 高い・低いときの調整方法

【イチゴ栽培】pHとECの適性値は? 高い・低いときの調整方法
出典 : NetPix/ PIXTA(ピクスタ)

イチゴは弱酸性の土壌を好み、土壌のpH(酸性度を示す数値)やEC(電気伝導度)が果実の収量や品質に大きく影響を及ぼします。本記事では、pHとECの基礎知識や適正値に調整する方法を紹介します。なり疲れを防いで、秀品率のよいイチゴを栽培するための参考にしてください。

  • 公開日:
  • 更新日:

記事をお気に入り登録する

イチゴ栽培で重視したい「pH」と「EC」の値

計測器で土のpHを測定する様子

Carbondale / PIXTA(ピクスタ)

「pH」と「EC」の値は、イチゴ栽培において品質・収量を左右する重要な数値です。pH(ペーハー)は土壌の酸性度を示す指標であり、EC(Electrical Conductivity=電気伝導度)は土壌中の塩類濃度の目安を示します。

土壌環境をイチゴにとって最適な状態に整えるためには、pHとECを適正に維持することが重要です。適正値になっていないと「なり疲れ」という現象が起こりやすくなります。

なり疲れとは、収穫が進むに連れて結実が遅くなり、品質や収量まで低下してしまう現象で、「中休み」や「株疲れ」ともいわれます。

pH:土壌の酸性度がイチゴ栽培に適しているか

pHは、土壌の酸性度を数値化した指標で、数値が小さくなるほど酸性度が強まり、反対に数値が大きくなるほどアルカリ性が強まります。

pHと酸性度

pH酸性度
4.5〜4.9強酸性
5.0〜5.4明酸性
5.5〜6.5弱〜微酸性
6.0〜6.5微酸性
6.6〜7.2中性
7.3〜7.5微アルカリ性
7.6〜7.9弱アルカリ性
8.0以上強アルカリ性

土壌の酸性度は養分の吸収率に影響を与えるため、イチゴの生育に関与します。酸性に傾きすぎている場合は、心葉の展開が悪く、葉も巻きやすくなります。一方でアルカリ性に寄ってしまうと株の発育が悪くなり、根腐れを起こしてしまう原因にもなります。

EC:土壌中の塩類濃度がイチゴ栽培の生育に適しているか

ECはよく「肥料濃度」といわれますが、肥料濃度を直接表す数値ではありません。土壌中の電気伝導度を指します。

具体的には、土壌中の水溶性塩類の総量のことをいい、単位は、塩類濃度の指標「mS/cm」(ミリジーメンス)です。塩類濃度は硝酸態窒素の量との相関が高く、そのため「肥料濃度」と表現されているのです。

特にハウスでの養液栽培(高設栽培)する場合は、ECを管理することが重要です。

【pH】イチゴの生育に適したpHは?

高設栽培のイチゴ

sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)

イチゴ栽培における土壌の酸性度は、pH5.5〜6.5(弱〜微酸性)あたりが適しているといわれています。

弱〜微酸性の土壌では微量要素(ホウ素や鉄、マンガンなど)の溶解度が高く、イチゴにとって養分を吸収しやすい環境になります。

高設栽培においては、排液のpHが5.5〜6.5の範囲内に収まっているのが理想となるので、計測器を使って確かめることが必須となります。

pHが高いときに起こる症状

pHが高いときに起こる症状は、ホウ素や鉄、マンガンなどの微量要素の欠乏症です。

土壌が中性〜アルカリ性に傾いていると、微量要素の溶解度が低下するため、イチゴはそれら要素の吸収を満足にできなくなります。

例えば、ホウ素欠乏症になっているイチゴは、新葉がねじれて黄化し、側根が伸びなくなることにより、先しぼり果の発生が見られるようになります。

pHが低いときに起こる症状

酸性土壌で発生しやすくなるイチゴの白ろう果

酸性土壌で発生しやすくなるイチゴの白ろう果
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

pHが低いと、果実が着色せず食味にも影響を与える「白ろう果」が発生しやすくなります。土壌が酸性に偏り、カルシウムやマグネシウム、カリウムなどの多量要素をうまく吸収できなくなることが原因です。

ほかに見られる症状では、カルシウム欠乏からくる「チップバーン」があります。

カルシウム欠乏で発生するイチゴのチップバーン

カルシウム欠乏で発生するイチゴのチップバーン
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

チップバーンが発生したイチゴは、新葉が枯れるだけでなく、ひどい場合には新芽全体までも枯れることがあります。

【EC】 養液栽培(高設栽培)に適したECは?

養液栽培のEC測定

rukawajung

イチゴの養液栽培(高設栽培)に適したECは、排液で見た場合0.3〜0.6mS/cmが目安となります。ただし、ECの適正値は品種や培地、環境などの要因によっても異なり、一概にはいい切れません。

一般的には、開花期までは低め、開花期以降から収穫期中期までは高めに、気温が上がって給液量を増やしたら低めに、といった調整が行われます。

例えば、イチゴの高設栽培(ピートベンチ)向けのマニュアルでは、次のような目安が示されています。

  • 開花期までは0.6mS/cm
  • 開花期以降は、根などへの養分貯留と旺盛な生育を促すために0.9mS/cm程度まで上げる
  • 収穫期に入ったら株の消耗を避けるため、溶液濃度が下がらないように管理
  • 気温が上がり展葉が盛んになる時期には給液量自体が増えるので、0.6mS/cm程度まで下げる

出典:奈良県「食と農の振興部|農業研究開発センター|栽培技術マニュアル」所収「イチゴ高設栽培(ピートベンチ栽培)の手引き」

また、農研機構が北海道苫小牧市にある「次世代施設園芸北海道拠点」向けに整備した「大規模いちご生産技術導入マニュアル」では、四季成り性「すずあかね」と一季成り性「とちおとめ」のそれぞれについて、給液量とECの目安を次のように示しています。

四季成り性「すずあかね」の給液量とECの目安(4月上旬定植)

1日・1株
当たりの
給液量
給液EC
(mS/㎝)
定植後7日間100~200ml
株養成期100~300ml0.3
花房上げ期200~400ml0.3~0.4
果実肥大期300~500ml0.3~0.5
収穫前期400~600ml0.3~0.6
収穫中期400~600ml0.3
収穫後期100~200ml0.2~0.3
収穫収量期0~100ml0~0.3

一季成り性「とちおとめ」の給液量とECの目安(定植 8 月上旬~10 月中旬)

1日・1株
当たりの
給液量
給液EC
(mS/㎝)
定植後7日間活着まで
手で灌水
株養成期200~300ml0.3
第一花房開花期300~400ml0.3~0.4
果実肥大期400~600ml0.3~0.5
収穫前・中期400~600ml0.3~0.6
収穫中期400~600ml0.3
収穫後期100~200ml0.2~0.3

出典:農研機構「刊行物|パンフレット|技術紹介パンフレット|大規模施設園芸マニュアル」所収「大北海道拠点編2(イチゴ・技術)|規模いちご生産技術導入マニュアル」よりminorasu編集部まとめ

このように、同じイチゴでも、栽培方式、産地の気候、品種や作型などの違いによって、給液量と適正なECはかなり違ってきます。

まずは、地域のJAや農業試験場などに、代表的な品種の養液管理の目安や、生育状況によって給液量やECをどのようにコントロールしたらよいかを確認してみてください。

ECが高いときに起こる症状

ECが高いときに起こる症状は、新芽の奇形やチップバーン、花房の壊死があげられます。これら症状の原因の1つには、窒素過剰の可能性が考えられます。ECが高い場合、窒素も比例して高くなっていることがあるからです。

カルシウム欠乏やカリウム過剰のときに起こる症状とも似ており、肉眼のみによる判断は難しいことから、葉身を化学分析することが推奨されています。

ECが低いときに起こる症状

ECが低いときに起こる症状は、根が弱まったり株が小さくなったりすることです。ECが低い場合は肥料濃度も低下している可能性があります。ゆえに肥料濃度が低いと、イチゴへ養分が行き届きにくいことが考えられるのです。

しかし、ECはあくまでも肥料濃度を指し、肥料の総量ではありません。そのため、ECとともに液肥の量やイチゴの状態、栽培環境など、多角的な視点から判断することが重要になります。

イチゴ栽培でpH・ECを測る方法

土壌pH測定器

だいち ゆうと / PIXTA(ピクスタ)

イチゴ栽培でpHとECを測るなら、専用の測定器を導入しましょう。

測定器にもいくつか種類があり、水耕栽培向けのタイプであれば土壌(上澄み液を使用)と養液のどちらでも使用できます。

測定器を使ってpHとECを確かめられると、生育状況を見ながら数値をコントロールしやすくなります。もし測定器を所持していない場合は、購入を検討してみてください。

▼土壌pHの測定方法については、以下の記事で紹介しています。

“なり疲れ”を防ぐ! イチゴ栽培のpH・EC調整方法

収穫間近の高設栽培のイチゴ

収穫間近の高設栽培のイチゴ
沙苑 / PIXTA(ピクスタ)

イチゴのなり疲れを防ぐには、pHとECを適正値に調整することが必要です。ここでは調整方法について解説します。

pH:アルカリ資材や酸性肥料を施用

pHは、アルカリ資材(pHアップ剤)や酸性肥料(pHダウン剤)を施用して調整します。調整の方法は、土耕栽培か養液栽培(高設栽培)によっても施用方法は異なります。

  • 土耕栽培:土壌散布、養液更新
  • 養液栽培:養液更新

pHが高い場合は、酸性肥料となるpHダウン剤を施用することで調整可能です。反対にpHが低すぎるときは、アルカリを含むpHアップ剤を施用してバランスを取り戻します。

応急対策としては、どちらも葉面散布が有効ですが、薬害に気をつけながら行う必要があります。急激に数値を変化させてしまうと、生育障害につながる可能性があるので、様子を見ながら少しずつ施用していきましょう。

EC:肥培管理で調整

ECは土壌中の硝酸態窒素量との相関性が高いとされていることから、窒素の過不足を知る指標としても使われています。

例えば、ECとともにpHが低い場合は、肥料を増やしたり石灰を追加したりすることで調整可能です。一方、ECが高くpHが低いときは、肥料を与えるのをやめて水を増やすといった方法があります。

▼イチゴ栽培の施肥量の目安や高設栽培の管理方法については、以下の記事でも解説しています。

イチゴ栽培におけるpHとECは、秀品率・収量を左右する要因の1つです。それぞれの数値を確認できるよう測定器を導入して、土壌や排液の状態を把握し、管理することが求められます。

記事をお気に入り登録する

minorasuをご覧いただきありがとうございます。

簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)

あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。

※法人農家の従業員は専業/兼業農家の項目をお選びください。

ご回答ありがとうございました。

お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。

相馬はじめ

相馬はじめ

農業×SEOに特化した専業Webライター。農業法人に正社員として8年間勤めた経歴を持つ。これまでに携わった作物は「キャベツ・白菜・レタス・長ネギ・馬鈴薯・米・麦・そば」。得意な執筆ジャンルは農業・音楽・転職など多岐にわたる。強みはコミュニケーション力の高さと、誰とでも打ち解けられること。minorasuでの執筆以外では、農業初心者に向けたブログ『農業はじめるなら見るブログ』を運営中。https://hajimete-hirogaru.com/

おすすめ