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イチゴの受粉方法は? ミツバチに代わる、人工授粉の新たな選択肢

イチゴの受粉方法は? ミツバチに代わる、人工授粉の新たな選択肢
出典 : ねこすす / PIXTA(ピクスタ)

ハウスでのイチゴ栽培では、花粉媒介昆虫の導入による他家受粉や人工授粉が必要です。受粉に失敗した場合、結実しなかったり、奇形果が発生したりして、収量と品質の低下につながります。本記事では効率的なイチゴの受粉方法や手順を解説します。

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品質のよいイチゴを収穫するためには、しっかりと受粉させることが重要です。本記事では、受粉の効率化や、供給不足が問題となっているミツバチに代わる花粉媒介昆虫、ドローンやロボットを活用した自動授粉技術などを紹介します。

受粉しないとどうなる? イチゴ栽培における「人工授粉」の必要性

イチゴの結実

ERI / PIXTA(ピクスタ)

イチゴは他家受粉の植物です。露地栽培では風もしくはミツバチやハエなど、その土地に生息する花粉媒介昆虫によって受粉が行われますが、施設栽培ではそれらがほぼ期待できないため、人工的な受粉によって結実させる必要があります。

イチゴの花には100本以上の雌しべがついていますが、このうち受粉しない雌しべがあると果実が十分に肥大しません。果実のサイズが小さくなる、形がいびつになるといった問題が生じ、品質低下と収量の減少につながります。

イチゴの奇形果

イチゴの奇形果
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

イチゴの受粉タイミングはいつ? 人工授粉の実施時期

イチゴを受粉させるタイミングは、開花からの日数が目安になります。

イチゴの開花期は?

イチゴの育苗 昼間に外気にあて、夜間に簡易夜冷庫にいれることで花芽分化を促す

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

イチゴの花芽分化の条件は、「一季成り性品種」と主に夏秋イチゴに向く「四季成り性品種」で異なります。

花芽分化の条件や開花期は作型や品種の早晩性などによって様々ですが、一般的な作型での開花期を紹介します。

イチゴの花芽分化と温度・日長の関係

出典:農研機構「夏秋イチゴ栽培技術に関する研修」所収「四季成り性品種の育種と現状」よりminorasu編集部作成
※実際には、温度と日長のほか、窒素量や葉齢などの条件などが関わります。

一季成り性品種は、自然条件の下では秋の低温と短日によって花芽形成し、冬を経て春に開花します。実際には促成栽培が主流であり、夏の育苗時に「夜冷短日処理」を行って花芽形成を促し、10月頃から開花させる作型が一般的です。

四季成り性品種は、「秋植え夏秋どり」「春植え夏秋どり」などの作型が主です。開花期は5~6月頃からで、真夏の中休みを経て10~11月ごろまでが開花期になります。

最適な受粉タイミングは?

イチゴの花は雌しべが先に成熟し、そのあとに雄しべが成熟する

dorry / PIXTA(ピクスタ)

イチゴの花は雌しべが先に成熟し、そのあとに雄しべが成熟して花粉を放出する雌性先熟です。開花1日目は雄しべから花粉が出ておらず、2日目以降でないと受精できません。

また、開花から5日を過ぎると雄しべ、雌しべともに受精能力が低下し始め、受精できた場合も奇形果の発生確率が高くなる傾向にあります。

したがってイチゴの受粉は開花後2〜4日の間に済ませる必要があります。開花から5日目を迎える頃には花びらが落ち始め、受粉できなくなる恐れがあるので注意してください。

【手順解説】 プロ農家向け! イチゴの効率的な受粉方法

ハウス栽培のイチゴ 開花期

maroke / PIXTA(ピクスタ)

この章では、効率的にイチゴの人工授粉を行うための方法を紹介します。

1. ハウス内の温度を15~25℃に保つ

一般的には25℃がイチゴの花粉発芽に最適な気温とされています。それ以上の温度でも受粉を行うことは可能ですが、35℃以上になると雌しべが枯死し、花粉が損傷してしまいます。また、0℃以下の低温条件においても雌しべが枯死して受粉ができなくなります。

したがって、ハウス内は受粉に適した温度で管理することが重要です。目安としては日中の温度が15〜25℃になるように設定します。

夜間は10℃程度を維持してください。春先に温度が上がり過ぎる場合は、換気や遮光によって適温を確保しましょう。

ただし、ミツバチ、ハエなどの花粉媒介昆虫の活動に最適な温度は、イチゴの生育適温とは異なります。

ミツバチが盛んに訪花活動を行う気温は20〜25℃、ヒロズキンバエ(ビーフライ)は10~35℃です。使用する花粉媒介昆虫の種類によって、ハウス内の温度設定も調節するとよいでしょう。

出典:
農研機構「平成18年度農政課題解決研修(革新的農業技術習得支援研修)の実施概要」所収「イチゴの栽培生理と基本的栽培技術(野菜茶業研究所)」
栃木県「栃木県農業試験場の研究成果」所収「いちご『とちおとめ』の花粉と雌ずいの受精能力」(第50号)

2. 花粉媒介昆虫(ミツバチ、ハエ等)を放飼する

交配用ミツバチ巣箱の設置の様子

papa88 / PIXTA(ピクスタ)

イチゴ栽培では、交配用のセイヨウミツバチを購入して放飼するのが一般的です。ハウスの中でミツバチにうまく花粉を媒介してもらうためには、面積に応じて適切な数の蜂郡を導入する必要があります。

目安は10a当たり1群(6,000〜8,000匹)、10a以上の連棟ハウスの場合は2郡(12,000匹)以上です。短期間の追加利用の場合は、約2,000匹の無王群を用います。

巣箱の設置場所は、昼夜の寒暖差が小さく、湿度が高過ぎない、環境変化の少ない場所にします。長時間、日光が当たると巣箱内の温度が上がり過ぎるため、ハウス内の北側もしくは西側に置いてください。その際、巣箱の入り口はなるべく日光が差し込む方向に向けるようにしましょう。

また、巣箱を作物の草丈よりも高い位置に設置すると、ミツバチがその位置を学習しやすくなります。

巣箱の設置時期は、開花期に合わせます。輸送直後は振動でミツバチが興奮しているため、10分ほど時間をおいて落ち着かせてから巣箱の入り口を開放し、ハウス内の環境を学習させましょう。

出典:一般社団法人日本養蜂協会「各種マニュアル|施設園芸農家向けマニュアル」所収「ミツバチにうまく働いてもらうために – ハウスでの花粉交配用ミツバチの管理マニュアル」(みつばち協議会)

3. 状況に応じて、手作業での人工授粉も検討

手作業によるイチゴの人工授粉

pressmaster - stock.adobe.com

受粉にミツバチを利用する場合、気温の低さや天候不順によって十分な受粉が行われない可能性もあります。受粉のタイミングを逃すと収穫が見込めないため、状況によっては手作業での人工授粉も検討してください。

手作業での授粉には、毛先の柔らかい筆や耳かきのさじの反対側についている梵天、女性用のフェイスブラシなどを使用します。雌しべを傷つける恐れがあるため、硬いものの使用は厳禁です。

それらの先端で花の中心部を円を描くように軽く撫で、すべての雌しべに満遍なく花粉を付着させましょう。

成功? 失敗? 受粉の成否を確認する方法

イチゴの奇形果

イチゴの奇形果
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

イチゴの受粉が成功したかどうかを判断するには、雌しべの状態を観察します。

受粉が成功した場合、雌しべの土台となっている花托(かたく)と呼ばれる部分が膨らんで果肉となり、雌しべの子房部分が肥大して粒々のそう果(果実)となります。

この時、雌しべの一つひとつがきちんと受粉できていれば、すべての子房が大きくなって果肉がきれいに膨らみます。

うまく受粉できなかった雌しべがある場合、その雌しべの子房は膨らまないため、果肉が部分的に大きくなっていびつな形になってしまいます。これが奇形果ができる原因です。

失敗の原因としては、花粉の発芽や花粉媒介昆虫の活動に適切な温度管理ができていなかったことが考えられます。


対策として、幅広い温度帯で天候によらず活動できるヒロズキンバエ(ビーフライ)などを導入することで、受粉の成功確率を改善できる可能性があります。(次項で解説します)

また、イチゴの雌雄器官の花粉稔性(受精能力)は、品種によって差が大きいことで知られており、栽培地域や作型に応じて花粉稔性が高い品種を試すことも有効です。

近年はミツバチに代わる花粉媒介昆虫も

花粉媒介昆虫としてミツバチは万能ではありません。15℃以下の低温地帯や、低日照の雨天・曇天時には活動しないという欠点があります。

また、近年では伝染病や国内外で相次ぐ大量死が原因でミツバチの供給が不足し、価格が高騰してイチゴ農家の生産コストが増加するといった課題も出てきています。

そこで近年、ミツバチに代わる花粉媒体昆虫として利用されているのがクロマルハナバチやヒロズキンバエ(ビーフライ)です。

クロマルハナバチ

クロマルハナバチ

cozy / PIXTA(ピクスタ)

ミツバチ(働き蜂)の体長が12〜14mm程度であるのに対し、クロマルハナバチは19~20mm程度と大きく、一度に多量の花粉を持ち運べるのが特徴です。10〜30℃で活動するため、ミツバチが活動しない低温期も利用できるメリットがあります。

ヒロズキンバエ(ビーフライ)

ヒロズキンバエ(ビーフライ)もミツバチより活動できる温度幅が広く、10~35℃の温度で利用できます。島根県ではヒロズキンバエ(ビーフライ)を導入したことで奇形果が減り、イチゴの収量が6倍に増えた事例もあります。

農林水産省 Youtube公式チャンネル「イチゴの新たな花粉媒介昆虫としてのヒロズキンバエ(商品名:ビーフライ)が羽化促進装置から飛び出し、訪花する様子」

出典:
農林水産省「花粉交配用昆虫について」
農林水産省「イチゴの新たな花粉媒介昆虫としてのヒロズキンバエ(商品名:ビーフライ)の利用」
株式会社日本農業新聞「イチゴ授粉 期待の助っ人 ミツバチ代わり 有望 医療用ヒロズキンバエ」(日本農業新聞 2017年05月30日)
株式会社朝日新聞社「イチゴの授粉にハエ、ハチの弱点補う 医療でも熱視線」(朝日新聞 2019年10月21日)

昆虫だけじゃない! “イチゴ受粉の自動化”をかなえる最新技術

ミツバチに代わる花粉媒介昆虫としてクロマルハナバチやヒロズキンバエ(ビーフライ)の導入が進んでいることを紹介しましたが、ドローンやロボットを活用した昆虫に頼らない授粉技術の開発も進んでいます。

この章では、イチゴ受粉の自動化を叶える最新技術について、その概要やしくみ、実用化の際に期待されている効果について紹介します。

花粉入りシャボン玉ドローンを使った研究例

シャボン玉

Graphs / PIXTA(ピクスタ)

現在、国内ではドローンを活用して受粉を促す各種研究が行われています。

北陸先端科学技術大学院大学の研究チームが開発を進めているのが、花粉を含んだシャボン玉をドローンで飛ばすことで受粉を促す技術です。


当初は、底面にゲルコーティングした超小型ドローンにゲルにに花粉を付けて花に接触させる方法を試しましたが、花を傷つけてしまうことがありました。

そこで、シャボン玉製造機を小型ドローンに取り付け、空中から花粉入りシャボン玉し、シャボン玉を花と接触させる方法を考案しました。

梨での試験では、手作業による人工授粉と同程度の結実率が得られました。同研究科准教授 都英次郎氏によると、必要花粉量は従来の人工授粉の3万分の1程度ということです。

出典:
北陸先端科学技術大学「物質化学領域の都准教授らの研究成果がCell Pressよりプレスリリース」
株式会社日経BP「[サイエンスStudy]シャボン玉で人工授粉成功 手作業と同じ確率で」(日経クロステック 2020年6月30日 5:00)
株式会社日本農業新聞「シャボン玉 授粉成功 ドローン活用も 果樹で北陸先端大学」(日本農業新聞 2020年7月19日)

運転時の風で受粉をサポート! ドローンを使った風媒受粉

株式会社LAplust AI研究室 Youtube公式チャンネル「200615屋内用全自動受粉ドローンPoC」

ドローンを活用した受粉技術には、自動運転ドローンで開花期のイチゴに風を送ることで受粉を促すものもあります。


農業へのAI活用を事業化している株式会社LAplust(ラプラス)は、衛星データを利用できないハウス内を小型ドローンが自動航行できるシステムを開発し、この技術と風媒受粉を組み合わせ、「受粉ドローン」を開発中です。

東京都三鷹市のイチゴ栽培農家での実証を行っており、ミツバチの活動が鈍い冬季に、2〜3日に1度、10a当たり40〜50分ほどブロワーで花に風を当てるという使い方をしています。

出典:
株式会社LAplust「【開発中】受粉ドローン」
株式会社日本農業新聞「ハウス用ドローン誕生 風送りイチゴ授粉 ラプラス製品化へ」(日本農業新聞 2021年1月10日)

手作業の人工授粉を完全再現?! 自動受粉ロボットの開発も進行中

HarvestX株式会社 Youtube公式チャンネル「HarvestX: Plant Pollinating & Harvesting Robots for Future Farming」

無菌状態を保つことで病害虫リスクを減少させている植物工場では、受粉にミツバチやハエのような花粉媒介昆虫を利用することができません。

そこで、農業用ロボットの開発を手掛けるスタートアップ企業・HarvestX株式会社では、イチゴの栽培から収穫までを完全自動化するロボットの開発に取り組んでいます。

センサーを搭載した専用のロボットが花の雌しべを検知し、自動的に受粉を完了させることが可能です。また、画像を通してAIがイチゴの成熟状態を判断し、自動で果実を収穫することもできます。

現在は実証実験を行っている段階ですが、同社によれば実用化まであと一歩のところまで迫っているとのことです。

出典:
HarvestX株式会社「新型自動受粉・収穫ロボット「XV2」を開発」
東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(略称:東大IPC)|ハーベストエックス市川友貴CEO(前編)イチゴの受粉・収穫ロボットで 日本の野菜工場技術を海外へ。 そして安定した食糧生産の実現へ――」

結実したイチゴ

ERI / PIXTA(ピクスタ)

イチゴの受粉確率を上げるには、受粉のタイミングやハウスでの温度管理などが重要です。

近年ではドローンやロボットを活用して受粉を自動化する技術の実用化が期待されていますが、現在はまだミツバチやハエなど花粉媒介昆虫を利用しての受粉が一般的です。

地域の気候や品種特性などを考慮し、条件に適した方法で確実な受粉をめざしてください。

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大森雄貴

大森雄貴

三重県伊賀市生まれ。京都を拠点に企業・団体の組織運営支援に携わった後、2020年に家業の米農家を継ぐためにUターン。現在は米農家とライターの二足の草鞋を履きつつ、人と自然が共に豊かになる未来を願いながら、耕作放棄地の再生、農家体験プログラムの実施、暮らしを大切にする経営支援などに取り組んでいる。

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