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みかんの収穫量を安定させよう!隔年結果の予防と高品質化のポイントを解説

みかんの収穫量を安定させよう!隔年結果の予防と高品質化のポイントを解説
出典 : sunrise / PIXTA(ピクスタ)

みかんは豊作の「表年」、不作の「裏年」を1年ごとに交互に繰り返す「隔年結果」が起きやすい果樹です。隔年結果による収穫量の変動は収益の低下や農業経営の不安定化を招きます。この記事では、毎年安定した収益を確保することをめざして、みかんの生態から栽培のポイント、注目の新品種まで幅広く解説します。

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みかんは収穫量が多い「表年」、収穫量が非常に少ない「裏年」を1年ごとに交互に繰り返す「隔年結果」が起きやすい果樹として知られています。

今回は、みかんの収穫量を大きく左右する隔年結果のメカニズムから、みかんを安定的に生産する栽培管理のコツ、今後のブランド化が期待される新しい品種などを紹介します。

なぜみかんには表年・裏年があるの?

隔年結果が起こりやすい要因は主に2つあります。

1つ目は、植物ホルモンである「ジベレリン」の影響です。みかんの果実の中で生成されたジベレリンは、枝の中を流れて果実の近くの芽に働きかけ、花が付くのを妨げます。そのため、果実がなった新梢には翌年は花が咲かず、結実もしなくなってしまうのです。

2つ目は、糖の不足です。夏季に光合成によって作られた糖は、葉や枝、根の成長、果実の肥大に使われます。使われなかった糖は枝や根などに蓄えられ、この糖を使って冬の間に翌年の花芽ができます。

ところが、前年に果実を付けすぎると、果実の生長に糖がたくさん使われるため翌年の花芽を作るための糖が不足します。その結果、翌年は花芽が減り、果実の付きも悪くなってしまうのです。

連年安定生産のための栽培技術【樹体の改善編】

みかん 果樹園

マハロ / PIXTA(ピクスタ)

みかんの隔年結果を防ぐためには、摘蕾・摘果、剪定などを適切に行うことが重要です。ここでは、連年安定したみかんの生産をめざして、樹体の改善技術の基本を学んでいきましょう。

縮伐や間伐を実施して独立樹栽培を行う

まず、みかんを栽培するほ場は、間伐して独立樹になるように整えましょう。密植するとみかんの樹に日光が当たらず、立ち枝が増え、うまく結実しにくくなります。また、根も密集するため干ばつに弱くなり、樹木の生育状態を表す「樹勢」も弱くなります。

株間を広めに取って剪定をごく軽くすることで、葉数が増加し新梢が短く揃って、毎年安定して生産が見込める連年生産型の樹相に転換できます。

独立樹栽培は日光が十分に当たって実も生長しやすいだけでなく、農薬も行きわたりやすくなり、病害虫の発生抑制につながります。

みかんの剪定の基本は「弱剪定」

整枝や剪定では、日光がまんべんなく当たること、どの枝にも容易に農薬が行きわたること、そして作業がしやすい樹形にすることをめざします。これらを念頭におき、大枝→中枝→小枝の順に整枝・剪定を進めていきましょう。

基本的に、温州みかんは開花期前後にごく軽く「弱剪定」をしますが、収穫時期や前年の着果量を考慮して、どの程度整枝・剪定するかを決めるとよいでしょう。

着果量別の剪定方法

1. 前年の着果が多かった樹
整枝・剪定はなるべく遅く行います。着蕾を確認してから間引き剪定をするなど、軽めに整枝・剪定をしましょう。

2. 連年安定生産している樹
着花と葉数のバランスを保ちながら、できるだけ軽めに整枝・剪定を行います。樹冠内部まで光が入るように、亜主枝上の立ち枝や内向枝を取り除きます。

3. 前年の着果が少なかった樹
整枝・剪定を行っても新梢があまり発生せず、翌年の結果母枝(新梢のでるもとの枝)を確保することができません。そのため、早めに整枝・剪定し、「切り返し剪定」をメインに新梢を出すことに注力しましょう。

後期重点摘果でみかんの品質を向上

「おいしいみかん」と評価される具体的な要素には、果皮が濃い橙色で、果皮と果実の間にできる隙間(浮皮)がなく、酸味は少なめで糖度が高いことなどが挙げられます。このようなみかんを栽培するためには、上記の弱剪定と後期摘果を重点的に行います。

後期摘果のメリット

・着果ストレスがかかり果皮が早くなめらかになる
・糖度が高くなり、おいしくなる
・色づきの開始が早くなる
・生活習慣病の予防に有用とされる「β-クリプトキサンチン」が増加する
・貯蔵炭水化物が十分蓄積され、翌年の着花・新梢とも多くなる

果皮が早くなめらかになったら摘果してもよいというサインです。ただ、着果が多い樹の場合は早めに摘果を行います。摘果の時期と程度については、下表を参考にしてください。

温州みかんの品種と摘果の時期・程度

minorasu(ミノラス)の画像

出典:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構「カンキツ連年安定生産ための技術マニュアル」よりminorasu編集部作成

連年安定生産につながる栽培技術【土壌改良編】

土壌改良

dorry / PIXTA(ピクスタ)

みかんの安定生産のためには、樹体の改善と並行して土壌改良も必要不可欠です。ここでは、土壌の養水分環境を適正に維持管理する「マルドリ方式栽培」、堆肥などの有機物で土壌の質を改善する「バークストリッパーを用いたタコつぼ処理」を紹介します。

土壌の養水分を適正に維持する「マルドリ方式栽培」

「マルドリ方式」とは?

マルドリ 図

出典:独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構「周年マルチ点滴灌水同時施肥法技術マニュアル」よりminorasu編集部作成

「マルドリ方式(周年マルチ点滴灌水同時施肥法)」とは、「マルチ栽培」「ドリップ灌水」という2つの栽培方法を組み合わせた、栽培方法です。

・マルチ栽培
ほ場の地面をマルチシートで覆い、雨水での余分な水分が樹体に入らないようにした栽培方法
・ドリップ(点滴)灌水
みかんの必要最小限の水分と養分を混ぜて、根元に点滴潅水する栽培システム

上図のように、マルドリ方式では、池やタンクなどの水源からほ場まで導水管で水を引きます。液肥混入機と液肥タンクにより、自動的に液体肥料の濃度調整と液肥施用が可能になります。

点滴灌水チューブをみかんの樹冠下に設置し、その上をマルチシートで1年中被覆します。必要に応じて灌水あるいは灌水施肥を行います。

なお、水源と液肥混入機の途中に、水に混入した藻やゴミを取り除くためのフィルタを設置する必要があります。

マルドリ方式のメリット

・乾燥が原因で樹が弱るマルチ栽培の弱点を点滴灌水で改善
・毎年マルチシートを敷く・撤去する手間を省ける
・雑草の抑制効果が高い
・点滴灌水チューブを用いることにより、根域まで水分・液体肥料を届けられる
・最適な量とタイミングで養水分を与えられ、土壌の深くまで浸透
・大幅な節水効果、自動化によって灌水施肥の省力化
・肥料成分を土壌や生育に応じて選択できる
・液肥は吸収が早く、吸収率も上がる

・糖度が2~4%高くなる ※
・β-クリプトキサンチンやβ- カロテンなどの機能性成分が高濃度となる※
・従来の栽培方法のみかんよりも2~4倍高値で販売された※

※については国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構・近畿中国四国農業研究センターの調べ(「カンキツ連年安定生産のための技術マニュアル」)

バークストリッパーを用いたタコつぼ処理による土壌改良

土壌は表層域よりも中層域を改良するほうがみかんの高品質化につながります。しかし、みかんは傾斜地での栽培がほとんどで、堆肥を大量に運搬することが難しいため、土壌改良が十分でないのが現状です。

土壌改良は、2~3年に一度処理するだけでも高い効果が得られるので、ぜひ行ってみてください。

まず、みかんの樹冠外周の直下(主幹から1~1.5mくらいの同心円状)に、バークストリッパー(高圧剥皮機)を用いて直径・深さともに2~30㎝の穴を掘ります。

そこに、バーク堆肥やピートモスなどの有機物を投入し、上から踏めば完了です。有機物はバーク堆肥の場合は、1穴当たり2~3㎏、1樹で20㎏程度使用します。未熟な有機質資材は使用しないようにしましょう。

有機物を使用すると、腐植物質が補給されることで土壌の団粒構造が促進され、根が活動しやすくなり、細根も増加します。すると、みかんの葉数が増加し生産力・品質向上につながります。

※穴の数は土壌や樹齢によって異なります。安山岩系土壌に植栽された10~20年ほどの樹なら8個程度が目安です。

いま注目の新品種みかん

収益アップをめざすなら、ブランド価値の高い品種を栽培して、単価アップを狙うのも方法の1つです。みかんの品種改良は全国各地で進められており、各県から新品種が誕生しています。ここでは最近開発された3品種を紹介します。

愛媛県 紅プリンセス

紅プリンセス 愛媛県

「紅プリンセス」
写真提供:提供:愛媛県

愛媛県を代表する人気かんきつ「紅まどんな」と「甘平(かんぺい)」を交配した新品種として2019年に発表されました。品種登録名は「かんきつ愛媛48号」(注)、商標登録名が「紅プリンセス」(注)です。

(注)「かんきつ愛媛48号」は、愛媛県農林水産研究所果樹研究センターみかん研究所の育成品種。「紅プリンセス」は愛媛県の愛媛県の登録商標です。

糖度は14度と甘みが強く、紅まどんなの「ゼリーのような食感」と甘平の「濃厚な甘み」を併せ持っています。実は赤みのある橙色で皮は薄くてむきやすく、種子はほぼありません。

収穫期は3~4月で、12月の「紅まどんな」、2月の「甘平」に続く収益源として期待されています。高級品種として展開する予定で、愛媛県は栽培を希望する農家に2022年から苗木の提供を始める予定で、2025年の本格出荷をめざしています。

和歌山県 はるき

はるき 和歌山県

「はるき」
写真提供:和歌山県果樹試験場

「はるき」は、和歌山県が2019年に発表した、「清見(きよみ)」に「中野3号ポンカン」を交配した新品種です。

甘味と酸味のバランスがよい「清見」と、外皮がむきやすく中の粒が大きい「ポンカン」の特徴を兼ね備えています。糖度は13~14度と甘く、サクサクした食感です。内袋が薄く、手でむきやすいのが特徴です。

はるきは、かんきつ類の出荷が少なくなる3月に収穫時期を迎え、春以降の収益確保につなげられるよう期待が高まっています。県は育苗組合に母樹を配布。苗木を育てて2021年にはJAなどを通して農家に販売する予定で、その5年後の販売をめざしています。

福岡県 早味かん

早味かん 福岡県 みかん

写真提供: JA全農ふくれん

「早味かん(はやみかん)」は2015年に福岡県独自のブランド品種として発表されました。
出荷時期は9月中旬~10月中旬で、県内の露地栽培温州みかんの中で最も成熟が早い極早生みかんです。

糖度は10~11度と高く、果肉が入っている瓤嚢(じょうのう、柑橘類の果実内部の小袋)の膜が薄く、食べやすい点が魅力。同時期の品種では、全国レベルでトップクラスの品質といわれています。

福岡県内の農家のみ栽培が可能で、一定の糖度基準を満たした果実だけが「早味かん」として販売されます。

みかんの連年安定生産の技術として「マルドリ方式栽培」「バークストリッパーを用いたタコつぼ処理」を紹介しました。みかんの連年安定生産に向け、これらの技術の開発・導入推進を行っている農研機構や地方自治体の営農部署などに相談し、具体的な検討をしてみてはいかがでしょうか。

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上澤明子

上澤明子

ブドウ・梨生産を営む農家に生まれ、幼少から農業に親しむ。大学卒業後は求人広告代理店、広告制作会社での制作経験を経て、現在フリーランスのコピーライターとして活動中。広告・販促ツールの企画立案からコピーライティング、取材原稿の執筆などを行う。農業専門誌の制作経験があり、6次産業化や農商工連携を推進する、全国の先進農家・農業法人、食品会社の経営者の取材から原稿執筆、校正まで携わったことから農業分野のライティングを得意とする。そのほか、食育、子育て、介護、健康、美容、ファッションなど執筆ジャンルは多岐にわたる。

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