【土作り】土壌pHはどう測る? 作物の生育に適したpH値の測定&調整方法
土作りの際に、土壌養分と並んで重要になるのが土壌pHの調整です。土壌pHの正しい計測方法やpH値の示す意味を知れば、より作物の生育に合った土作りが可能です。pH測定ができる測定器も手軽に入手できるので、日頃からpH値を適切に保ちましょう。
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目次
土壌のpHは作物の生育に大きく関わるといわれ、品質や収量の向上には、土壌pHを作物に合わせて最適な値に調整することが重要です。そこで、この記事ではpHの意味や作物への影響、測定方法と測定器、調整方法などについて詳しく解説します。
そもそもpHとは? 土壌のpHが作物の生育に与える影響
Svetolk / PIXTA(ピクスタ)
土壌pHの値は、作物にとって育ちやすい土壌環境か否かを知るために役立ちます。しかし、計測してもその意味を正しく理解していなければ、土壌環境の適切な調整ができません。まずはpHが何を表し、作物の生育にどう影響するのか、しっかり理解しましょう。
農家が必ず知っておきたい、土壌pHの基礎知識
pH(ペーハーまたはピーエイチ)とは「水素イオン濃度」の略称で、水溶液に含まれる水素イオンの濃度のことです。水素イオン濃度は水溶液の酸性・アルカリ性の強さを0~14の値で表し、値が大きいほどアルカリ性が、小さいほど酸性が強いことを示します。
土壌pHは、土壌に含まれる水素イオン濃度、つまり酸性・アルカリ性の強さを示す指標です。数値によって「弱酸性」や「強アルカリ性」などと表されますが、こうした区分けには統一の基準がなく、農水省や都道府県などでも資料ごとに少しずつ区分けの範囲や呼び方が異なります。
この記事では、以下の表のように9つの区分けで説明します。また、作物にもそれぞれ生育に適したpHがあるので、代表的な作物について、それぞれ最適なpHの領域に分けて一覧にします。
上の表に見られるように、ほとんどの作物が弱酸性から微酸性に集中しています。ところが、降雨が多い日本では、弱酸性である雨水に土壌中の交換性塩基が流されて溶脱し、代わりに水素イオンが土壌に残るため、土壌は酸性に傾きがちです。
そのため、作物に最適なpHとするにはほとんどの場合において、適宜土壌環境の調整が必要です。
土壌pHが酸性やアルカリ性に傾いたら農作物はどうなる?
土壌pH値が、作物に適したpHよりも酸性あるいはアルカリ性に傾いた場合、作物にはどのような影響があるのでしょうか。
1つ目に、酸性に傾いた土壌では植物の根が傷むことが挙げられます。そして、リン酸が持つある性質によって、作物に必要な養分であるリン酸を吸収しにくくなります。
リン酸は土壌中に単独で存在することはなく、鉄・アルミニウム・カルシウムのいずれかの元素と結合しています。このうち、植物が吸収するのはカルシウムに結合したリン酸だけで、鉄やアルミニウムと結びついたリン酸は吸収できません。
ところが、土壌が酸化すると、岩石成分の中から鉄とアルミニウムが土壌中に溶け出します。その結果、多くのリン酸が土壌中の鉄やアルミニウムと結びついてしまい、植物がリン酸を吸収できなくなってしまうのです。
イチゴの生理障害の1つ「白ろう果」 低温、日照不足のほか、土壌が酸性に傾き過ぎている場合に発生
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
2つ目に、酸性土壌の影響として、アルミニウムによる作物への害があります。
日本の土壌は多くが火山灰土壌で占められていますが、火山灰土壌が酸性に傾くとアルミニウムが多く溶け出し、土壌に溶け出したアルミニウムが作物に吸収されてしまいます。アルミニウムは作物の根に強い毒性を示すので、根の伸長が抑制されるのです。
反対に、土壌がアルカリ性に傾いた場合には、やはり植物にとって必須養分であるリン酸や鉄などの成分が不活化して、作物が養分を吸収できなくなり、栄養不足に陥ります。
そうなると生育も悪くなり抵抗力も衰えるため、風害や塩害などで一気に弱ったり、酷い場合は枯死したりするリスクが上昇するのです。
日本では、自然の状態でアルカリ性の土壌になることはありませんが、石灰などのアルカリ性資材を多用したり、ハウス栽培を繰り返したりした場合に、アルカリ性の土壌になるケースが見られます。
自分でできる! 土壌pH値を測る2つの方法とそれぞれのメリット
農家が自分で土壌のpHを測る方法には、ほ場の土壌へ直接測定器を差し込む「ダイレクト測定」と、ほ場の土壌を蒸留水と混ぜその上澄み液のpHを測る「ガラス電極法」の2種類があります。
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ガラス電極法は、従来行われてきた方法で、測定結果には高い信頼性があります。
ただ、ほ場の数カ所から採土したり蒸留水を用意したり、正確に分量を量ったりするだけでなく、時間をかけて撹拌したり、時間をかけて上澄みを取ったりするなど、労力と時間がかかることが難点です。また、根を傷つけるおそれがあるため、作物周囲の土を測定できないというデメリットもあります。
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一方、ダイレクト測定は専用の測定器を準備し、その電極(センサー)を、直接ほ場の土壌に突き刺して測定します。時間や手間をかけずに、作物の根に近い土を測定できる点がメリットです。また、センサーは土壌のほか、上澄み液や肥料溶液の測定にも使えます。
ただし、土壌の中は成分が均一ではなく少しずれると数値が変わってしまうので、ほ場全体のpH測定値としては信頼性に欠けます。
それでは、それぞれのpH測定方法を具体的に説明します。
土壌pH値の測定方法1. 簡易な「土壌ダイレクト測定」
prathanchorruangsak /PIXTA(ピクスタ)
まずは、気軽に実施できる土壌ダイレクト測定の方法とコツ・注意点を解説します。
土壌ダイレクト測定のやり方
土壌ダイレクト測定には、専用の土壌pH測定器を使用します。さまざまな測定器が販売されていますが、いずれも先端が棒状あるいは杭のような形で、土に深く差し込めるようになっています。
1:土が乾燥していると測定できないので、事前に測定場所の周囲の土を蒸留水で濡らします。バケツ1杯程度の蒸留水などを撒き、20~30分おいてから「手で握ってみて団子になるくらい」の湿り気にするくらいが大体の目安です。
2:先端部分にセンサーを土壌のpHを測りたい箇所に差し込みます。
上手な測定のポイント
土壌ダイレクト測定は手軽にできる反面、数値の正確性に問題が残ります。そこで、より測定値の信頼を上げるためのポイントをいくつか紹介します。
まず、測定前に土を濡らす際には、水道水を使わないことが大切です。水道水には多くの成分が含まれ、それ自体がpHを持っています。そのため、水道水のpHが測定値に影響を与えてしまうので、必ず蒸留水か純水、精製水や脱イオン水を使いましょう。
また、土壌ダイレクト測定はピンポイントの測定なので、測るたびに値が異なってしまうことがあります。その場合は初めに一度、ガラス電極法を行ってより信頼性の高い数値を基準として得て、その後ダイレクト測定を併用するのもいいでしょう。
定期的に測定をして推移を記録したい場合には、毎回、測定ポイントや深度・水量などの測定条件を揃えて、同じ条件で行いましょう。
土壌ダイレクト測定に対応した測定器(pHメーター)の例
土壌pHをダイレクト測定できる測定器には多くの製品があります。値段は500円くらいのものから2万円近いものまで幅広いので、手軽さや信頼性など、何を重視するのか目的を明確にして適切な製品を選びましょう。
ここでは2つの製品について紹介します。
1つめは、ハンナ インスツルメンツ・ジャパン株式会社の「土壌ダイレクトpHテスター/HI 981030」です。同社の従来品は高性能ゆえに価格も高めなのが難点でしたが、この製品はその難点をなくし、性能をそのままに価格を抑えポケットサイズにした製品です。
先端が円錐形で土と密着する面積が広く、精度の高い測定ができます。上澄み液や溶液も測定できるので、幅広く使えるのも魅力です。本体に、電極部分の保護キャップ、電極洗浄液、電極保存液と電極内部液、さらにボタン電池がセットになって21,000円です。
●ハンナ インスツルメンツ・ジャパン株式会社「土壌ダイレクトpHテスター/HI 981030」
ハンナジャパン Youtube公式チャンネル「【土壌へ直接使える!】土壌酸度計として人気!pH計(酸度計)の使い方、メンテナンス方法」
もう1つは、シンワ測定株式会社の「土壌酸度(pH)計A」です。同じくセンサー電極部が円錐形で、広い面積で土壌と密着して高精度な測定が可能です。約1分間、地面に直接差し込むだけで土壌pHを測定できます。高品質でありながら電池を使わずに測定でき、価格は6,300円(税別)です。
土壌pH値の測定方法2. より信頼できる「上澄み液を用いたガラス電極法」
次に、もう1つの測定方法である上澄み液を用いたガラス電極法について、具体的なやり方、測定のポイントとおすすめ製品を紹介します。
ガラス電極法のやり方
試料の採取
5ヵ所の土壌を混ぜ合わせる
土壌と5倍量の精製水を攪拌
懸濁液をpHメーターで測定
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
上澄み液での測定は、まず測定するほ場の土壌採土から始まります。時期は作物の収穫を終え、次作の耕起をする前がよいでしょう。ガラス電極法では、pHメーターのほか、100mL容ポリ瓶(フタ付き)、計量カップ、蒸留水が必要です。
1:ほ場の対角線上の交点と、4つ角の5地点から、1点当たり200g程度、合わせて500g~1kg採取土する
2:採取した土をよく混ぜ、風通しのよいところに薄く広げて風乾し風乾土を作る
3:風乾土20gを100mLポリ瓶に入れ、蒸留水50mLを加えて30分間浸透する
4:1時間ほど放置して浸透させた後、軽く振って懸濁液を作る
5:あらかじめ準備しておいたpHメーターを4に浸す
6:数値が安定したら、その数値を読み取る
上手な測定のポイント
土壌pHは、乾土1:水2.5の割合の懸濁液を作って測ります。風乾土の量がもっと少ない場合でも、この割合で作れば問題ありません。
また、土壌ダイレクト測定と同様、水道水は使わず蒸留水などを用意します。また、センサーの電極はデリケートです。専用の溶剤があればそれで洗浄し使用しましょう。
pHメーターを浸す際は、透き通った上澄み液では正確に計れません。必ず上澄み液を軽く振って懸濁液にしてから測ることがポイントです。
ガラス電極法に対応した測定器(pHメーター)の例
ガラス電極法の測定器も、多くの製品がありますが、その中からハンナ インスツルメンツの「EC計/HI 9814D」を紹介します。農業・水耕栽培向けの測定器で、土壌の上澄み液や養液を図ることができます。電極には1mのケーブルが付いているので作業しやすいです。
そして、1つの標準液でpHだけでなく、同じく土壌の診断に重要なEC(Electrical Conductivity:電気伝導度)を同時に測定できます。さらに、電極を替えれば土壌ダイレクトpH計としても使えるという万能の1台です。価格は、本体とpH/EC簡易標準液3袋、電極洗浄液3袋、単四アルカリ電池3個がセットで48,000円(税別)です。
製品のホームページはこちらです。
●ハンナ インスツルメンツ・ジャパン株式会社「EC計/HI 9814D」
ほ場のpH値がわかったら? 作物に応じた適正pH値へ調整する方法
ほ場のpH値を測ったら、作付けする作物の適正なpH値への調整が必要です。その方法について、具体的に説明します。
土壌が酸性に傾いている場合
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測定の結果pH値が低く、酸性土壌をアルカリ性に近づけたい場合は、石灰などのアルカリ性資材を施用します。施用量は、pH値をいくつ上げたいのかと、もともとのほ場の土壌の質によって変わります。
必要な施用量を正確に計算するには、非常に複雑な計算式を使わなければならないので、あまり実用的ではありません。そこで、土壌の酸性矯正用の炭酸カルシウム(炭カル)施用量を求める簡便法として古くから用いられているのが、アレニウス表による換算法です。
この換算法によれば、「砂質土」「粘質土」「黒ボク土」土壌の質別に、pH値を1.0上げるために施用すべき炭カルの量は以下の通りです。
「砂質土」の場合:炭カルを10a当たり約100kg、10cm深さに施用します。
「粘質土」の場合:炭カルを10a当たり約200kg、10cm深さに施用します。
「黒ボク土」の場合:炭カルを10a当たり約350kg、10cm深さに施用します。
また、炭カルではなく消石灰を使用する場合は、この量に0.74を掛けた量を施用します。
アレニウス表を用いた石灰資材の施用量の求め方の詳細はこちらの記事をご覧ください。
土壌がアルカリ性に傾いている場合
アルカリ性土壌を酸性に近づける場合は、基本的に人間が手を加えなければ自然に酸性に偏っていくので、まずアルカリ資材の施用を中止します。そのうえで、ピートモスや硫安、塩安、硫加、硫黄華などの酸性肥料を施用します。
先ほどの換算法によって「砂質土」「粘質土」「黒ボク土」別に、pH値を1.0下げるために施用すべき硫黄華の量は以下の通りです。
「砂質土」の場合:硫黄華を10a当たり約55kg、10cm深さに施用します。
「粘質土」の場合:硫黄華を10a当たり約80kg、10cm深さに施用します。
「黒ボク土」の場合:硫黄華を10a当たり約240kg、10cm深さに施用します。
yukiotoko / PIXTA(ピクスタ)
土壌pHを適正に保つことは、作物が健全に生育し安定した収量・品質を得るために不可欠です。正確なpH値を計るのは少し大変ですが、計測器も入手しやすいので、ぜひ土壌管理としてpHの測定と調整を取り入れ、作物にとって最適な土壌を作りましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。