【雑草別】小麦栽培で有効な除草剤と雑草防除の基本
小麦栽培において収量減につながりやすいのが、雑草害です。ほ場に雑草が繁茂すると生育不良や、収穫物への混入による品質低下などが起きる恐れがあります。そこで、この記事では小麦栽培における雑草の防除方法や有効な除草剤を紹介していくので参考にしてください。
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雑草害は小麦栽培における主要な多収阻害要因として知られています。小麦栽培農家の中には、思うように雑草を防除できずに困っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
雑草防除で大切なことは雑草の種類や生育ステージによって防除方法を変えることです。そこで、今回は小麦栽培の雑草防除に悩んでいる方に向けて、生育ステージや雑草の種類別に防除方法を解説します。
小麦栽培における雑草防除の基本
Jun-Ju / PIXTA(ピクスタ)
小麦の雑草防除を考えるときに大切なのが、作付体系による防除方法の違いです。
例えば、秋播き小麦は栽培期間が長いため、スズメノカタビラやハコベといった越年生の雑草の防除が基本になります。
一方、春播き小麦は春先からの温暖な気候によってタデ類やヒユ類などの一年生雑草が急激に繁茂し、生育に悪影響を与えるケースが多いです。
ほ場にこうした雑草が繁茂すると、品質や収量の低下につながるのはもちろん、収穫時の雑草混入(コンタミネーション)による被害を受けることも考えられます。
雑草は生育が進んである程度背丈が大きくなると除草剤の効きが悪くなるので、早めの対策が重要です。
安定した収量や品質を保持するためにも、ほ場に生えている雑草の種類をきちんと把握し、それに合った防除法や除草剤を用いるようにしましょう。
小麦の雑草は耕種的防除と除草剤を組み合わせて対策
小麦の場合、生育期の雑草防除は難しくなることから、予防に重点を置いた防除を心掛けることが重要です。基本は耕種的防除と除草剤の組み合わせになるので、具体的にどういった対策が有効なのか知っておきましょう。
小麦の雑草の耕種的防除
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まずは、耕種的防除について解説していきます。耕種的防除のポイントは「輪作体系の維持」「耕起・砕土・排水対策」「夏季石灰窒素・小麦晩播不耕起栽培」の3つです。
輪作体系の維持
小麦の雑草防除において輪作体系の維持が大切な理由は、「適切な作付けができていないと特定の雑草が勢力を強めてしまう恐れがあるから」です。
作付けしている作物によって使用できる農薬は制限されるため、同じ作物ばかり栽培すると特定の土壌消毒剤や除草剤を使用し続けることになります。すると、薬剤抵抗性が発達した雑草が出現し繁茂するリスクが高まります。
輪作体系を維持し、適切な作付けを行うことで幅広い種類の雑草防除につながるので、栽培体系が畑作中心の農家ほど綿密な作付計画が重要です。
時には、小麦の連作を行わざるを得ない場合もあるかもしれませんが、防除の難しい多年生イネ科雑草の増加につながりやすいので雑草防除に特に注意が必要です。
耕起・砕土・排水対策
耕起することですでに発生している雑草はもちろん、発芽前の種子を土中深くに埋めることができ、一定の防除効果が期待できます。もしも、播種前に雑草が生育している場合は植え付け前の準備もかねて耕起するとよいでしょう。
また、耕起時にハローなどの農機具を用いて砕土率を上げておくことも雑草防除のポイントです。砕土率を向上させることで排水性がアップし、土壌処理型除草剤の効果を最大限発揮させられます。
夏季石灰窒素・小麦晩播不耕起栽培
播種前の耕起は雑草防除に有効ですが、雑草の種類によっては収穫後すぐの耕起はしないほうがよい場合もあります。
例えば、ネズミムギは収穫後に耕起せず、できるだけ早い段階で石灰窒素を投入し、地表面の種子を死滅させる方法が有効です。
また、非選択性除草剤の効果を高めるために、晩播をする方法もあります。これは播種直前まであえて耕起をせずに土中のネズミムギをできるだけ多く発芽させた状態で非選択性除草剤を散布し、除草効果を高める対策です。
播種時期が遅くなるほどネズミムギの発芽数が減少するため雑草害は少なくなりますが、遅くなりすぎるとその分小麦の生育が悪くなる恐れがある点には気を付けましょう。
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小麦栽培での除草剤の使い方
続いて除草剤を使った雑草防除の仕方について解説します。小麦の生育ステージによって適した除草剤の種類が異なるので、概要をよく理解しておきましょう。
播種前:非選択性除草剤で播種前に既に発生している雑草を防除
雑草の生育が播種前に進んでいる場合、非選択性除草剤でしっかり防除することが基本です。
特にコヌカグサ(レッドトップ)のようなイネ科の多年生雑草は耕起による地下茎の細断が原因で、かえって数を増やすことがあります。
そうした雑草が多発したほ場では、その後の土壌処理型除草剤や茎葉処理型除草剤での防除は難しいため、耕起前に非選択性除草剤を散布しての防除が必須です。
播種後~生育初期:土壌処理型除草剤でその後の雑草繁茂を予防する
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播種後から栽培初期にかけての雑草に困たことのあるほ場の場合は、土壌処理型除草剤の使用が効果的です。特に栽培初期に発生する越年生の雑草をそのままにしておくと雑草害がひどくなるので、早めの防除が大切になります。
ただし、土壌処理型除草剤は地面に均等散布しないと大きな効果が期待できないため、気象や土壌の条件に影響を受けやすい点には気を付けなければいけません。
砕土不足で土壌表面の不均一が発生していたり、湿度が高すぎたりするほ場では十分な防除効果が期待できないケースもある点には注意しましょう。
生育時:茎葉処理型除草剤で生えてしまった雑草を防除する
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小麦の生育期における雑草防除においては茎葉処理型除草剤の使用が基本となりますが、雑草の種類によって効果に差があることは頭に入れておきましょう。例えば、春に発生する雑草に対しては、それに適した茎葉処理型除草剤を使用することがポイントです。
また、どのような種類の雑草にもいえますが、雑草の生育が進むにつれて除草剤が効きにくくなります。そのため、雑草が繁茂する傾向が見られたら、早めに散布することが重要です。
小麦栽培で問題となる雑草と防除のポイント
ここまで、小麦栽培における基本的な雑草防除対策について紹介してきました。しかし、先述のように雑草の種類に応じた対策をとらなければ十分な防除効果が期待できない場合もあります。
そこで、ここからは小麦の雑草害で多い9種類の雑草とその防除対策を紹介していくので、栽培農家の方は参考にしてください。
スズメノテッポウ
ひろし58 / PIXTA(ピクスタ)
東北地方以南で発生する代表的なイネ科雑草です。特に水稲の裏作で発生するケースが多く、繁茂した場合は小麦の生育不良によって大きな減収に結びつくことがあります。
また、茎に柔軟性があるため収穫時のコンバインに絡みつくなど、作業効率の低下につながる場合もあるので気を付けましょう。
具体的な防除対策としては、茎葉処理型除草剤の「ハーモニーDF(チフェンスルフロンメチル水和剤)」などの散布が有効です。雑草の2~3葉期までに散布すると初期に発生した雑草の防除に大きな効果が期待できます。
スズメノカタビラ
あひる / PIXTA(ピクスタ)
北海道を中心として全国的に発生が見られるイネ科雑草です。局地的ではあるものの、東北以南の地域でも油断すると繁茂する場合があるので注意しましょう。
スズメノカタビラは数ある雑草の中でも特に種子の結実が早いので、発生初期の段階から防除に取り組むことが重要です。
ただし、スズメノテッポウと違って茎葉処理型除草剤の効き目はあまり高くありません。そのため、イネ科雑草に対して効果のある土壌処理型除草剤を用いた防除が基本になります。
カズノコグサ
カズノコグサ 緑色~白褐色の花序
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
カズノコグサは比較的温暖な地域を好む雑草で、特に九州北部の裏作でよく発生しています。生育が進み、出穂すると草丈が高くなって、小麦の生育不良による減収につながる恐れのある雑草です。
防除は土壌処理型除草剤を用いるのが基本で、「トレファノサイド乳剤(トリフルラリン乳剤)」や「ボクサー(プロスルホカルブ乳剤)」「バンバン乳剤(エスプロカルブ・ジフルフェニカン乳剤)」などがよく効きます。
ただし、土壌の深い位置で発生するケースが多いことから、発生量の多いほ場では土壌処理型除草剤の効果があまり期待できない場合もあるので要注意です。
そのような場合は、土壌処理型除草剤と茎葉処理型除草剤の ハーモニーDFなどを併用して防除に努めるとよいでしょう。
カラスノエンドウ
小麦ほ場で繁茂したカラスノエンドウ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
関東より西の地域で発生数が増加しており、近年問題となっている雑草です。
小麦と種子の大きさや重さがよく似ていることから出荷の際に混入する被害も出ているため、事前にしっかりとした対策をとっておく必要があります。
防除は「ゴーゴーサン乳剤(ペンディメタリン乳剤)」や「ガレース乳剤(ジフルフェニカン・トリフルラリン乳剤)」といった土壌処理型除草剤を用いると比較的高い効果が期待できます。
ただし、それだけでは十分な防除ができない事例もあるため、そのようなときはカズノコグサと同様に、「アクチノール乳剤(アイオキシニル乳剤)」などの茎葉処理型除草剤と併用しましょう。
ヤエムグラ
春夏秋冬 / PIXTA(ピクスタ)
ヤエムグラは自立というよりも、小麦にはうように生育します。そのため、減収だけでなく、小麦を倒伏させたり、コンバインに絡みついたりして作業効率を低下させることもあるやっかいな雑草です。
土壌処理型除草剤もある程度の効果を期待できますが、深い位置から発生している個体には効き目が安定しない場合もあるので気を付けなくてはいけません。
土壌処理型除草剤の効き目が悪い場合には、茎葉処理型除草剤の散布が必要です。生育が進んで草丈が大きくなった個体の防除には、「エコパートフロアブル(ピラフルフェンエチル水和剤)」が向いています。ただし、薬害が生じる恐れもあるため、茎立期以降の散布は慎重に行いましょう。
ネズミムギ、カラスムギ
ネズミムギ(ビール麦ほ場)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ネズミムギやカラスムギは東海および関東地方で被害が多発している雑草ですが、近年では全国的に被害が拡大しつつあるので、そのほかの地域の方も注意しましょう。
どちらも土壌処理型除草剤の「トレファノサイド乳剤(トリフルラリン乳剤)」の効果が比較的高いですが、土壌深くから発生する個体もあるため、それだけでは不十分なケースも多いです。
また、茎葉処理型除草剤の効果も低いことから、一度多発すると防除が難しい雑草だといえます。繁茂してしまった場合には一年の休耕期間を設け、その間に耕起や非選択性除草剤などで徹底防除に努めるしかないケースもあります。
タデ類
ハルタデ(ビール麦ほ場)
真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ハルタデやサナエタデなどに代表される一年生雑草です。繁茂した場合には収穫期の麦畑は黄金色ではなく、タデ類の花の色で染められることもあります。タデ類は発生が遅いこともあり、土壌処理型除草剤のみによる防除は難しいのが特徴です。
そのため、茎葉処理型除草剤での防除が基本となり、発生直前なら「ハーモニーDF(チフェンスルフロンメチル水和剤)」、発生期以降であれば「アクチノール乳剤(アイオキシニル乳剤)」の散布が効果的です。
コヌカグサ(レッドトップ)
Marji44 / PIXTA(ピクスタ)
東北以北で見られる多年生のイネ科雑草です。特に北海道で被害が多く、種子だけでなく地下茎でも増殖するなど、繁殖力が強いのが大きな問題になります。
耕起時の地下茎の細断によって個体数が増える場合もあるので、耕起前に「ラウンドアップマックスロード」などのグリホサート剤を散布しましょう。
播種後に実生で発生した場合は、イネ科雑草に比較的高い効果が期待できる「トレファノサイド乳剤(トリフルラリン乳剤)」や「ゴーゴーサン乳剤( ペンディメタリン乳剤)」の散布が有効です。
また、知らないうちに地下茎によって土中で繁殖している場合もあるので、収穫後に上述したグリホサート剤を散布して予防に努めることも防除のポイントになります。
除草剤抵抗性スズメノテッポウ・カズノコグサ
これまで、スズメノテッポウやカズノコグサは土壌処理型除草剤や茎葉処理型除草剤での防除が有効でした。ところが、近年では一部の除草剤に対して抵抗性を持ったスズメノテッポウやカズノコグサが出現し、問題となっています。
効き目が悪くなった除草剤としては「トレファノサイド乳剤」や「ハーモニーDF」が挙げられますが、その一方で「ボクサー」や「バンバン乳剤」は従来通りの効果を期待できる場合があるので、被害に悩んでいる方は試してみるとよいでしょう。
また、事前浅耕(耕起深5cm)のあとで不耕起播種(事前浅耕後約1カ月)を行い、出芽前の土壌処理型除草剤と非選択性除草剤の混用散布によって一定の防除効果を得られているケースもあります。
出典:農研機構「診断に基づく小麦・大麦の栽培改善技術導入支援マニュアル」
ふうび / PIXTA(ピクスタ)
雑草は小麦栽培における大きなリスクの1つです。きちんとした防除ができていないと収量減や作業効率の悪化に結びつき、経営に支障が生じるかもしれません。
雑草にはたくさんの種類がありますが、まずは自らのほ場に生えている雑草を把握し、それに応じた早めの防除対策をとることが重要です。
この記事を参考に耕種的防除と除草剤を上手く組み合わせ、万全の防除体制を構築しながら栽培に取り組んでください。
北海道 川田様
■栽培作物
米・小麦・大豆
▷広いほ場の効率的な管理
▷効率的なほ場管理ができていなかった
▷地域で赤さび病の発生度合いが高まり、効果的な防除が求められていた
▷見回りが1回あたり2時間から1時間に半減。
▷適期防除ができるようになって小麦の収量が増え、地域平均が7.98俵のところ12.8俵収穫を実現。反収は近隣農家の約2倍
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。