【イチゴの受粉】効果的な受粉の仕方は?成功・失敗の確認方法も解説

イチゴ栽培で安定した収量・品質を確保するには、確実な受粉が不可欠です。この記事では、ハチによる自然受粉の役割とともに、天候や栽培環境による影響、人工授粉の活用ポイントについて解説します。適切な受粉管理で花粉不足や奇形果の発生を防ぎましょう。
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目次
イチゴは受粉しないとどうなる?「人工授粉」の必要性

ERI / PIXTA(ピクスタ)
イチゴは他家受粉の植物です。露地栽培では風もしくはミツバチやハエなど、その土地に生息する花粉媒介昆虫によって受粉が行われますが、施設栽培ではそれらがほぼ期待できないため、人工的な受粉によって結実させる必要があります。
イチゴの花には100本以上の雌しべがついていますが、このうち受粉しない雌しべがあると果実が十分に肥大しません。果実のサイズが小さくなる、形がいびつになるといった問題が生じ、品質低下と収量の減少につながります。

イチゴの奇形果
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
イチゴの受粉タイミングはいつ?
イチゴを受粉させるタイミングは、開花からの日数が目安になります。
イチゴの開花期を知る

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イチゴの花芽分化には品種ごとの違いがあり、「一季成り性」と「四季成り性」で条件が変わります。一般的な作型では、一季成り性品種は10月頃、四季成り性品種は5~6月頃からの開花となっています。
イチゴの花芽分化は、温度と日長の影響を大きく受けており、一季成り性品種では、5〜10℃の範囲で日長に関係なく花芽が形成されます。15〜20℃の温度帯では、短日条件下で分化が進みやすく、20〜25℃になると花芽の形成が難しくなります。25℃を超えると花芽分化は起こりません。
一方、四季成り性品種では、5〜15℃で日長の影響を受けずに花芽が形成されます。15〜20℃では多くの品種で日長にかかわらず分化が見られるものの、開花が連続しない品種も存在します。20〜25℃では長日条件下での花芽分化が可能となり、0〜5℃では植物は休眠状態に入ります。
最適な受粉タイミングを知る

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イチゴの花は雌しべが先に成熟し、そのあとに雄しべが成熟して花粉を放出する雌性先熟です。開花1日目は雄しべから花粉が出ておらず、2日目以降でないと受精できません。
また、開花から5日を過ぎると雄しべ、雌しべともに受精能力が低下し始め、受精できた場合も奇形果の発生確率が高くなる傾向にあります。
したがってイチゴの受粉は開花後2〜4日の間に済ませる必要があります。開花から5日目を迎える頃には花びらが落ち始め、受粉できなくなる恐れがあるので注意してください。
イチゴの受粉方法は?
基本的なイチゴの受粉方法と手順は次の通りです。人工授粉の方法も解説します。
1. ハウス内の温度を15~25℃に保つ

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一般的には25℃がイチゴの花粉発芽に最適な気温とされています。それ以上の温度でも受粉を行うことは可能ですが、35℃以上になると雌しべが枯死し、花粉が損傷してしまいます。また、0℃以下の低温条件においても雌しべが枯死して受粉ができなくなります。
したがって、ハウス内は受粉に適した温度で管理することが重要です。目安としては日中の温度が15〜25℃になるように設定します。
夜間は10℃程度を維持してください。春先に温度が上がり過ぎる場合は、換気や遮光によって適温を確保しましょう。
ただし、ミツバチ、ハエなどの花粉媒介昆虫の活動に最適な温度は、イチゴの生育適温とは異なります。
ミツバチが盛んに訪花活動を行う気温は20〜25℃、ヒロズキンバエ(ビーフライ)は10~35℃です。使用する花粉媒介昆虫の種類によって、ハウス内の温度設定も調節するとよいでしょう。
出典:栃木県「新技術シリーズ」所収「いちご『とちおとめ』の栽培技術」
2. 花粉媒介昆虫(ミツバチなど)を放飼する

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イチゴ栽培では、交配用のセイヨウミツバチを購入して放飼するのが一般的です。ハウスの中でミツバチにうまく花粉を媒介してもらうためには、面積に応じて適切な数の蜂郡を導入する必要があります。
目安は10a当たり1群(6,000〜8,000匹)、10a以上の連棟ハウスの場合は2郡(12,000匹)以上です。短期間の追加利用の場合は、約2,000匹の無王群を用います。
巣箱の設置場所は、昼夜の寒暖差が小さく、湿度が高過ぎない、環境変化の少ない場所にします。長時間、日光が当たると巣箱内の温度が上がり過ぎるため、ハウス内の北側もしくは西側に置いてください。その際、巣箱の入り口はなるべく日光が差し込む方向に向けるようにしましょう。
また、巣箱を作物の草丈よりも高い位置に設置すると、ミツバチがその位置を学習しやすくなります。
巣箱の設置時期は、開花期に合わせます。輸送直後は振動でミツバチが興奮しているため、10分ほど時間をおいて落ち着かせてから巣箱の入り口を開放し、ハウス内の環境を学習させましょう。
出典:一般社団法人日本養蜂協会「各種マニュアル|施設園芸農家向けマニュアル」 所収「ミツバチにうまく働いてもらうために – ハウスでの花粉交配用ミツバチの管理マニュアル」(みつばち協議会)
3. 綿棒や筆を使用した人工授粉も検討

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受粉にミツバチを利用する場合、気温の低さや天候不順によって十分な受粉が行われない可能性もあります。受粉のタイミングを逃すと収穫が見込めないため、状況によっては手作業での人工授粉も検討してください。
手作業での授粉には、綿棒や毛先の柔らかい筆を使用します。雌しべを傷つける恐れがあるため、硬いものの使用は厳禁です。
それらの先端で花の中心部を円を描くように軽く撫で、すべての雌しべに満遍なく花粉を付着させましょう。
イチゴの受粉の成功・失敗を確認する方法

イチゴの奇形果
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
イチゴの受粉が成功したかどうかを判断するには、雌しべの状態を観察します。
受粉が成功した場合、雌しべの土台となっている花托(かたく)と呼ばれる部分が膨らんで果肉となり、雌しべの子房部分が肥大して粒々のそう果(果実)となります。
このとき、雌しべの一つひとつがきちんと受粉できていれば、すべての子房が大きくなって果肉がきれいに膨らみます。
うまく受粉できなかった雌しべがある場合、その雌しべの子房は膨らまないため、果肉が部分的に大きくなっていびつな形になってしまいます。これが奇形果ができる原因です。
失敗の原因としては、花粉の発芽や花粉媒介昆虫の活動に適切な温度管理ができていなかったことが考えられます。
対策として、幅広い温度帯で天候によらず活動できるヒロズキンバエ(ビーフライ)などを導入することで、受粉の成功確率を改善できる可能性があります。(次項で解説します)
また、イチゴの雌雄器官の花粉稔性(受精能力)は、品種によって差が大きいことで知られており、栽培地域や作型に応じて花粉稔性が高い品種を試すことも有効です。
イチゴの受粉はミツバチ以外の昆虫も可能
花粉媒介昆虫としてミツバチは万能ではありません。15℃以下の低温地帯や、低日照の雨天・曇天時には活動しないという欠点があります。
また、近年では伝染病や国内外で相次ぐ大量死が原因でミツバチの供給が不足し、価格が高騰してイチゴ農家の生産コストが増加するといった課題も出てきています。
そこで近年、ミツバチに代わる花粉媒体昆虫として利用されているのがクロマルハナバチやヒロズキンバエ(ビーフライ)です。
クロマルハナバチ

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ミツバチ(働き蜂)の体長が12〜14mm程度であるのに対し、クロマルハナバチは19~20mm程度と大きく、一度に多量の花粉を持ち運べるのが特徴です。10〜30℃で活動するため、ミツバチが活動しない低温期も利用できるメリットがあります。
ヒロズキンバエ(ビーフライ)
ヒロズキンバエ(ビーフライ)もミツバチより活動できる温度幅が広く、10~35℃の温度で利用できます。島根県ではヒロズキンバエ(ビーフライ)を導入したことで奇形果が減り、イチゴの収量が6倍に増えた事例もあります。
農林水産省 Youtube公式チャンネル「イチゴの新たな花粉媒介昆虫としてのヒロズキンバエ(商品名:ビーフライ)が羽化促進装置から飛び出し、訪花する様子」
出典:
農林水産省「花粉交配用昆虫について」
農林水産省「イチゴの新たな花粉媒介昆虫としてのヒロズキンバエ(商品名:ビーフライ)の利用」
“イチゴ受粉の自動化”をかなえる最新技術を紹介
ミツバチに代わる花粉媒介昆虫としてクロマルハナバチやヒロズキンバエ(ビーフライ)の導入が進んでいることを紹介しましたが、ドローンやロボットを活用した昆虫に頼らない授粉技術の開発も進んでいます。
最新事例1:花粉入りシャボン玉ドローンを使用

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現在、国内ではドローンを活用して受粉を促す各種研究が行われています。
北陸先端科学技術大学院大学の研究チームが開発を進めているのが、花粉を含んだシャボン玉をドローンで飛ばすことで受粉を促す技術です。
当初は、底面にゲルコーティングした超小型ドローンにゲルに花粉を付けて花に接触させる方法を試しましたが、花を傷つけてしまうことがありました。
そこで、シャボン玉製造機を小型ドローンに取り付け、空中から花粉入りシャボン玉し、シャボン玉を花と接触させる方法を考案しました。
梨での試験では、手作業による人工授粉と同程度の結実率が得られました。同研究科准教授 都英次郎氏によると、必要花粉量は従来の人工授粉の3万分の1程度ということです。
出典:北陸先端科学技術大学「物質化学領域の都准教授らの研究成果がCell Pressよりプレスリリース」
最新事例2:ドローン運転時の風で受粉をサポート
ドローンを活用した受粉技術には、自動運転ドローンで開花期のイチゴに風を送ることで受粉を促すものもあります。
農業へのAI活用を事業化している株式会社LAplust(ラプラス)は、衛星データを利用できないハウス内を小型ドローンが自動航行できるシステムを開発し、この技術と風媒受粉を組み合わせ、「受粉ドローン」を開発中です。
東京都三鷹市のイチゴ栽培農家での実証を行っており、ミツバチの活動が鈍い冬季に、2〜3日に1度、10a当たり40〜50分ほどブロワーで花に風を当てるという使い方をしています。
出典:
株式会社LAplust「日本農業新聞で弊社のハウス用ドローンが紹介されました」
最新事例3:自動受粉ロボットの開発も進行中
無菌状態を保つことで病害虫リスクを減少させている植物工場では、受粉にミツバチやハエのような花粉媒介昆虫を利用することができません。
そこで、農業用ロボットの開発を手掛けるスタートアップ企業・HarvestX株式会社では、イチゴの栽培から収穫までを完全自動化するロボットの開発に取り組んでいます。
センサーを搭載した専用のロボットが花の雌しべを検知し、自動的に受粉を完了させることが可能です。また、画像を通してAIがイチゴの成熟状態を判断し、自動で果実を収穫することもできるなど、実証実験を行っている段階です。
出典:
HarvestX株式会社「新型自動受粉・収穫ロボット「XV2」を開発」
東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(略称:東大IPC)「ハーベストエックス市川友貴CEO(前編)イチゴの受粉・収穫ロボットで 日本の野菜工場技術を海外へ。 そして安定した食糧生産の実現へ――」

ERI / PIXTA(ピクスタ)
イチゴの受粉確率を上げるには、受粉のタイミングやハウスでの温度管理などが重要です。
近年ではドローンやロボットを活用して受粉を自動化する技術の実用化が期待されていますが、現在はまだミツバチやハエなど花粉媒介昆虫を利用しての受粉が一般的です。
地域の気候や品種特性などを考慮し、条件に適した方法で確実な受粉をめざしてください。
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大森雄貴
三重県伊賀市生まれ。京都を拠点に企業・団体の組織運営支援に携わった後、2020年に家業の米農家を継ぐためにUターン。現在は米農家とライターの二足の草鞋を履きつつ、人と自然が共に豊かになる未来を願いながら、耕作放棄地の再生、農家体験プログラムの実施、暮らしを大切にする経営支援などに取り組んでいる。