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新規就農者の3割が離農する要因は? 高齢化による担い手不足を解消する対策

新規就農者の3割が離農する要因は? 高齢化による担い手不足を解消する対策
出典 : Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

総務省は、2019年に発表した調査で新規就農者の離農率が高い傾向にあることを明らかにしました。離農の要因には、希望する仕事と実際の現場業務のミスマッチや、十分なキャリア支援体制が整っていないことなどがあります。新規就農者の離農の現状とその要因を分析し、離農を防ぐための対策を考察します。

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総務省によると、2014年に農業法人に就職し、国の支援制度を利用して研修を受けた1,591⼈のうち、約3割にあたる564⼈が離農していたことがわかりました。この割合は、他産業における離職率と比較しても決して低い数字とはいえません。調査結果をもとに、新規就農者の労働環境にある課題を探ってみましょう。

日本国内における離農の現状

新規就農者は農業の理想と現実のギャップに直面することもある

buritora / PIXTA(ピクスタ)

2019年、総務省は新規就農者の定着状況や雇用支援の実態について調査結果をまとめました。それによると、2014年に農業法人に雇用され、国の支援制度「農の雇用事業」を利用して研修を受けた新規就農者のうち、35.4%が調査時点までに離農していたことがわかりました。

農の雇用事業とは、新規就農者の育成にかかる費用を国が助成する制度です。全国の離農状況を把握した統計は現状ないため、制度利用者数の一部(18 都道府県農業会議1,591 人)を対象に調査を行いました。

まとめでは、農林水産省のデータを基にした離農率も分析しています。それによると、2012年に農の雇用事業で研修を受け、2015年の調査時点までに離農した人は39.5%に上りました。総務省は、この割合は全産業における3年以内の離職率35.9%(2012年)を上回り、高い離職率であると指摘しています。

離農率は、新規雇用就農者で高い傾向にありますが、自身で経営を開始する新規参入者の離農率は数%にとどまっています。

農業人口の高齢化や減少により、農業の担い手確保は急務になっており、より多くの若い人材を育成し定着させることが求められています。新規就農者の離農を防ぐにはどんなことが必要なのでしょうか。

出典:総務省「農業労働力の確保に関する行政評価・監視-新規就農の促進対策を中心として-結果報告書」

新規就農者が離農する要因

農の雇用事業研修生のうち離農した者の理由

農の雇用事業研修生のうち離農した者の理由(「業務内容が合わない、想定と違っていた」ことによる離農理由の内訳)
出典:総務省「農業労働力の確保に関する行政評価・監視-新規就農の促進対策を中心として-結果報告書」

新規就農者が離農する一因には、就農者の希望と実際の業務とのミスマッチが挙げられます。人材育成体制も十分に整っていないため、キャリアアップへのモチベーションがなかなか上がりにくいことが考えられます。

理想と現実のギャップ

前述の総務省の調査では、離農した理由についても調査しています。最も多く挙がったのは
「業務内容が合わない、想定と違っていた」という理由です。具体的にどんなことについてそのように感じたのかを尋ねると、「農業の理想と現実のギャップ」と答えた人が最も多く、給与や勤務時間などの「労務管理不満」、「生活・将来不安」なども挙がりました。

農業法人の従業員の離職実態を調査した藤井吉隆氏らの報告によれば、入社前後で生じる業務イメージの相違は、農業に関する知識や経験の不足によって生まれているといいます。

実際、新規雇用就農者は、非農家出身者が多い傾向にあります。農林水産省の2016年の「新規就農者調査」では、若手の新規雇用就農者に就農以前の仕事を尋ねたところ、約6割が「農業以外に勤務」と回答しました。

農業経験や知識が浅い若年者を受け入れる際は、入社前に農業の適正を見極める機会や、若年者がリアルな業務内容を実践的に学べる機会を設けることが必要と言えるでしょう。

技術や経営などスキル習得に対する支援の不足

新規雇用就農者が離農する要因には、十分な人材育成体制が農家に整っていないことも考えられます。

近年は、新規雇用就農者が増加傾向にあることで、一般企業のように社会保険制度などの雇用環境を整えた農家が増えてきました。しかし、入社後のキャリア形成やスキルアップを後押しする教育体制までを整えているケースは、まだ少ないようです。

農林水産省の2019年の調査によれば、農の雇用事業を利用した農業法人に、雇用就農者の確保・定着のために今後取り組みたいことを尋ねたところ、約7割の農家が「中長期的な社員の育成計画・給与計画(キャリアパス等)の明示」に取り組みたいと回答しました。

2015年の調査においても同様の傾向が見られ、農家が人材育成に課題を感じていることがうかがえます。

出典:農林水産省「農の雇用事業に関するアンケー調査結果概要」
2019年
2015年

離農を防ぐために有効な対策

研修を受ける新規就農者のイメージ

cba / PIXTA(ピクスタ)

新規就農者の離農を防ぐためには、やりがいを持って働ける職場づくりが重要です。無理なく仕事を続けられる労働条件も整えておく必要があります。経営者や研修受け入れ農家が押さえておきたいポイントを紹介します。

研修内容の充実

新規就農者向けの研修には、農業大学校で学ぶ方法や、市町村・JAが開く農業研修など、様々な選択肢があります。

中でも、農業法人で働きながら受けられる研修は、独立を志望している新規参入者を中心に需要が高い傾向にあります。より実践的な技術や経営ノウハウを学べることが人気の理由のようです。

しかし、農業法人による研修の内容にはバラツキがあり、新規就農者が習得したい分野を確実に学べないケースが発生しています。

実際に総務省が59の研修受け入れ農家の研修内容を調べたところ、栽培技術等の指導は全ての農家が実施していたものの、農業機械の取り扱い、販売や流通経路等に関する研修は行っていない農家がありました。

調査分析の結果、網羅的な研修を行っている農家ほど就農率も高くなる傾向にあることもわかっています。新規就農者の理想的なキャリアアップのためには、各農業法人が研修内容の充実に努めることが大切です。

経営状況に合わせた重点的な支援

新規就農者が安心して農業経営を続けていくためには、経営課題を相談できる第三者機関が必要になります。

国内には、農業の専門技術者を置いた普及指導センターが都道府県ごとに設置されています。栽培法や生産技術などの情報提供、経営に関する支援などを行っており、新規就農者の多くが相談先として活用しています。
地域によっては、重点指導対象の農家を選定し、個別に具体的な支援を行っているセンターもあります。

総務省の調査によれば、こうした取り組みを行っている地域では、他地域よりも離農率が比較的低いことが明らかになっています。個別の農家に合わせたきめ細やかな支援体制は、離農の抑止に一定の効果があるといえるでしょう。

労働環境の整備

新規就農者の定着には働きやすい労働環境の整備も不可欠です。近年は担い手確保の観点から、農業でも「働き方改革」が叫ばれています。長時間労働で休みがとりにくい、という旧来の常識のままでは、優秀な人材は確保できない時代になっています。

総務省の調査によれば、他産業並みの就業環境を整備したことで、農業法人の定着率や作業能率向上、就農希望者増加といった成果につながったデータも確認されています。

一方で、経営者の中には、働き方改革に対して「どのように取り組めばいいのかわからない」「農業の働き方に合わない」などの悩みや意見を持つ人も少なくありません。

働きやすい環境づくりのメリットと実践方法を、経営者側へ確実に周知していくことも求められています。

懸念される団塊の世代の大量離農

農業人口の減少に歯止めがかからない中、特に近年問題視されているのが高齢者の大量離農です。

農業を主な仕事とする基幹的農業従事者の平均年齢は、2020年現在、67.8歳で、そのうち65歳以上が6割以上を占めています。多くの現役世代が離農を迎える日は遠くありません。
近年は、家族以外への譲渡も含めた事業継承が定着しつつあります。

2020年の農林水産省の調査によると、調査対象となった60代の農業経営者のうち、経営資産や農地の継承を希望する人は50%以上に上りました。

一方、継承しないと決めている人は17%でした。継承しない理由は、後継者の不在を挙げる人が最も多く、引継ぎたい人はいても「これ以上農地を引き受けてもらえない」ため断念したという理由も見られました。

出典:
農林水産省「農業労働力に関する統計」
農林水産省「令和2年度 食料・農林水産業・農山漁村に関する意識・意向調査~農業経営の継承に関する意識・意向調査結果」

親子間の事業継承の難しさ

高齢の経営者にとって最も身近な後継者は子どもですが、親子ならではの事業継承の難しさがあると言われています。

親子間の継承について、当事者インタビューを行った和泉真理氏によれば、ITを活用した農業経営を巡って、親子の間に世代間ギャップが生まれ、継承が進みにくいケースもあると言います。

JA全農では、そんな親子継承に役立ててもらおうと、マニュアル本を製作しています。これまで先延ばしにしていた話し合いを始めるきっかけに、手に入れるのもいいかもしれません。

JA全農「事業継承ブック~親子間の話し合いのきっかけに~

120ha 水稲農家 スマート農業事例親方の記憶を全体が活かせるデータへ。ザルビオで親元就農での技術継承

自営農家
愛知県 都築様

■栽培作物
水稲・小麦・大豆 120ha

導入の目的

▷人手不足が深刻化しており、スマート農業ソリューションにより作業効率の改善を目指したいと考えていた。

課題・悩み

▷圃場管理の人手不足を課題に感じているが、技術継承なども問題に感じており、データの蓄積により作業効率の改善を行う必要があると感じていた。
▷農業全体として新しい技術を活用する必要があると考えていた。

成果

▷データを蓄積することによって、データに基づいたPDCAを回すことができるようになり作業効率の改善に繋がった。加えてデータを蓄積することによって技術継承にもつながると感じている。
▷まだまだ機能を使い切れてはなく、今後地力マップや生育マップなど活用の幅を広げ、さらなる効率化や収量アップを目指していきたい。

詳しくはザルビオサイトへ

親族以外への事業継承ではM&Aという選択肢も

M&Aを活用し、企業などへ事業継承する方法もあります。2009年の法改正により企業の農業参入が容易になり、地域へ企業を誘致する動きが活発になっています。

企業へ事業譲渡すれば、売却代金が得られるほか、働き続けたい希望のある従業員を再雇用してもらえる可能性も期待できます。

新規就農者が長く働き続けるためには、入社後のミスマッチを解消し、中長期的な研修支援でキャリアアップをサポートすることが求められています。

人材管理体制がさらに改善されれば、農業志望者の増加も期待できるでしょう。高齢者の大量離農時代に向けて、優秀な人材確保が急がれます。

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西岡日花李

西岡日花李

大学在学中より東京・多摩地域の特産・伝統文化などを取材し、街のローカルな魅力を発信するテレビ番組制作・記事を執筆。卒業後は大学院でジャーナリズムを学び、神奈川県のミニコミ紙記者として勤務。マスメディアでは取り上げない地域の課題を幅広く取り上げ、経験を積む。現在はフリーライターとして主に農業をテーマにした記事を執筆。農業の様々な話題を通して、地方都市の抱える問題や活性化への手立てを日々考察している。

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