福島県農業の特徴は? 現状・課題と、就農支援の補助制度まとめ
福島県は、広大な耕地面積と首都圏への近接性を強みに、全国有数の農業県として発展してきました。桃や梨、きゅうりなどの生産が盛んで、東日本大震災後も着実に復興に向けた取り組みが進められています。本記事では、福島県の農業の特徴や現状、新規就農支援制度について紹介します。
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目次
広い土地面積を生かす!福島県の農業の特徴
福島県は、北海道、岩手県に次ぐ全国第3位の県土面積を有し、豊かな自然に恵まれています。
奥羽山脈と阿武隈高地の2つの山系を境に、会津地方・中通り地方・浜通り地方に分かれ、現在は7つの地域でそれぞれ特色ある農業が営まれています。
福島県の農業の強みは、広大な耕地面積(2024年の統計では13万3,700ha)と、大消費地である首都圏への近接性にあります。
この恵まれた環境を活かし、福島県は全国有数の農業県として発展してきました。2022年の農業産出額は1,970億円で、全国第17位にランクインしています。
出典:
農林水産省 「面積調査|第1報(統計表一覧)|令和6年(2024年)(産)| 令和6年(2024年)耕地面積(7月15日現在)|統計表」
農林水産省 「令和4年生産農業所得統計」
福島県の有名な農作物と、地域別の特徴
福島県の桃の栽培では、果実に袋をかけない方法が主流
ノア / PIXTA(ピクスタ)
福島県の農業は地域ごとに特色があり、それぞれの気候や地形を活かした生産が行われています。
全国上位を占める4種の農作物
・桃
2023年度の桃の生産量(収穫量)は28,500tで、山梨県に次ぐ全国第2位を誇り、全国シェアの26%を占めています。
「あかつき」「はつひめ」「ゆうぞら」などの品種が有名で、果実に袋をかけない栽培方法や日照時間、気温の日較差、土壌の特性など複合的な要因により、色づきがよく甘味が強い桃が生産されています。
・日本なし
果樹では日本なしの栽培も盛んで、2023年度の生産量(収穫量)は13,800tと、千葉県、茨城県、栃木県に次いで全国第4位にランクインしています。「幸水」、「新高」などの品種が人気です。
・きゅうり
きゅうりの2023年度の生産量(収穫量)は39,200tで全国第4位、夏秋きゅうりは全国第1位の生産量を誇ります。
・米
福島県の米は品質が高く評価されており、「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」などの品種が、「米の食味ランキング」で最高評価の「特A」を4年連続(2018年度〜2020年度)で獲得しています。
出典:
農林水産省 「令和5年(2023年)産もも、すももの結果樹面積、収穫量 及び出荷量」
農林水産省「令和5年(2023年)産日本なし、ぶどうの結果樹面積、収穫量及び出荷量」
農林水産省「作況調査(野菜)|第1報(統計表一覧)|令和5年(2023年)産指定野菜(春野菜、夏秋野菜等)の作付面積、収穫量及び出荷量」※併載:令和5年(2023年)産きゅうり、なす、トマト及びピーマンの年間計
地域の特色を活かした福島県の多彩な農業
福島県の7つの地域
TAKEZO / PIXTA(ピクスタ)
福島県は7つの地域で特色ある農業が行われています。各地域の主な特徴は以下の通りです。
・会津地域(北西部)
内陸性かつ日本海側気候を生かし、良質米の生産が盛んです。また、きゅうりやトマト、アスパラガスなどの野菜類、りんごなどの果樹栽培も行われています。
・南会津地域(南西部)
豪雪地帯ですが、夏の冷涼な気候を利用して夏秋トマトや蕎麦の生産が盛んです。近年は交通網の整備により、産業の活性化が期待されている地域です。
・県北地域(北部)
地形により3つの地域に分かれ、中山間地域では畜産や特産作物、南部平坦地域では稲作、北部平坦地域ではきゅうりなどの野菜類、桃や梨などの果樹栽培が中心です。特に果樹生産が盛んで、県全体の樹園地面積の6割以上を占めています。
・県中地域(中央部)
県の農業産出額の3割を占める重要な地域です。「あさか舞」や「天栄米」などの米、きゅうりやトマト、ピーマンなどの野菜類、肉用牛や酪農などの畜産が盛んで、高速交通網の要衝としても機能しています。
福島県でのきゅうりの出荷の様子
YUMIK / PIXTA(ピクスタ)
・県南地域(南部)
かんがい施設などの整備により農林産物が生産されています。米やトマト、ブロッコリーなどが主要作物で首都圏への近接性を生かした出荷が特徴です。
・相双地域(東部)
平野部では米、サツマイモ(甘藷)、玉ねぎなどの生産が行われ、山間部では林業や畜産業が盛んです。夏季のやませの影響で冷害を受けやすい特徴があります。
・いわき地域(南東部)
福島県内で最も温暖や標高差を生かし、米、トマト、イチゴ、ネギ、梨などが生産されています。年間日照時間が2,000時間を超える恵まれた環境にあります。
復興状況は?福島県農業の現状・課題と、振興に向けた取り組み
福島県浜通りに位置する飯舘村での除染作業の様子
白熊 / PIXTA(ピクスタ)
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、福島県の農業に多大な影響を与えました。
地震や津波による農地や施設の被害に加え、原発事故の影響で避難区域が設定され、多くの農家が営農を断念せざるを得ない状況に陥りました。さらに、放射性物質による作付制限や出荷制限、風評被害など、複合的な課題に直面しました。
原子力被災地域は、約半数が営農再開へ
福島県の原子力災害被災地域では、除染や土壌改良を経て、原子力被災12市町村の営農再開率は46.3%(20235年3月末時点)まで回復が進んでいます。
県は安全確保に注力し、農地や果樹の除染、カリウム資材の投入による放射性物質の吸収抑制、徹底した放射性物質検査を実施しています。さらに、全国への情報発信を通じて風評払拭に取り組んでいます。
福島県産農作物のブランド力強化に向けた計画を推進中
一方で、県産農林水産物の競争力強化を目指し、2022年9月に「福島県農林水産物ブランド力強化推進方針」を策定しました。
具体的な取り組みとして、県オリジナル品種の開発・導入があります。主食用米の「福、笑い」やイチゴの「ゆうやけベリー」などの新品種を通じて、ブランド力向上を目指しています。
また、風評の影響を受けにくいブロッコリーや玉ねぎ、花きなどの生産拡大にも力を入れています。
▼以下の記事では、ネギの契約栽培で成功しているなかた農園(福島県)の経営戦略を紹介しています。
福島県で農家になろう! 新規就農時に使える補助金・支援制度の例
福島県の湯ノ岳山と裾野に広がる水田
konatu / PIXTA(ピクスタ)
福島県は震災からの復興と農業の更なる発展のため、新規就農者の獲得に力を入れています。国の支援制度に加え、県や市町村が独自の補助金や融資制度を設けています。
補助金・融資制度
福島県の主な補助金・融資制度として、以下の4つが挙げられます。
新たな農業担い手育成支援事業
事業・制度名 | 新たな農業担い手育成支援事業「研修支援事業」 |
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対象者 | 新規就農希望者の研修を受け入れる農家など |
支援内容 | 研修支援金の交付 |
支援期間 | 研修期間中 |
支援額 | 6万円/ 年/研修生1名当たり |
申請窓口 | 福島県農業振興公社 |
福島県農業振興公社が実施する「新たな農業担い手育成支援事業」では、新規就農者への支援を通じて、地域農業の活性化と持続可能な発展を図ります。
「研修支援事業」では、新規就農希望者に対して年間6万円の支援金を提供し、必要な知識と技術の習得を後押しします。
新規就農者への農地かけはし事業
事業・制度名 | 新たな農業担い手育成支援事業「新規就農者への農地かけはし事業」 |
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対象者 | 就農準備資金受給者(研修生)のうち以下のいずれかに該当する者 ・R6年度の研修生 ・R5年度の研修生のうち、R6年度に就農した者 ・R4年度の研修生のうち、就農遅延届の承認を得てR6年度に就農した者 |
支援内容 | 農用地賃借料の肩代わり |
支援期間 | 就農後3年間(最大5年間) |
申請窓口 | 福島県農業振興公社就農支援センター |
「新規就農者への農地かけはし事業」を通じて就農後3年間(最長5年間)にわたり、農用地賃借料の助成を行うことで、新規就農者の経済的負担を軽減し、安定した営農の基盤づくりを支援します。
農業次世代人材投資資金(準備型)
事業・制度名 | 農業次世代人材投資資金(準備型) |
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対象者 | 就農予定時50歳未満の研修生 |
支援期間 | 最長2年間(海外研修の場合は最長1年間延長可能) |
支援額 | 年間最大150万円 |
申請窓口 | 福島県農業振興公社就農支援センター |
福島県農業振興公社が実施する「農業次世代人材投資資金(準備型)」では、就農前の研修期間中に年間最大150万円の資金を最長2年間交付します。
これにより、新規就農希望者が経済的な不安なく農業技術や経営ノウハウを習得できるよう支援しています。海外研修の場合は最長1年間の延長も可能で、より幅広い知識や経験の獲得を後押ししています。
農業次世代人材投資資金(経営開始型)
事業・制度名 | 農業次世代人材投資資金(経営開始型) |
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対象者 | 50歳未満の独立・自営就農者 |
支援内容 | 年間最大150万円の資金交付 |
支援期間 | 最長5年間 |
支援額 | 年間最大150万円(夫婦の場合は年間最大225万円) |
主な条件 | 人・農地プランに位置付けられていること |
申請窓口 | 各市町村の農政担当課 |
市町村が実施する「農業次世代人材投資資金(経営開始型)」では、就農直後の経営が不安定な時期に、年間最大150万円の資金を最長5年間交付します。
夫婦で経営を開始した場合は年間最大225万円となり、新規就農者の経営の安定化をサポートしています。
青年等就農資金
事業・制度名 | 青年等就農資金 |
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対象者 | 認定新規就農者 |
支援内容 | 無利子の長期資金貸付 |
支援期間 | 償還期限17年以内(うち据置期間5年以内) |
支援額 | 3,700万円以内 |
主な条件 | 青年等就農計画の認定を受けていること 原則として農業経営を開始して5年以内であること |
申請窓口 | 福島市農業企画課農業担い手係 |
日本政策金融公庫が実施する青年等就農資金では、認定新規就農者に対して、無利子の長期資金を貸し付けます。個人で最大3,700万円までの借入が可能で、償還期限は最長17年(うち据置期間5年以内)です。
この制度により、新規就農者が必要な農業機械や施設の取得など、初期投資に必要な資金を低コストで調達できるよう支援しています。
これらの支援制度を活用することで、新規就農者は初期投資の負担を軽減し、より安定した経営基盤を築くことができます。福島県の農業経営・就農支援ポータルサイト「ふくのう」で、これらの支援制度の詳細情報や最新の募集状況を確認してみましょう。
就農相談
福島県では、就農相談体制も充実しています。
2023年には、福島県と3つの農業団体(JAグループ福島、一般社団法人福島県農業会議、公益財団法人福島県農業振興公社)が連携して福島県農業経営・就農支援センターを設立しました。
センターの特徴は、就農から経営発展まで幅広い相談に対応するワンストップの総合相談窓口として機能する点です。
就農場所が未定でも相談可能で、就農予定地域が変更になった場合も、センターを通じて県内の関係機関・団体に情報が共有されるため、継続的な支援を受けられます。
また、必要に応じて経営改善のための専門家派遣も行っています。
就農体験・現地見学
福島県では、就農前に農業体験や現地見学ができるイベントを頻繁に開催しています。
県内はもちろん、東京でも出張就農相談会や交流会イベントを開催しているため、福島県に足を運ばずとも相談できる機会があります。これらのイベント情報は「ふくのう」で確認できます。
福島県の農業は、豊かな自然環境を活かした多様な農産物生産が特徴です。東日本大震災を乗り越え、現在は安全性の確保とブランド力の強化に取り組んでいます。
さらに、新規就農者への手厚い支援制度を設けることで、農業の未来を担う人材の育成にも力を入れています。福島県での新規就農の際には、活用を検討してみてはいかがでしょう。
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