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「自分なりの色を出す」6次産業化~ターボファームの6次産業化KSFを聞く~

「自分なりの色を出す」6次産業化~ターボファームの6次産業化KSFを聞く~

まるでインポートショップで見かけるような絵になるおしゃれなパッケージ。ターボファームの高橋忠浩さん自身が商品を開発し、パッケージをデザインしたにんじんジュース、にんじんドレッシング、にんじんジャムは、地元の道の駅を中心に順調に売り上げを伸ばしています。そんな高橋さんのお話から、6次産業化のヒントを探ってみました。

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ターボファーム代表 高橋忠浩(たかはしただひろ)さん プロフィール

大学卒業後は出版社に勤務。2010年にUターンし茨城県古河市で就農。

3年後、地元の人たちににんじんを好きになってほしいという思いを込めて、にんじんの6次産業化を目標とした【ターボファームのにんじんプロジエクト】をスタート。「にんじんが大好きになりますように!」をコンセプトに着色料や保存料不使用のジュース、ジャム、ドレッシングなどの商品化に取り組む。

2017年にこのプロジェクトから生まれた「Ta-bo farm」ブランドの紫にんじんのジャムと、果肉たっぷりのドレッシングが「いばらきデザインセレクション」を受賞。

現在も地元の人の暮らしを豊かにするにんじんの商品化、6次産業化を通じた地元への貢献を模索している。

消費者の声と出版業界でのキャリアから生まれた6次産業化という目標

就農前は都内の出版社に勤め、女性向けファッション雑誌の編集に携わっていたという高橋さん。ご実家のキャベツ農家を継ぐために就農したとのことですが、そこからなぜにんじん栽培をスタートし、さらにはにんじんの6次産業化への挑戦に至ったのでしょうか。

農業に対する意識を変えた地元の「消費者の声」

実家のキャベツ栽培の修行から就農をスタート

実家のキャベツ栽培の修行から就農をスタート

ターボファーム代表・高橋忠浩さん(以下役職・敬称略) 就農前は、「農家はひたすら作物を栽培して卸す仕事」だと思っていました。しかし、2013年に地元にオープンした茨城県で最大級の道の駅「まくらがの里こが」で野菜の直売を行ったことが、農業に対する意識変化のきっかけになったと思います。

道の駅の直売では、農作業や調整・出荷だけしていては接することのない消費者の方々と触れ合う体験ができました。その中で「高橋さんのところのキャベツっておいしいよね」と父のキャベツ作りのことをほめていただくことが何度かありました。

それは、私にとって非常に衝撃的な出来事でした。なぜなら、消費者の方は、そのキャベツはうちの父親が作っていることを知ったうえで味を評価してくれていたのです。

ファッションの世界でいえば、デザイナーのコンセプトを理解してお客様が服を買い求めるように、農家の作物だってやりようによっては作り手の「色」を出すことができるのだと知りました。


「まくらがの里こが」のホームページはこちら

作り手としての「自分なりの色」は?6次産業化の姿が浮かび上がる

高橋 道の駅での経験をきっかけに「自分も自分なりの色を出して、地域の方に好まれ評価されるような作物を作りたい」と考えるようになりました。

就農前は女性向けファッション雑誌の編集に携わっており、ヘルシーなイメージ、おしゃれなイメージの食品が、若い主婦には好まれることを感覚的に感じていました。

そこで、自分なりの色を出すなら「ヘルシーでおしゃれで、思わず手に取ってみたくなるような商品をプロデュースできるような農産物を作りたい」と思うようになり、これが6次産業化という目標になりました。

「自分なりの色を出す6次産業化」の選択と集中

消費者のリアルな声と出版業界での経験から「自分なりの色を出す6次産業化」という目標が定まった高橋さんですが、事業化にあたって「にんじん」にフォーカスしていくことになります。

にんじんにフォーカスしたきっかけは思いつきと思い入れ

高橋 にんじん栽培を思い立ったのは、競馬が趣味だったからです。ひたすらゴールを目指して疾駆するサラブレッドたちの姿を見るのが好きなんですが、「そういえば、馬といえばにんじんだよな」とふと思いついたことがきっかけです。

僕は、プロ野球の好きなチームもオレンジがカラーだし、これはにんじんで勝負するというのが自分の進むべき道ではないのかと直感しました。

さらに、サラブレットの飼育ではエサにも気を遣っているので、そのサラブレットの馬糞を堆肥にすることで、より品質のいいにんじんができるのではと発想が広がりました。

一見単純な思いつきのようですが、好きなものへの強い思い入れがにんじんに結びつき、「自分の色を出す農業」につながったのです。

思い入れを事業に変えるための徹底リサーチ

高橋 思い入れだけで始めて失敗しないよう、マーケティングの面からも、にんじん栽培で農業経営が成り立つのかを考えました。

6次産業化した場合の商圏に競合する農家がいないかを自分の足で調査しましたし、にんじんを6次産業化するうえでどのような商品化事例があり、どういう場合に成功しているかをインターネットで調べ考え抜きました。

また、試験栽培を始めてからはにんじんジュースを試作し「まくらがの里こが」で無料配布して、地元の方々から評価を聞き、そのリアルな声を商品化に活かすようにしていきました。

「にんじんが大好きになりますように!」プロジェクトに結実した商品化

ターボファームの高橋さんと言えば、美しく美味しい「Ta-bo farm」ブランドの商品群です。

「にんじんが大好きになりますように!」というコンセプトには「地元への意味ある貢献がしたい」「売りっぱなしにはせず、にんじんの商品化を通じて暮らしを提案できる農家になりたい」という強い思いが込められています。

高橋 僕は「まくらがの里こが」での直売で、おいしいと喜んでくれたり、評価してくれたりする地元の方々との触れ合いを通じて、もっと多くの地元の人が喜んでくれるようなにんじんをつくりたいと思うようになりました。

作物を作りっぱなし、売りっぱなしの農家ではなく、自分が作るにんじんがこの地元にとってどんな意味があるのかを考え、にんじんのさまざまな形での商品化を通じて「暮らし」の一部を提案できるような、新しい農業スタイルを追求していきたいと考えています。

その1つが「にんじんが大好きになりますように!」というプロジェクトであり、地元の人々のために商品開発を行うという試みなのです。

「地域の方に評価されるにんじんを作りたい」とターボファーム代表の高橋さんは語る

「父のキャベツに負けないくらい、地域の方に評価されるにんじんを作りたい」と高橋さんは語る

【6次産業化のKSF】プロダクトを磨く

ここからは、6次産業化の成功の鍵をお聞きします。

6次産業化を前提に、2年かけて品種を選び抜く

高橋 最初はほ場を細かく区分けし、6次産業化を前提に栽培するにんじんの品種と肥料を選び出すための試験栽培を繰り返し行ってきました。

品種選びについては、当初10品種以上の栽培から着手し、自分の舌で甘みや香りを確かめながら選び抜いていく方法を取りました。

そして、約2年かけて、春播きの「アロマレッド」、夏播きの「ひとみ五寸」の2品種に絞り込んでいきました。

「アロマレッド」はにんじん特有の青臭さが少なく、ほかの品種と比べて甘みが強いのが特徴です。にんじん嫌いな子どももアロマレッドなら食べられたという声を聞き、にんじんが苦手な方にも受け入れられやすいと考えて選びました。

「ひとみ五寸」は、低温でもよく肥大し秋から春先まで収穫できる品種です。そして甘みが強く肉質が柔らかいのでジュースやジャムなどに加工しやすいという6次産業化にとっての大きなメリットがあります。

肥料選びについては、まだまだ途上です。

有機がいいのか、化成がいいのか、その混合がいいのか。また、どのような割合で組み合わせればいいのか、1つひとつ出来を確かめながら選別している段階なので時間がかかりますが、それも答えを追求する楽しさだと感じています。

ターボファームでは試験栽培を経て、6次産業化を前提ににんじん2品種に絞り込んだ

自分の舌で1つひとつ確かめながら、10品種以上から2品種に絞り込んだ

消費者の暮らしを豊かにするデザインを

商品化の主なラインナップはジュースとドレッシング、そしてジャム。美しいパッケージデザインは、持ち前のデザインセンスを活かして高橋さん自らが行いました。

高橋 これまでファッション雑誌の編集を通じて、優れたデザインやビジュアルには人の心を動かす力があることを確信していました。

地元で暮らすお母さん方や子どもたち、若者たちが興味を持って手にしてくれ、テーブルやキッチンに並んでいるだけで食卓が豊かになるようなパッケージデザインを心がけています。

このうち、ドレッシングとジャムは、「いばらきデザインセレクション2017」において知事賞を受賞し、マスコミにも多く取り上げられ、高橋さんが注目されるきっかけになりました。

消費者にとって美味しく、加工に適した品種を選び抜きよりよい施肥を追い求めること。消費者の心を動かしその暮らしを豊かにするという発想をデザインとして見せること。栽培と商品化の両面でプロダクトを磨きあげることで6次産業化の第一ステップに成功したと言えそうです。

ターボファームのジャムとドレッシングが「いばらきデザインセレクション2017」を受賞

6次産業化の成功の証しともいえる「いばらきデザインセレクション2017」を受賞

【6次産業化のKSF】出会いの接点をネットワークに

作物としてのにんじんと商品としての魅力を磨き上げていった高橋さんですが、こうした挑戦は決して1人では実現できなかっただろう、と語ります。

最初は無視していた人的ネットワーク

高橋 新たに就農を考えている人が陥りやすいのが、独立独歩の経営スタイルだと思います。僕も最初は、マイペースに農業に携わりたいと考えていて、地元とのつながりを遠ざけて仕事をしていました。

しかし、今考えてみると、そのままでは道の駅の直売にも参加できなかったですし、地元の人のために6次産業化を考えるというヒントも得られなかったと思います。

4Hクラブへの参加が成功の足がかりに

高橋 僕の場合は、「あぐり一揆」という地元の4Hクラブへの参加が、ジュースやドレッシング、ジャムなどの商品開発を進める上での重要な足がかりとなりました。

最初は、4Hクラブは単に農業の後継者が集まる場だととらえていました。ところが実際に出席して、同業の先輩方に悩みを打ち明けたり相談したりするうちに、気持ちが前向きになり軽くなっていきました。

さらに、「あぐり一揆」の人脈を通じて、パッケージを開発する際に必要な印刷会社の社長や、調味料メーカーの社長とも知り合うことができ、6次産業化のネットワークを広げることができました。

ターボファーム代表・高橋さんは「農家こそ人脈づくりが大切」と語る

高橋さんは「農家こそ人脈づくりが大切」と語る

「こうしたい」という明確な意思が価値あるネットワークをつくる

では、高橋さんは、4Hクラブへの参加からどのように人的ネットワークを広げていったのでしょうか。

高橋 僕の場合は、自分がこれからやりたいこと、実現したい夢、コンセプトを明確に持つことが、人的ネットワークの広がりに役立ったと思います。

「自分はこうしたいんだ! これがやりたいんだ!」ということをいろいろな人に伝えていきました。

すると少しずつ、「パッケージ印刷なら知っている印刷会社の社長がいるよ」「地元にこんな調味料メーカーがあるよ」など、周りから商品化へ向けてのネットワークにつながりそうな情報提供を受けられるようになりました。

紹介いただいてつながった方とは、仕事の話だけでなく競馬などの趣味の話をするなど、腹を割って仲を深め、日ごろからつながりを大切にするよう努めました。

僕が広げてきた人的ネットワークは、出会う人1人ひとりとの関係を1つひとつ大切にして、育ててきたつながりです。これは今後の農業経営においてもかけがえのない財産だと思い、これからも大切にしていこうと思っています。

最初に夢や目標を語ることは、時として気恥ずかしいこともありますし、気後れする場合もあります。

僕も「それは現実的ではない」と夢を否定されたこともあります。しかしそれは否定ではなく、自分の考えを見つめ直しブラッシュアップするためのアドバイスと捉えて、僕は夢を語り続けました。

そうするうちに「だったらこんな人がいるから紹介するよ」と、熱意に応えてくれる人が出てきました。そのつながりをおろそかにせず、1つひとつネットワークを広げていくことで、自分がやりたいことを実現するチームづくりを進めてきました。

「作物としての品質の高さ」と「商品としての魅力」を両輪に、「人的ネットワーク」をプラスすることが、ターボファームの6次産業化を成功に導く鍵になったと言えるのではないでしょうか。

次のステップはサービス業としての農業の追求

そんな高橋さんに今後の挑戦について質問すると、生産者としてはユニークともいえるメッセージが返ってきました。それは、「サービス業としての農業を追求していきたい」という考え方です。

地元の声に応え、地元の人たちが喜ぶ提案をしていく

高橋 道の駅での直売で多くの人と触れ合い、気づいたことが1つあります。

それは「ただ作物を栽培し商品化するのではなく、農産物を通じて食の楽しさや健康を提案・提供することも、これからの農家の仕事なのだ」ということです。

そうした気づきをもとに消費者の方々と向き合ってみると、さまざまな商品開発の「種」が発見できます。

例えば「にんじんってトリートメント効果があるらしいよ」「もっとオーガニックな素材で安心して手を洗える石鹸ってないかな」など、主婦ならではの目線で情報を得ることもありました。まさに新しい商品の「種」です。

そこで、自分なりに研究してにんじん石鹸を作って実験したこともあります。商品化するには至っていませんが、人と触れ合うことで多くのヒントを得て、地元の人が喜ぶような提案を行う。そうしたサービス業としての農業経営を確立できればと考えています。

子どもたちへの食育を考え、にんじん絵本づくりに着手

「農業はサービス業」という高橋さんの考え方は、にんじんをテーマにした食育のための絵本作りにまで及んでいます。

高橋 にんじんが苦手な子どもたちに、その魅力やおいしさをわかってもらうにはどうすればいいかをずっと考え続けていて、絵本を通じて伝えていくことを考えつきました。

現在、4Hクラブの紹介を通じてある絵本作家さんとつながり、種まきから始まって子どもたちの口に入るまでを物語化した絵本を制作中です。

この絵本をもとに、今度は食育の現場である幼稚園や保育園、小学校へ行って、にんじんだけでなく野菜を食べる大切さを伝えていくような取り組みができればと考えています。

6次産業化から子どもたちへの食育へ。ターボファーム代表・高橋さんの挑戦は続く

6次産業化から子どもたちへの食育へ。高橋さんの挑戦は続く

「チーム地元」が地元の産業と暮らしを豊かに

高橋さんとお話ししていると何回もでてくる「地元」という言葉。この言葉からは、地元の農業だけではなく地元全体に貢献していきたい、という思いが強く伝わってきます。

地域密着型人参提案研究所」は、高橋さんがつけた自らの農園に対するニックネームだそうです。このネーミングからも地元の人々に自分のにんじんを届けたい、喜んでもらいたいという思いが溢れでています。

高橋 僕が農業経営を進める上で大切にしているテーマの1つは、「チーム地元」です。

これと思った作物を地元で丁寧に作り、地元の人たちのためになることを考える。
地元だからこそ出会える、本当に信頼できる人たちに6次産業化を事業として成り立たせるための相談をする。
こうしてできたビジネス上の接点がネットワークになるようにつなげていきながら、農業で儲かるしくみを考える。

これが僕の考える「チーム地元」です。チーム地元で地産地消を推進し、農業を発展させたいと思っています。

チーム地元をベースにした農業の発展があればこそ、農業というビジネスを超え、地元の異業種の人やここで暮らす消費者との間に信頼が生まれ関係性が深まります。

信頼をベースにした関係性があれば、地元の問題に共に地道に取り組んでいくことができます。

これは、僕の実感でもあります。自分自身が地元の人たちに喜んでもらうことを考え続けたことで、周りの人から自分1人の発想や能力を超えた力をいただくことができ、ここまで6次産業化を進めてこられたのですから。

ターボファームのコンセプトや商品などを是非ホームページでご覧ください
にんじんジュース・にんじんドレッシングの茨城県古河市 Ta-bo farm

6次産業化を考えている農家の方にとってそのハードルは高く思えるかもしれません。

しかし、高橋さんの「チーム地元」を大切にする姿勢は、大都市の消費者に受け入れられる商品化だけが6次産業化ではないことを気づかせてくれました。

地元の消費者が喜ぶことを考え抜き、そのために作物の品質を追求し、少しずつ理解者やファンを増やしながら商品化を実現していく。そうした高橋さんの軌跡は、6次産業化を考えている農家の方にとって一歩を踏み出すための後押しになるのではないでしょうか。

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松崎博海

松崎博海

2000年より執筆に携わり、2010年からフリーランスのコピーライターとして活動を開始。メーカー・教育・新卒採用・不動産等の分野を中心に、企業や大学の広報ツールの執筆、ブランディングコミュニケーション開発に従事する。宣伝会議協賛企業賞、オレンジページ広告大賞を受賞。

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