飽差とは? ハウス栽培に欠かせない指標を知り、収量アップを実現!
飽差とは、1立方mの空気の中に、あとどれだけ水蒸気を含むことができるかという指標で、ハウス栽培では作物の生長に大きく影響します。この記事では飽差がなぜ大切なのかをはじめ、適切な飽差レベルの管理方法などを紹介します。
- 公開日:
記事をお気に入り登録する
ハウス栽培において、重要指標となる「飽差」。最適な値を知り、日々データを管理することで、作物の生長を促すことができます。飽差レベルを適切に保つことの重要性、飽差の計算方法や管理方法、適切な値を維持するポイントなどについて、詳しく解説します。
ハウス栽培の重要指標「飽差」とは?
BlueRingMedia / PIXTA(ピクスタ)
「飽差」とは、1立方mの空気の中に、あと何グラムの水蒸気を含むことができるかを示す数値です。
具体的には、空気中に含むことができる水蒸気の最大量(飽和水蒸気量)と空気中の水蒸気の飽和度の差分をいいます。
湿度と混同しがちですが、飽差は、湿度が同じであっても、その空間の温度によって異なります。
同じ湿度の時の温度が高い場合と低い場合を比べると、温度が高い場合の方が飽差レベルは高く、より多くの水分を含む余地があります。「より多くの水分を含む余地がある」ということは、簡単にいえば「乾きやすい状態」といえます。
この飽差レベルが高すぎる、すなわち、空気中の水蒸気の飽和度と飽和水蒸気量の差が大きい状態では、植物は自己防衛のために、気孔を閉じます。気孔を閉じると光合成に必要な二酸化炭素を取り込めず、また、水分が蒸散しないため根からの吸水をしなくなります。これでは健全な生長は望めません。
逆に飽差レベルが低い場合は、空気中の水蒸気の飽和度と飽和水蒸気量の差が非常に小さくなるため、気孔は開いていても蒸散が起きません。土壌中の水分を吸い上げなくなるため、必要な養分を取り込めず、やはり健全な生長は望めません。
飽差レベルが適切な範囲内であれば、日中の植物は気孔を開き、光合成に必要な二酸化炭素を取り込むとともに、少しずつ体内の水分を蒸散します。同時に蒸散によって外に出した水分を補うために、土壌水分を養分とともに根から吸い上げていきます。
このように、日中に気孔を開け、水分をゆるやかに取り込み続ける飽差レベルを保つことで、蒸散→吸水→光合成の好循環がうまれ、植物は健全に生長することができるのです。
ハウス栽培においては、この飽差という指標を理解し、適切に管理することが重要です。
「飽差」の計算方法と作物の生長のために最適な値
では、具体的に飽差を求めるためにはどうすればよいのでしょうか?
飽差の求め方
飽差を求めるということは、ハウス内の「今の気温で最大何グラムの水分を含むことができ(飽和水蒸気量)」と「実際にハウス内に何グラムの水分が含まれているか(絶対湿度)」を測り、その差分を求めるということにほかなりません。
それでは、普段把握している気温と湿度から求めるにはどうしたらよいのでしょうか。
普段使っている湿度は、「相対湿度」といい、飽和水蒸気量に対して何%水分が含まれているか(絶対湿度÷飽和水蒸気量)を表しています。
ですから、100%から相対湿度を引けば、あと何%水分を含むことができるか、すなわち、飽差を%で表した数値になります。
この数値に飽和水蒸気量をかけあわせれば、相対湿度から飽差を計算できます。
では、飽和水蒸気量はどのように求めるのでしょうか。飽和水蒸気量は既知の定数を用いて下記のように求めます。
1. 気温から飽和水蒸気圧の近似値(注)を求める
(注)
飽和水蒸気圧:水分が水蒸気になろうとする分子量と、水蒸気が水分になろうとする分子量が均衡している状態の気圧。飽和水蒸気圧の近似値を求める式はいくつかあるが、ここでは「テテンスの式」を使用
2. 飽和水蒸気圧と気温から飽和水蒸気量を求める
難しそうにみえますが、ここでは求め方がわかっているだけでかまいません。実際の運用にあたっては相対湿度と気温のクロス表(飽差表・詳細後述)などを用います。
適切な飽差レベル
作物によって幅がありますが、一般的に適切な飽差レベルは、3~6g/立方mだとされています。
飽差が6gを超えると、前述したように植物は水分が足りなくなる危険性を感知して気孔を閉じ、蒸散が行われなくなります。
逆に飽差が3gを下回ると、気孔が開いていても蒸散が起きず、水分が運ばれないため生長が滞ってしまいます。
ただし、気温と相対湿度がなだらかに変化すれば、飽差が7g/立方m以上になっても、気孔は閉じません。根も吸水量を増やし、蒸散増加に対応します。ゆっくりとおだやかに換気を行い、少しずつ湿度を抜いていくことで、気孔を開き続け根からの吸水を継続することができます。
理想的な飽差レベルを外れていても、急激な変化をさせず、一日の中でゆるやかに変動させるのが大切です。
植物の吸水量が増加したのに、土壌水分が不足していると、やはり気孔が閉じてしまいます。飽差をはじめ、さまざまな指標をチェックして、こまめな灌水を行うことも気孔が開いた状態を維持するのに大切です。
収量アップのための飽差管理のポイントは?
先ほど紹介したように、飽差の計算式はかなり複雑で、毎回計算式を使って算出するのは非効率的です。実際の作業の中で飽差を管理するには、飽差表や飽差コントローラーを利用し、適切なレベルを把握することが必要です。
飽差表を使う
飽差表の例
minorasu編集部作成
「飽差表」とは気温と相対湿度から飽差を一覧表示したものです。農業に関するサイト上からダウンロードすることもできます。横ラインには気温、縦ラインには相対湿度が記載してあり、2つの値が交差したマスが飽差値です。
前項で紹介した計算式を用いて、エクセルなどで自作すれば、気温や湿度の刻みを細かくするなど、自分にあった表を作ることもできます。
飽差レベルを「適切」、「蒸散量が大きい」、「蒸散しにくい」の3つに色分けしておくと、さらに使い勝手が向上します。
例えば、気温が25℃で湿度が45%の時の飽差は12.7g/立方m。蒸散量が大きい状態なので、太陽光を遮ったり、換気したりしてハウスの気温を下げ、合わせて水を撒くなどして湿度を上げます。
逆に、気温が10℃で湿度が80%の時の差は1.9g/立方m。蒸散しにくい状態なので、ハウス内の温度を上げ、換気を行うようにしましょう。
ボタンを押下するだけで、気温・湿度と飽和値が表示されるハンディ型の飽差計も販売されていますので、これを利用してもよいでしょう。
飽差コントローラーを使った総合的な管理
飽差コントローラーのしくみ。飽差と二酸化炭素量をコントロールすることで、光合成を促進する
画像提供:株式会社ニッポー
コストに余裕がある時は、飽差を自動的に制御できる「飽差コントローラー」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
センサーで気温と湿度を正確に測定し、ミスト用動噴、二酸化炭素発生装置、加温機、循環扇、天窓と接続することで、データに基づいてハウス内の飽差、二酸化炭素濃度、温度を制御できます。
飽差レベルが高い時は、循環扇を稼働させ天窓を開けて換気することで、ハウス内の温度を下げます。それと併せて、ミストを発生させて湿度を調整し、二酸化炭素を増やすことにより、効率的な光合成を促進させます。
飽差レベルが低いときは、加温機でハウス内の温度を上げ、循環扇・天窓を稼働させて換気し、湿度を下げます。
パソコンと接続し、データ監視や収集も可能なので、農業の「見える化」(可視化)にもつながります。実際に導入した農家からは約3割収穫量がアップしたという報告もあります。
出典:株式会社ニッポー「飽差コントローラ 飽差+」利用のお客様の声「高温問題解消!飽差管理で収量(昨年比)約3割UP!」
製品ページ:「飽差コントローラ 飽差+(ほうさプラス)」
飽差コントローラ「飽差+(ほうさプラス)」
画像提供:株式会社ニッポー
適切な飽差管理で病害の発生予防
飽差を適切に管理することは、作物の健全な生長を促すだけでなく、病害の発生予防にもつながります。
病害の原因の多くは糸状菌(カビ)です。トマトの灰色かび病などは、飽差が低い多湿状態で胞子の発生が多くなることが知られています。そのため、湿度が高い状態を避けながら、適正な飽差になるよう管理すれば、発生リスクが低くなると考えられます。
特に、湿度が高い「葉濡れ」の状態が灰色かび病のリスクが高まります。これに対し、飽差コントローラーによるミスト発生装置のミストは、粒径が微細で葉を濡らすことがないのもメリットです。
逆に、乾燥した状態で発生することが多いうどんこ病は、適切な飽差の範囲内で適度な湿度を保つことが予防策になります。
ミニトマトの灰色かび病 発病果
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
飽差を適切に管理することで、気孔が開放した状態を維持し、作物の効率的な生長を促すことができます。
飽差は目には見えませんが、飽差表を使った手動の制御でも、飽差コントローラーを使用した自動制御でも、日々データを収集し実践することが、品質の向上や収量アップなど目に見える効果を生み出します。
まずは「飽差」という指標を理解することからスタートしてみませんか?
記事をお気に入り登録する
minorasuをご覧いただきありがとうございます。
簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)
あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。
ご回答ありがとうございました。
お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。
酒井恭子
テレビ番組制作会社、タウン情報誌出版社での取材・編集・ライティング業務などを経て、2018年からライターとして活動。農業、グルメ、教育、ビジネス、子育て情報など、幅広いジャンルの記事を執筆している。特に、食べることに興味があり、グルメ情報を自身のメディアでも発信中。美味しい料理の素材となる野菜や果物についても関心を持ち、農家とつながる飲食店で取材するなど、日々知識を深めている。「自分の文章で感動を多くの人と共有したい」が信条。