イチゴ栽培におすすめの殺ダニ剤は?ハダニ類防除の効率的な散布方法
イチゴ栽培において注意すべき代表的な害虫の1つがハダニ類です。イチゴをハダニ類から防ぐ方法を知ることは、イチゴ栽培における重要なポイントです。この記事では、ハダニ類の特徴や殺ダニ剤・殺虫剤による防除の方法をわかりやすく紹介します。
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ハダニ類は、イチゴ栽培農家を悩ませる害虫として有名です。イチゴの収量を確保するには、ハダニ類の特徴と防除方法を理解しましょう。この記事では、繁殖力が強いハダニ類からイチゴを守るための効果的な殺ダニ剤の使い方を詳しく解説します。
イチゴに発生しやすい害虫と被害の特徴
やえざくら/PIXTA(ピクスタ)
イチゴ栽培において注意すべき害虫の代表的なものはハダニ類です。ハダニ類の被害を抑えるためには、早期発見・早期防除することが大切です。この段落では、ハダニ類の被害について詳しく説明します。
イチゴ栽培で懸念される「ハダニ類」の被害
ナミハダニの成虫(体長0.5mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
イチゴ栽培をするときに多く見られるハダニ類は「ナミハダニ」と「カンザワハダニ」の2種類です。ナミハダニには、黄緑型と赤色型があります。いずれのハダニも体長0.5mm前後と非常に小さく、見つけることが難しい場合もあるでしょう。
ハダニ類は、イチゴの葉の裏に寄生し吸汁します。ハダニ類の被害にあった箇所は、葉の表面状に白い斑点が見られることが特徴です。ハダニ類が多発すると、葉が褐色になったり黄化したりするため発見しやすくなります。
さらに、ハダニ類の出す糸に葉が覆われると、次第に新葉に移って生育に影響を及ぼしかねません。ハダニ類がさらに多発してイチゴの果実にも寄生してしまうと、着色不良になることもあります。そのため、ハダニ類の防除は早期に行うことが重要です。
ナミハダニによる被害葉(葉表に小さな白斑)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ナミハダニによる被害葉(クモの巣状の網)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ハダニ類が発生しやすい条件
ハダニ類は、乾燥している環境で発生しやすくなります。イチゴは、産地や品種、作型にもよりますが、乾燥している冬季をはさんで栽培されることが多い作物です。
そのため、施設内の湿度は常にチェックするよう心がけましょう。ハダニ類は、外から飛来して侵入する場合もありますが、持ち込まれた定植苗に既に寄生している場合もあります。
ハダニ類が発生しやすい温度は25℃前後といわれ、1回に100~150個の卵を産むことが特徴です。ハダニ類は約10日間で世代交代をするため、短期間で急激に増殖します。
移動速度が比較的遅いハダニ類は、早期に発見すれば被害は最小限で抑えられます。ほ場全体にハダニ類が広がってしまう前に、農薬による適切な防除を行います。
対策するには?ハダニ類防除に効果的な殺ダニ剤
office-pao/PIXTA(ピクスタ)
ハダニ類の被害からイチゴを守るためには、殺ダニ剤を適切に使用することが有効です。この段落では、殺ダニ剤を使用するときの注意すべきポイントを解説します。
殺ダニ剤はローテーション使用が大原則!使える農薬の例
ハダニ類の被害を予防するためには、早い時期からの農薬による防除が非常に有効です。
ハダニ類は世代交代のサイクルが短く、薬剤に対する抵抗性が発達しやすいため、同一系統の農薬の連続使用を避けることがポイントです。効果的にハダニ類の発生を抑えるには、既存の系統にない新しい農薬もチェックするとよいでしょう。
農薬の系統は、下記のようなものが挙げられます。系統の異なる農薬(注)を、最低3種類のローテーションで使用するのが効果を継続させるポイントです。
(注)有効成分と作用機構が異なる農薬
・ピラゾール-ピリダジノン系:ピラニカEW、サンマイトフロアブルなど
・マクロライド系:コロマイト乳剤、アグリメックなど
・ピロール系:コテツフロアブル など
・オキサゾリン系:バロックフロアブルなど
・新規系統※()内はIRACコード:カネマイトフロアブル(20B)、マイトコーネフロアブル(20D)、モベントフロアブル(23)、ダニコングフロアブル(25B)、スターマイトフロアブル(25A) など
出典:JA全農ちばホームページ「基本営農情報 農薬 令和2年度版 10.主な殺ダニ剤とその特性ー覧」
なお、雌成虫に対してはカネマイトフロアブルやマイトコーネフロアブル、卵に対してはカネマイトフロアブルやコテツフロアブル、スターマイトフロアブルに高い効果があるとの試験結果があります。
出典:茨城県農業総合センター病害虫防除所レポート
※農薬を使用する前にラベルの記載内容をよく確認し、使用方法を守って正しく散布してください。
殺ダニ剤の効率的な散布方法
防除効果を上げるためには、苗からハダニ類を持ち込まないよう育苗期の時点で徹底的に防除しましょう。イチゴの定植直前に農薬散布しておくことも重要です。
ハダニ類は葉裏に寄生することが多いため、農薬を葉裏までしっかり散布できるよう、下葉かきやランナーの整理後に行うとよいでしょう
開花期の農薬散布に当たっては、ミツバチなど花粉媒介昆虫への影響を確認して農薬を選定します。特に花粉媒介昆虫を導入する前後の散布には注意を払いましょう。
薬剤抵抗性を確認した場合は「気門封鎖系」農薬の使用も
多くのハダニ類は、同一系統の農薬の使用を続けることで薬剤抵抗性を持つようになります。ハダニ類の薬剤抵抗性が確認されたときには、「気門封鎖系」(注)の農薬を使用するとよいでしょう。
(注)気門封鎖系の農薬は、付着した薬液で害虫を窒息死させる農薬です。
気門封鎖系でイチゴに適用がある農薬には、スプレーオイル、トモノールS、アタックオイルなどのマシン油乳剤があります。
ローテーションを組んで農薬を使用しても、徐々に薬剤の効果が薄れてしまうことがあります。そのような場合に備えて、気門封鎖系の農薬は普段使いせず、いざというときのために温存しておくのが賢い使い方です。
イチゴの品質と収量を守る、その他のハダニ類防除対策
日陽/PIXTA(ピクスタ)
ハダニ類を農薬だけで防除しようとすると、散布の回数が多くなってしまい、結果的に、ハダニ類の薬剤抵抗性を発達させる原因になりかねません。それを避けるためには、ほかの防除対策も併せて行いましょう。
耕種的防除
耕種的防除は、すべての作物において基本的で着実な防除方法です。
イチゴの場合、古葉や病葉がハダニ類の温床となるため、新葉が展開したときに下の葉を取り除くようにしましょう。農薬散布前に丁寧に古葉かきをすることもポイントです。病変の見られる葉や株は、速やかにほ場の外に持ち出して処分しましょう。
また、ほ場周縁の雑草をこまめに除草することで、ハダニ類のほ場への侵入を抑えられます。
炭酸ガス処理システム
ハダニ類は、イチゴの定植苗から栽培施設内に持ち込まれることも多いため、定植苗の段階で防除できていれば、その後の被害をかなり軽減できます。
そこで近年、イチゴ育苗期のハダニ類防除の有効な方法として「炭酸ガス処理システム」が開発され、徐々に導入され始めています。
炭酸ガス処理システムとは、農業用アルミ蒸着シートでできたファスナーバッグなどの中に、定植前のイチゴ苗を入れ、農業用二酸化炭素を注入し、規定濃度・規定温度で一定時間くん蒸(注)することによって、ハダニ類防除を可能とするものです。
(注)2020年10月現在、二酸化炭素くん蒸剤として2剤が農薬登録されており、使用量・くん蒸時間・くん蒸温度は以下の通りです。
・エキカ炭酸ガス(倉庫、天幕等)
・適用害虫:ナミハダニ
・使用量:二酸化炭素濃度40~60%を維持するに必要な量
・くん蒸時間:24時間
・くん蒸温度:25~30℃
・くん蒸用炭酸ガス(倉庫、天幕等)
・適用害虫:ナミハダニ
・使用量:二酸化炭素濃度50%程度を維持するに必要な量
・くん蒸時間:24時間
・くん蒸温度:20~30℃
※化学合成農薬ではありませんが、農薬取締法に基づいて農薬として登録されています。くん蒸実施前には説明文書の記載内容をよく確認し、使用方法を守って正しく実施してください。
生物的防除
生物的防除とは、ハダニ類にとって天敵であるミヤコカブリダニやチリカブリダニを放飼することです。
生物的防除は、農薬による化学的防除や耕種的防除などと組み合わせることで、より効果的な防除が期待できます。
生物的防除だけでは完全な防除は期待できないケースもありますが、花粉媒介昆虫への影響や薬剤抵抗性の発達の抑制、効果の高い農薬使用の温存などのメリットもあります。
ハダニ類は、イチゴ栽培において発生しやすいやっかいな害虫です。ハダニ類の薬剤抵抗性の発達を防ぐためには、農薬による防除と耕種的防除や生物的防除を組み合わせることで総合的に対策していきましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。