イチゴのハダニ類対策! 防除に使える農薬・殺ダニ剤おすすめ一覧

ハダニ類は繁殖力が強く、薬剤抵抗性を持ちやすい難防除害虫です。本記事では、イチゴ栽培でのハダニ類防除におすすめの農薬・殺ダニ剤や天敵資材を紹介します。具体的な症状や好適環境の条件なども解説するので、防除体制の参考にしてください。
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イチゴ栽培における難防除害虫、ハダニ類

ナミハダニの成虫(体長0.5mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
イチゴ栽培で注意すべき害虫の代表的なものは、難防除害虫の1種であるハダニ類です。ハダニ類の被害を防ぐには、早期発見・早期防除することが大切です。
特に、イチゴ栽培で多く見られるハダニ類は「ナミハダニ」と「カンザワハダニ」の2種類です。ナミハダニには、黄緑型と赤色型があります。いずれのハダニも体長0.5mm前後と非常に小さく、見つけることが難しい場合もあるでしょう。
ハダニ類の被害の症状
ハダニ類の被害に遭ったイチゴには、次のような症状が現れます。
被害初期:葉の表面に小さな白い斑点が現れ、かすれたような見た目になる
被害中期:葉にクモの巣状の網が張られる
被害末期:株が萎縮し、開花することなく枯死に至る
ハダニ類は、イチゴの葉の裏に寄生し吸汁します。ハダニ類の被害にあった箇所は、葉の表面に白い斑点が見られることが特徴です。ハダニ類が多発すると、葉が褐色したり黄化したりするため発見しやすくなります。
ハダニ類の出す糸に葉が覆われると、次第に新葉に移って生育に影響を及ぼしかねません。ハダニ類がさらに多発してイチゴの果実にまで寄生した場合は、着色不良を引き起こすこともあります。

ナミハダニによる被害葉(葉表に小さな白斑)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ナミハダニによる被害葉(クモの巣状の網)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ハダニ類が発生しやすい条件
ハダニ類は乾燥した環境で発生しやすく、イチゴ栽培では注意が必要です。
イチゴは、産地や品種、作型にもよりますが、乾燥している冬季をはさんで栽培されることが多い作物です。そのため、ハダニ類の発生条件が整いやすくなります。また、ハダニ類は外から飛来することもありますが、定植苗に既に寄生している場合もあります。
ハダニ類が発生しやすい温度は25℃前後といわれ、1回の産卵で100~150個の卵を産むことが特徴です。さらに、約10日間で世代交代を行うため、短期間で急激に増殖します。
ハダニ類の移動速度は比較的遅いですが、密度が高まると移動性が高まり、急速に広がる可能性があります。早期発見・早期防除が重要であり、農薬による防除をはじめ、物理的防除や生物的防除を組み合わせた総合的な対策が推奨されます。
【イチゴのハダニ類対策】新薬も! 使える農薬・殺ダニ剤の例

イチゴ栽培のビニールハウス
kotoru / PIXTA(ピクスタ)
イチゴをハダニ類から守るには、農薬・殺ダニ剤を適切に活用することが重要です。イチゴに適用をもつおすすめの農薬・殺ダニ剤の一例を紹介します。
※農薬を使用する前にラベルの記載内容をよく確認し、使用方法を守って正しく散布してください。
なお、ここに記載する農薬は、2024年12月16日現在登録があるものです。実際の使用に当たってはラベルをよく読み、用法・用量を守りましょう。
また、地域によっては農薬使用の決まりが設けられている場合もあるため、事前に確認しておいてください。農薬の登録は、農薬登録情報提供システムで検索できます。
ローテーション散布に取り入れたい、主な農薬・殺ダニ剤一覧
ハダニ類は世代交代のサイクルが短く、薬剤に対する抵抗性が発達しやすいため、同一系統の農薬の連続使用を避けることがポイントです。効果的にハダニ類の発生を抑えるには、既存の系統にない新しい農薬もチェックしてください。
農薬の系統は、下記のようなものが挙げられます。系統の異なる農薬(注)を、最低3種類のローテーションで使用するのが効果を継続させるポイントです。
(注)有効成分と作用機構が異なる農薬
系統 | 薬剤名 |
---|---|
ピラゾール-ピリダジノン系 | ピラニカEW、サンマイトフロアブルなど |
マクロライド系 | コロマイト乳剤、アグリメックなど |
ピロール系 | コテツフロアブルなど |
オキサゾリン系 | バロックフロアブルなど |
新規系統 ※()内はIRACコード | カネマイトフロアブル(20B)、マイトコーネフロアブル(20D)、モベントフロアブル(23)、ダニコングフロアブル(25B)、スターマイトフロアブル(25A)など |
出典:JA全農ちば 所収「令和5年(2023年)4月主な殺ダニ剤の特性ー覧」
なお、雌成虫に対してはカネマイトフロアブルやマイトコーネフロアブル、卵に対してはカネマイトフロアブルやコテツフロアブル、スターマイトフロアブルに高い効果があるとの試験結果があります。
出典:茨城県農業総合センター所収「イチゴのナミハダニに対する殺ダニ剤の効果試験結果について」
「気門封鎖系」の農薬なら、薬剤抵抗性がつきにくい
多くのハダニ類は、同一系統の農薬の使用を続けることで薬剤抵抗性を持つようになります。ハダニ類の薬剤抵抗性が確認されたときには、「気門封鎖系」(注)の農薬を使用するとよいでしょう。
(注)気門封鎖系の農薬は、付着した薬液で害虫を窒息死させる農薬です。
イチゴに適用のある気門封鎖系の農薬・殺ダニ剤には、日農スプレーオイル、トモノールS、クミアイアタックオイルなどのマシン油乳剤があります。
気門封鎖系が有効な場面は、ハダニ類がローテーション散布に対して抵抗性を示したときです。そのような場合に備えて、気門封鎖系の農薬はローテーションに組み込まず、緊急時の対策として温存することが推奨されます。
感受性の低下したハダニ類には新薬も活用
既存の農薬・殺ダニ剤へ抵抗性を持つハダニ類には、比較的近年に発売された新規の作用機構を有する農薬も検討してください。これまでとは異なる成分により、感受性の低下したハダニ類にも効果が期待できます。
農薬登録年 | 系統 | 薬剤名 |
---|---|---|
2017年 | カルボキサニリド系 | ダニコングフロアブル |
2019年 | イソオキサゾリン系 | グレーシア乳剤 |
2019年 | アシノナピル | ダニオーテフロアブル |
・ダニコングフロアブル
ダニコングフロアブルは、新規有効成分ピフルブミドを含む殺ダニ剤です。ナミハダニやカンザワハダニを含むTetranychus属、ミカンハダニやリンゴハダニなどのPanonychus属に高い効果を示し、成虫や幼若虫に対して強力な殺ダニ活性を持ちます。
既存抵抗性を持つハダニ類の個体群にも有効で、効果が長期間持続します。
出典:日本農薬株式会社「ダニコングフロアブル」
・グレーシア乳剤
グレーシア乳剤は有効成分フルキサメタミドを含み、ハダニ類を含む幅広い害虫に対して速効性があります。
効果の持続性、浸達性、耐雨性もあり、温度による効果変動も少ないとされています。また、ミツバチやマルハナバチといった訪花昆虫への影響が考慮されている殺虫剤です。
出典:日産化学株式会社「グレーシア乳剤」
・ダニオーテフロアブル
ダニオーテフロアブルは、各種ハダニ類の全ステージに活性を示す殺ダニ剤です。気温による効果変動が小さく安定しており、既存剤に抵抗性を持つハダニ類にも優れた効果を示します。
出典:日本曹達株式会社「ダニオーテフロアブル」
これらの新薬を試験的に取り入れながら、防除体制をアップデートしていくことが大切です。
効果を高めるには? 殺ダニ剤の効率的な散布方法

イチゴを栽培するビニールハウス
toshi007 / PIXTA(ピクスタ)
防除効果を上げるためには、苗からハダニ類を持ち込まないよう育苗期の時点で徹底的に防除する必要があります。イチゴの定植直前に農薬散布しておくことも重要です。
殺ダニ剤の効果を高めるポイントは、薬剤を葉裏まで確実に散布することです。ハダニ類は葉裏に寄生することが多いため、農薬を葉裏までしっかり散布できるよう、下葉かきやランナーの整理後に行ってください。
散布に当たっては「イチゴセイバーノズル」などの散布ノズルを利用します。散布圧は1.0〜1.5MPaを目安とし、果実に傷が付くのを防いでください。
出典:ヤマホ工業株式会社「イチゴセイバーノズル」
薬剤の散布は前述の通り、異なる系統の農薬・殺ダニ剤を組み合わせるローテーション散布で行います。
注意点として、開花期の農薬散布に当たっては、ミツバチなど花粉媒介昆虫への影響を確認して農薬を選定してください。特に花粉媒介昆虫を導入する前後の散布には注意が必要です。
イチゴの品質と収量を守る、農薬以外のハダニ類防除対

色づくイチゴ
だいちち / PIXTA(ピクスタ)
ハダニ類を農薬だけで防除しようとすると、散布の回数が多くなってしまい、結果的にハダニ類の薬剤抵抗性を発達させる原因になりかねません。それを避けるためには、ほかの防除対策も併せて行います。
1. こまめな栽培管理・耕種的防除の実施
耕種的防除は、すべての作物において基本的で着実な防除方法です。
イチゴの場合、古葉や病葉がハダニ類の温床となるため、新葉が展開したときに下の葉を取り除きます。農薬散布前に丁寧に古葉かきをすることもポイントです。病変の見られる葉や株は、速やかにほ場の外に持ち出して処分します。
2. 炭酸ガス処理システムの導入
ハダニ類は、イチゴの定植苗から栽培施設内に持ち込まれることも多いため、定植苗の段階で防除できていれば、その後の被害をかなり軽減できます。
そこで近年、イチゴ育苗期のハダニ類防除の有効な方法として「炭酸ガス処理システム」が開発され、徐々に導入され始めています。
炭酸ガス処理システムとは、農業用アルミ蒸着シートでできたファスナーバッグなどの中に、定植前のイチゴ苗を入れ、農業用二酸化炭素を注入し、規定濃度・規定温度で一定時間くん蒸(注)することによって、ハダニ類防除を可能とするものです。
(注)2024年12月16日現在、二酸化炭素くん蒸剤として2剤が農薬登録されており、使用量やくん蒸時間、くん蒸温度、使用時期は以下の通りです。
- エキカ炭酸ガス(くん蒸温度25~30℃の場合)
- 適用場所:倉庫、天幕など
- 適用害虫:ナミハダニ
- 使用量:くん蒸中ガス濃度40~60%を維持するに必要な量
- くん蒸時間:24時間
- くん蒸温度:25~30℃
- 使用時期:定植前
- くん蒸用炭酸ガス
- 適用場所:倉庫、天幕など
- 適用害虫:ナミハダニ
- 使用量:くん蒸中のガス濃度50%程度を維持するに必要な量
- くん蒸時間:24時間
- くん蒸温度:20~30℃
- 使用時期:育苗期
※化学合成農薬ではありませんが、農薬取締法に基づいて農薬として登録されています。くん蒸実施前には説明文書の記載内容をよく確認し、使用方法を守って正しく実施してください。
3. 天敵資材(生物農薬)の活用
イチゴ栽培では、天敵資材(生物農薬)を活用した防除が普及しています。これは生物的防除の1種で、ハダニ類を捕食する天敵生物の「ミヤコカブリダニ」や「チリカブリダニ」を放飼することで害虫を制御する方法です。
天敵資材は、ボトル型以外に、イチゴ株に吊り下げて使用するパック型、パック型に産卵用フェルトや保水資材を組み合わせたバンカーシートといった多様なタイプが販売されています。
ハダニ類の薬剤抵抗性の発達リスクを抑えつつ長期にわたる効果が期待できるほか、花粉媒介昆虫への影響を軽減し、効果の高い農薬使用を温存できるというメリットもあります。
イチゴ栽培に用いられる主な天敵資材には、「スパイカルEX」や「ミヤコスター」、「スパイデックスバイタル」、「チリトップ」などが挙げられます。
天敵資材は、注文してから納品まで数週間かかる場合があることに注意しましょう。
ハダニ類による被害を防ぐには、イチゴの育苗期からの徹底した防除が重要です。農薬・殺ダニ剤の散布とともに耕種的防除を行い、天敵資材を活用しながら隙を与えない栽培環境を構築してください。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。