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8年で年商1億のブランドれんこん農家~前編:れんこんのブランド化と6次産業化への挑戦
出典 : 山口farmホームページ
  • 農業経営

8年で年商1億のブランドれんこん農家~前編:れんこんのブランド化と6次産業化への挑戦

「生で食べておいしいれんこん」。れんこんのイメージを覆し、ブランド化と6次産業化を成功させた農家が茨城県小美玉市にいます。わずか8年で、耕地面積を2町5反から11町に、年商を約3,000万円から1億円超に成長させた株式会社山口farmです。成功の秘訣を前編後編に分けて紹介します。(1町は約1ha)

株式会社 山口farm CEO 山口正博(やまぐちまさひろ)さん プロフィール

茨城県出身。曾祖父の代から続くれんこん農家に生まれるも、大学卒業後はフリーターとして土木系など50以上の職業を経験。

その後サラリーマンとして惣菜製造の会社に勤務し、野菜に関わる物流、営業、仕入れ販売の統括業務に携わる。

32歳で家業のれんこん農家を継ぎ、2018年に株式会社山口farmを設立。れんこんのブランド化・6次産業化に力を注ぎ、農家を企業に、農業を農業経営に変えつつある。

就農から4年で、慣行農法からの転換を決意

以前はコンビニエンスストアのサラダや惣菜を扱う会社に勤めていた山口さん。農業の世界に入った理由は、「農業=つらい」という常識を変えたいという志があったからといいます。

父親の一言で一念発起。楽して儲かる農業ビジネスへの挑戦

株式会社 山口farm CEO 山口正博さん(以下役職・敬称略) ある日親父が「もう体がいうことを利かないんだ。だから農業をやめる」とこぼしたんです。

「体を壊すような農業なんて自分が変えてやる」。そう思ったことが、農業の世界に入るきっかけの1つでした。

慣行農法の常識を疑うことから始めた、れんこん栽培の模索

山口さんが慣行農法を見直す決意をしたのは、れんこんの栽培では先達である父親に、さまざまな疑問・質問を投げかけても明確な答えがないということからでした。

山口 「なぜこの時期にれんこんを植えるのか」「なぜこのタイミングで肥料を与えるのか」。そうした質問を親父にしても、「周りがそうしている」「今までそうしてきた」というばかりで答えられないんですね。

つまり、れんこんという植物の性質や生長サイクルを科学的に見極めているのではなく、先代あるいは周りから譲り受けた経験則に従って、なにも疑問を持たずに農業を続けているわけです。

これでは、今まで以上のものは作れないし、儲からないと思いました。

小美玉市 れんこん畑

小美玉市にひろがるれんこん畑

「記録こそ財産」。データベース化した日報がノウハウに

そこで山口さんは、まず、れんこん栽培に関するさまざまな文献に目を通すとともに、「徹底して記録を付ける」ことを始めました。

山口 どのような環境だと芽が伸びやすいのか、その際の気温、水温、地温、日照時間はどうか、どのタイミングで施肥を行うと効果的か、その肥料成分は現在のもので正しいのか…。

日々の変化を記録しつつ、疑問もすべて書き留めていきました。なぜなら記録を重ねれば重ねるほど、よりよい作物を生み出すデータベースになるからです。

4年で気づいた。今の農業にはまだまだ伸びしろがある

山口さんに話を伺うと「日本の農業は“慣行農法”という既成概念によって伸びしろを狭めているかもしれない」という問題意識がわいてきます。

山口 私は就農4年ほどで、慣行農法だけに頼っていては大きな成長はできないことに気づきました。

従来のやり方を全て見直してみることから始めたからこそ、ほかでは真似のできないれんこんのブランド化を実現できたのだと思います。

れんこんだけでなく現在のあらゆる農業には、まだまだ伸びしろがあり、イノベーションの可能性が満ちているのではないでしょうか。

れんこん農家から、「パールレンコン」農家へ

パールレンコンは「生で食べられる刺身れんこん」

山口さんが、慣行農法を一つひとつ見直して創り出したそのブランドれんこんこそ、一流料理店などで採用されている「パールレンコン」です。

山口 パールレンコンの強みは、アクを徹底的に排除することで生まれた「生で食べられる刺身れんこん」としての魅力です。

パールレンコンという名前は、泥田から出てきたれんこんがあまりに白くきれいで「真珠のようだ」と感動したことから名付けたそうです。

山口farmの「パールレンコン」のページは こちら
パールレンコンの栽培へのこだわり、節ごとの味わいの違いやおすすめレシピなどがご覧になれます。

徹底した施肥設計が味を創る。年8回にわたる施肥スケジュール

「生で食べられる刺身れんこん」はどうやって生まれたのでしょうか。山口さんは、徹底した施肥設計とその設計に基づいたきめ細かな施肥、そしてその結果をデータとして蓄積して次の栽培に反映するという、地道な繰り返しだといいます。

山口 れんこんに限らず、作物の食味や品質をよくするには、人でいえば乳幼児期、少年期、青年期といった作物の生長ステージに合わせ、必要な栄養をどこまで最適化して与えられるかが重要です。

例えば「この時期までに芽をどのように伸ばしていきたいので、5月中旬にはこういう効能の栄養素がほしい」「このタイミングで太らせたいからカリウムを効かせたい」など、肥料会社とタッグを組んで徹底研究し、ノウハウを蓄積してきました。

その結果、年8回、内容も緻密な施肥計画ができました。これがブランドれんこんを生み出す礎となりました。

日本一への挑戦。「日本で2番目に高い山」の名前を誰もが知っているわけではない

しかし山口さんは、それでもまだ課題が山積みだといいます。

山口 最大の課題は、認知度です。「日本で2番目に高い山」の名前を誰もが知っているわけではありませんよね。何をやるにも、それを使うユーザーが「No.1だ」と思ってくれないと認知度は高くならないのです。

ユーザーに「この分野、この製品なら、これが日本一、世界一」と認識されてこそ、ブランドは多くの人にその名が認知され、定着していくものだと思います。

れんこんでそれを実現するには、「れんこんの常識を覆すような革新的なおいしさ」を生み出す必要があります。

山口farm パールレンコン

れんこん界に革命をもたらす「パールレンコン」
出典:山口farmホームージ

めざすのは、生で食べられて、甘みのあるフルーツれんこん

では、山口さんがめざす「れんこんの常識を覆すような革新的なおいしさ」とはどのようなものなのでしょうか。

山口 現在の「パールレンコン」も、十分ブランドとして認知され、また、イノベーションプロダクツとしての力は十分にあります。

しかし、私は誰も到達しえない品質をめざしています。

パールレンコンの糖度は8~9度ですが、これを10度以上、理想は梨と同等の甘みを感じる水準にまで高める挑戦を始めています。

もし、これが実現すれば、それは「フルーツれんこん」という新たなカテゴリーの登場といえるかもしれません。

山口farm れんこん畑

ほかでは真似できないノウハウが凝縮した山口farmのれんこん畑
出典:山口farmホームページ

「パールレンコン」から「珠美(たまみ)」へ。6次産業化の本格展開

現在、山口farmでは「パールレンコン」のリニューアルを図っています。新たに「珠美」というブランド名を冠し、6次産業化ブランドとして育てる途上にあるのです。

山口 昨年「珠美」で商標登録を完了しました。さまざまな6次産業化に対応できるように、商品及び役務の区分を拡充しています。すでに、バーコード付き真空パックや燻製など、「珠美」としての商品化をスタートしています。

通常、真空パックのれんこんは、卸値で4kg 1,800〜2,400円程度が相場ですが、珠美の場合は4kg 3,400円程度で取引いただけています。また、食品加工会社と連携して「燻製レンコン」を商品化するなど、ブランド化+6次産業化へ向けた取り組みが動きだしています。

山口farm 真空パックれんこん 出荷

ブランドリニューアル当初から注文が殺到し、商品力の高さが窺える

山口流、6次産業化事業を成功に導くリスクヘッジ術

6次産業化といえば経営拡大の面ばかりに光が当てられがちですが、資金調達をはじめとしたさまざまな事業リスクがあり挑戦に二の足を踏む農業経営者も多いのではないでしょうか。

そこで山口さんに、6次産業化成功の秘訣を伺ってみました。

6次産業化講習会の話は、丸飲みすべからず

山口 私も6次産業化に関するいくつかの講習会に参加したことがあります。しかし、そこで痛感したのは「コンサルタントの話を丸ごと信じてはいけない」ということです。

どのような講習会でもただ聞いているのでは、その日の講師が考えている成功のひな型の1つを知ることができるだけです。農家にとっては具体性がなく浅い情報しか得られません。また、6次産業化に関するリスクについての説明もないことが多いようです。

6次産業化など農業経営の講習会に参加する際には、「自分はこういう作物を作っているが、その6次産業化についてはどういうリスクや課題が考えられるか」「どうすればリスク回避できるか」といった具体的な質問を必ず投げかけ、自分の頭で判断してほしいと思います。

株式会社 山口farm CEO 山口正博さん

「6次産業化は、経営者としての責任や判断力が試される」と山口さん

極力借金をしない。商品化はOEMで進めるべし

山口 「6次産業化してバウムクーヘンを作りたい」と夢を語る若い農家がいました。

私は興味を持って「バウムクーヘンの製造に必要な設備や資材にかかる資金をどう調達するのか」「バウムクーヘンの価格設定はいくらで、投資した設備はどのように減価償却していくのか」といった問いを彼に投げかけました。

しかし、彼からは具体的な答えも、私への質問も返ってきませんでした。彼は自己資金を投じましたが、残念ながら、最終的に事業撤退することになりました。

私の場合、6次産業化はOEM方式をとっています。私が提供するのはアイディアとれんこん。そこから先は、企画から製造、販売まで専門会社に委託しています。そうすれば、ノウハウを持つプロの方々の力で成功する可能性が高まる上、余計なリスクを負わなくてもすむからです。

作物を栽培するノウハウしか持たない農家が、経験のない事業に安易に手を出すことは、リスクをまるごと背負い込むのと同じと考えるべきです。

夢は多くの人と共有し、意見を求めるべし

山口 ちなみに「燻製レンコン」は、居酒屋で友人たちと雑談している際に「メニューに燻製たくあんがあるなら、燻製のれんこんがあってもいいよね」という話から生まれた商品です。

それから多くの仲間たちとそのアイディアを共有し、「だったらこうすれば」「いやこの売り方だと…」といった意見交換を重ねました。

さまざまな人の意見を聞くことで自身の夢を客観視できたことが、「燻製のれんこん」を居酒屋での思いつきに終わらせず、「燻製レンコン」としての商品化につながったと思っています。

山口farm 「真空パック パールレンコン」「燻製レンコン」

さまざまな人の力を借りて、れんこんの6次産業化を実現
出典:山口farmホームページ

農業経営の成功の秘訣は「先駆ける」こと

こうしてさまざまな挑戦を続ける山口さんに、農業経営を成功させる秘訣を語ってもらいました。

山口 それは「先駆ける」ことだと思います。

「農業には伸びしろがある」と先ほどいいましたが、実はそのことに多くの農家が気づいていません。イノベーションの種が畑のあちらこちらに埋まっているのと同じなんです。

誰よりも先にイノベーションの種を見つけ、ひるまず挑戦すれば、それは経営拡大の大きな足掛かりになると思います。

れんこんのブランド化、6次産業化について熱心に語る山口さんですが、データを重視する冷静な経営者としての面も伝わってきます。後編は「経営の見える化」を中心に山口farmの経営について伺います。



【後編】「経営の見える化から始まる成功への道」に続く

松崎博海

松崎博海

2000年より執筆に携わり、2010年からフリーランスのコピーライターとして活動を開始。メーカー・教育・新卒採用・不動産等の分野を中心に、企業や大学の広報ツールの執筆、ブランディングコミュニケーション開発に従事する。宣伝会議協賛企業賞、オレンジページ広告大賞を受賞。

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