イチゴの育苗のポイント|省力化や収量アップを実現する方法
イチゴ栽培には生産組合やJAなどから苗を購入するだけでなく、自家育苗をした株を生長させる方法もあります。しかし、どのような流れで育苗していくのかわからないという方もいるのではないでしょうか。この記事では自家育苗の基本的な流れと効率的な栽培方法を紹介します。
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イチゴ栽培で定植する苗には、主に「JAなどから購入する」「自家育苗する」の2種類があります。自家育苗することで苗購入コストの低減を図れますが、慣れていないと満足のいく苗を生産できず、かけた労力やコストが無駄になる可能性もあります。
今回はイチゴの自家育苗の流れや効率的な栽培を可能にする新技術を紹介しますので、自家育苗に挑戦しようとしている方はチェックしてください。
イチゴの自家育苗の基本的な流れ
Дарья Лиходедова - stock.adobe.com
イチゴの苗は親株から伸びるランナーから採取するため、自家育苗の際は親株の植え付けから始める必要があります。まずは自家育苗における基本的な流れを紹介します。
親株の植え付けは、一般的に3~4月または10月下旬に行います。10月の植え付けのほうが苗の元となるランナーの発生数が多いので、時期にこだわりがないのであれば10月にするとよいでしょう。
また、親株が病害に感染していると、そこから派生する子苗も病害のキャリアになってしまいます。そのため、親株はできるだけウイルスフリー苗を用いるようにしてください。
ハウス栽培においては、プランターやポリポットに親株を植え付けることもよくありますが、それぞれメリット・デメリットがあります。
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
プランターは1つにつき2~3株を植え付けられるため省力化につながる反面、土壌病害にあった場合はそこにある親株と子苗が全部被害を受けるというデメリットがあります。
一方、ポリポットは1つにつき1株の植え付けであるため作業時間は多くなりがちですが、土壌病害が広がりにくい点がメリットです。
採苗(ランナー切り離し)は次郎苗から
イチゴの採苗の準備
アネモネ / PIXTA(ピクスタ)
イチゴの採苗 受け苗
Eizo / PIXTA(ピクスタ)
暖かくなってくる5月中旬から6月頃になると親株の株元からランナーという細い茎が盛んに伸びてきます。このランナーに複数の子苗が付き、それを切り離して定植することで株数を増やしていくのがイチゴの自家育苗です。
一般的に親株から伸びた最初の子苗を「太郎苗(1次ランナー)」、太郎苗から伸びた子苗を「次郎苗(2次ランナー)」と呼び、その後は「三郎苗(3次ランナー)」「四郎苗(4次ランナー)」のように呼び方が変わっていきます。
実際にランナーを切り離して採苗するのは、多くの場合、次郎苗以降です。その理由としては、太郎苗は発根が悪いケースが多いことと、最初にできた子苗であるため次郎苗以降の苗に比べて老化が早く、定植後に十分な生育が期待できないことが挙げられます。
7月頃になってランナーが出揃ってきたら、その中から優良なものを選んで切り離し、独立して育苗しましょう。
mix / PIXTA(ピクスタ)
採苗後の育苗管理では病害虫対策の徹底を
ランナーを切り離したら生育を促すために適宜葉かき作業を行いますが、採苗後の育苗管理で特に注意するポイントは病害虫です。ランナーの切り離し作業によってできた切り口が病害の感染経路になることもあるので、気を付けなくてはいけません。
ランナーを切り離した時期にもよりますが、育苗期間はおよそ1ヵ月半~2ヵ月程度です。その間は、農薬散布を行ってうどんこ病や炭疽病、ハダニなどの防除に努めましょう。
▼ハダニ類の防除についてはこちらの記事をご覧ください。
定植はタイミングが重要
育苗期間後半には、収量を増やすための夜冷処理を行います。苗を低温短日条件におくことで花芽分化が促進され、自然条件よりも早い時期に定植できるようになります。
苗の花芽分化を確認したら、速やかに定植しましょう。なぜなら、イチゴの定植は早くても遅くてもその後の生育や収量に悪影響を及ぼすからです。花芽分化のタイミングが自分でわからない場合は、JAなどの専門機関に依頼すると、花芽検鏡などを用いて判断してくれます。
▼イチゴの花芽分化についてはこちらの記事をご覧ください。
イチゴはクリスマスシーズンに需要が高まることから、年末にかけて市場価格が高くなりやすいのが特徴です。
夜冷処理を行っていれば一般的に9月上旬には定植でき、11月頃から収穫できるようになります。経営安定のためにもタイミングを逃さず定植し、年内出荷をめざしましょう。
▼イチゴの出荷時期と販売単価についてはこちらの記事をご覧ください。
イチゴ育苗で注目される新型のポットとトレイ
ここまでは、イチゴの自家育苗における基本的な流れを説明してきました。イチゴ育苗は慣れてしまえば難しい作業ではないものの、苗を購入するのに比べてどうしても労力がかかります。また、育苗中に病害に感染してしまうと、収量が大幅に減少してしまう可能性もあります。
そこで、ここからはイチゴの自家育苗における省力化や病害リスクの軽減に貢献する新型のポットとトレイを紹介します。
イチゴ 炭疽病 葉柄病徴
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
カタツムリポット|炭疽病予防と効率的な灌水を実現
イチゴの炭疽病では葉にかかった水分が感染を拡大させることが知られています。そのため、栽培現場で従来からよく用いられている頭上灌水は炭疽病拡大の原因となることがあり、灌水方法は課題の一つでした。その課題を解決するために考案されたのがカタツムリポットです。
カタツムリポットの特徴はポット内に設計された傾斜で、灌水時はその傾斜に沿って水が流れるよう工夫されています。点滴灌水と組み合わせれば葉に水がかかることなく、効率的な灌水が可能です。
また、水がポット全体に行き渡り、根張りがよくなることで定植の際の土はがれが起きにくく、そのまま植えられるなど、省力化にも貢献します。
カタツムリポットの製造社 Hwasung(ファソン)社
株式会社アグリベース四万十「カタツムリポット」
株式会社アグリベース四万十 公式Youtubeチャンネル「イチゴ育苗 カタツムリポット 炭そ病対策 小ロット対応可」
すくすくトレイ|培土容量と労力を削減
すくすくトレイはイチゴ用の育苗箱です。専用の鉢受け用ポットであるすくすくカップと併用することで、培土容量を従来の3分の1から5分の1程度まで減らせます。また、独特の下部形状によって高い保水性を誇り、灌水回数の削減にも効果的です。
保水性と水はけに優れ、非常に軽いのが特徴の専用培土(すくすくシステム専用培土)も用意されています。専用培土には中期以降の生育に効果のある肥料も含まれているので、追肥にかける労力を少なくしたい方は利用を検討してみましょう。
イチゴ育苗の新技術|空中採苗と底面給水
イチゴは全国各地で生産されている品目であることから、新しい栽培技術の開発が盛んに行われています。その代表が空中採苗と底面給水です。効果的なイチゴ育苗を可能にすることで注目を集めている新しい栽培技術の特徴を紹介します。
空中採苗・高設養液栽培
cozy / PIXTA(ピクスタ)
空中採苗とは高設ベンチに親株を植え、伸びたランナーを空中に浮かせた状態で育苗する方法です。従来の露地に植え付ける場合に比べ、子苗が土壌に直接触れる機会が少ないことから土壌病害リスクを減らせるのが大きなメリットといえます。
また、高設ベンチを上手に利用することで、ほ場上部の空間を有効活用できるのも特徴です。親株を立体的に配置すれば、同じ栽培面積の通常の露地栽培よりも多くの子苗を生産できます。
底面給水育苗システム
底面給水育苗システムは、水稲育苗箱と底面給水用マットを活用した育苗管理システムです。具体的には、育苗箱の底面に給水用マットを敷き、その端のほうはあえて育苗箱の外へはみださせ、下へ垂れさがるように設置します。
その後、給水マットの上に親株を植えたポットを置き、灌水チューブで育苗箱に給水すると、底面給水マットの毛細血管現象によって水稲育苗箱に溜まった余分な水が外へ排水されるしくみです。
ポット底面からの給水となるため、葉に水分が付着せず、点滴灌水と同様に炭疽病予防に効果があります。
なお、愛媛県農林水産研究所の研究では、育苗箱に150ccのポットを18株置いた場合、灌水回数(1日当たり3~4回)と水深の最適化(20mm)に気を付ければクラウン径9mm以上を実現できると報告されています。
出典:愛媛県農林水産研究所「水稲育苗箱と底面給水用マットを用いたイチゴ底面給水育苗システム」
イチゴの自家育苗では親株から伸ばしたランナーを切り離して増やしていきますが、ランナーを切り離したからといって育苗が終わるわけではありません。定植までの間に病害虫の防除や夜冷処理を適切に行わないと、満足のいく収量とはならない可能性があります。
イチゴ農家の方は、今回紹介した便利なアイテムや新しい技術を活用しながら、自家育苗に取り組んでみてください。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。