【イチゴの促成栽培】出荷時期の調整で売上アップ
イチゴの多くの産地では、促成栽培を導入し、出荷時期を早めることで売上アップを図っています。この記事では、さらに作型を工夫することで、取引価格の高い時期を狙う栽培方法を紹介します。
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現在ほとんどのイチゴは促成栽培ですが、さらに出荷時期を調整することで取引価格の高い時期の出荷が可能になります。
イチゴの月別卸売価格の推移から見る、高単価を目指せる出荷時期
Table-K / PIXTA(ピクスタ)
2019年の1年間に、全国で生産されたイチゴの卸売数量は約13万tで、卸売価格の平均は1kg当たり1,268円でした。イチゴは季節によって収穫量が大きく変わるため、需要との兼ね合いで価格も大きく変動します。
ここからは2020年に発表された、農林水産省の「青果物卸売市場調査」データをもとに、2019年のイチゴの出荷状況について分析します。調査対象は全国主要都市に位置する、合計112社の卸売会社です。
対象全体での卸売数量は88,630tで、卸売価格の平均は1kg当たり1,360円でした。
出典:農林水産省「青果物卸売市場調査(令和元年年間計及び月別結果)」よりminorasu編集部作成
イチゴの出荷端境期に単価は上昇する
イチゴの出荷シーズンが始まるのは11月で、1kg当たり単価は、1,800円台の高値でスタートします。クリスマスがある12月には2,000円を超えています。
卸売数量が1万tを超える1月には、1,500円を割り、卸売数量がピークを迎える4月には1,000円前後まで下落します。
ところが、国内の卸売数量がほぼなくなる7月から10月まで1,900円から2,400円という高値の時期が続きます。
ケーキなどのスイーツ向けの生鮮イチゴの需要は年間通してあるのにかかわらず、国産イチゴは端境期にあたるため、卸売価格が高くなるのです。
この期間の生鮮イチゴの需要は、海外からの輸入でまかなわれています。
出典:農林水産省「農林水産物輸出入統計 令和元年」よりminorasu編集部作成
収益を上げるには「早期収獲」と「収穫期間の拡大」がポイント
イチゴの卸売価格の推移からみると、高単価での出荷をめざすには、「早期収獲」と「収穫期間の拡大」がポイントになります。
・早期収穫:需要が特に高くなる12月をターゲットに収穫ピークを前倒しする
・収穫期間の拡大:端境期にかかる10月から7月まで収穫期間を拡大する
端境期にかかっている10月からの早期出荷をする場合は、8月下旬までに定植を行う必要があります。
この作型の促成栽培ができれば、栽培面積を増やすことなく売上高アップを図ることが可能です。
出荷時期を考慮したイチゴの促成栽培
bee / PIXTA(ピクスタ)
イチゴの促成栽培で、早期収穫あるいは収穫期間の拡大を図るには、花芽分化の時期を出荷時期にあわせてコントロールすることが必要で、下記2点が重要です。
1. 花芽分化の促進が可能な品種の選定
2. 花芽分化の促進処理
改めて高単価での出荷をめざすイチゴ促成栽培についてポイントを確認してみましょう。
・早期収穫:需要が特に高くなる12月をターゲットに収穫ピークを前倒しする
・収穫期間の拡大:端境期にかかる10月から7月まで収穫期間を拡大する
この2つを目標に、8月に花成誘導処理と定植を行う作型の促成栽培について、ここからステップごとに紹介します。
cozy / PIXTA(ピクスタ)
品種選定
今回紹介するイチゴ栽培では、まず品種選びが重要になることは前に述べたとおりです。
イチゴは5℃以下の休眠状態を経験することで、その後花芽を形成する準備が整います。品種としては休眠状態が短く、休眠打破が容易なものを選ぶ必要があります。
採苗・育苗
10月中に収穫を開始するためには、6月下旬までに本葉2~3枚の状態で行います。
ウイルスフリー苗を用いること、育苗期の病害虫防除の徹底など、そのほかの栽培管理は、一般的な作型の促成栽培と同様です。
ただし、育苗期が通常の促成栽培より高温になるため、温度管理には特に注意する必要があります。
花成誘導処理
8月上旬以降に、品種に合わせた花成誘導処理を行い花芽分化を促します。
一季成り品種では、短⽇夜冷処理や間⽋冷蔵処理、四季成り性品種では⻑⽇処理といった処理を行います。
この作型では、通常の作型よりも高温の状況下で花成誘導処理を行うため、花芽分化が不安定になりやすい点には十分に注意してください。処理開始の15日ほど前から50%の遮光を行うと、花芽分化を安定させられます。
定植準備~定植
定植前には十分に土壌消毒を行います。この時期から高温対策として、多層断熱被覆資材でハウスを覆う、気化潜熱利用の培地冷却などの高温対策を実施することをおすすめします。
促成栽培の場合は花芽分化を確認したら、すぐに定植を行います。この時にも温度管理と同時に苗の活着を促すために、10~20日ほど50%の遮光をするとよいでしょう。
施肥について
8月に定植をする場合には、肥料のほぼ全量を緩効性のタイプにして、窒素成分で10a当たり20kg以下を目安に施肥を行います。品質を高めるため、10a当たり1~2tの有機物肥料を投入した土作りもおすすめです。
イチゴの促成栽培で重要な肥料成分としては、糖度をアップするためのカリウムや、果実の強度を維持するためのホウ素、収穫後の鮮度を保つためのカルシウムなどが挙げられます。
追肥に窒素成分を与えすぎると、病害の発生やイチゴ果実が傷みやすくなるなどのリスクが高まります。しかし、成長期に窒素が不足しても果実の成熟が遅れる原因になるので、追肥の時期と施肥量の検討は慎重に行ってください。
定植後の管理-1:10月収穫まで
定植してから9月下旬までは、ハウス内の温度管理に特に気をつけます。多層断熱被覆資材をうまく利用したり、培地栽培の場合は終日送風したりなどして高温による影響を抑制しましょう。
開花時期は9月になるので、受粉作業の準備も早めに始めるようにします。この時期には病害虫の防除も適切に行います。
イチゴが順調に生育すれば、10月中旬~下旬には収穫を始められるでしょう。
定植後の管理-2:3月収穫まで
11月以降は高温期とは反対に、ハウス内の保温管理をしなければなりません。ハウス内の内張りや、加温や電照により最適な温度を維持します。そのほかの栽培管理は、一般的な作型の促成栽培と同様に行います。
定植後の管理-3:7月収獲まで
4月以降は徐々に気温が上がってくるので、再び高温の影響を受けないような温度管理を始めます。ここから7月までは、梅雨を挟んで天候が安定しない時期なので、気温の急変が起こりやすくなります。ハウス内の温度管理をこまめに行いましょう。
加えてアザミウマ類などの害虫が発生しやすくなるため、受粉媒介昆虫に影響が出ないよう配慮しながら、害虫防除をしっかりと行いましょう。
促成栽培イチゴの品質を上げるためのコツ
YUMIK / PIXTA(ピクスタ)
葉かきの量を変える
イチゴの品質は第1に味です。消費者が求めるおいしいイチゴは、糖度が高く、ほどよく酸味がきいたものです。促成栽培では2~3月に糖度が低下することがありますが、葉かきの量を減らすことで品質を維持することができます。
2~3月の低温期には草勢が弱まり、葉面積が減少することがあります。この時に通常の葉かきを行うと、品質の低下をまねくかもしれません。通常の葉かきとは、株の下側で大きくなった葉を定期的に除去することです。
東京都農林水産振興財団が行った研究によると、2~3月期の葉かきは枯れた葉のみを対象にして、葉かき作業を大幅に軽減したところ、イチゴの果実に明確な糖度の上昇が見られました。さらに4~5月期でも同様の方法で、同様の結果が得られたそうです。
定期的な病害虫防除
ほかにもイチゴの促成栽培では、炭そ病やうどんこ病、アザミウマ類やハダニ類・アブラムシなど、病害虫対策が重要です。収量を確保し良品率を高めるためにも、定期的な防除作業を心がけましょう。
イチゴは年間を通して需要がある作物です。端境期にかかるように収穫期間を拡大することで、高単価での出荷が可能になり、単収アップが見込めます。今回紹介した新しい作型の促成栽培を含め、収穫時期をずらす栽培技術の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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大澤秀城
福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。