【農業用ドローン】各ベンチャー企業の最新動向から見る、日本農業の未来
農業分野へ事業を拡大するITベンチャー企業が増えています。一方で、スマート農業の必要性が叫ばれながらも導入はなかなか進んでいません。そこで、ドローンをはじめとした農業のIT技術の活用は今後どのように広まるのか、ベンチャー企業の動向から探ります。
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農業用ドローンはスマート農業の代表的な技術としてお馴染みのものとなりました。田園の上空高く飛び回るドローンの姿は新しい農業の象徴でしょう。
この記事では、農業用ドローン及び関連サービスに参入しているIT業界のベンチャー企業を紹介します。
農業用ドローンの開発や関連サービスを行う、日本のベンチャー企業
HighwayStarz / PIXTA(ピクスタ)
ドローン技術の開発が急速に進み、さまざまな業種で活用されています。中でも農業分野はドローンが活躍できる作業が多く、今後もさらなる技術開発が期待されます。
まずはドローンを開発する多くのベンチャー企業の中から、農業用ドローンに注力し、スマート農業をリードしている企業4社を紹介します。
株式会社ナイルワークス
ナイルワークスの農業用ドローン「Nile-T20」
写真提供:株式会社ナイルワークス
株式会社ナイルワークスは、2015年の設立以来、農業用ドローンを専門に開発しているベンチャー企業です。
農業に的を絞っているため、農家のさまざまなニーズに対して細やかに対応しています。同社の農業用ドローンは、生育状況を調査するカメラを搭載し、生育診断の結果に応じた最適量の農薬や肥料を散布できる機能を備えています。
生育診断については、農薬散布・肥料散布の最適化に加え、生育状況に応じた精密な施肥・除草・病害虫防除を提案する「栽培支援サービス」への展開を予定しています。
よりよい製品づくりのため、宇都宮大学とドローンを農業に応用する共同研究や、国際次世代農業EXPOに出展、ダイハツ工業株式会社と共同で農業用ドローン発着ポート搭載車両の開発もしています。農業と工業という異業界の橋渡しのような役目も果たしている企業です。
ナイルワークスのホームページはこちら
株式会社FLIGHTS
FLIGHTSの農薬散布ドローン「FLIGHTS-AG」
写真提供:株式会社PR TIMES
全方位型のドローン企業として、ドローン技術に関するさまざまなサービスを展開するのが、株式会社FLIGHTSです。ドローン本体の製造販売だけでなく、ドローンを活用するための様々なサービスを提供している点が大きな特徴です。
具体的には、ドローンを使った測量・撮影の代行、ドローン導入にあたってのコンサルティングや講習、ドローン保険、ドローン関連のソフトウェア開発など多岐にわたる事業を手掛けています。
産業分野では、土木・建築、空撮、農業を対象としています。
農業分野では、農薬散布と植生解析について、導入検討コンサルティング、導入後のトレーニング、保守・点検までをサービスとして提供しています。
FLIGHTSのホームページはこちら
FLIGHTSの農薬散布ドローンのページはこちら
株式会社オプティム
オプティムのピンポイント農薬散布サービス
写真提供:株式会社オプティム
ITベンチャーとしてIT技術を活用したさまざまな事業を手掛ける株式会社オプティムは、「AIやIoT活用のプラットフォームを提供する」というコンセプトを掲げる企業です。
そのコンセプトに沿って、幅広い産業分野で数多くのソリューション及びサービスを提供していることが特徴です。
ドローン活用に限らず、農業、医療、水産、製造分野、コールセンター、教育、行政など幅広い産業分野でのAI及びIoTを活用するサービスを展開しています。
農業分野では、以下の3つのソリューションを前面に押し出しており、その基礎技術については特許を取得しています。
・ドローンによるピンポイントの農薬散布・肥料散布
・ドローンによる播種制御
・スマートフォン・タブレット・スマートグラスによる遠隔監視・作業指示システム
また、AIによるほ場管理・施設管理・生育分析・スマート農機管理などのサービスも提供しています。
ドローンによる病害虫の発生地点判定
写真提供:株式会社オプティム
同社は、2020年8月に農業分野で初めてとなるドローンの「目視外飛行(補助者の配置なし) (レベル3)」(注)の飛行実証を実施しました。この実証は佐賀県白石町の225haの農地で行われました。
この地域では、2018年から「目視内での自動・自律飛行 (レベル2)」(注)の実証を行っており、それまで、白石町職員が118時間かけて行っていた作付品⽬などの確認作業を、5時間に短縮することに成功していました。しかし、関係者以外の立ち入りなど目視での安全確認のため、10~12名の補助者が必要でした。
そこで、補助者の人数を減らすために、必要な安全対策をとった上での「目視外飛行(補助者の配置なし)(レベル3)」(注)の飛行実証を行ったのです。この結果、操縦者2人、エンジニア1人、管理スタッフ1人の計4人で同じ作業ができることがわかりました。
(注)小型無人機の飛行レベル
レベル1 目視内での操縦飛行
レベル2 目視内での自動・自律飛行
レベル3 無人地帯※での目視外飛行(補助者の配置なし)※ 第三者が立ち入る可能性の低い場所
レベル4 有人地帯(第三者上空)での目視外飛行(補助者の配置なし)
出典:農林水産省 農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会「農業分野で初めてとなるドローンの「⽬視外補助者なし(レベル3)」⾶⾏の実証概要」
出典:経済産業省「「空の産業革命に向けたロードマップ2018 ~小型無人機の安全な利活用のための技術開発と環境整備~」
オプティムのホームページはこちら
オプティムの農業ソリューションのホームページはこちら
株式会社NTT e-Drone Technology
NTT e-Drone Technologyの農業用ドローン主力機種「AC101」
写真提供:株式会社 PR TIMES
株式会社NTT e-Drone Technologyは、情報通信キャリアであるNTT東日本(東日本電信電話株式会社)と、前項で紹介した株式会社オプティム、ドローンの販売と関連サービスを展開する株式会社WorldLink & Companyの3社が設立し、2021年2月1日に事業開始した新しい会社です。
NTT東日本は、これまで自社事業において光ファイバーの通線や災害時の通信時の被害把握などにドローンを活用しており、ドローン運用のノウハウを持っています。また、情報通信のラストワンマイルを担う企業として地域と密なつながりを持ち、農業分野では中山間地域の5G基地局設置などスマート農業の推進にも取り組んでいます。
NTT東日本と、農業分野でAI・IoTを活用したソリューションで実績を持つオプティム、「SkyLink Japan」というブランドで、ドローンの販売・保守、教育・パイロット派遣を手掛けるWorldLink & Companyが、3社それぞれの強みを活かして、「持続可能な地域社会づくり・地域経済及び産業の活性化に資するドローンの社会実装を推進していく」とのことです。
まずは、スマート農業の実現をめざして農業用ドローンを中心に事業展開する予定です。
ドローン開発は、株式会社エンルートのドローン事業を譲受する形で開始します。エンルートは、農業をはじめ各産業用のドローンの開発・製造・販売と製品保守やメンテナンス、操縦者の育成や講習を行ってきました。農業分野では粒剤も散布できるドローンを扱っており、農業用ドローン分野で国内販売数トップの実績があります。
出典:NTT東日本のニュースリリース「ドローン分野における新会社設立および事業開始について~持続可能な社会の実現にむけてドローンの社会実装を推進~(2021年1月18日)」
NTT東日本の農業ソリューションのページはこちら
オプティムのホームページはこちら
オプティムの農業ソリューションのホームページはこちら
WorldLink & Companyのホームページはこちら
SkyLinkブランドサイトはこちら
・農業散布ドローン 「AC101」「DJI Agras MG-1」
ドローンは農業をどう変える?「スマート農業」の今とこれから
ドローンによる農薬散布の効率化・省力化
ドローンは農薬散布やほ場の管理の効率化・省力化に特に効果を発揮します。
京都府南丹市にある公益財団法人園部町農業公社は、実際に農作業の代行を請け負っている市内の約20haの水田の一部で、農業用ドローンによる農薬散布の試験を行いました。
試験は、約60m×50mの小規模な区画で行われましたが、人力で実施すると1時間以上かかる農薬散布を数分で終え、ドローンによって農薬散布の作業時間を10分の1程度まで短縮できることを実証しました。
出典:京都新聞「作業1時間→数分に短縮、ドローンで農薬散布へ 水田で試験飛行」
正確で無駄のない農薬散布・肥料散布
ドローンによる農薬散布・肥料散布は、従来の産業用無人ヘリコプターによる散布よりも、小回りが利き、位置制御も精密です。そのため、入り組んだほ場でも対応でき、精密で無駄のない散布が可能です。
例えば、ナイルワークスは、前述したように、農薬散布と生育診断を同時にできる自動航行ドローンを扱っています。
同社のドローンは、病害虫や雑草の発生や生育状態を1株ごとのレベルで精密に診断し、農薬や肥料の種類に応じて最適な吐出量をわりだし、必要な場所に必要なだけの散布を行うことができます。
ナイルワークスの代表取締役社長 柳下氏によると、同社の自動航行ドローンは、5万株の水稲が植えられている30aの水田の生育診断を、約10分で実施できるとのことです。
出典:日経XTECH Special「ここまで来た! 農業×IT(前編) 農作業の効率化だけでは語れないードローンが農業にもたらす本当の価値とは?」
ドローン導入の最大のネックを解消する「シェアリングサービス」の開始も
農業用ドローンのバッテリー基地「スマート農業センター登米」
写真提供:株式会社 PR TIMES
農業のスマート化を実現する一番手として期待が寄せられているドローンですが、普及がなかなか進まない要因にはまず、導入コストの高さが挙げられます。その解決策の1つが、ドローンのリースやバッテリーのシェアリングです。
2019年10月に、住友商事株式会社、住友商事東北株式会社、株式会社ナイルワークスが、農業用ドローンのシェアリングサービスを確立したと発表しました。
このサービスは、ドローンの運用に必要な大量のバッテリーのシェアリングサービスと、ドローン本体の販売またはリースを組み合わせたものです。
ドローン本体は、30ha以上の大規模農家向けには販売しますが、中~小規模農家向けには、ドローン導入のハードルを下げるためにリースも実施する予定です。
農家にとっては、ドローン本体のリースとバッテリーのシェアリングを利用すれば、ドローン利用のハードルになっていた導入コストを大幅に抑えることができ、ドローン普及の推進につながると期待されています。
住友商事グループは、2018年からJAみやぎ登米、ナイルワークスと共同でJAみやぎ登米管内で実証実験を行っており、同地域の高等学校の校舎の一部を借り受けて、バッテリーの保管・充電を行う施設も稼働しています。
出典:住友商事株式会社 ニュースリリース 2019年10月29日「先端農業技術のサービス展開について」
出典:株式会社日経BP 日経ビジネス 2019年11月8日記事「シェアリングに規制緩和、2020年は農業用ドローン普及元年に」
ITベンチャー企業にとって、ドローンをはじめとしたIT技術活用の可能性が広がる農業分野は、伸びしろのある魅力的な分野です。
今後、ITベンチャーの農業分野への参入がますます活発となることで、より高品質・低コストの商品やサービスの開発が期待できます。
ドローンのメリットや規制について、詳しくは以下の記事もご参照ください。
「農薬散布にドローンを活用するメリットや規制などについて解説 」
「ドローンで農薬散布を効率化! DJIのおすすめ農業用ドローンと活用事例」
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。