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サツマイモ(甘藷)栽培で重要な育苗を重点解説。最新の技術動向も紹介

サツマイモ(甘藷)栽培で重要な育苗を重点解説。最新の技術動向も紹介
出典 : Hayashi / PIXTA(ピクスタ)

サツマイモ(甘藷)は酸性の土壌や痩せた土壌でも栽培しやすいことから、九州、四国、関東などで広く栽培されています。この記事ではサツマイモ(甘藷)栽培で特に重要な育苗から定植までの栽培管理と最新の技術動向を紹介します。

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サツマイモ(甘藷)の栽培管理|育苗から定植まで

サツマイモ(甘藷)栽培において、大きな比重を占める育苗~定植について、基本の栽培管理とともに、新しい省力化技術を紹介します。

サツマイモ(甘藷)栽培において特に重要な、育苗から定植までの基本的な栽培管理のポイントを順を追って解説します。

育苗方法には、種芋を伏せ込んで苗を伸ばし採苗する伏せ込み育苗と、主にウイルスフリー苗の場合に用いられるポット苗育苗・切り苗育苗がありますが、今回は伏せ込み育苗について解説します。

サツマイモ(甘藷)の栽培暦

栽培暦は産地や品種によって異なりますが、ここでは、本州と九州の例を挙げます。

【本州】

サツマイモ(甘藷)の栽培暦 本州

出典:農林水産省ホームページ所収「秋田県野菜栽培基準(根菜類)」、栃木県塩谷南那須農業振興事務所「さつまいも栽培マニュアル」、JAかとり小見川野菜出荷組合甘藷部会もっと安心栽培グループ「もっと安心農産物さつまいも栽培暦(平成28年)」よりminorasu編集部作成

【九州】

サツマイモ(甘藷)の栽培暦 九州

出典:佐賀県農政部上場営農センター「カンショ」、独立行政法人農畜産業振興機構「鹿児島県におけるかんしょ栽培の機械化の現状と課題について(前編)」、指宿市「農業・畜産業さつまいも」よりminorasu編集部作成

苗床の準備

苗床の方式には、ビニール被覆を行う露地苗床、加温式ハウス内での冷床苗床、無加温式ハウス内での温床苗床などがあります。第1回目の採苗までの日数は、露地で45~55日、ハウス育苗で40日前後が目安です。

本圃10a当たり10~20平方m程度の面積が必要です。ハウス育苗の床土には無病土を用い、露地の場合は、ダゾメット粉粒剤やクロルピクリンくん蒸剤、D-D剤などで土壌消毒します。

※剤型の違いや農薬個別に「かんしょ」への適用、使用方法・使用時期が異なります。必ず農薬のラベルの記載内容をよく確認し、使用方法を守って正しく実施してください。

施肥量は、床土の肥沃度によって異なりますが、露地の場合は、1平方mあたり堆肥6㎏、窒素(N)20g:リン酸(P)10~15g:カリウム(K)15~20gを目安とします。

ハウス育苗などで床土を新たに作る場合は、1平方m当たり窒素(N)100~150g:リン酸(P)100~150g:カリウム(K)150~200gを目安とします。昨年の床土を土壌消毒して用いる場合は施肥はせず、育苗中の生育をみて追肥で補います。

種芋の入手

種芋の量は、品種によって異なりますが、一般には10a当たり40~80kgが必要です。

種芋は、出所が確かで品種特性が担保され、無病で200~300g程度のものを入手します。地域のJA、都道府県の農政部署、試験場などを通じて入手する場合が多いでしょう。

種芋消毒

種芋を47~48℃の温湯に40分間浸す温湯消毒、または、ベンレート水和剤(種芋粉衣)、トップジンM水和剤(種芋20~30分間浸漬)などの農薬で消毒します。

伏せ込み

種芋の頂部(なり蔓側)の高さを揃えて15度ほど傾け、尾部が床土の中に入るように伏せ込みます。頂部が隠れる程度(2~3cm)に覆土し十分に灌水し、黒マルチで床面を覆います。黒マルチで覆う前に乾燥防止と放熱のため麦わらを敷くのもよいでしょう。

育苗管理

芽が出るまでは比較的高温(30℃程度)で、芽が出揃ったら、日中22~25℃、夜間18℃程まで徐々に温度を下げます。

床面を覆ったマルチは徐々に取り除き日光を当てるようにします。苗長5cmでは日中2~3時間程度になるように、苗長10cmになったらマルチを取り除き十分に日光に当てます。

灌水は、床土を手で固めたときに崩れない程度の水分量を保つように行います。生育状況を見て必要ならば窒素の追肥を行いましょう。

採苗と苗の取り置き

サツマイモの苗切り(採苗)

ナミ / PIXTA(ピクスタ)

採苗回数は、育苗方法や品種、作型によって異なりますが、早掘り栽培で3~4回、普通栽培で5~6回が一般的です。

採苗1回目より、2~4回目のほうが良苗になり、5回目以降は繊維質になり品質が落ちるといわれています。

苗長25~30cmで7~8節、葉が充分に展開しているものを、ナイフなどで地際の1~2節を残して切り取ります。切り取った苗は、根部を温湯またはベンレート水和剤などの農薬に浸漬して消毒します。

機械で一斉採苗を行う場合は、苗の切り取りは省力化できますが、苗長にばらつきがでるため、定植用・再育苗用・廃棄に苗を選別する作業が必要になります。

消毒後の苗は定植までの間、束ねてかごなどに立て、風の当たらない日陰で保管します。かごなどの底に濡れむしろを敷き上部をビニールやポリフィルムなどで覆うなどして、湿度を保つと発根が早まります。

採苗後の苗床は、次の採苗に備え、灌水と追肥を行い、やや高温に管理します。

本圃の準備

ほ場全面を耕起した数日後、土が落ち着き、手で握った土が崩れない程度の水分を含む状態で畝立てを行います。

導入している農機にもよりますが、畝立てと同時に、土壌消毒・施肥・マルチ展張・除草剤散布を行います。
畝は肥沃地や多湿地では高畝、肥沃度の低い場合や乾燥地では低畝にします。

施肥量は、産地の土壌特性や品種、前作などによって異なります。都道府県の栽培基準などを参考に設計しましょう。

定植

サツマイモ(甘藷)の切り苗

田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)

定植は、土壌消毒剤のガスが抜けた後、風がなく薄曇りの日などを選んで行います。
わずかに発根した取り置き苗を手作業または半自動移植機などで畝に挿します。

苗の挿し方には数種類あり、産地によって採用されている方法は異なります。

「水平植え」「改良水平植え」は、苗の各節に子芋をつけて収量を確保する方法で、露地育苗での大苗確保が可能な暖地で採用されています。

一方、「釣針植え」「斜め植え」「直立植え」は、子芋の個数を少なく子芋一つひとつを肥大させるのに有効で、早掘り栽培や関東での小苗密植栽培で用いられています。

サツマイモ(甘藷)栽培の最新技術動向

定植後のサツマイモ(甘藷)

ヨシヒロ / PIXTA(ピクスタ)

サツマイモ(甘藷)栽培の技術動向を紹介します。

【原料用】直播栽培で大幅な省力化

ほ場に直に種芋を植える「直播栽培(ちょくはんさいばい)」は、主に焼酎原料用途やでん粉用途のサツマイモ(甘藷)栽培を大幅に省力化できる技術として期待されています。

育苗・採苗を行わず植え付けも機械化できるため、挿苗栽培に比べ労力とコストを大幅に削減できますが、従来の品種では種芋のみが肥大し子芋の収量が落ちる傾向にありました。

そこで、子芋が多く着生する品種として、焼酎原料用の「ムラサキマサリ」や「スズコガネ」などが開発されています。

【原料用】苗の小型化により育苗・定植作業を省力化

独立行政法人農畜産業振興機構 九州沖縄農業研究センターは、サツマイモ(甘藷)の苗を小型化することによって、苗床作りから定植まで一貫した機械化体系の確立をめざしています。

機械化の肝は定植作業です。慣行栽培では、苗長25~30cmで7~8節まで育苗してから定植するため、苗が直立せず定植の機械化が困難でした。

苗長20cm程度までは苗が直立しているので、苗長15cmの段階で採苗することにしました。これが苗の小型化です。そして、新たに開発した「小苗用移植機」での定植の機械化を実現しようとしています。

「小苗用移植機」は市販の半自動野菜移植機に送風機と灌水ポンプを取り付けたもの。送風機で軽い小苗を正確に落下させ、灌水ポンプによって移植と灌水を同時実施することで活着を促進することができます。

小苗用移植機は直立植えのみに対応するため、外観を重視しないでん粉用途や焼酎原料用途の品種向けです。

また、定植の前段階についても、機械を導入した作業体系を考案しています。

苗床造成機で苗床を造成し、種芋の伏せ込みと採苗では、それぞれコードレスの穴あけ機・一斉採苗機を用いることで効率化します。その後、専用の調製機を用い、定植用・再育苗用・廃棄に苗を選別し、短い切り苗は養液栽培での再育苗にまわします。

慣行の作業体系に比べると、育苗・採苗・定植にかかる作業時間を半減でき、また、伏せ込みや採苗の際のかがみ込む作業を大幅に減らせるため、作業者の身体的負担を軽減することもできます。

同センターでは、小苗化による収量減への対応も提案しており、慣行栽培と同程度の収量を実現できるとしています。具体的には、栽植密度の調整や採苗回数の増加による作付面積拡大、定植前の蒸散抑制剤散布や定植と同時の灌水などによる活着率向上などです。

導入にあたっての今後の課題として、養液栽培による再育苗に農家がまだ慣れにくいことが挙げられています。しかし、伏せ込み・苗の選別・定植の軽労化は農家からの評判がよく、部分的な導入推進も視野にいれているとのことです。

出典:独立行政法人農畜産業振興機構 調査報告「かんしょ苗は小型で軽労・省力化を実現(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター)」

【世界初】重要病害「基腐(もとぐされ)病」の迅速診断キット

「基腐病」は糸状菌の感染により、サツマイモ栽培に深刻な被害を与える病害です。この10年で台湾、中国、韓国で確認されました。2018年、日本で初めて沖縄で確認され、鹿児島や宮崎にも被害が広がっています。

基腐病に感染すると、葉や茎が枯れ芋は腐敗し収穫は望めません。また、感染に気付かず無症状の種芋から苗を生産すると、翌年、ほ場全体・地域全体に被害が広がる場合もあります。

基腐病の防除には、症状の似た病害と見極め、速やかに対策することが重要ですが、これまでは基腐病を特定する正確で速やかな診断方法がありませんでした。

2020年、東京大学大学院農学生命科学研究科の研究グループが、世界初の基腐病の診断キットを開発しました。

基腐病の遺伝子だけを増幅し、感染すると蛍光に光る仕組みで、数週間かかっていた病原特定を30分で行うことが可能になったのです。

高感度での診断が可能で、栽培を予定しているほ場の基腐病感染の診断、保存種芋の基腐病感染の見極めについて期待されています。

出典:東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部「サツマイモに壊滅的被害を与える侵入植物病「基腐病」の 超高感度・簡易・迅速診断を技術開発」

【用途別】サツマイモ(甘藷)の注目品種

サツマイモ(甘藷)のさまざまな品種

灯工房 / PIXTA(ピクスタ)

最後に用途別の主力品種・注目品種を紹介します。

サツマイモ(甘藷)の用途別消費動向

サツマイモ(甘藷)の用途別消費量は、1990年代までと比較すると、でん粉用や生食用、飼料用が減り、アルコール用と加工用が増加しました。

最近数年をみると、全体ではやや減少していますが、生食用や加工用は安定して推移しています。

サツマイモ(甘藷)の用途別消費の推移


出典:農林水産省「令和元年度版いも・でん粉に関する資料」よりminorasu編集部作成

主な産地とその仕向け先についてはこちらの記事をご覧ください。

「サツマイモ(甘藷)生産量の都道府県ランキング! 収量アップ&省力化のコツとは」

生食用途向け品種

生食用のサツマイモ(甘藷)の主力品種は、消費者の好みの変化によって変わりつつあります。

以前は「ホクホク」した食感が好まれましたが、現在は「しっとり・ねっとり」した食感が好まれるようになったといわれています。

ベニアズマ

生食用の主力品種で、関東中心に栽培されています。果皮は少し紫がかった濃い赤色、果肉の色は黄色です。粉質で繊維質が少なく、ホクホクとねっとりの中間タイプの食感です。

高系14号

「なると金時」など多くの派生系統が、西日本を中心に栽培されています。貯蔵性に優れ、食味は中程度。果皮は赤みが強くやや厚みがあり、果肉は生の状態ではクリーム色をしていて粉質です。加熱すると黄色くホクホクとした甘みが出ます。

高系14号の派生系統「なると金時」

nagare / PIXTA(ピクスタ)

べにはるか

食味、形、収量性、病虫害抵抗性のバランスが取れた生食用途及び加工用途向け品種で、東日本を中心に栽培されています。加熱すると、しっとり・ねっとりとした食感で、甘みが強くなります。

加工用途向け品種

次に、加工品ごとに適した品種を紹介します。

焼きいも

ねっとりとホクホクの中間の食感を得られる「ひめあやか」は、1個140g前後で食べ切りサイズの収量が多い品種です。

収穫直後はホクホクで貯蔵後は甘くなめらかな舌触りになり、食感の変化がある「シルクスイート」もおすすめです。

干しいも

「タマユタカ」は干しいも用の主力で、甘みは控えめでホクホク系の食感です。「ほしこがね」は「タマユタカ」などで問題になる「シロタ」と呼ばれる現象が発生しにくいのが特長です。

スイーツ

調理後に黒く変色しにくく、ほっこりした食感の「あいこまち」は、スイートポテトや芋ようかんに適しています。「パープルスイートロード」は紫芋としては甘みがあり、加熱後は青みがかった紫色が美しい品種です。

パープルスイートロード

Fuchsia / PIXTA(ピクスタ)

原料用途向け品種

「コガネセンガン」は香りがよく焼酎の原料として評価を受けています。

でん粉原料用の主力品種は「シロユタカ」が人気です。「こなみずき」はでん粉の糊化温度が低く、保形性・消化性が高いことから、新たなでん粉原料用品種として注目されています。

コガネセンガン

海と猫 / PIXTA(ピクスタ)

サツマイモ(甘藷)栽培において、大きな比重を占める育苗~定植について、基本の栽培管理とともに、新しい省力化技術を紹介しました。

新しい省力化技術を全面的に導入するのは、産地固有の事情もあり難しいかもしれませんが、部分的な導入から検討してみてはいかがでしょうか。

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上澤明子

上澤明子

ブドウ・梨生産を営む農家に生まれ、幼少から農業に親しむ。大学卒業後は求人広告代理店、広告制作会社での制作経験を経て、現在フリーランスのコピーライターとして活動中。広告・販促ツールの企画立案からコピーライティング、取材原稿の執筆などを行う。農業専門誌の制作経験があり、6次産業化や農商工連携を推進する、全国の先進農家・農業法人、食品会社の経営者の取材から原稿執筆、校正まで携わったことから農業分野のライティングを得意とする。そのほか、食育、子育て、介護、健康、美容、ファッションなど執筆ジャンルは多岐にわたる。

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