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桜桃「紅秀峰」の収穫時期は? 品種の特徴と、超大玉化を目指す栽培技術
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  • 生産技術

桜桃「紅秀峰」の収穫時期は? 品種の特徴と、超大玉化を目指す栽培技術

桜桃(さくらんぼ)の品種「紅秀峰」をご存知でしょうか。桜桃(さくらんぼ)の代名詞といえる「佐藤錦」より、収穫時期が遅く大玉に仕立てやすい紅秀峰の特徴と、県をあげてのブランド化の取り組みを紹介します。

「紅秀峰」とは、桜桃(さくらんぼ)のトップブランド「佐藤錦」の系統を継ぐ比較的新しい品種です。栽培法によっては超大玉の果実に仕上げることも可能で、大玉が主流の海外市場への輸出も期待されています。

桜桃(さくらんぼ)の新品種!「佐藤錦」より収穫時期が遅い「紅秀峰」の特徴

紅秀峰の果実

peru / PIXTA(ピクスタ)

桜桃(さくらんぼ)の名産地である山形県では、佐藤錦と並び立つ新たなブランドとして、紅秀峰の栽培面積の拡大に取り組んでいます。

しかし、桜桃(さくらんぼ)といえば佐藤錦というイメージが強く、一般的な知名度はまだ高いとはいえません。そこで、まずは紅秀峰の特徴と基本データをまとめておきましょう。

紅秀峰はどんな品種? 佐藤錦との違い

紅秀峰は「佐藤錦」と「天香錦」の交配品種として、1991年に山形県で品種登録されました。

果実の特徴

果実は横長の楕円形で大きく、赤色の鮮やかな果皮にクリーム色の果肉が美しく映え、果肉は硬めでち密です。食味の面では、濃厚な甘さとほどよい酸味を持ち、歯応えがよいのが特徴です。


農研機構ホームページ所収の山形県立園芸試験場の成果報告『オウトウの新品種「紅さやか」「紅秀峰」』では、糖度は佐藤錦よりやや高い18~21%、酸度はpH3.7~4.0で、果肉は佐藤錦より硬めで裂果が少ないというデータが示されています。

果肉が硬いことは、歯応えだけではなく、高温に強く保存性がよいというメリットがあります。佐藤錦には、果肉がやわらかく過熟しやすいという特性があり、それがシーズン後半に日もちしなくなるという弱点につながっています。

栽培面の特徴

紅秀峰の樹勢はやや強めで、花芽の着生が多く、豊産性で着果も極めて良好です。そのため、剪定によってあらかじめ着果部位を減らしたり、摘果を確実に行わないと果実が小さくなるリスクがあります。また、遅霜に弱いことから徹底した防霜対策も必要です。


適切な栽培管理を行えば、果実は約8~9g、2L~3Lのサイズに仕上げることも可能です。

参考:桜桃(さくらんぼ)のサイズ
Mサイズ:横径19mm以上
Lサイズ:横径22mm以上
2Lサイズ:横径25mm以上
3Lサイズ:横径28mm以上
4Lサイズ:横径31mm以上

桜桃(さくらんぼ)のサイズ計測と出荷準備

kura / PIXTA(ピクスタ)

収穫時期の遅い晩生種、紅秀峰の栽培暦

紅秀峰は晩生品種のため、収穫~出荷の時期は佐藤錦より2週間ほど遅く、代表的な産地である山形県では6月下旬~7月中旬に最盛期を迎えます。そのため、佐藤錦では難しかったお中元需要が見込めます。

一方で、開花時期は佐藤錦に比べて2~6日ほど早くなります。佐藤錦の受粉樹でもあるため、佐藤錦との受粉の相性がよく、近接した条件で栽培すると互いに実つきがよくなるという特徴があります。樹上での果実の日もちもよいことも大きなメリットといえるでしょう。

紅秀峰の栽培面積

桜桃(さくらんぼ)の最大の産地は山形県です。2018年産(平成30年産)の統計をみると、山形県の紅秀峰の栽培面積は471.2haに及び、全国の栽培面積580.0haの約81%を占めています。

比較のために佐藤錦のデータも見てみると、全国では2,850.3ha、山形県では2,199.2haで、山形県の栽培面積シェアは約77%です。

佐藤錦と紅秀峰の栽培面積比は、全国・山形県内ともにおよそ5:1であり、依然として佐藤錦が、ほかの桜桃(さくらんぼ)を圧倒していることがわかります。

出典:農林水産省「特産果樹生産動態等調査 おうとう(平成30年産)」

紅秀峰の流通価格の目安

では、市場での流通価格はどうなのでしょうか。卸売市場での継続的な品種別の価格データはないので、桜桃(さくらんぼ)全体の卸売市場での1kg当たりの平均価格をみてみましょう。

東京都卸売市場 さくらんぼの取扱い数量と平均価格

出典:東京都卸売市場 市場統計情報 月報よりminorasu編集部作成

東京都卸売市場の2020年1月から12月までの月報をみると、最も取扱数量が多い6月の平均価格が2,125円、6月に次いで取扱数量が多い7月は1,884円になっています。

佐藤錦の出荷時期が6月中旬~下旬、紅秀峰の出荷時期が6月下旬~7月中旬なので、6月・7月の平均価格が参考になるでしょう。

一方、小売価格をみると、大手通販サイトなどでは、山形県産紅秀峰の2Lサイズが1kg当たり約7,000~10,000円で販売されています。

1つ注目したい点は、贈答品では「佐藤錦または紅秀峰」という販売パターンが多く見られることです。これは、お中元の季節に佐藤錦から紅秀峰へと品種が切り替わるためと考えられますが、紅秀峰が佐藤錦と同レベルの高級ブランドとして扱われていることの証左ともいえるでしょう。

高収益化できる? 紅秀峰のブランド化取り組み

山形県のほぼ中央に位置する寒河江(さがえ)市では、市の木とシンボルカラーにさくらんぼを指定するなど、市やJAが率先して桜桃(さくらんぼ)栽培技術の改善・普及と販路開拓に力を入れています。

行政と農家が一体となって販路促進|寒河江市

寒河江駅近くの「さくらんぼの里」のモニュメント

カッペリーニ / PIXTA(ピクスタ)

寒河江市の三泉地区では、2014年に「紅秀峰ルビーの会」を設立して、ブランド化を推進するさまざまな取り組みを続けています。

会の設立初年度から積極的な販売活動を企画し、厳選した紅秀峰に「初夏のルビー」と名付け、果実専門店や百貨店で販売会を実施。1箱600gで5,000円以上という価格にもかかわらず、約120箱が売れました。

同時に海外での販路拡大も行っていて、すでに台湾の台北市では、百貨店の販売会で約100kgの紅秀峰を完売した実績もあります。ちなみに台湾での販売価格は、広く流通しているアメリカンチェリーのおよそ3倍だったそうです。

こうした取り組みを支えるためには、紅秀峰の品質を高める努力が欠かせません。寒河江市では、市の農業技術普及課が中心となり、JAなどの協力も得て、栽培技術指導や講習会の開催などを行っています。

「佐藤錦」と「紅秀峰」の同時栽培で、中元需要を残らず取り込み

桜桃(さくらんぼ)は、収穫期間が短く、全品種を合わせても5月下旬~7月中旬までと、2ヵ月足らずの間しか出荷できません。主力品種である佐藤錦も6月中旬~下旬まで、わずか半月ほどしか収穫できないのです。

一方、晩生品種の紅秀峰の収穫期間は6月下旬~7月中旬までです。そこで、この2つの品種を同時に栽培することで、桜桃(さくらんぼ)の出荷期間を1ヵ月近く延長でき、労力の分散と売り上げアップを狙うことが可能になります。

山形県では独自の出荷解禁日を設けて、紅秀峰の出荷タイミングを調整しています。お中元のシーズンにはわずかに届かない佐藤錦から、紅秀峰にバトンを渡すことによって贈答品としての需要を逃さないようにしているのです。

資生堂パーラーの「さくらんぼのバフェ」

資生堂パーラーの「さくらんぼのバフェ」のデコレーションには、6月中旬~下旬は「佐藤錦」、6月下旬~7月上旬は「紅秀峰」が使われる
出典:株式会社 PR TIMES

目指せ超大玉化!農家の収益アップと海外輸出拡大に向けた栽培体系の確立

山形県では、紅秀峰の国内でのブランド化と海外輸出の拡大を目的に、紅秀峰を超大玉に仕立てる栽培体系を確立し、普及を図ろうとしています。

日本産の桜桃(さくらんぼ)の海外市場での評価は、鮮やかな赤の外観や食味については非常に高いものの果実の大きさでは見劣りするといわれています。

・佐藤錦:Lサイズ(22~25mm)が中心
・紅秀峰:2Lサイズ(25~28mm)が中心
・海外:3Lサイズ(28~31mm)が中心

そこで、山形県では、紅秀峰の3Lサイズの割合を高める「超大玉生産技術」を開発しました。また、台湾を主要輸出国に想定し、同国の農薬残留基準に適合する防除体系もあわせて構築しています。

超大玉化のポイントは、剪定の際に側枝と短果枝の密度を慣行より下げることと、佐藤錦より土壌水分を高めに管理する点です。これにより、3Lサイズ以上の果実割合が慣行より大幅に高くなることが報告されています。

詳細は、山形県農業総合研究センター園芸試験場『輸出拡大に向けた「紅秀峰」の超大玉生産技術・防除技術の開発』をご覧ください。

この報告書では経済性試算も行っており、この生産技術の導入によって、10a当たりの農業所得が9万円以上上がると報告しています。10a当たりの着果量・収穫量は少なくなるものの、販売単価アップが見込めるため売上高が増え、着色管理や収穫・調整にかかる費用や作業時間を低減できるからです。

超大玉化のためには、設定された生育目標に沿った総合的な栽培管理・肥培管理が求められます。また、多めの土壌水分管理のために灌水施設の整備も必要です。そのため、既に灌水設備を持ち、GAP導入に取り組んでいる生産組織や団体が向いています。

紅秀峰の園地

ksaijo / PIXTA(ピクスタ)

山形県は官民一体となって、紅秀峰の国内でのブランド化・海外輸出の拡大に取り組んでいます。栽培面積の拡大やマーケティング活動だけではなく、海外輸出拡大を睨んだ生産技術体系の確立をいち早く行っている点が特徴的です。

地域をあげての新品種のブランド化事例として是非参考にしてください。

大澤秀城

大澤秀城

福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。

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