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イチゴの花芽分化を促進する方法と収量アップのポイント
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イチゴの花芽分化を促進する方法と収量アップのポイント

イチゴ農家の中には、相場の高い時期の出荷をめざして促成栽培に取り組んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、イチゴの旬は本来3~5月ごろであるため、満足のいく収量・果重を得るためには栽培方法の工夫が不可欠です。そこで、今回はイチゴの花芽分化を効果的に促進する方法を紹介します。

現在ではイチゴの促成栽培はほとんどの農家で取り入れられており、主要な栽培方法として定着しています。しかし、本来の旬とは違う時期に収穫をする作物は、工夫をしないと十分な収量を確保できないケースがあるので注意しなければいけません。

そこで、今回はイチゴの促成栽培において花芽分化を促進し、収量をアップさせる具体的な対策を紹介していきます。

イチゴの花芽

mako5483 / PIXTA(ピクスタ)

イチゴの促成栽培のメリット

イチゴで促成栽培を行う最大のメリットは、「相場の高い時期に出荷できる」ことです。イチゴに限らず、物価は需要と供給で決まるため常に変動するリスクにさらされています。特に一次産業の農業はその傾向が強く、栽培イチゴの旬である3~5月は供給過剰気味になり、出荷単価は1年の中で最も低い水準です。

その一方で、通常の露地栽培では収穫できない10~11月は供給が減ることから相場は高くなりやすく、クリスマスケーキの需要が高まる12月にかけて毎年安定した高値を維持しています。

イチゴ 主要都市の月別卸売数量・卸売価格

出典:農林水産省「青果物卸売市場調査(令和元年年間計及び月別結果)」よりminorasu編集部作成

つまり、供給が少ない10~12月ごろにかけてイチゴの出荷ができれば高収益をめざせるということで、それがイチゴの促成栽培が多くの農家で受け入れられる理由となっています。

出典:農畜産業振興機構「いちごの需給動向」

イチゴの花芽分化の条件

イチゴのポット育苗

mix / PIXTA(ピクスタ)

イチゴが花芽分化するために必要な条件は「日長(短日)」「温度(低温)」「窒素(低窒素)」の3つです。

できるだけ多くの果実を収穫するためには、花芽形成期にそれらの条件をすべて満たせるように工夫しなければいけません。

なお、日長と温度には相互作用があり、温度が低ければ長日でも花芽分化することが知られています。

また、具体的な花芽分化の条件は品種によって若干異なる点にも気を付けましょう。

例えば、短日処理を施した「女峰」や「さちのか」は平均気温24℃以下で花芽分化するのに対し、「北の輝」は22℃以下でないと花芽分化しないという試験結果もあります。

さらに、「昼温30℃以上」「夜温20℃以上」になると花芽分化の時期が遅れたり、分化率が低下したりする傾向にあるので注意が必要です。

出典:農研機構「一季成り性イチゴの短日条件下における花芽分化可能な温度 」

イチゴの花芽分化を促進する方法

これから促成栽培に挑戦しようとする農家の中には、具体的な処理方法について知りたい方もいらっしゃるでしょう。そこで、ここからはイチゴの促成栽培で花芽分化を促進する処理方法を3つ紹介します。

短日夜冷処理

ビニールハウスに遮光資材をかけ、夜間冷房をいれることで行うイチゴの短日夜冷処理

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短日夜冷処理は、8時間程度の短日処理と13℃程度の低温処理を夜のみ行う花芽分化の促進方法です。

処理はポットまたはセル成型苗に対して行い、花芽分化の条件である「日長(短日)」「温度(低温)」の2つを満たすことで安定した効果を期待できます。また、後述する低温暗黒処理と比べて窒素の影響を受けにくい点もメリットです。

具体的には苗をプレハブなどの倉庫にしまったり、ビニールハウスに遮光資材をかけたりして短日処理を行います。夜間の処理温度は必要に応じ冷房などを用いて調整します。多少高い温度帯でも時期は遅れるものの、花芽分化を促進する効果は期待できます。

出典:和歌山県「促成イチゴにおける夜冷育苗の処理効率の向上」

低温暗黒処理

12℃前後の低温で暗黒化することで花芽分化を促進する方法です。

コンテナなどにポット苗を詰めたあとは予冷庫に入れるだけでよいので、先述した短日夜冷処理に比べるとコストがかかりにくく、省力化にも貢献します。ただし、低温暗黒処理を取り入れるときは「苗の窒素レベル」に注意しましょう。

低温暗黒処理では窒素レベルが十分に下がっていないと花芽分化が起こりません。適切な花芽分化を促進するには、処理開始前における葉柄搾汁液中の硝酸態窒素濃度は200ppm以下が目安となります。

処理期間は一般的に3週間弱ですが、処理中に生えてくる新葉が黄化するケースも多いため、定植後は寒冷紗などで被覆してあげましょう。

出典:福岡県農林業総合試験場「イチゴの低温処理育苗による新促成作型の開発と安定多収生産技術の確立」

間欠冷蔵処理

イチゴの セル成型苗

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)

一度冷蔵した苗を自然条件に戻す処理を複数回繰り返す方法です。

まずは13~15℃をキープした冷蔵庫内に苗を入れ、3~4日経過後の昼前に別の苗と入れ替えます。こうした処理を2~3回繰り返すことで、短日夜冷処理と同じような効果を得られます。

また、入れ替えをすることで実質的に冷蔵庫の収納容量の2倍の苗を同時に処理できる点はメリットでしょう。

苗の入れ替えに労力はかかりますが、できるだけコストを抑えながら多くの苗の花芽分化を促したい人におすすめの方法です。

出典:農研機構「間欠冷蔵処理によるイチゴの花芽分化促進-処理技術の理論と実際-」

イチゴ花芽分化後の定植のポイント

促成栽培で多収をめざすなら、定植前に花芽分化を進めておくことが重要です。

定植前に花芽分化を進めておく理由

時期にもよりますが、花芽分化前に定植すると高温や長日にさらされやすくなり、花芽分化が遅れる可能性が高くなります。

また、ほ場には一般的に作物の生育を助長するための基肥として窒素が投入されています。つまり、花芽分化前に定植してしまうと「日長(短日)」「温度(低温)」「窒素(低窒素)」の3条件を満たすことができず、早期出荷が難しくなるというわけです。

一方、短日・低温・低窒素といった環境は、花芽分化後のイチゴの生育にとっては望ましくないため、そのまま放置していると品質が低下する懸念もあります。

以上のことから、イチゴの促成栽培においては、花芽分化のタイミングを見極めて定植することは非常に重要なのです。

イチゴの花芽分化・定植のタイミングを見極める方法

イチゴの花芽分化および定植のタイミングを見極める方法は、主に「生長点を顕微鏡で観察する(花芽検鏡)」「出蕾期や開花および収穫開始時期などから見極める」「定期的に定植した実生株の出蕾状況から推定する」の3つです。

イチゴの花芽分化と定植のタイミングを見極める方法にはどれも一長一短があるので、自らの栽培環境に適したものを選びましょう。

1. 生長点を顕微鏡で観察する方法(花芽検鏡)

花芽検鏡では、苗のクラウン部分を1枚ずつめくって花芽分化の進みを確認する

ArtCookStudio / PIXTA(ピクスタ)

顕微鏡を使って、生長点(クラウンの部分)を1枚ずつめくっていきながら花芽分化の進みを確認します。

定植時期を確認するもの正確にタイミングを見極められるものの、観察のコツをつかむまでに時間がかかる点がデメリットだといえます。

2. 出蕾期や開花および収穫開始時期などから見極める方法

出蕾期、開花開始時期、収穫開始時期のデータをもとに、定植時期を評価する方法です。実用性に優れている一方で環境条件の影響が大きく、正確に判断できないケースがある点が課題です。

イチゴの出蕾と開花

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3. 定期的に定植した実生株の出蕾状況から推定する方法

定植日を少しずつずらした実生株の出蕾状況から花芽分化開始日を推定する方法です。

実生株を4日程度の間隔で定期的に定植し、出蕾遅延株が見られなくなる定植日をその品種の花芽分化開始日として推定します。

出蕾期・開花開始時期・収穫開始時期のデータをもとに推定する方法より、評価者による誤差が少なくなる点がメリットで。しかし、生長点を顕微鏡で観察する場合に比べリアルタイムでの評価が難しい点が難点だといえます。

イチゴの花芽分化を促成する栽培方法の課題と対策

高設栽培イチゴの収穫作業

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

花芽分化を促進する栽培方法は果実の早期収穫が可能で、相場の高い時期に出荷できるようになる点はメリットですが、デメリットがまったくないわけではありません。

例えば、超促成栽培では10~11月に収穫したあとで2カ月程度にわたって収穫の中休みが発生したり、高温期の定植によって小玉化が起こりやすかったりする問題があります。

こうした問題の解決策として近年注目を集めているのが、「気化熱を利用した培地の昇温抑制技術」と「緩効性の被覆肥料によるイチゴの体内窒素濃度の調整」です。

農研機構の研究では、これらを組み合わせることで収穫の中休みを30日程度短縮できるとしています。培地の温度を調節するという観点から、株元に通したチューブに20℃程度の水を流すクラウン温度制御でも収量および果重の増加に効果があったというデータもあります。

この技術は、比較的低コストで導入できる点もメリットです。

高設栽培の場合のコストは、透湿防水シートが10aあたり15万円程度、送風のための電気料金が1作あたり3万円弱(10aあたり)と試算されています。

促成栽培の中休みに悩んでいる方は検討してみてはいかがでしょうか。

出典:農研機構「高設栽培イチゴの収穫の中休み軽減技術」

出荷前のイチゴ

muraka / PIXTA(ピクスタ)

イチゴの花芽分化を促す促成栽培を行えば単価の高い時期に出荷できるようになるため、農業所得向上に寄与します。

イチゴの花芽分化を促す要素には、日照時間や夜間の低温などがあり、自園にあった最適点を見つけるのは大変です。しかし、一度、最適点を特定し、設備や作業工程を整えられれば、再現性の高い促成栽培ができるでしょう。

中原尚樹

中原尚樹

4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。

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