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サツマイモ(甘藷)の主な病気(病害)&防除対策一覧! 被害大の「基腐病」最新情報も

サツマイモ(甘藷)の主な病気(病害)&防除対策一覧! 被害大の「基腐病」最新情報も
出典 : YUMIK / PIXTA(ピクスタ)

サツマイモ(甘藷)栽培で注意すべき病害の特徴や、症状と防除対策について詳しく解説していきます。深刻な被害をもたらす新しい病害「基腐病(もとぐされびょう)」の最新情報も併せて紹介します。

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サツマイモ(甘藷)は比較的丈夫な作物ですが、その油断から病害の発見が遅れてしまうケースも少なくありません。
サツマイモ(甘藷)栽培で、病害による被害を最小限に抑えるための情報と防除対策を解説します。

一覧で確認! サツマイモ(甘藷)に発生する主な病気(病害)と防除対策

サツマイモ(甘藷)の収穫作業

出典:株式会社PR TIMES(株式会社ローソンストア100 ニュースリリース 2017年10月5日)

サツマイモ(甘藷)栽培で注意すべき病気について、原因と症状の特徴、主な防除対策を一覧で紹介します。なお、この記事で紹介する農薬は、2021年12月現在登録のあるものです。

実際の使用にあたっては、改めて登録を確認したうえでラベルの記載内容をよく読み、決められた用法や用量を守って使用してください。また、地域によって農薬の使用に決まりがある場合には、その決まりを守りましょう。

帯状粗皮病(おびじょうそひびょう)

サツマイモ(甘藷)帯状粗皮病 表面に細かいひび割れを生じている

サツマイモ(甘藷)帯状粗皮病 表面に細かいひび割れを生じている
HP埼玉の農作物病害虫写真集

帯状粗皮病の病原は、サツマイモ(甘藷)の主要病害として知られる「斑紋モザイク病」と同じ「サツマイモ斑紋モザイクウイルス」です。同ウイルスの系統のうち「強毒系統(SPFMV-S)」に感染すると発病します。

発病株を吸汁してウイルスを持ったモモアカアブラムシが、苗床やほ場に移動して健全株に感染が広がります。

また、採苗用の苗を自家育苗する場合に、罹病した塊根を種いもにしてしまうと、採取した苗によってほ場全体に感染が広がってしまうため注意が必要です。

発病初期には、葉の葉脈間に黄色い小斑紋が現れ、次第にその周囲が紫色になっていくのが特徴です。悪化すると葉の大部分が紫色になり、黄色い小斑紋が広がります。

葉や株が枯れないため、罹病株と健全株の生育には、見た目には差がありませんが、塊根部には大きな病徴が現れています。塊根の表面にざらざらとした細かいひび割れが横縞状に現れ、重症化するとひび割れが帯状となり全面に広がります。

症状は表面のみで内部に影響はありませんが、外観が非常に悪くなるため、商品価値が著しく損なわれてしまうのです。

サツマイモ(甘藷)の採苗

ナミ / PIXTA(ピクスタ)

最も重要な防除対策は、ウイルスフリー苗を使うことです。苗を増殖する間、防除ネットなどを用いてアブラムシ類の侵入を出来る限り防ぎましょう。

ハサミやナイフを介して感染するケースもあるため、採苗の際には細心の注意を払い、ケミクロンGなどの資材消毒剤で殺菌するとよいでしょう。

ウイルスに対して直接有効な農薬はありませんが、アブラムシ類の発生が目立ち始めたら、農薬を使って早めに防除しましょう。

アブラムシ類と「かんしょ」に適用のある農薬は、MEP乳剤の「スミチオン乳剤」やシペルメトリン水和剤の「アグロスリン水和剤」、クロチアニジン水溶剤の「ダントツ水溶剤」など多数あります。

黒斑病(こくはんびょう)

黒斑病の病原となるのは土壌中の「糸状菌(カビ)」の一種です。ハリガネムシ(マルクビクシコメツキやクロクシコメツキの幼虫)などの土壌害虫やネズミなどによる食害で付いた傷から病原菌が侵入し、感染を引き起こします。

また、罹病した種いもから採取した苗によって感染する場合もあるので注意しましょう。

ハリガネムシ 被害イモの断面

ハリガネムシ 被害イモの断面
HP埼玉の農作物病害虫写真集

いずれも生育中に感染して収穫時に発病したり、収穫時の傷から感染して貯蔵中に発病したりします。特に貯蔵中に感染が広がった場合には、深刻な被害につながりかねません。

苗が発病すると、地下部および地際部の茎に黒い病斑が現れ、下葉が黄化します。

塊根に発症する場合は、直径2~3cmの緑がかった黒色の病斑を生じ、次第に病斑部分がくぼんでいきます。病斑の中央部には毛のように見えるカビが発生し、さらに症状が進んでくると塊根内部にまで進展して黒く腐敗してしまうのです。

サツマイモ(甘藷)黒斑病 くぼみかけた病斑

サツマイモ(甘藷)黒斑病 くぼみかけた病斑
HP埼玉の農作物病害虫写真集

サツマイモ(甘藷)黒斑病 内部深くまで及んだ黒変部

サツマイモ(甘藷)黒斑病 内部深くまで及んだ黒変部
HP埼玉の農作物病害虫写真集

採苗用の苗を自家育苗する場合にまず気を付けたいのは、確かな出所から無病の種いもを入手することです。さらに種いもや苗は、温湯消毒や農薬で消毒をするとよいでしょう。温湯消毒では47~48℃の湯に種いもは40分、苗は15分浸漬させます。

サツマイモ(甘藷)の黒斑病に適用がある農薬には、チオファネートメチル水和剤の「トップジンM水和剤」、ベノミル水和剤の「ベンレート水和剤」などがあります。

また、収穫後に施せる処理として、一定条件の温度と湿度を数日間保つキュアリングという方法も有効です。

キュアリングは、傷口にコルク層を形成して腐敗性病原菌の侵入を防ぐため、大きな防除効果が期待できます。生育中の感染をできるだけ防ぐために、土中の害虫、ネズミなどの害獣対策も併せて行いましょう。

立枯病(たちがれびょう)

サツマイモ(甘藷) 定植後

ゴン太 / PIXTA(ピクスタ)

立枯病は土壌中の放線菌の一種が病原となり、苗のうちに発病すると、定植後2週間ほどで葉が黄化または赤紫に変色してきます。

やがて萎れてつるが伸びず、生育不良を引き起こします。もともと土壌中に存在する細菌が病因ですが、pHや高温・乾燥など、土壌の条件によって発病が促されてしまうのです。

症状が軽い場合は、やや生育不良ながらも塊根が肥大して収穫を迎えることができます。ただし、塊根には円形で黒く陥没した病斑が発生し、品質は著しく損なわれます。症状が激しい場合には、定植後1ヵ月ほどでほとんどの株が枯死に至ります。

立枯病の予防には、石灰資材の過剰施用に気を付けるとともに、土壌pHを5.5以下に保つよう適切な管理が求められます。

また、土壌の乾燥・高温条件を招きやすいマルチ栽培を避け、立枯病に弱い高系14号などの品種を選ばないのも有効な対策の1つです。

立枯病が発生したことがあるほ場では、「クロルピクリン錠剤」などによる定植前のマルチ畝内消毒が効果的とされています。

つる割病(つるわれびょう)

サツマイモ(甘藷)つる割病 発病株

サツマイモ(甘藷)つる割病 発病株
HP埼玉の農作物病害虫写真集

つる割病は土壌中の糸状菌の一種が病原となって広がっていく病気です。汚染土壌に定植すると、根の傷などから菌が侵入し、発症を引き起こします。また、罹病の種いもを使うのも発症の原因の1つとして挙げられます。

育苗期の苗に発生すると、初期の時点で葉が黄化して落葉し、症状が著しい場合にはそのまま枯死します。

罹病しながらも症状が比較的軽く見た目が健全な場合に、気付かないまま苗を定植してしまうと、やがて株元の茎が縦に割れていきます。

その部分にカビの発生や、ヤニを出す症状が見られたあと、最終的には枯死してしまうケースも少なくありません。

発生が見られたほ場では、ベニアズマ、高系14号やその選抜品種など、抵抗性を持つ品種を選ぶとよいでしょう。

定植前の苗をベノミル水和剤の「ベンレート水和剤」などで浸漬し、本圃では「クロルピクリン錠剤」「バスアミド微粒剤」などによる土壌消毒を実施すると、高い防除効果が得られます。

斑紋モザイク病(はんもんもざいくびょう)

サツマイモ(甘藷)斑紋モザイク病 発病葉

サツマイモ(甘藷)斑紋モザイク病 発病葉
HP埼玉の農作物病害虫写真集

斑紋モザイク病の病原は、帯状粗皮病と同じサツマイモ斑紋モザイクウイルスです。複数の系統があるうちの普通系統がこの病気を引き起こします。

葉には葉脈間に黄色い小斑紋が生じる症状が見られ、周囲が紫色を帯びてくるため、帯状粗皮病との区別が困難です。

塊根の症状は、表皮がさめ肌状になって退色する場合や退色だけしかしないこともあり、帯状粗皮病のような著しい病変はありません。系統が異なるだけで同種のウイルスであり、防除方法は帯状粗皮病と同様です。

サツマイモ農家へ深刻な被害をもたらす新病害、「基腐病」にも要注意

サツマイモ 苗 マルチ 畝

ゴン太/PIXTA(ピクスタ)

最後に、2018年11月に沖縄県で日本初の発生が確認されて以降、急速に感染が広まっている「サツマイモ基腐病(以降「基腐病」)」について解説します。サツマイモ農家に深刻な被害をもたらしている基腐病の、現在までにわかっている被害状況と対策方法をまとめました。

基腐病(もとぐされびょう)とは?

基腐病は、サツマイモ(甘藷)農家に深刻な被害を及ぼす恐れがある新しい病害です。日本における認知はまだ十分でなく、対策が遅れれば収量を激減させ、農業経営に大打撃を与える病害とされています。

病原は糸状菌(カビ)の一種で、罹病株の残さ中で病原菌が柄子殻の形態で生存し続け、土壌中の柄子殻から発生した胞子が灌水や降雨によって飛び散って感染が広がります。

そのため、台風のような暴風雨のあとには、近隣ほ場への感染から広範囲への感染拡大につながることがあるので、特に注意が必要です。

また、罹病株の塊根が種いもになり、感染が広がってしまうケースもあります。

発病しても、初期の地上部には目立った症状は見られません。生育不良や葉の変色によって初めて気づくケースが多く、その頃にはすでに病気は進行しているのです。

株元が黒く変色して次第にツルも黒っぽい色に変化し、やがて地上部が枯死します。発病株の塊根は、なり首側から腐敗します。

一度発生したほ場には、土壌に病原菌が残っているため、数年間は対策を打ち続けなければいけません。

病原は、ヒルガオ科の作物にのみ寄生するため、続けてサツマイモ(甘藷を栽培し続けると被害は増大の一途を辿ります。

【2021年11月現在】日本国内での発生状況

開聞岳(薩摩富士)のふもとに広がるサツマイモのほ場

w_stock / PIXTA(ピクスタ)

サツマイモ基腐病は、およそ100年前にアメリカで発見された病気です。これまで、アフリカやニュージーランドなどで被害が報告されていましたが、ここ10年ほどでアジア地域にも被害が広がっています。

日本では、沖縄県で発見された2018年11月以降、翌2019年までに鹿児島県、宮崎県でも被害が報告されました。

2020年秋から2021年にかけて、福岡県、熊本県、長崎県に広まると、九州だけでなく高知県、静岡県、岐阜県でも被害が見られるようになりました。

2021年夏以降、発生の報告があった地域は、6月に群馬県と茨城県、7月に東京都、千葉県、岩手県、愛媛県、8月に埼玉県、福井県、石川県、山形県、北海道、10月には鳥取県、長野県で、被害地域は急拡大しています。

茨城県のサツマイモのほ場

ヨシヒロ / PIXTA(ピクスタ)

基腐病防除の最前線! 収量を守る有効な対策方法は?

2021年11月現在、最新の研究に基づいた基腐病の防除対策を紹介します。

1. 基腐病が発生した地域から、種いもや苗を持ち込まない

まだ発病していないほ場に病害を持ち込まないのが何よりも重要なことです。

感染した種いもや苗からの感染を防ぐために「発生地域から種いもや苗を入手しない」「種いもや苗の消毒を徹底する」など、地域全体で防除対策の意識を高めましょう。

2. ほ場の排水対策を徹底する

病原菌となる土壌中の胞子は、水に交じって跳ね上がり、サツマイモ(甘藷)の葉や茎に付着して感染します。そのため、水が溜まった状態を放置してしまうと、感染が広がりやすくなります。

このような病因を排除するには、灌水や降雨が速やかに排水されるように、排水設備の見直しを実施し、必要に応じて新たに額縁明渠(がくぶちめいきょ)や縦穴排水対策などを講じます。

排水設備の整備だけではなく、こまめに排水路を掃除したり、正しく機能するように管理したりするのも忘れないようにしてください。

3. 発病株の早期発見、感染拡大防止に努める

基腐病の被害を広めないためには「持ち込まない」「増やさない」「残さない」といった3つすべてを徹底しなければなりません。発病を最小限に抑えるためには、早期発見・早期防除が不可欠です。

日頃から作物の様子をよく観察し、生育不良や葉の変色を発見したら、必ず株元を確認するようにしましょう。

地際の茎が黒~暗褐色に変色していたら、基腐病の可能性があります。発病が疑われる場合には、速やかに地域の農業センターなどに連絡をしましょう。

発病が確認されたら、罹病株をすべて取り除いてほ場から持ち出し、地域の指導に従って適切な処理を行います。

一度発病したほ場で続けてサツマイモ(甘藷)を作付けすると、収穫が皆無になりかねません。数年間は、病原菌が寄生できない別の作物を栽培するなどの対策が理想的です。

やむを得ずサツマイモ(甘藷)を作付けする際には、感染していない種いもを確かな出所から入手し、種いもや切り苗の消毒を徹底して作付けするようにしましょう。

排水対策にもしっかりと配慮して、できるだけ早めの収穫を心掛けてください。栽培中は、発病の有無に関するチェックを怠らないようにするのも大切です。

これらの耕種的防除を徹底したうえで農薬を併用してしっかり防除していきます。

本圃の土壌消毒ではダゾメット粉粒剤の「バスアミド微粒剤」、栽培中の防除では、炭酸水素ナトリウム・銅水和剤の「ジーファイン水和剤」、アゾキシストロビン水和剤の「アミスター20フロアブル」などの農薬があります。

サツマイモ(甘藷)親苗

椿 / PIXTA(ピクスタ)

サツマイモ(甘藷)の病害は、糸状菌(カビ)によるものが多いため根絶は困難ですが、耕種的防除と農薬による防除を併用してしっかり行えば、被害を最小限に抑えることが可能です。

新たな病害である基腐病が疑われる際には、慌てずにまず地域の農業センターに連絡したうえで、地域を挙げて対応していきましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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