新規就農者の離農率とその理由とは? 短期離農を防ぎ、担い手不足を解消するために

農業の担い手不足が深刻化する中、新規就農者の確保と定着は重要な課題です。しかし、期待を胸に農業を始めた新規就農者の中には、さまざまな理由で離農を選択する人も少なくないのが現状です。本記事では、新規就農者の離農率とその背景を探り、持続可能な農業の実現に向けた対策を伝えます。
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離農とは? 国内農家の現状と離農率の推移

離農による耕作地への影響
huyusoubi / PIXTA(ピクスタ)
基幹的農業従事者数の推移
2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年(概数値) | |
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基幹的農業従事者 | 136.3万人 | 130.2万人 | 122.6万人 | 116.4万人 | 111.4万人 |
出典:農林水産省「農業労働力に関する統計」
離農とは、農業に従事していた個人が農業をやめてほかの職業に転職したり、農業を営む法人が廃業することを指します。
農林水産省の統計によれば、2020年から2023年までの間に基幹的農業従事者(仕事として主に自営農業に従事している者)の数は、毎年平均して5万人程度減少しています。
また、総務省が2019年に実施した調査によれば、2014年に農業法人に雇用され、国の支援制度「農の雇用事業」を利用して研修を受けた新規就農者のうち、35.4%が2015年の調査時点までに離農していました。
離農と高齢化が関係していることは事実ですが、新規就農者による離農が目立つことも、日本農業では深刻な課題となっています。
出典:農林水産省「農業労働力に関する統計」
総務省所収「農業労働力の確保に関する行政評価・監視-新規就農の促進対策を中心として-結果に基づく勧告」
新規就農者が離農する理由・原因

buritora / PIXTA(ピクスタ)
新規就農者が離農する主な原因は、理想と現実のギャップや収入面での不安、支援不足などによるものです。新規就農者が抱える課題や問題について解説します。
希望業務と実際の業務とのミスマッチ

農の雇用事業研修生のうち離農した者の理由(「業務内容が合わない、想定と違っていた」ことによる離農理由の内訳)
出典:総務省所収「農業労働力の確保に関する行政評価・監視-新規就農の促進対策を中心として-結果報告書」よりminorasu編集部作成
総務省が実施した新規雇用就農者への調査によると、「業務内容が合わない、想定と違っていた」という理由が、離職要因として最も多く挙げられました。この理由を回答した人に具体的な事情を尋ねてみると、以下の返答が多くありました。
- 農業の理想と現実のギャップ
- 労務管理への不満
- 生活・将来への不安
農業=スローライフをイメージして就農した場合、定植や収穫などといった肉体労働ありきの業務にギャップを感じ、続ける難しさを体感することがあります。農家は常に生き物を相手にする職業であり、休みが取りにくい体制になることも事実です。
給与や賞与は、勤め先の農家・農業法人によっても異なります。収益の多くは、収穫量や市場価格などに左右されるため、日々の生活や将来への蓄えに不安を抱くこともめずらしくありません。
新規就農者の定着率を高めるには、未経験者が抱く理想と現実のギャップを解消することが重要です。雇用する側であれば、短期での就農体験を提供したり、バイトなどの雇用形態で働いてもらったりするのも1つでしょう。
就農希望者とのギャップを縮めることが、持続可能な農業を実現させる足がかりになります。
スキル習得に対する支援の不足

農家が就農者に耕運機の操作を教える様子
cba / PIXTA(ピクスタ)
農家・農業法人に十分な技術支援体制が整っていないことも要因の1つと考えられます。
近年、新規雇用就農者の増加に伴い、社会保険や雇用保険制度などの基礎的な雇用環境を整えた農業経営体が増えています。これは雇用就農者にとってうれしい変化です。
長期的に働いてもらうためにも、入社後のキャリア形成からスキルアップを体系的にサポートする環境の整備が求められます。
また、2019年に農林水産省が実施した調査によると、農の雇用事業を利用した農業法人の79%が「中長期的な社員の育成計画・給与計画(キャリアパス等)の明示」に今後取り組みたいと回答しています。
また、同じ質問のうちすでに13%がすでにこの取り組みを実施していることから、多くの農業経営者が人材育成の重要性を認識していることが分かります。
新規雇用就農者のスキルアップを促すには、営農者が主体的に取り組むことが必要です。栽培方法や防除に関するノウハウを伝える機会を設けたり、賞与や福利厚生といった観点からもアプローチしたりすることで、定着率の向上が図れるでしょう。
出典:農林水産省所収「農の雇用事業に関するアンケート調査結果概要」
収入・借金や生活の不安
農業を独立して始める場合は、農地の借り入れや資材の投入、設備投資など、多額の初期投資がかかります。いざ営農をスタートしてみると、投資した金額以上の収益を得ることの難しさに直面し、収入の不安定さや借入れの返済も相まって、不安を抱きやすいことも事実です。
全国新規就農相談センターが公表している「令和3年(2021年)度新規就農者の就農実態に関する調査結果」からも、以下のような事実が明らかとなっています。
- 所得の少なさによる経営面での課題を抱えている
- 就農後1〜2年で農業所得のみで生活できている人は全体の20.3%
- 北海道以外の都府県では、就農後5年目以上でも、約半数は農業所得によって生計が成り立っていない
就農1年目にかかる経費の全国平均額は、750万円前後とされています。そのため、新規就農者の多くは青年等就農資金や農協などから借り入れをし、経営をすることになります。
経営が軌道に乗るまでに年数がかかる可能性があることに加え、借入金返済の不安から離農に至るケースがあるのも事実です。
出典:一般社団法人全国農業会議所全国新規就農相談センター「令和3年(2021年)度新規就農者の就農実態調査」
離農を防ぐ! 地元農業の活性化へ向け農家ができること

cba / PIXTA(ピクスタ)
新規就農者の離農を防ぐには、国の支援とともに、農家・農業法人を経営する人たちのサポートが必要です。ここでは、新規就農者を育てる環境を構築するときに押さえておきたいポイントを紹介します。
研修内容を充実させる
新規就農者の離農対策としては、農家・農業法人が率先して研修内容を充実させることです。
特に農業法人で働きながら受けられる研修については、独立志望の新規参入者を中心に高い需要があります。しかし、雇用先の農業法人によっても研修内容にはバラツキがあり、新規就農者が習得したい分野を確実に学べないケースがあることも事実です。
総務省が59の研修受け入れ農家・農業法人の研修内容を調べたところ、栽培技術などの指導は実施しているものの、農業機械のオペレーションや作物の販売、流通経路などに関する研修は行っていない農家が見られました。
一方、網羅的な研修を行っている農家・農業法人ほど就農率が高い傾向にあることが明らかになっています。
新規就農者に対する研修内容を充実させることは、日本農業の持続と発展をもたらす鍵となるでしょう。
経営状況に合わせた支援を行う
新規就農者の場合、経営課題について相談できるパートナーがいないこともあるでしょう。横のつながりがない農家でも頼れる場所となるのが、農業経営・就農支援センターです。
農業経営・就農支援センターは、各地域の自治体が運営母体となり、新規就農の立ち上げから経営、法人化といったさまざまなステージにおいて相談できる窓口です。
栽培方法から生産技術の情報提供、経営のサポートなどについて頼れることから、多くの新規就農者が活用しています。地域によっては重点指導対象の農家を選定し、個別に具体的な支援を行っているところがあるほどです。
総務省の調査によれば、こうした取り組みを行っている地域では、他地域に比べ離農率が低いことが明らかになっています。状況に合わせてくれるきめ細やかな支援体制は、離農防止に大きく貢献するといえます。
労働環境を整備する
新規雇用就農者の定着を図り離農を防ぐには、私生活とのバランスが保ちやすい労働環境に整えることが不可欠です。年間休日や長時間労働、体力を要する業務の偏りなどを改善することは、離農を防ぐ上で向き合うべき課題点です。
総務省の調査からも、他産業並みの就業環境に整備したことで、農業法人の定着率や作業能率の向上、就農希望者増加といった成果につながっていることが確認されています。
一方で、農家・農業法人を営む経営者自身が「何を改善し、何から手をつければいいのか」と、悩むことも少なくありません。
経営者が労働環境の整備に取り組むときは、雇用者から直接意見を聞いたり、農業コンサルティングなどの専門家に相談したりすることが有効な手立てとなるでしょう。
技術継承にシステムを活用する

出典:農林水産省所収「令和2年(2020年)度 食料・農林水産業・農山漁村に関する意識・意向調査~農業経営の継承に関する意識・意向調査結果」よりminorasu編集部作成
高齢の農家にとって最も身近な後継者は子供ですが、親子ならではの技術継承にも難があるといわれています。
課題となるのは、独自の栽培ノウハウやほ場管理などといった、生産技術の継承です。
しかし近年では、スマート農業の進展により生み出された“栽培管理システム”を活用すれば、煩雑なやり取りをせず、スムーズな技術継承を実現することが可能になってきています。
栽培管理システム「xarvio®(ザルビオ)フィールドマネージャー」を導入した農家では、技術継承の効率化だけでなく、作業能率までも改善しています。
▼ザルビオの導入事例については以下で紹介していますので、併せてご覧ください。

自営農家
愛知県 都築様
■栽培作物
水稲・小麦・大豆 120ha
▷人手不足が深刻化しており、スマート農業ソリューションにより作業効率の改善を目指したいと考えていた。
▷圃場管理の人手不足を課題に感じているが、技術継承なども問題に感じており、データの蓄積により作業効率の改善を行う必要があると感じていた。
▷農業全体として新しい技術を活用する必要があると考えていた。
▷データを蓄積することによって、データに基づいたPDCAを回すことができるようになり作業効率の改善に繋がった。加えてデータを蓄積することによって技術継承にもつながると感じている。
▷まだまだ機能を使い切れてはなく、今後地力マップや生育マップなど活用の幅を広げ、さらなる効率化や収量アップを目指していきたい。
懸念される、担い手の“高齢化”問題

高齢化による大量離農問題
shige hattori / PIXTA(ピクスタ)
農家の減少に歯止めがかからない中、特に近年問題視されているのが高齢者の大量離農です。農業従事者の平均年齢は67.8歳で、その7割以上が65歳超えという高齢化問題に日本農業は直面しています。
出典:農林水産省「農業労働力に関する統計」
農林水産省が2020年に実施した調査によると、調査対象となった60代農業経営者のうち、経営資産や農地の継承を希望する人は50%以上となっています。
一方、継承しないと決めている人は7.8%。理由としては、「後継者の不在」を挙げる人が最も多く、また後継者の候補がいる場合でも「これ以上農地を引き受けるのは困難」という理由で断念せざるを得ないことも挙げられています。
出典:農林水産省所収「令和2年(2020年)度 食料・農林水産業・農山漁村に関する意識・意向調査~農業経営の継承に関する意識・意向調査結果」
しかし、この問題は新たなステージへと転換する機会でもあります。例えば、M&A(合併・買収)による事業売却や新規就農者の受け入れ体制の整備が挙げられます。さらには多様な継承形態の模索など、従来の枠にとらわれない取り組みを行うタイミングとしても考えられるでしょう。
M&Aで事業継承する選択肢も
事業継承が困難な場合は、M&Aを活用した事業継承も1つの選択肢です。M&Aには、他の農業経営者や企業への事業譲渡などが含まれます。
2009年の法改正により企業の農業参入が容易になり、地域へ企業を誘致する動きが活発になっています。
特に高齢を要因とする廃業であれば、M&Aにより事業譲渡をすれば売却代金が得られるほか、働き続けたいと希望する従業員を再雇用してもらえる可能性まで期待できるのです。さらに、人材育成や雇用体制が見直されれば、就農希望者にとっても魅力的な働き口として映るようになるでしょう。
まとめ
日本農業の持続・発展のためには新規就農者の離農率を減らすことが鍵となります。離農を低減するには、国が率先して支援することはもちろん、地域の農家・農業法人も一丸となりサポートしていく体制づくりが求められています。
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西岡日花李
大学在学中より東京・多摩地域の特産・伝統文化などを取材し、街のローカルな魅力を発信するテレビ番組制作・記事を執筆。卒業後は大学院でジャーナリズムを学び、神奈川県のミニコミ紙記者として勤務。マスメディアでは取り上げない地域の課題を幅広く取り上げ、経験を積む。現在はフリーライターとして主に農業をテーマにした記事を執筆。農業の様々な話題を通して、地方都市の抱える問題や活性化への手立てを日々考察している。