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ビニールハウスの温度管理で作物の収量アップをめざそう
出典 : Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)
  • 生産技術

ビニールハウスの温度管理で作物の収量アップをめざそう

ビニールハウス栽培(施設栽培)は天候の影響を抑え、安定した栽培と長期出荷ができるため人気があります。しかし、温度管理を誤ると収量を大きく落とすこともあります。本記事では、ビニールハウスの温度管理の基本とコツを、夏と冬に分けて解説します。

ビニールハウス栽培(施設栽培)は、作期をずらして取引価格の高い時期に作物を出荷したり、周年栽培によって安定した収益を得ることを可能にします。

しかし、外気をある程度遮断できるとはいえ、適切な温度管理を行わなければ高い収益性は望めません。

ビニールハウスの温度管理で重要なポイント

連棟ビニールハウスとボイラー煙突

やえざくら / PIXTA(ピクスタ)

初めに、ビニールハウスの温度管理をするうえで必要な情報について解説します。

現状の栽培環境を知る

適切な温度管理をするには、ビニールハウス内の環境の現状把握が第一歩です。まずは栽培環境の記録から始めましょう。

温度を測定する機器は、一般的な温度計から、湿度や二酸化炭素量なども計測できるもの、遠隔でデータを取得できるもの、さらに開口部やカーテンの制御と連動できるものまでさまざまです。

正確な温度管理の第一歩としては、最高・最低気温の記録、平均気温の算出、データ蓄積ができるタイプの機器がおすすめです。

栽培環境で押さえておきたい基本的な情報は次の3つです。

ビニールハウス内の平均気温・最低気温・最高気温

作物は長期間の平均気温に大きな影響を受けます。ビニールハウス内での作物の温度反応を理解するうえでも必ず計測しましょう。

日単位で押さえるべき基本的な指標:

・日平均気温(1分間隔の測定値を平均化するのが最適です。機器を選ぶ際には日平均気温の測定間隔を確認してください。)
・最高気温とその時刻
・最低気温とその時刻

これらを知ることで、作物の生育適温に応じた温度設定が可能になります。

ビニールハウスの外気温

ビニールハウス内の温度に最も影響を与えるのは外気温の変化です。特に春や秋は1日の間でも大きく気温が変化します。また、冬季にはビニールハウス内の温度が外気温より低くなることもあります。

外気温の変化に応じてこまめにビニールハウスの温度調整をするためにも、ビニールハウスの外にも測定機器を設置し外気温を把握しましょう。

ビニールハウスに入る日射量

日射量は季節や時間で大きく変化するため、光合成量もそれにともなって変化します。

日射量が少ない夜間や雨天・曇天のときに温度が高いと、呼吸量が光合成量を上回るため、作物はエネルギーを消耗し生育が鈍ります。

逆に日射量が多いときに温度が低いと光合成量が大きくなり、果菜類などは果実の成りが悪くなることがあります。

日射量に応じた温度管理を行うことで光合成量を調整し、草勢をコントロールすることができます。

日射量の測定には、農業用の日射計または、温湿度・二酸化炭素量と日射量などをあわせて測定できるマルチセンサータイプの機器を用意します。

最高気温・最低気温

Macrovector / PIXTA(ピクスタ)

作物の生育適温と生育限界温度を知る

生育適温

作物にはそれぞれ、最も良好な生育を示す温度域である「生育適温」があります。

作物が生育されている現在の温度(生育温度)と、生育適温の差分を知ることで、ビニールハウス内の温度をコントロールでき、作物の生育不良や品質低下・収量減を防ぐことができます。

生育限界温度

作物には、生育の「限界温度」があり、最高限界と最低限界があります。限界を超えた場合は、栽培の支障になる高温障害や低温障害を起こし、収量や品質に大きく影響します。生育適温と合わせて把握しておきましょう。

参考:主な果菜類の生育適温と生育限界温度

参考に主な野菜類の生育適温と生育限界温度を下表に示します。

同じ作物でも、品種や作型、生育ステージ、土耕栽培や高設栽培といった栽培様式によって生育適温の範囲温度は異なります。都道府県の営農部署や地域のJAに確認してください。

主な果菜類の生育適温

出典:長野県佐久振興局 技術情報「主な果菜類の温度管理」よりminorasu編集部作成

ビニールハウスの温度管理|夏編

外気温が高くなる夏のビニールハウス内は、容易に生育適温を超えてしまいます。

また酷暑日や梅雨の晴れ間などには、ビニールハウス内のこもった空気に強い日射が重なって温度が急上昇することがあり、夏の温度管理は難しいといえます。

高温障害

生育適温を超える高温が続いたり、気温の急上昇や強い日射にさらされると、高温障害が起きやすくなります。また、湿度も上昇するため病害虫が発生しやすい環境になりがちです。

果菜類の高温障害では、開花遅れや裂果や尻腐れ果などの果実の異常がみられ、収量に大きな影響を与えます。また、草姿にも勢いがなくなり、枯死する場合もあります。

高温障害を防ぐためにも、ビニールハウス内が生育適温を超えた高温にならない対策が重要です。

ビニールハウス内の温度を下げる方法

夏にビニールハウス内の温度を下げる方法を紹介していきます。

換気する

ビニールハウス側面の巻き上げハンドル

Ystudio / PIXTA(ピクス

気温の変化に気を配り、ビニールハウスの出入口の開放、両サイドの巻き上げなど、こまめに換気を行います。

しかし、暑い中ビニールハウスの開閉を行う作業負担はかなりのものです。

ビニールハウスの天窓や妻面に換気扇(ファン)や循環扇を設置すれば、常時換気ができるようになり、開閉にかかる作業負担を大幅に軽減できます。温度を下げると同時に温度ムラや湿度の上昇も抑えられます。

ビニールハウスの循環扇

Ystudio / PIXTA(ピクスタ)

遮光カーテンを利用する

ビニールハウス内のこもった空気に強い日射が重なることによる温度の急上昇を防ぐためには、日射を和らげる遮光カーテンや遮光ネット、熱線反射・断熱フィルムなどを張ります。

シルバータイプの遮光カーテンを張ったイチゴ栽培ビニールハウス

YUMIK / PIXTA(ピクスタ)

細霧冷房(ミスト)やクーラーの利用

気化熱を利用した細霧冷房(ミスト)設備を導入してビニールハウス内を冷却する方法もあります。

ミストの粒は細かいほど冷却効果が高まります。ただし、ミスト噴射によって湿度が上がりすぎると、病害が発生することもあるので注意しましょう。

また、クーラー(冷風機)を使用するのもよいでしょう。循環扇と併用すれば冷風がビニールハウス内にムラなく行き渡ります。

主に冬季の加温に用いるヒートポンプエアコンでも冷房できますが、夏の昼間に運転するとランニングコストがかかりすぎます。ヒートポンプエアコンは、夜温を下げるのに用いるのが効果的です。

細霧冷房(ミスト)設備

ino masa / PIXTA(ピクスタ)

ビニールハウスの温度管理|冬編

冬は当然ですが、外気温が下がるのでビニールハウス内の温度も低くなります。冬の晴れた日に起きる放射冷却現象によって、外気よりビニールハウス内の方が低温になる場合もあります。

ヒートポンプエアコンなどによって加温していても、ビニールハウスの開口部付近は部分的に低温になっていることもあり、注意が必要です。

低温障害・霜害・凍害

ビニールハウスの設定温度が生育適温より低い状態が続くと低温障害が発生します。作物の生理代謝全体が影響を受け、生育不良、葉や花の変色や奇形化がみられ、さらには株全体が枯死することもあります。

施設栽培に多いトマトやナス、きゅうりなど一般に夏野菜といわれる果菜類は特に低温障害が起きやすい作物です。

放射冷却によって地表温が下がって霜が降りると、地表近くの水蒸気が凍り作物が凍結する霜害が発生します。また、0℃を下回ると作物自体が凍結し枯死してしまいます。これを凍害といいます。

ビニールハウス内の温度を上げる方法

ビニールハウスの加温には、燃油暖房機やヒートポンプエアコンを設置しますが、ビニールハウス内をムラなく効率よく暖房するには、内張りカーテンなどの資材を上手に使い保温効果を高めることが重要です。

基本の加温設備

ビニールハウス内の大型ヒートポンプエアコン

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

加温設備として最も一般的なのは燃油暖房機です。近年はエネルギー効率がよく冷暖房ともにできるヒートポンプエアコンの導入も進んでいます。

ヒートポンプエアコンは燃油暖房機と比べると価格が高いため、大規模ビニールハウスでは全面的に導入するのは困難です。そこで既存の燃油暖房機と併用し、ヒートポンプエアコンを優先的に運転するハイブリッド方式が主流になっています。

いずれも温度センサーと連動して設定した温度になるように自動運転するので、温度センサーの設置位置にも気をつけましょう。ビニールハウスの開口部やダクトの周りは避け、作物の生長点の高さを目安に設置します。

保温効果を高める内張りカーテン

ナスのビニールハウス栽培 内張りカーテン

hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

ビニールハウス内の内張りカーテンを張ることで、暖房機やヒートポンプの暖気を逃さず保温効果を得られます。

内張りカーテンの設置の際は、すき間ができないように注意しましょう。

カーテンの裾は長めにし、留め具などで固定します。出入口や開口部はその部分を二重被覆し、開閉によって冷気が入り込まないようにします。

天井カーテンと側面カーテンのつなぎ目、開閉用の滑車付近などもすき間ができやすいので十分注意して展張しましょう。

タイマー式の開閉装置を使用する場合は、日長など気象情報にあわせてこまめに設定を調整します。また、シーズン前に必ず動作テストを行いましょう。

天井部の内張りカーテンは、結露⽔などがたまり金魚鉢のようにふくらんでしまうことがあります。内張りカーテンが破けたり、レンズ効果で作物に日焼けを起こしたりするので、こまめに対処します。

内張りカーテンの開閉装置

hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

内張りカーテンの多層化

内張りカーテンを多層化することで、より高い保温効果を得られます。

しかし、カーテン同志が結露水などによって密着してしまうと、1層の場合と同じレベルの保温効果しか得られません。多層化する際には密着しない程度の間隔をあけます。

また、多層化するほど光の透過性が低下するので、作物の特性と内張りカーテンの素材特性とを考えあわせ、多層化の設計を行いましょう。

高い断熱性素材の被覆材を使う

カーテンなどの被覆材には、より断熱性の高い資材や空気層を利用して断熱性を高めるものなどもあります。主なものは以下の通りですが、内張りカーテンの多層化同様、作物の特性と素材の特性を考えあわせ、導入を検討してください。

・アルミ蒸着資材など断熱性の高い資材を編み込み遮光ネットをかねたもの
・中間に空気層をもつ中空二層構造軟質フィルム
・ポリエステル綿などを不織布や布で挟んだ多層断熱資材(通称「布団資材」)

ビニールハウス栽培に環境制御機器・設備を導入すると?

レベルの高い温度管理を実現するために、今あるビニールハウスに、モニタリング装置、CO2発生装置、複合環境制御装置などを導入したら、いくらかかるのでしょうか。

神奈川県環境農政局「かながわスマート農業普及推進研究会」では、施設栽培のトマト農家が環境制御設備を導入したときの経済性試算を紹介しています。環境制御装置の導入費用の目安として参照してください。

トマトのし絶栽培 環境制御設備を導入した場合の経済性試算

出典:神奈川県 環境農政局「かながわらしいスマート農業の推進(環境制御編)」所収のパンフレット「施設栽培の収量や品質を向上させたい方へ(スマート農業普及推進研究会)」よりminorasu編集部作成

ビニールハウス栽培の環境制御の第一歩は温度管理だと言えるでしょう。

初めから高度な環境制御装置を導入するのは難しいかもしれませんが、遮光ネットや内張りカーテンなどの副資材を上手に活用して、効率よく失敗の少ない栽培をめざしましょう。

上澤明子

上澤明子

ブドウ・梨生産を営む農家に生まれ、幼少から農業に親しむ。大学卒業後は求人広告代理店、広告制作会社での制作経験を経て、現在フリーランスのコピーライターとして活動中。広告・販促ツールの企画立案からコピーライティング、取材原稿の執筆などを行う。農業専門誌の制作経験があり、6次産業化や農商工連携を推進する、全国の先進農家・農業法人、食品会社の経営者の取材から原稿執筆、校正まで携わったことから農業分野のライティングを得意とする。そのほか、食育、子育て、介護、健康、美容、ファッションなど執筆ジャンルは多岐にわたる。

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