サツマイモ(甘藷)の黒斑病の防除方法|定植前と貯蔵中の対策がカギ
塊根が商品となるサツマイモ(甘藷)栽培では、土壌病害が発生すると収量減や商品価値の低下が起こりやすいことが問題です。そこで、今回は土壌病害の中でも被害が大きくなりやすい「黒斑病」に焦点を当て、その見分け方や防除方法などを紹介します。
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サツマイモ(甘藷)栽培農家の中には土壌病害に悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。商品である塊根が傷みやすい土壌病害は売上の減少につながることも多いので、安定経営のためには積極的な防除が大切です。
今回は数あるサツマイモ(甘藷)の土壌病害のうち、ほ場での防除が難しいことで知られる黒斑病について紹介します。サツマイモ(甘藷)栽培農家の方は、効果的な防除方法にどのようなものがあるのかチェックしてみてください。
サツマイモ(甘藷)の黒斑病の特徴
サツマイモ(甘藷) 黒斑病 くぼみかけた病斑部
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
黒斑病はサツマイモ(甘藷)以外にも玉ねぎなどのネギ属や梨、菊といった作物でも発生することがあります。その原因は糸状菌(カビ)の一種である「セラトシスティス菌(Ceratocystis fi mbriata)」です。
ほ場でセラトシスティス菌の密度が高まると発生しやすくなり、発病株は主に茎葉や塊根部が被害を受けます。発病当初は緑がかった黒褐色の病斑が生じ、進行とともに黒色部分がどんどん増していくのが特徴です。
一般的に病斑は直径2~3cm程度まで大きくなり、腐敗が塊根内部まで及ぶと病斑部は腐敗してくぼみ、その中心部にカビが発生します。
塊根部の表面が黒くなって商品価値が低下するという点では「黒あざ病」と同じですが、病斑が表面にとどまる黒あざ病とは異なり塊根内部まで腐ってしまうため、より大きな被害をもたらしやすい病害です。
サツマイモ(甘藷) 黒斑病 黒変病斑は内部深くまで及ぶ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
黒斑病の伝染経路
黒斑病の伝染経路は主に「もともと罹病していた種いもから採苗した苗を定植する」「土壌から塊根部に病原菌が入り込んで伝染する」の2つです。
土壌伝染が起こる原因として多いのは塊根部についた傷から株に病原菌が入りこむパターンで、ハリガネムシ(コメツキムシの幼虫)やコガネムシ類の幼虫といった土壌害虫、ネズミなどの食害によって引き起こされることがあります。
収穫時についた傷が原因となって罹病するケースもあり、収穫後そのまま貯蔵すると知らない間に発病して、気付いたときには被害が大きくなっていることもあるので注意が必要です。
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
黒斑病によるサツマイモ(甘藷)への被害
サツマイモ(甘藷)を栽培するほ場で黒斑病が発生すると収量が減少するだけでなく、見た目が悪く商品価値が著しく低下するなどの被害を及ぼし、さらなる農業所得の減少につながります。
腐敗したサツマイモ(甘藷)が自らを守るために生成する「ファイトアレキシン」という生理活性物質にも気を付けなくてはいけません。
植物は腐敗性の病害に侵されると自らを守るためにファイトアレキシンを生成します。サツマイモ(甘藷)はその中でも肝臓毒性のあるイポメアマロンや呼吸器症状を引き起こす可能性のある「4-イポメアノール」といった、人畜に有害な物質を生み出すことで知られています。
実際に、腐敗したサツマイモ(甘藷)を家畜に与えて中毒が起こったとする事例も報告されているので、発病したら家畜飼料にするのも難しいでしょう。以上のことから、経営安定化のためには黒斑病の早期発見、防除に努めることがポイントになります。
出典:公益社団法人日本獣医師会 日本獣医師会雑誌第65号第5号(平成24年5月20日) 所収「腐敗甘薯中毒事例 におけるサツマイモからのイポメアマロンの検出(鹿児島県鹿児島中央家畜保健衛生所・鹿児島県姶良家畜保健衛生所・農研機構)」
サツマイモ(甘藷)の黒斑病の見分け方
mex / PIXTA(ピクスタ)
土壌病害の多くは栽培期間中の防除が難しく、塊根部が商品となるサツマイモ(甘藷)は特にその傾向が顕著です。効果的な防除には病害を早期発見し、的確な対策を講じることが不可欠ですが、黒斑病は地表上の葉や茎などから発生を判別できません。
そのため、黒斑病の見分け方は収穫時に塊根部の状態をよく観察することが基本となります。もしも、塊根部に直径2cmほどの黒色の病斑があり、その中心に毛のようなものが突出している場合には黒斑病を疑いましょう。
サツマイモ(甘藷) 黒斑病 病斑部 拡大
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
症状の進行とともに病斑が大きくなる点や、切断部から腐敗臭がする点も特徴なので、一目で判断できない場合は様子を見ながら当該部分を切断して匂いを嗅いでみましょう。
サツマイモ(甘藷)の黒斑病の防除方法
misokasu / PIXTA(ピクスタ)
黒斑病は栽培中のほ場での防除は困難であるため、基本的には耕種的防除で対処することになります。具体的には、「種いもの選抜および消毒」「収穫した塊根のキュアリング処理」「1~2年程度の輪作」の3つです。最後に詳細な防除方法を解説します。
病徴のない種いもを選抜し、種いもや苗を消毒する
そもそも黒斑病は栽培している作物に病原菌が入り込まなければ発生することはありません。そのため、サツマイモ(甘藷)の栽培に当たっては、健全な種いもを用いることが重要です。事前にしっかりと病徴の有無を確認し、優良な種いもを選抜して栽培しましょう。
また、植えつけ前の種いもの消毒も黒斑病の防除に有効です。種いもの消毒方法には、47~48℃のお湯に40分間程度つけておく温湯消毒と、「トップジンM水和剤」や「ベンレート水和剤」などの農薬を用いて行う方法の大きく2つがあります。
ただし、苗床が病原菌に汚染されていると、せっかく種いもを消毒しても無駄になってしまうので、苗床の床土を無病地の心土にすることも忘れてはいけません。
温湯消毒および農薬による防除は苗の定植時にも効果的です。苗の場合は基部約10cmを47~48℃のお湯に15分つけるか、「トップジンM水和剤」や「ベンレート水和剤」を適した濃度に希釈し、消毒してから定植しましょう。
収穫した塊根はキュアリング処理する
黒斑病は収穫時に塊根部にできた傷などが原因で収穫後に発病することがあります。収穫後の発病を防ぐ方法として効果的なのがキュアリング処理です。キュアリング処理を行うことで傷口や表皮化にコルク層が形成されるため、各種腐敗性病原菌の侵入を抑制する効果が期待できます。
キュアリング処理の具体的な方法は、まず収穫後のサツマイモ(甘藷)を温度31~35℃(適温は33℃)、湿度90~95%という高温多湿条件下に4日間(約100時間)程度置きます。
するとコルク層が形成されて傷口がふさがるので、その後は庫内の放熱に努めて温度13~15℃、湿度90%以上という条件下で貯蔵しましょう。
ただし、外見上問題ない塊根でも貯蔵中に発病することがあるため、しばらくの間は定期的に様子をチェックする必要があります。また、基本的に黒斑病が発生したほ場からの採種はキュアリング処理の有無にかかわらず避けたほうが無難です。
輪作する
土壌中の病原菌密度低減には輪作が有効ですが、それはサツマイモ(甘藷)の黒斑病でも同様です。黒斑病が認められたほ場では1~2年程度休作することで、防除効果が期待できます。
輪作体系に組み込む作物としてはマメ科以外が適しており、植えつけや収穫時期などがサツマイモ(甘藷)と似ていることからとうもろこしを導入するのもよいでしょう。
輪作と同時に考えておきたいのが、ネズミや土壌害虫への対策です。黒斑病はこれらの食害痕から土壌伝染が起こるケースも多いので、ネズミ対策として殺鼠剤や忌避剤、コガネムシやハリガネムシといった害虫対策に「ダントツ粒剤」や「ダーズバン粒剤」などを使用して防除に努めましょう。
サツマイモ(甘藷) ハツカネズミによる食害
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
サツマイモ(甘藷)栽培において、黒斑病のような土壌病害は収量や売り上げの減少に直接つながるリスク要因の1つです。栽培期間中はもちろん、収穫時に負った傷により貯蔵中に発病することもあるので、収穫後も油断してはいけません。
発生すると栽培期間中の防除は難しいため、基本的には耕種的防除で発生させないようにすることが重要です。サツマイモ(甘藷)農家の方は安定経営を続けていくためにも、今回紹介した防除方法を参考にして栽培に取り組んでください。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。