【1年中楽しめる観光農園】中山間地帯で年間15万人が訪れる魅力ある観光農園の経営
広島市内から車でも電車でもおよそ2時間。広島県北部の山中に平田観光農園があります。アクセスが決してよいとは言えず農業には不利とされる中山間地域で、多品種栽培と年間15万人以上の集客を実現した方法を伺いました。
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目次
有限会社平田観光農園 代表取締役会長 平田克明(ひらたかつあき)さんプロフィール
もともとブドウの栽培について研究されていた平田会長だが、現在はプラムとプルーンの栽培を担当している
出典:平田観光農園ホームページ
長野県農業試験場、広島県果樹試験場(現・広島県農業技術センター果樹研究部)でブドウの研究者として勤務。
1985年、県を退職し、先代が営んでいた1955年創業のりんご観光農園と隣接する後継者のいないブドウ園を引き継ぐ。
果樹研究者であった知見と経験を活かし、当初から、多品種栽培による周年化、6次産業化に取り組む。
現在は15haもの敷地内で果樹14種・150品種を栽培しつつ、1年中楽しめる観光農園として、県内外からの集客を実現。代表取締役会長を務めている。
現在三次市の名産品となっている「ピオーネ」は、平田さんの発案で栽培がスタートした
出典:平田観光農園ホームページ
地元の人しか来ない観光農園を全国から集客できる観光農園に
父の観光農園と一緒に引き継いだブドウ園
平田観光農園は、平田さんの父である平田昌明さんが西日本初のりんご栽培に成功したことでスタートした観光農園でした。
勤めていた果樹試験場を退職し、父の観光農園を引き継ぐことになった平田さんのもとに舞い込んだのは、隣接する農事組合法人のブドウ園も一緒に引き継いでくれないか、という話でした。
有限会社平田観光農園 代表取締役会長 平田克明さん(以下役職・敬称略) 平田観光農園があるのは広島県三次市の中の上田町という小さな田舎町です。この町の若者の多くは、仕事を求めて都会に出ていきます。
そうやってどんどん過疎化が進んでいく中で、「ブドウ園の後継者がいないから、引き継いでくれないか」と打診を受けました。
もともと果樹試験場ではブドウの研究をしていたこともあり、ほかにブドウ園を継承する人物も見つからなかったため、父のりんご園と一緒にブドウ園を引き継ぐことに決めました。
地域に観光の目玉をつくることが、自身の農園の集客につながる
りんご園とブドウ園を引き受けたはいいものの、集客ができなければ観光農園としての成長は望めません。お客様を呼び寄せるために、平田さんは動き出します。
平田 その当時、農園の近くには小さなバスしか通れないような悪路しか通っておらず、地元以外の人が来るような場所ではありませんでした。
それでも何とかお客様を獲得するためには、まず「お客様に来てもらえる環境づくり」が必要不可欠だと考えたのです。
当時、三次市には観光施設となる場所がほとんどなかったため、まずは平田観光農園とは別に、三次市に遊びに行ってみようと思える施設を作ろうと立ち上がりました。
当時、島根県出雲市に島根ワイナリーがオープンし、観光スポットとして年間100万人もの集客を実現していました。三次市観光協会の資源開発部長だった平田さんは、1988年、ワイナリー建設を含む提言を三次市に提出します。
1991年には、三次市とJA、市内のブドウ生産者、そして平田観光農園などの企業が出資し、ワイナリー運営の第三セクターを設立し、「広島三次ワイナリー」の建設プロジェクトが動き出します。
平田さんは、長野県農業試験場でのワイン醸造の研究や、広島県果樹試験場でのブドウ栽培研究の経験を活かし、三次市の気候風土にあったワイン用ブドウ品種の選定から土壌改良、栽培管理方法までワインの開発を牽引しました。
平田 「広島三次ワイナリー」を目当てに三次市を観光してみようと考える人が増えれば、同じ三次市内にある平田観光農園にも注目してもらえると考えたのです。
広島三次ワイナリーのホームページはこちら
自然災害に影響されない経営が「1年中楽しめる観光農園」につながった
平田観光農園の広い敷地にはシンボルマークにもなっているメタセコイヤの並木道がある
出典:平田観光農園公式ブログ
多品種栽培に取り組むきっかけとなった「りんご台風」
当初、平田観光農園で栽培していたのはりんごとブドウの2種類のみでした。そんな平田観光農園が天災に見舞われます。
平田 平成3年(1991年)、9月の末に日本に上陸した台風19号によって全国的に大きな被害が出ました。
暴風により、一般家屋だけではなく、森林の倒木被害が出たり、塩害による果樹の枯死などによって、りんごをはじめとした農林水産業に大きな被害をもたらしたのです。
もちろん、この平田観光農園も、「りんご台風」と呼ばれた台風19号の被害を受けました。
およそ20万個のりんごが落果してしまい、ブドウにも被害がありました。りんご台風による被害は、実に3億円。あまりのことに、茫然自失の状態に陥りました。
自然災害に影響されない経営を
自然災害によって大きな被害を受けた平田観光農園。気象庁によれば、1981年から2010年までの台風発生回数の平均は年間25.6回で、そのうち11.4回が日本列島に接近し、2.7回が上陸しています。
「自然災害のたびに損害が出ていては経営が成り立たない」。そう考えた平田さんは、ほかの果樹の栽培に乗り出しました。
平田 ブドウやりんごの旬は冬には終わってしまいます。ですので、栽培方法次第では12月からでも収穫が可能なイチゴの栽培を始めました。
イチゴは最長でも6月頃まで収穫が可能なので、冬から初夏のりんごやブドウが収穫できない時期にも利益を上げることができます。
6月以降はさくらんぼ(桜桃)、7月からはプルーンや桃など、栽培する果樹を増やしていきました。現在は年間通して果物狩りを楽しめる観光農園になりました。
農業に不利な条件の中で多品種栽培を成功させる工夫
平田観光農園がある広島県北部の広島県三次市は、地理的条件が悪く、農業には不利とされている「中山間地域」に当たります。
その中にあっても、りんごをはじめとしたさまざまな果樹の栽培を可能にするための取り組みの一部をご紹介します。
■土壌改良で土壌流出を防ぐ
りんごは、創業者である平田昌明さんの代から栽培されていました。しかし平田観光農園のほ場は、りんごの栽培に適した立地とはいえません。
平田 草生栽培による土壌改良に取り組みました。草の根が最終的に有機物となり土を肥沃にするのはもちろん、土壌流出対策にもなります。
平田観光農園があるのは標高500mの山の頂上で、傾斜地です。雨量が多いために土壌が流れ出してしまうのを、草生栽培によって防ぐことができるのです。
また、平田観光農園のほ場は排水がよい場所とはいえません。そこで、栽培する果樹の種類や品種によっては地中に排水パイプを設置し、排水量をコントロールしています。
■盆地特有の霜害には標高差を利用
また、三次市は周囲を山に囲まれた三次盆地に位置しており、秋以降は激しい寒暖差によって濃霧に包まれます。その霧が霜となり、果樹栽培にも影響を及ぼします。
平田観光農園では、傾斜地にあることと、より低いところに霜が降るという条件を上手く活用し、霜害対策に活かしています。
平田 冷気は重いので標高の低いほうに流れます。これを利用して、出蕾から開花、幼果の時期に、霜害にあわないようにするのです。
ほ場を細かく区分けして、品種ごとに異なる出蕾時期・開花時期に合わせて配置することで、霜害を避けやすくするわけです。
例えば同じプラムでも、生育が早く出蕾も早い品種は霜が当たりにくい標高の高いエリアに、逆に、生育が遅く出蕾も遅い品種は、標高の低いエリアに配置しています。
品種ごとの出蕾時期、開花時期を把握することで、霜害によるロスをなくすことが可能になるのです。
「モノ」だけでなく「コト」を楽しんでもらう「1日中楽しめる観光農園」
動物たちとの触れ合い体験はほかの観光農園にはないサービス
出典:平田観光農園ホームページ
栽培する果樹とその品種を増やしていく中で、お客様にもっと楽しんで貰いつつ利益を最大化するため、平田観光農園では果物狩り以外にもいろいろな体験サービスを展開しています。
果実という「モノ」だけでなく体験という「コト」を楽しんでもらう発想です。
たくさんのイチゴを無理して食べるお客様をみて「体験」コースをスタート
平田 体験施設を作ろうと思い至ったのは、イチゴの栽培を始めたことがきっかけでした。
イチゴ狩りに来てくださるお客様の中には、体験料金のもとを取ろうとたくさんのイチゴを収穫される方もいらっしゃいます。
しかし、その場で食べ切れる量にはどうしても限界があります。お客様が無理にたくさんのイチゴを食べるのではなく、イチゴのおいしさを最大限楽しんでいただけるように、収穫したイチゴをその場で調理して食べられるコースを始めました。
体験の種類を増やし、お客様が本当に1日中楽しめるように
平田 狩り放題・食べ放題の観光農園はほかにもありますが、自分で収穫した果実を、自分で加工するのはなかなかできない経験ということで、好評をいただいています。
3年前には体験施設をリニューアルして、お菓子作りや缶詰作り、ダッチオーブンを使ったアウトドア体験など、園内で参加可能な体験アクティビティの種類を充実させました。
体験施設以外にも、広大な敷地を活用しカフェやバーベキュー場を併設することで、1日中楽しめる観光農園として同業他社との差別化を図っています。
「ちょうど狩りってなに?」ちょうど狩り説明動画(ショートver.)
平田観光農園で提供している、園内の果実を自分にちょうどよい量だけ収穫でき、食べたり持ち帰ることができるサービス「ちょうど狩り」を、社員が動画で楽しく解説している
出典:平田観光農園ホームページ
「1日中遊べる」体験で溢れる「平田観光農園 園内MAP」
出典:平田観光農園ホームページ
楽しそうな体験に溢れている平田観光農園のホームページはこちら
平田観光農園の人材マネジメント
平田観光農園で働く社員はほとんどが県外出身です。もともと農業をしていた人はほとんどいません。
「作ったものをどのように売るか」ではなく「どのように売れば利益を得られるか」
平田 採用する社員はほぼ農業未経験です。そのため、「作ったものをどう売るか」ではなく、まず「どのように売れば利益を上げられるか」という発想ができるのです。
多くの場合、農業ビジネスを始める前に学ぶべきなのは作物の栽培方法だと考えることでしょう。
それが間違っているわけではありませんが、スタートラインが栽培になってしまうと、どうしても販売プロセスが「作ったものから利益を得る」という形になります。自分が栽培した作物に対しては、どうしても思い入れが強くなりますから。
これが農業未経験者だと、そういった思い入れがまだ希薄なうちに農業で利益を上げるシステムを考えることができます。
先に収益の目標を立てて、それを実現するためにはどんな作物を栽培し、どのように販売すればよいのかを考える思考になるのです。
そのため、社員には販売計画を立てるところから仕事を任せています。それぞれが企画を練って準備をして、状況に応じて助け合いながら、どのように利益を上げるかを考え、行動することができるのです。
「栽培したものを売る」発想では生まれないアイディアを生み出せる人材、ほかにはないものをクリエイトできる優秀な人材を発掘し、経営者的な視点を業務を通して養っていくことが重要だと思います。
専門家を起用して高品質なコンテンツをネットで発信
平田さんは、集客拡大のためのネット発信には専門家を起用しています。
専門家が作る高品質なコンテンツが県外や海外のお客様を呼び、専門家が開発したほかにはないサービスが話題になることでさらに来場者が増えるしくみを実現しているのです。
平田 広島の山奥の観光農園に来ていただくためには、まず存在を知っていただかなければなりません。デザイナーをスカウトし、インターネットやSNSを活用した情報発信に力を入れたことで、県外や海外のお客様にもご来園いただけるようになりました。
お菓子作り体験などのレシピ開発にも、その道の専門家を起用することで、お客様により満足していただけるサービスが提供できます。
ほかにはないサービスを実施し、発信することで、テレビや雑誌などにも取り上げていただけるようになりました。その繰り返しで、今ではたくさんの方にご来場いただける観光農園が実現したのです。
専属パティシエールによるメニュー開発例:オープンサンド「りんご(秋映)のコンポート福山仕立て」
出典:平田観光農園Instagram
平田観光農園のInstagramはこちら
平田観光農園のFacebookページはこちら
自らの経験とノウハウを「地域」と「農業」全体に
平田観光農園のある広島県三次市上田町では、地域住民の高齢化や過疎化が進み、空き家問題も深刻化しています。平田さんは、「地域にとって役立つ企業になりたい」と語ります。
三次市周辺に人を集め豊かに
平田 観光農園事業を拡大することは、現状では考えていません。むしろ、この地域に人を集め、豊かにするための活動に精力的に取り組んでいます。
周辺地域には生活必需品を気軽に買えるようなコンビニエンスストアもスーパーもなく、住民は買い出しのためにわざわざ車を走らせ、遠くの街の店まで行かなければなりません。
そんな地域でも気軽に買い物ができる、そしてその地域で採れた作物や加工品などを販売し、地域循環を高めていける施設を立ち上げました。
参考:「川西郷の駅(かわにしさとのえき)」について
2014年、平田観光農園と周辺の農家などが出資し、地域マネジメント会社「川西郷の駅発起人会」を設立。
国の施策「集落地域における小さな拠点づくり」に応募するため、住民の声をヒアリングしたところ、コンビニエンスストアへの要望が各年代を通じて多くありました。
そこでコンビニエンスストアを中心としながら、地域の農産物の購入や飲食ができ、地域のコミュニケーションの場ともなる総合的な施設を企画立案しました。
コンビニエンスストアにはこの企画に賛同したファミリーマートが参加、住民の85%が出資者である「株式会社川西郷の駅」を設立し、2017年「川西郷の駅」がオープンしました。
川西郷の駅のホームページはこちら
全国の「農業」と「地域」を豊かに
平田 また、平田観光農園の周辺地域だけではなく、農場経営や地域創生に課題を抱えたところがあれば力になりたいと考えています。
今いる社員も平田観光農園のノウハウをしっかり吸収してもらって、別の場所で力を発揮してもらえると嬉しいですね。
地域の作物を加工販売する事業の1つ、平田観光農園も出資する、長野県の株式会社果実企画のホームページはこちら
平田観光農園が出資している株式会社果実企画は、国産ドライフルーツメーカーの先駆けとして、栽培から加工・販売まで行っている
出典:果実企画オンラインショップ公式ホームページ
観光農園の運営や、そこで培ってきたノウハウによって、自社だけでなく地域活性や農業の発展にも繋げていく。平田さんの挑戦は、これからも続いていきます。
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