梅の肥料はいつ与える?質の高い梅の栽培方法【施肥時期&やり方解説】
実梅の栽培について、肥料の与え方を中心に代表的な栽培基準を紹介します。あわせて梅酒や梅干しの原料梅として質を高めるためのポイントを解説します。
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梅は全国各地でさまざまな品種が栽培され、古くから日本人の食生活に欠かせない作物です。
果実も花も豊かな芳香が特徴で、品種にも実梅と花梅があります。この記事では実梅の主な品種を紹介しつつ、より質の高い実梅を生産するためのポイントを解説していきます。
流通は初夏に集中。梅の栽培暦・スケジュール
suika / PIXTA(ピクスタ)
梅の栽培暦
梅は日本の広い地域で栽培されています。寒冷地と暖地で栽培暦は少しずれますが、ほぼすべての品種が6月前後に収穫時期を迎えるため、梅の流通時期は5~7月に集中しています。
開花は暖かい地域では1~2月、寒い地域では2~3月です。ほとんどの品種は自家受粉しないため、ミツバチと受粉樹を用いて受粉させます。比較的寒さに強いものの、結実し始めの頃に霜に当たると果実が落下してしまうので、遅霜(おそじも)に注意が必要です。
4~5月頃は、強い新芽が伸びるので芽摘みをしたり、病害虫の発生源となる雑草や下草を除草したりして果実の生長を助けます。果実がつきすぎた場合は摘果を行いましょう。
6~7月に果実が成熟すると、収穫期のピークを迎えます。収穫後は果樹の体力を回復させるために、7月にも施肥をします。この時期に施肥をせず、10月頃にする地域もあります。10~11月頃から落葉し、1月くらいまで梅は休眠期に入ります。この時期は剪定作業を行います。
日本で栽培されている主な品種
hiro / PIXTA(ピクスタ)
実梅として栽培される主な品種は以下の通りです。
南高(なんこう)
日本で最も多く栽培されている品種で、成熟期は6月中~下旬です。2017年産の梅の品種別栽培面積割合をみると、全国でも50.1%を南高が占めています。収穫量の多い品種ですが、自家受粉はしないので受粉樹が必要です。
白加賀(しろかが・しらかが)
関東地方で多く栽培されている、梅酒に向く品種です。成熟期は6月中旬~下旬で、花粉がありません。そのため、栽培時には受粉樹を必要とします。品種別栽培面積は全体の17.1%を占めます。
小粒南高
南高の特徴を持つ小粒品種です。南高、白加賀に次ぐ人気品種で、全国では3.1%の栽培面積を誇ります。
古城(ごじろ)
梅酒に最も適している青梅で、成熟期は5月~6月中旬です。全国で2.2%の栽培面積を持つ品種で、自家受粉をしないため受粉樹を必要とします。
豊後(ぶんご)
耐寒性があり、北陸・東北地方で多く栽培されています。品種別栽培面積は全体の2.2%程度で、成熟期は7月中旬以降の晩成です。アンズを掛け合わせた品種で、酸味が少ない点が特徴です。ジャムや砂糖漬け、梅酒などに向きます。
小梅類
最も多く栽培されている品種は「甲州最小」で、品種によって5月中旬~6月上旬に成熟します。受粉樹として利用されることが多い品種ですが、果実も食用に加工されています。全国では小粒南高を除き、約7%の栽培面積があります。
出典:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構「品種別栽培面積 平成29年産」
与えすぎはNG!施肥の時期と肥料の与え方について
高い品質の梅を収穫するには、施肥が重要です。特に肥料の与えすぎは病害にかかりやすくなったり果肉の質が悪化したりするので気を付けましょう。
主な施肥時期・スケジュール
地域や気候によって差がありますが、梅に施肥する主な時期は年3回です。新年から数えて、1回目は花が終わった3~4月、2回目は収穫が終わった7~8月、3回目は来年の栽培に向けた11〜12月に行われます。暖かい地域では春の施肥を2~3月などもっと早い時期に設定する場合があります。
1回目は果実をつけ始めた時期に実施します。果実が大きくなる前に養分を与えることで、生長を促します。
収穫後の施肥は「お礼肥(おれいごえ)」ともいい、果実を実らせるために体力を使った梅の樹へのお礼として施肥をして、体力を回復してもらうためのものです。古くから日本の暮らしに根付いた梅ならではの表現です。
3回目の施肥は翌年に備えるためのものです。梅は開花期・収穫期が早いので、前年の夏から落葉までにどれだけ養分を蓄えられるかが重要です。
施肥の頻度には地域差が著しいので、地域の気候や土壌を考慮して、自分の農地に合った施肥量や時期を見極めましょう。
効果的な施肥方法と施肥量の目安
樹木は根の先から養分を吸収するため、枝先の下の土壌に施肥をしましょう。その際、地表にまくだけだと雨などによって養分が流出してしまうので、深さ10cmくらいの穴を掘って埋めると効果的です。
秋または冬場に基肥を施用する場合は、速効性のものを避け、有機質肥料または緩効性肥料を主体にしましょう。
具体的な施肥の量は、排水の良し悪しなど土壌の条件や梅の樹齢にもよるので、一概には言えません。農水省のホームページでも、適正な施肥を行うためには都道府県の「施肥基準」や「減肥基準」に沿うことや、定期的に土壌分析を行って農園の状態を確認し調整することを推奨しています。
出典:農林水産省「都道府県施肥基準等(令和元年6月)」
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梅の一大産地である和歌山県の基準では、土壌pHを定期的に測定し、梅の生育に適したpH6~7になるように石灰質資材の量を調整しています。
堆肥は、収量が10a当たり2tの農園の場合、10~12月に10a当たり2t施肥します。その後、肥料を基本として4月と5月の実肥、6~7月のお礼肥、9~10月の基肥の4回に分けて施肥します。
上記を目安に、着果の少ない園では実肥を減らし、着果が多い場合は実肥とお礼肥を増やすなど、収量によって調整しましょう。また、定期的に土壌診断をすることが大切です。
出典:和歌山県 農林水産部 農業生産局 果樹園芸課「土壌肥料対策指針(改訂版)(平成31年3月)」
梅栽培におすすめの肥料
上記の和歌山の土壌肥料対策指針で示されている肥料成分に近い、おすすめの肥料を2つ紹介します。
1. バイオノ有機S
成分:窒素(N):リン酸(P):カリウム(K)=7.43-4.44-2.76
参考価格:3,300円/20kg(税込)
魚肉エキスと胚芽タンパクを合わせて粒状にした有機100%の有機質肥料です。早期に魚肉エキスの肥料効果が現れたあと、緩効・遅効成分が作物を健康に育てます。基肥に向いていますが、化学肥料と同様に追肥にも施用できます。梅の一大産地である和歌山県での使用事例があります。
2. JA梅美人
成分:窒素(N):リン酸(P):カリウム(K)=8-5-6
参考価格:要問い合わせ
有機態窒素を20%、良質な天然腐植を30%配合した梅専用の肥料です。梅の生育に合わせた緩やかな肥効で基肥・お礼肥・実肥すべてに使用できます。10年以上の成木の場合、10a当たり基肥として7袋、実肥として2袋、お礼肥として4袋の使用が目安です。
こちらは全農栃木県本部HPで紹介されている肥料です。紹介した肥料を基肥とした場合、追肥には16-0-16のNK化成肥料がおすすめです。
高品質な梅を収穫するには?そのほかの栽培のポイント
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適切な施肥以外にも、梅の品質を上げるポイントがあります。最後に梅の品質を左右する気候・土壌条件と剪定のコツについて解説します。
栽培条件が梅酒の味や成分に影響?梅の生育に適した気候と土壌
梅は日当たりがよく、水はけのよい場所を好みます。温度条件は年平均気温7度以上が適しているとされています。霜にあたると低温障害が出るので、寒冷地で栽培する場合は白加賀や豊後など低温に強い品種にするのがおすすめです。
和歌山県果樹試験場うめ研究所では、南高を原料にした梅酒の香気や苦みについての試験を行いました。
それによると、日照不足の梅で作られた梅酒は苦み成分が減少するものの、香気成分も減少し青臭さが増すなど、日照不足は梅酒の香気に悪影響があることがわかりました。
同研究所は、この試験の総括として「高品質な梅酒を製造するための良好な日照を確保でき、樹勢を良好に保つことが必要と判断された」としています。
また同研究所では、和歌山県内の代表的な土壌である岩屑土、灰色低地土、黄色土、褐色森林土それぞれで採れた梅で梅酒を作り品質を比べる試験など、土壌と梅の果実の品質の関係についての試験研究も行われています。
試験研究中の参考情報ですが、褐色森林土はほか他の土壌に比べて収量が多く、灰色低地土は苦み成分と香気成分を他に比べて多く含む傾向がありました。
出典:日本醸造協会誌 110巻7号 「ウメ‘南高’における光条件,土壌の違いが梅酒の香気,苦味および機能性成分に及ぼす影響」(和歌山県果樹試験場うめ研究所)
剪定はどうする?樹勢と収量を保つ発育枝の本数目安
梅酒の香りと樹勢の関係
上記の試験で、発育枝発生本数と芳香成分の関係性を調べたところ、樹勢が強いほうが梅酒に加工した際の芳香成分量が多い傾向が見られました。
和歌山県ではもともと南高の健全な樹体と収量確保のために、1平方m当たりの発育枝が10~11本程度になるように剪定することを推奨していました。この指標は、梅酒の芳香成分を高めるためにも適切であると判断されています。
出典:日本醸造協会誌 110巻7号 「ウメ‘南高’における光条件,土壌の違いが梅酒の香気,苦味および機能性成分に及ぼす影響」(和歌山県果樹試験場うめ研究所)
剪定の方法
剪定は、落葉後、休眠期の間にはさみやノコギリで樹形を整えます。長く伸びた枝、交差した枝、内側に向かって伸びた枝、枯れた枝、病気の枝、根本のひこばえなどを、花芽を確認しながら取り除きます。
剪定は樹勢を保ち、果実の品質をよくするうえで非常に大切な作業です。上記の指標を参考に、太陽の光がたっぷりと果実に当たるよう、バランスのよい剪定を心掛けましょう。
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
実梅の品質を左右する香り成分は、日照や土壌、剪定の影響を受けます。ここで紹介した内容を参考にして、より高品質な実梅の栽培を目指してみてはいかがでしょうか。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。