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地産地消のメリット・デメリット|農家が得られる効果と経営事例

地産地消のメリット・デメリット|農家が得られる効果と経営事例
出典 : Mugimaki/PIXTA(ピクスタ)

各地で推進されている地産地消の取り組みには、その地域の農業を活性化するというメリットがあるものの、消費者には伝わらないデメリットも存在します。この記事では、地産地消のメリット・デメリットを分析しながら、問題解決に向けた取り組み事例についてもご紹介します。

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現在、直売所や道の駅を中心に全国で地産地消の取り組みが行われています。農家にとっては収益性の向上や販路拡大など多くのメリットがある一方で、いくつかの問題点も浮上しています。この記事では、地産地消のメリット・デメリットについて解説します。

農林水産省が推進する「地産地消」の考え方

野菜直売所で販売される新鮮なトマト

ささざわ/PIXTA(ピクスタ)

「地産地消」という言葉は、1980年代初頭から徐々に使われるようになりました。当時は農林水産省が音頭を取り、その後も地産地消推進検討会などを立ち上げて、継続的に地産地消の取り組みを推奨しています。

ここで農林水産省が推進する「地産地消の定義」についてまとめておきましょう。地産地消とは、地域で生産された農産物をその地域で消費することによって、農業関係者と消費者を結びつける試みのことです。

具体的な取り組みとしては、直売所や量販店などで地域の農産物を販売したり、学校給食・病院食・老人福祉施設の食事などに、積極的に地域の農産物を利用したりすることが挙げられます。

今後も、食糧自給率の向上やフードマイレージの考え方などをもとに、地産地消の取り組みは推進されていくでしょう。

「地産地消」のメリット:「直売所」「道の駅」に出荷する場合

農産物 直売所

coconeco/PIXTA(ピクスタ)

では、実際に現在各地で行われている地産地消の取り組みから、どのようなメリットが生まれているのでしょうか。ここでは、直売所や道の駅への出荷を例に考えてみましょう。

【メリット-1】ファンが増える・顧客の声が生かせる

直売所や道の駅では「生産者の顔が見える野菜」という表現をよく目にします。

消費者は、「生産者の顔が見える」ラベルを見て、読んで、生産農家の顔だけでなく、栽培にかけるこだわりや品種の魅力、自分が暮らす地域の農業の姿の一端を知ることになります。

結果として、リピーターになる消費者が増え、また、農家は直売所への出荷時などに、消費者のリアルな声を聞き取ることもできます。

消費者との交流や直売所担当者との検討を重ねれば、消費者のニーズに応じた栽培暦を立てることができ、新しい品種の導入などにもつながるでしょう。

【メリット-2】比較的利益率が高い

市場を通した出荷は、一度取り引きを開始すれば安定した出荷が可能です。一方、一定の手数料がかかり、相場によって価格が大きく変動するリスクもあります。

また、農家自身がインターネット通販を始めることもできますが、顧客の開拓は簡単ではなく、送料を考慮する必要あります。

直売所を利用する収益面のメリットとしては、農家自らが価格や出荷量を決められることと、比較的利益率が高いことが挙げられます。直売所における一般的な手数料は販売価格の15%前後で、残りが農家の収入になります。

【メリット-3】通常の販路では売りにくい商品も販売できる

直売所は委託販売が多いため、農家は、流通側の規格に縛られず自由な形態で農産物を販売することが可能です。少量販売や規格外品の販売など、一般小売店ではできない方法でも販売することができます。

スーパーのような一般的な小売店では、小売店の規格に合った商品以外は販売できません。直売所や道の駅なら、規格外の野菜や果実を加工して販売することもできます(注:作物を加工して販売する場合には保健所を通した食品衛生法の営業許可が必要)。栽培した農産物を余すことなく消費者に届けられるのです。

農家にとってはデメリットも。「地産地消」が抱える問題点

畑で収穫された野菜

Fast&Slow/PIXTA(ピクスタ)

このようにメリットが多い地産地消の取り組みですが、農家にとってデメリットになる点もあります。どのような課題があるのか、具体的に検証してみましょう。

【デメリット-1】出荷・販売にかかるコスト増で負担が大きい

直売所での販売に関しては、基本的に直売所へ農産物を搬入するのは農家自身です。商品としてのパッケージングから搬入、そして売れ残った商品の回収までを一貫して農家が行わなければなりません。つまり、作物生産以外の作業負担が増えるわけです。

安定的に売れれば、出荷から販売・代金回収までにかかるコストはあまり負担になりませんが、安定的に売れない場合はこれらのコストが重くのしかかってきます。売れ残りは再出荷するわけにもいかないため、その都度ロスになる可能性もあります。

【デメリット-2】学校給食での使用は「一定量の安定的生産」が課題

学校給食での地産地消にも課題があります。農林水産省が行った調査によると、給食で地域の農産物を使う場合について、「量が揃わない」「種類が少ない」などの意見が多く、農家にとって安定供給が大きな課題となっています。

規格外の野菜なども利用する場合には、形や大きさが不揃いのため、調理員の負担が大きくなるという意見もあります。これでは地域の農産物を使うメリットが活かしきれません。

出典:農林水産省「平成16年度農産物地産地消等実態調査結果の概要」

解決策となるか? 政府による地産地消推進策

こうしたデメリットを解消するため、政府が地産地消を後押しする政策が実施され毎年予算化されています。

直売施設やその運営に対する支援

出荷・販売にかかるコストや作業負荷を軽減するため、直売施設や集荷出荷システムの整備など設備面での支援が行われています。また、設備だけではなく、新商品開発や消費者の声を集めるといったマーケティング面での支援もあります。

学校給食における地場農林水産物の利用拡大

学校給食で地域で生産された農産物を安定して取り扱うには、規格外の野菜でも調理が可能になる設備の導入や地場産の農林水産物を利用したメニュー開発などが有効です。

令和2年度(2020年度)の政府予算では「食料産業・6次産業化交付金」が「直売所の売上向上に向けた多様な取組」と「施設給食における地場産農林水産物等の利用拡大」に対し、約25.3億円を充てると公表されています。

地産地消を促進するための専門的な人材の育成・派遣

もう1つ重要な支援策として、地産地消を推進するリーダーやコーディネーターなどの人材を、行政・地域が協力して育成することが挙げられます。

こちらは令和2年度(2020年度)の「日本の食消費拡大国民運動推進事業のうち地域の食の絆強化推進事業」として900万円の支出が予定されています。

出典:農林水産省食料産業局「地産地消の推進について 令和2年7月」

6次産業化、地域貢献「地産地消」を取り入れたビジネスの成功事例

みずみずしいトマトとミニトマト

ぱぱ〜ん/PIXTA(ピクスタ)

最後に、地産地消の取り組みの成功事例と、その効果について紹介します。

農林水産省では、地産地消推進の取り組みの1つとして、平成17年度(2005年度)から「地産地消優良活動表彰」を行っています。農林水産大臣賞を受賞した事例の中から2つを取り上げます。

加工品の生産拡大とともに販路を開拓、地域の雇用も創出した事例

沖縄県今帰仁村の農業生産法人「株式会社あいおいファーム」では、村内の耕作放棄地で大豆や小麦、島野菜などを栽培すると同時に、学校跡地を利用し、直売所やレストランを含む複合施設を運営しています。

法人内で生産した農産物は、こうした施設やグループ企業が運営するレストラン・居酒屋などで消費され、さらに36名にも及ぶ新規雇用の創出にも成功しています。現在でも、全国から視察や研修に訪れる人が絶えないそうです。

出典:農林水産省「平成28年度 地産地消優良活動表彰 農林水産大臣賞 (地域振興部門)農業生産法人 株式会社あいおいファーム」

独自の食材納入システムで、学校給食への地場産品の安定供給を実現した事例

静岡県富士市が取り組んだのは、学校給食に地域の農産物を最大限に活用する「食材納入システム」の構築でした。これにより、地域で生産された食材の流通状況を把握したうえで、地域の農産物を安定的に給食用食材として供給することが可能となりました。

このシステムが成功したポイントは、農産物の納入時に市場を通すことで、特定の農家や業者に負担をかけないようにしたことです。今では、農家・業者・学校にとって「三方よし」のシステムとして定着しています。

出典:農林水産省「平成24年度 地産地消優良活動表彰 農林水産大臣賞 (地域振興部門)富士市学校給食地場産品導入協議会(静岡県富士市)

「身土不二(しんどふじ)」という言葉があるように、暮らしている土地でとれたものを食べることは、心身の健康を保つうえで大切な要素とされています。しかし、農家の立場からすると、地産地消は必ずしもメリットばかりではありません。

これからは、地産地消における課題の解消を常に意識しながら、農業関係者が行政、流通など連携して地産地消に取り組むことが重要となってくるでしょう。

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大澤秀城

大澤秀城

福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。

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