「生分解性マルチ」で省力化&コスト削減!廃プラスチック問題にも貢献
マルチの剥ぎ取り・廃棄作業を大幅に省力化し、環境問題にも貢献できる「生分解性マルチ」が注目されています。しかし農家からは「すぐに破れるのでは?」という声も聞かれます。今回は、生分解性マルチの基礎知識と上手な使い方を、西日本グリーン販売株式会社 代表取締役社長 坂本孝利さんに詳しくお聞きします。
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目次
マルチングを利用した農業では、収穫後にマルチフィルムを剥ぎ取り廃棄しなければなりません。その労力と廃棄コストは農家にとって大きな負担になっています。
その負担を大幅に軽減してくれるのが、土壌中の微生物によって水と二酸化炭素に分解される「生分解性マルチ」です。
今回は、生分解性マルチに詳しい西日本グリーン販売株式会社 代表取締役社長 坂本孝利さんから、生分解性マルチの基礎知識を学び、さらに上手な使い方もお聞きします。
そもそも農業用のマルチフィルムとは
ttn3 / PIXTA(ピクスタ)
マルチフィルムの語源は「Mulching Film」で「地面を覆うもの」からきているそうです。元々は敷きわらなどで地面を保温していたものが、戦後プラスチック製のシートを活用するようになりました。
当初は地面の保温が目的でしたが、やがて雑草の抑制や肥料流出防止、土壌水分の蒸散防止、高温抑制や害虫の抑制などの目的で用いられるようになりました。商品も目的に応じた多様なタイプのものが発売されています。
現在、マルチフィルムの被覆面積は年間約14万haに及んでいます。
これまでの農業用マルチフィルムの問題点
作物の品質向上や省力化に貢献しているマルチフィルムですが、デメリットもあります。農家にとっては追肥が難しいこと、処理コストが増加していること、剥ぎ取り・廃棄作業の負担の3つが挙げられます。
追肥が難しい
まず、畝全体をマルチフィルムで被覆するため、追肥作業が難しいことが挙げられます。
近年は遅効性肥料なども出てきており、肥料の種類を変えることにより改善されてきています。
環境問題と処理コスト
廃プラスチックの処理は国際的な問題になっており、これまで廃プラスチックの処理を受け入れてきたアジア諸国でも2014年以降つぎつぎと輸入制限するようになりました。
出典:農林水産省「農業分野から排出されるプラスチックをめぐる情勢(平成31年2月)」
プラスチック製の農業用資材も例外ではなく、多くの地域で、マルチフィルムの処理費用が増加する傾向にあります。
剥ぎ取り・廃棄作業の負担
マルチフィルムの剥ぎ取り・廃棄作業は農家にとって大きな負担になっています。
一枚ずつ土壌中に残らないように丁寧に取り除く作業は、農業生産の中でも大きな労力がかかる仕事になっています。その後も、乾かして、束ねて、回収日に持っていくなど負担がかかります。
生分解性マルチとは
生分解性マルチフィルムを張ったサツマイモ(甘藷)のほ場
写真提供:西日本グリーン販売株式会社
生分解性マルチの特徴
生分解性マルチは、生分解マルチとよく言われていますが、正確には「生分解性マルチフィルム」という被覆材で、天然素材または化学合成素材をシート状に加工したものです。
従来のマルチフィルムとは異なり、廃棄物とならずに自然界で分解される点が大きな特徴です。
作物の⽣育期には従来のポリエチレンマルチと同様に機能しますが、収穫間際になると⼟壌中の微⽣物によって分解を始め、収穫後に作物の残さと一緒にロータリーなどでほ場にすき込むと、最終的に水と二酸化炭素とに分解されます。
勝手になくなると勘違いされている方もおられますが、あくまですき込んでから土壌中で分解され形が無くなります。
農家にとっては、剥ぎ取り・廃棄の労力が大幅に軽減され、また、廃プラスチックとしての処理コストがかからないことが大きなメリットです。
画像提供:渡辺パイプ株式会社グリーン事業部
生分解性マルチの普及状況
生分解性マルチの利用は年々増加しています。業界団体である「農業用生分解性資材普及会」の調査によると、2018年の生分解性マルチフィルムの被覆面積は1万haを超えています。資料によって差はありますが、普及率は農業用マルチフィルムの4~6%程度だといわれています。
根が大きく張出すとうもろこしや外葉が大きく展開するキャベツ・白菜など、使用後のマルチの回収が困難な作物で生分解性マルチの普及が進んでいます。
鹿児島県経済農業協同組合連合会 園芸事業部、独立行政法人農畜産業振興機構 調査情報部が「農業用生分解性資材普及会」公表のデータをまとめた資料(砂糖類・でん粉情報 2020年2月号「生分解性マルチフィルムによるかんしょ栽培の省力化」)からmiorasu編集部が作成
生分解性マルチは強度が弱い?
生分解性マルチは20年以上前に市場に登場しましたが、その頃は強度や分解性能が安定していませんでした。
強度が弱くうまく張れない、分解が早く進みすぎてしまうなどの問題が多く発生し、この当時に使用した農家の方々からは、いまだに使いにくい商品として敬遠されています 。
しかし、メーカー各社の技術開発の結果、強度・分解性能ともに安定した商品が開発され、現在ではポリエチレンマルチと⼤きな差がない⽔準になっています。ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか?
生分解性マルチの上手な使い方
生分解性マルチの使用に興味のある方に、上手な使い方のアドバイスです。
作物にあった分解速度の製品を選ぶ
作物ごとに収穫までの期間が異なるので、生分解性マルチ商品の分解速度を選択してください。2~3ヵ月で分解するタイプと、4~5ヵ月で分解するタイプが一般的です。
とうもろこしやキャベツであれば、3ヵ月程度の分解速度で十分ですが、玉ねぎなど栽培期間が長いものは分解速度が長いものを選んでください。各メーカーとも栽培の事例を持っているので問い合わせてみてもいいと思います。
展張時はテンションを下げゆっくりと
写らく / PIXTA(ピクスタ)
生分解性マルチは、市場に登場した当初より格段に強くなったとはいえ、通常のマルチと比べると縦方向に裂けやすい傾向があります。
通常のマルチと同じようにピーンとテンションをかけると破けるケースがあるので、展張時はややテンションを下げ、速度もゆっくり張るのがポイントです。
生育期は分解スピードに気を配る
ほ場に張られた生分解性マルチは、地上表面部は気象変化や紫外線の影響によって、裏面は微生物の働きと水分などにより分解が進みます。
水田のあと地や多湿傾向のほ場、冠水で水に浸かった場所などは、分解が早く進むケースがあります。また、夏場の高温や紫外線量が多い場合にも分解が早く進みます。早期に判断し、土寄せをするなどの対策をします。
また、環境や使用条件にもよりますが、農薬などの影響が加わると分解が早まる場合があります。特に⼟壌消毒剤を使⽤した場合には分解が早まりやすいので注意が必要です。
栽培終了後のすき込み
栽培終了後は逆に分解が進まないケースが問題となります。これは、十分にすきこむことで対応が可能です。
多くの農家で通常3回程度すき込んでいます。表面にマルチの残さが残っていると、それは翌年まで残り次作に影響が出てしまいます。
また、⽣分解性マルチをほ場にすき込むことは、廃棄物処理法の産業廃棄物の中間処理に該当するので、外部へ飛散・流出しないように十分に管理する必要があります。ロータリーですき込む際も、マルチの残さが周囲に飛散しないよう十分に気をつけましょう。
生分解性マルチを購入するときの注意点
使い切れる量を購入する
生分解性マルチは、温度・湿度・紫外線などの影響で、十分密閉して保管しても少しずつ分解が進んでしまいます。各メーカーとも1年以上前のものについては使用を控えるように指導しているところがほとんどです。
使い切れる量を計画的に購入するのが理想ですが、受注生産や最低ロットを設けているメーカーが多いので、最低ロットに満たない場合には、近隣の農家や生産組合などに相談して共同で入手しましょう。
用途と価格をよく検討する
生分解性マルチは、通常のマルチと比較して価格が高いものが多いです。しかし、厚さを薄くすることでコストダウンを図った商品や、穴あけの加工をして省力化につなげた商品もありますので、栽培する作物や作業負担などを考え合わせ、ご自分にあった商品を選んでください。
また、自治体によっては、生分解性マルチの購入を対象とした補助金制度がありますので、農政部署などに問い合わせてみてください。
西日本グリーン販売株式会社 代表取締役社長 坂本孝利さんプロフィール
ここまでは、西日本グリーン販売株式会社 代表取締役社長 坂本孝利さんにお聞きしました。
西日本グリーン販売株式会社 代表取締役社長 坂本孝利さん
写真提供:西日本グリーン販売株式会社
西日本グリーン販売株式会社は、農薬から農業資材まで広く取り扱っています。 坂本孝利さんは、農業用フィルムの生産工場に勤務後、2017年 代表取締役社長に就任しました。
『農家の困ったを解決する企業へ』をモットーに、地域の農業問題を解決できるよう情報発信や商品の提供を行っています。
西日本グリーン販売株式会社のホームページはこちら
生分解性マルチの活用事例
最後に、生分解性マルチを使った取り組みについて、minorasu編集部から2つの事例を紹介します。導入を検討するうえでの参考にしてください。
出典:農林水産省「プラスチック資源循環(農業生産)」「⽣分解性マルチの活⽤事例 〜回収作業の省⼒化と処理コストの削減を図る〜(平成31年2月)」
点在する農地を効率よく経営するために|有限会社吉備⾼原ファーム
岡山県吉備中央町の吉備高原ファームは、15haの農地でとうもろこし、ブロッコリーなどを生産しています。高齢になった近隣の農家から耕作できなくなった農地を預かっており、点在する数多くのほ場を管理しています。
点在するほ場でそれぞれ年2~3作の作物を栽培するためには、省力化しながら作付け計画通りに栽培することが重要になります。その点で、収穫後のマルチの処理を機械で行うことができ、短期間で次作の準備ができる生分解性マルチが大きな役割を果たしています。
導入したきっかけは、根がマルチにからみ剥ぎ取りが困難なとうもろこしで、マルチの剥ぎ取りと回収を外部に委託したところ、費用と期間が予想外にかかったことでした。
現在はとうもろこし5haと、ブロッコリーなど2haで生分解性マルチを利用しています。
吉備高原ファームのホームページはこちら
収穫機械の導入のために|カゴメ株式会社
安心・安全への取り組みの基準を設けているカゴメ株式会社では、野菜ジュースの国産原料については農家との契約栽培を基本としています。自社開発品種の栽培を国内各地の農園に委託しており、その面積は約250haに及びます。
加工用トマトは無支柱で畔上に茎葉を這わせる形で栽培します。そのため、病害や雑草の対策のためマルチ被覆は欠かせません。
加工用トマトの場合、手収穫の労力は大変なもので総労働時間の半分以上を占めます。そこで、収穫作業の省力化の手段として機械化を進めていますが、通常のマルチでは、マルチが収穫機械に絡まって故障の原因となり効率があがりません。
そこで、収穫機械を導入する農園では、収穫時に分解が進んでいる生分解性マルチを使うことを前提としています。
収穫作業の機械化を目的とした導入ですが、マルチの剥ぎ取り・廃棄作業の省力化のメリットも大きく、今では手収穫の農園の一部でも生分解性マルチを導入しているそうです。
kelly marken / PIXTA(ピクスタ)
生分解性マルチは、農作業の負担を軽減するのみならず、農業経営の効率化にもつながります。環境への影響が少なく、経営規模の拡大も視野に入れられる生分解性マルチは、今後さらなる普及が予想されます。
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