【イチゴ栽培】なり疲れを防ぐ! pHとECの測定と調整
イチゴは栽培期間が長く、全体を通して安定した収益を確保するには、収量の低下を引き起こす「なり疲れ」を防ぐことが不可欠です。なり疲れを防いだうえで、適切な栽培管理と並行して、土壌のpHやECを調整することが、イチゴの収量・品質向上のためのカギとなります。
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イチゴは弱酸性の土壌を好み、土壌のpH(酸性度を示す数値)やEC(肥料濃度)によって、果実の収量や品質に大きく影響を及ぼします。本記事では、土壌pHやECがイチゴの品質・収量に及ぼす影響に焦点を当て、それぞれの測定方法について詳しく解説します。
イチゴのなり疲れとは?
Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)
イチゴなどの果菜類は、「なり疲れ(成り疲れ)」という現象に見舞われることがあります。これは、最初はスムーズに収穫が進んでも、次第に収穫が遅くなったり、ピークに向けて質や量が低下してしまったりする現象のことを指します。「中休み」や「株疲れ」とも呼ばれます。
出典:開発肥料株式会社「What's New」所収「促成いちご収量安定のポイント 」よりminorasu編集部作成
なり疲れが起こる原因はさまざまですが、主な要因は、以下が考えられます。
・生育初期に肥料をやりすぎると草勢が旺盛になりすぎ、腋花房(主茎から分岐した花房)の分化が遅くなる
・養分が草勢や花芽に消費され、果実に必要な養分が足りなくなる
・着果負担によって根が消耗し、十分な養分を吸収できなくなる
・冬に栽培する場合は、低温によって草勢が低下する
このように、なり疲れの原因は環境や栽培時期、生育段階により異なるため、各要因に応じた対策が必要になります。
注意点として、なり疲れになると、水や肥料を与えてもあまり効果が見られず、果実の量や質が改善しにくくなります。
なり疲れ発生時の応急対策として、灌水時に糖やアミノ酸を供給して根を回復させるという方法もありますが、基本は適切な栽培管理で、なり疲れをなるべく抑えることが重要です。
今回は、土壌環境をイチゴにとって最適な状態に整えるためのカギを握る、pH(酸性度を示す数値)とEC(肥料濃度)について解説します。
【イチゴ栽培とpH】好適pHは、5.5~6.5
Svetolk / PIXTA(ピクスタ)
作物の健全な生長には、土壌に養分が適量含まれていることとともに、土壌pHがその作物にとっての好適な範囲であることが重要です。その作物に好適pHの範囲を外れると、根傷みが起きたり、養分が吸収しにくくなったりします。
イチゴの場合、好適pHは5.5~6.5の弱酸性~微酸性とされています。この章では、土壌pHが高すぎたり、低すぎたりする場合の障害について解説します。
pHが高いときに特に注意したい「ホウ素欠乏」
作物の好適pHよりも高く、中性~アルカリ性に傾くと、鉄やマンガン、ホウ素、亜鉛などの微量要素の溶解度が下がり、作物が吸収しにくくなるため、これらの欠乏症が起きやすくなります。
イチゴの場合、特に問題になるのがホウ素欠乏です。新葉がねじれて黄化し、側根が伸びなくなり、「先しぼり果」発生が多くなります。
pH矯正を行いながら、土耕ではホウ砂溶液の土壌全面散布、養液栽培ではホウ素剤の追加または養液更新で、ホウ素を補います。応急対策としては、ホウ砂溶液の葉面散布が効果的ですが、薬害に十分気を付けます。
pHが低すぎると起きやすい「チップバーン」と「白ろう果」
作物の好適pHより酸性に傾いている場合は、カルシウムやマグネシウム、カリウムの欠乏が起きやすくなります。また、アルミニウムイオンが溶け出し、根傷みを起こすほか、リン酸の吸収が悪くなったり、マンガンが過剰になったりします。
カルシウム欠乏で発生するイチゴのチップバーン
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
イチゴの場合、カルシウム欠乏からくる「チップバーン」が問題になります。チップバーンは、新葉の縁に枯れが発生し、ひどい場合は新芽全体が枯れてしまいます。
石灰含量が不足している場合が多いので、土耕では土壌分析をおこなったうえで、石灰資材でpHを矯正し、石灰含量を適正値まで引きあげます。養液栽培では養液更新を行います。応急対策としては、塩化カルシウム溶液の葉面散布が効果的ですが、薬害に十分気を付けます。
酸性土壌で発生しやすくなるイチゴの白ろう果
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
また、イチゴの果実が色づかなかない「白ろう果」の発生は、日照不足や低温、高湿度などの気象条件に加え、酸性土壌で多くなりやすいことが知られています。
白ろう果対策の基本は、適正な温度管理と換気、適度な葉かきや玉出しなどによる日照と温通風の確保ですが、pHの矯正も重要です。
【イチゴ栽培とEC】実は決まった基準はない
rukawajung
ECはよく「肥料濃度」といわれますが、実は、肥料の濃度を直接現わす指標ではありません。
ECは「Electric Conductivity」の略で、日本語では「電気伝導度」と訳され、農業分野では、土壌中の電気伝導度をさします。
実際には、土壌中の水溶性塩類の総量であり、単位は、塩類濃度の指標「mS/cm」(ミリジーメンス)です。塩類濃度は硝酸態窒素の量との相関が高く、そのため「肥料濃度」と表現されているのです。
イチゴ栽培の適正ECは、栽培方式や培地、地域の気候と作型、品種などによって異なり、最大公約数的な基準値はありません。一般的には、開花期までは低め、開花期以降~収穫期中期までは高めに、気温が上がって給液量を増やしたら低めに、といった調整が行われます。
例えば、奈良県のピートモスを基本培地とする高設栽培向けのマニュアルでは、次のような目安が示されています。
・開花期までは0.6
・開花期以降は、根などへの養分貯留と旺盛な生育を促すために0.9程度まで上げる
・収穫期に入ったら株の消耗を避けるため、溶液濃度が下がらないように管理
・気温があがり展葉が盛んになる時期には給液量自体が増えるので、0.6程度まで下げる
出典:奈良県「食と農の振興部|農業研究開発センター|栽培技術マニュアル」所収「イチゴ高設栽培(ピートベンチ栽培)の手引き」
また、農研機構が北海道苫小牧市にある「次世代施設園芸北海道拠点」向けに整備した「大規模いちご生産技術導入マニュアル」では、四季成り性「すずあかね」と一季成り性「とちおとめ」のそれぞれについて、給液量とECの目安を次のように示しています。
四季成り性「すずあかね」の給液量とECの目安(4月上旬定植)
1日・1株 当たりの 給液量 | 給液EC (mS/㎝) | |
---|---|---|
定植後7日間 | 100~200ml | |
株養成期 | 100~300ml | 0.3 |
花房上げ期 | 200~400ml | 0.3~0.4 |
果実肥大期 | 300~500ml | 0.3~0.5 |
収穫前期 | 400~600ml | 0.3~0.6 |
収穫中期 | 400~600ml | 0.3 |
収穫後期 | 100~200ml | 0.2~0.3 |
収穫収量期 | 0~100ml | 0~0.3 |
一季成り性「とちおとめ」の給液量とECの目安(定植 8 月上旬~10 月中旬)
1日・1株 当たりの 給液量 | 給液EC (mS/㎝) | |
---|---|---|
定植後7日間 | 活着まで 手で灌水 | |
株養成期 | 200~300ml | 0.3 |
第一花房開花期 | 300~400ml | 0.3~0.4 |
果実肥大期 | 400~600ml | 0.3~0.5 |
収穫前・中期 | 400~600ml | 0.3~0.6 |
収穫中期 | 400~600ml | 0.3 |
収穫後期 | 100~200ml | 0.2~0.3 |
出典:農研機構「刊行物|パンフレット|技術紹介パンフレット|大規模施設園芸マニュアル」所収「大北海道拠点編2(イチゴ・技術)|規模いちご生産技術導入マニュアル」よりminorasu編集部まとめ
このように、同じイチゴでも、栽培方式、産地の気候、品種や作型などの違いによって、適正なEC値はかなり違ってきます。
まずは、地域のJAや農業試験場などに、代表的な品種の養液管理の目安や、生育状況によって給液量やECをどのようにコントロールしたらよいかを聞いてみてください。
ECが高いということは「窒素過剰」が起きている?
EC値は土壌中の硝酸態窒素量の相関が高いことがわかっており、窒素の過不足を知る指標として多く使われます。硝酸態窒素量が多すぎるとpHが低下して(酸性に傾き)、根傷みや生理障害を起こしやすくなります。
イチゴの場合は、窒素過剰で生理障害が置きます。症状は、前述の「チップバーン」に似ていますが、葉が上向きにカップ状になるのが特徴です。
基本は適切な肥培管理ですが、既に障害がでるほど過剰になっている場合は窒素除去を行います。栽培後の湛水処理、ソルガムなどのクリーニングクロップに窒素を吸収させるなどの方法があります。
▼イチゴの施肥についてはこちらの記事でも解説しています。
イチゴのなり疲れや栄養障害・生理障害をなるべく防ぐには、pHとECを適正な範囲にコントロールしていくことが重要です。
定期的に総合的な土壌分析を専門機関に依頼し、最初から慎重な施肥設計・肥培管理をしていくのが理想ですが、pHやECは、自分で簡易的に測定することも可能です。下記の記事では具体的な方法を解説していますので、参考にしてください。
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