知られざるプラウ耕のデメリットとは? 注目される不耕起栽培と耕盤層への対策
これまで農業においては定植や播種前に、プラウ耕などで田畑を十分に耕すことが当たり前でしたが、過度な耕うんはかえって作物の生育によくない場合がある可能性も指摘されています。土壌管理に悩んでいる方に向けて耕うんの目的やデメリットを解説し、近年注目されている不耕起栽培についても紹介します。
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定植や播種前の準備として、耕うんを行っている農家の方も多いでしょう。しかし、従来からの慣習だからといって何も考えず漫然と耕うんを行ってしまうと、ほ場の状態によってはデメリットが生じる恐れもあります。この記事では耕うんの代表格であるプラウ耕のメリット・デメリットについて解説し、デメリットを解消するための方法についても紹介していきます。
そもそも耕うんは何のために行うのか?
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耕うんの大きな目的は固まった土を砕いて、柔らかくすることです。
耕うんは、もともとほ場に鍬や鋤などを差し込み、土壌を掘り返す作業を指します。前作の収穫から次の定植や播種までに期間が空くほ場では、乾燥などによって特に土壌は硬く締まりがちです。そのような状態では土中に含まれる酸素の欠乏や排水性の悪化により、作物が満足に生長しない可能性があります。
耕うんによって固く締まった土壌を掘り返せば土中に空気を含ませることができ、柔らかい土が作れます。空気をふんだんに取り込んだ土壌は保温性や排水性に優れ、作物の生育に適した環境が整うというわけです。以上の理由から、耕うんは長年にわたって農作業の基本とされ続けてきました。
耕うんの代表格・プラウ耕
耕うんには、主に土を爪でかき混ぜるロータリー耕と、プラウなどの鋤を使ってより土中深くまで耕せるプラウ耕の2つがあります。
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それぞれメリットはありますが、より土壌の反転性と作業効率に優れているのはプラウ耕です。特に「土が硬く水はけが悪い」「雑草が多すぎる」というほ場では、プラウ耕が向いているといわれています。
また、プラウ耕のなかにも作業に使う農機具によって「ボトムプラウ」や「ディスクプラウ」などの種類があるので、ほ場に合った作業方法を選ぶことが重要です。
ボトムプラウとは発土板(ボトム)を使用して土壌を破砕する耕うん方法で、ディスクプラウよりも耕深が安定しやすく、土壌の反転性に優れます。一方、ディスクプラウは円板(ディスク)を回転させながら土壌を耕す方法で、石や根などの障害物があっても作業しやすいのが特徴です。
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プラウ耕のメリット
プラウ耕はこれまで日本のほ場で幅広く行われてきました。それは、プラウ耕には大きなメリットがあると考えられていて、実際に収量増に貢献してきた過去があるからです。具体的にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
反転効果(上層と下層の土を入れ替える)
プラウ耕は同じ耕うんの種類であるロータリー耕よりも深く土壌を耕せます。そのため、土を入れ替える反転効果が高く、ほ場を作物の生長に適した土壌にしやすい点はメリットです。
具体的には、堆肥や有機物を埋没させることによって微生物の活動を活発にさせたり、地表の雑草をすき込んで地力の向上に貢献したりします。また、プラウ耕をすれば雑草の種子や表層の病原菌、害虫の卵や幼虫も土中深くに埋没できることから、雑草の発生や病虫害を抑制する効果も期待できるでしょう。
そのほかにも、上層と下層の土を入れ替えることで微量要素が土壌全体に混ざるというメリットもあります。プラウ耕による土壌反転効果は、幅広い観点から農作物の生育に好影響が見込めるのです。
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破砕効果
プラウ耕には土壌を適度な粗さに砕く破砕効果によって農作物の生育によい影響を与えるメリットもあります。
プラウ耕はロータリーを使用した耕うんに比べると、細かく土を砕くことはできません。しかし、作物を栽培する土壌に適しているのは土が細かい粒状になった団粒構造の土壌です。ロータリー耕では土を細かく砕きすぎることもありますが、プラウ耕なら団粒構造を保つのにほどよい粗さで耕せます。
プラウ耕によって土壌が質のよい団粒構造になると粒と粒の隙間に水や空気の通り道ができるため、水はけや通気性が改善されるだけでなく、根を伸ばすためのスペースが生まれる点もメリットです。作物は地下深くへ根を張ることが可能になり、たくさんの養分を吸収して大きく生長することが期待できます。
プラウ耕のデメリット
プラウ耕のデメリットとして挙げられるのは、耕盤層の形成や土壌浸食が助長される可能性があることです。特に大型機械を導入しているようなほ場では、春先に土壌をほぐしても、作物の収穫までの間に農業機械の踏圧によって固まった地盤が形成されるケースがあります。
耕盤層ができたほ場では排水性が悪くなるうえ、作物が根を深くまで張ることができず、養分を十分に吸収できません。また、耕盤層化が進んだ土壌を収穫後にプラウ耕で天地返しをすると、下層部に固まった土壌が溜まってしまい、ほ場全体の耕盤層化が進む要因になる恐れがあります。
ほ場全体の耕盤層化によって土壌の団粒構造が失われた結果、粒子の移動や分離が起きて土壌浸食が進むことも考えられます。そのため、団粒が破壊されやすい多量の降雨後のプラウ耕は特に避けたほうがよいとする指摘もあります。
注目される不耕起栽培とは?
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プラウ耕によるデメリットを解消する方法として、近年注目を集めているのが不耕起栽培です。耕うんは土壌状態を改善するために行うものなので、もともと良好なほ場であれば省略しても問題ないとする考え方もあります。
耕起を省略することで作業工程を減らして省力化に貢献するほか、トラクターの燃料代などのコストを削減できる点もメリットです。
ただし、不耕起栽培には病害が広まったり、生育不良が起こったりする可能性が高いという指摘もあります。過去に農林水産省で部会を設けて検討した経緯はありますが、雑草防除の労力の増大や湿害の発生といったリスクが挙げられています。
そのため、現状では水稲や麦、大豆などといった土地利用型作物を中心とする不耕起または省耕起での栽培は、各自治体で検討段階にとどまっているケースが多く、実際に導入している事例はそれほど多くないことは留意しておきましょう。
出典:農林水産省「農地土壌が有する多様な公益的機能と土壌管理のあり方(1)」
プラウ耕で形成された耕盤層への対策
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プラウ耕の繰り返しで耕盤層が形成され、土壌の隙間がなくなったほ場に対してはサブソイラやチゼルプラウによる心土破砕が有効であるという考え方もあります。
耕盤層の硬く湿った土壌は粘土のようになることがありますが、ゆっくりとした心土破砕をすれば土壌がほぐされ、土壌間の隙間ができます。土壌中の隙間が増えることで空気や水、根の通り道ができ、作物が生長しやすくなるというわけです。
ただし、ほ場の水分が外部へ抜ける道を作れていない場合、排水性の向上には限界があります。サブソイラやチゼルプラウで土中に穴を空ければ、たしかに表層の水分は浸透しますが、水の抜け道がないと、結局ほ場内に溜まり続けるだけです。
そのため、サブソイラやチゼルプラウによる心土破砕を行う場合は暗渠排水を設置するなど、ほ場外へ余計な水分を排水する対策をとることも考えておきましょう。
耕うんは雑草の抑制や土中に含まれる養分の撹拌など、作物の生育に与えるメリットが大きいとして、これまで農作業の基本となっていました。しかし、近年では耕うんのやりすぎによる耕盤層の形成や土壌浸食などのデメリットも指摘されるようになっています。
そのための対策として、土壌状態のよいほ場における不耕起栽培やサブソイラまたはチゼルプラウによる心土破砕などの方法も考えられていますが、すべてのほ場で期待通りの結果が出るとは限りません。
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
大切なのはそれぞれのほ場にあった対策をとることなので、心配な方はお近くの農業協同組合(JA)や農業改良普及センターなどに相談してみてください。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。