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サツマイモ(甘藷)生産量の都道府県ランキング! 収量アップ&省力化のコツとは

サツマイモ(甘藷)生産量の都道府県ランキング! 収量アップ&省力化のコツとは
出典 : Carbondale / PIXTA(ピクスタ)

サツマイモ(甘藷)は極めて栄養価に富んだ野菜であり、加工食品の原料としても広く用いられています。サツマイモ(甘藷)の生産量上位を占める県では、どのような栽培方法が行われているのでしょうか?収量アップの方法や省力化のポイントとあわせて紹介します。

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サツマイモ(甘藷)は中南米原産といわれるヒルガオ科の植物で、日本には中国を経由して江戸時代初期に伝わりました。

現在生産量上位の県は、火山性土壌の広がる鹿児島県や茨城県です。このサツマイモ(甘藷)の生産量ランキングと、効率的な栽培方法について解説します。

サツマイモ(甘藷)が好む気候と土壌

サツマイモ 畑

Akishima / PIXTA(ピクスタ)

サツマイモ(甘藷)の生育適温

サツマイモ(甘藷)は中南米原産のため、栽培期間の適温は20~35℃と高めであり、収穫までの積算温度も3,000℃以上必要です。産地としては、温暖で平均日照時間が長い地域が適しているといえるでしょう。

サツマイモ(甘藷)栽培に向いている土壌

サツマイモ(甘藷)は、乾燥に強いが湿害に弱い、酸性土でもよく生育する、多肥の環境では根の肥大が進まない「ツルぼけ」状態になる、といった特性があります。

そのため、排水性さえよければ土壌を選ばずに栽培することが可能です。

現在国内有数の産地である関東地方と九州地方は、いずれも火山性の風化堆積物による土壌の土地で、作物の生育に必要な栄養分が少ない「痩せた土地」です。

この痩せた土地でも生育する作物として、古くからサツマイモ(甘藷)が栽培され、産地を形成してきました。

九州シラス台地とサツマイモ(甘藷)

シラスとは主に火砕流の白色の堆積物を指す鹿児島地方の方言です。シラス台地の土壌は、作物の生育に必要な養分が乏しく、保水力が低く、また、地下水位は極めて低いという特徴があります。

江戸時代は農業用水を確保する技術が発達していなかったため、シラス台地では水稲が栽培できず、当時「からいも」と呼ばれていたサツマイモ(甘藷)、大豆、菜種などを栽培していました。

薩摩藩は、18世紀に起こった大飢饉を、既にサツマイモ(甘藷)の栽培が普及していたことで乗り切ったと言われています。

関東ロームとサツマイモ(甘藷)

「ローム」とは土壌学の言葉で、砂と粘土がまじりあった土壌を言い、保水性と透水性、通気性をあわせ持っています。(火山灰の風化堆積物であるかには関係ありません。)

しかし、関東地方に分布しているロームは、火山灰の風化堆積物であるため養分が乏しく、加えて台地や高台が多いため、江戸時代までは農業用水の確保が難しく、水稲の栽培が困難でした。

江戸時代、農学者青木昆陽が、水稲の栽培が難しい関東各地にサツマイモ(甘藷)の栽培を奨励したのは有名な話です。青木昆陽は薩摩藩が荒れ地でも耕作できるサツマイモ(甘藷)で飢饉を乗り切った、という噂を聞いて、これを研究したと言われています。

サツマイモの生産量(収穫量)推移

サツマイモ 収穫

マハロ / PIXTA(ピクスタ)

2019年産サツマイモ(甘藷)の全国収穫量は約74.9万tで、作付面積は約3.4万haでした。その5年前の2014年では、収穫量が約88.7万t、作付面積は約3.8万ha。2014~2019年の5年間で、収穫量が約16%、作付面積が約10%減少していることがわかります。

minorasu(ミノラス)の画像

出典:農林水産省「作物統計」よりminorasu編集部作成

用途別消費をみると、生食の市場販売用は35万t前後で安定していますが、アルコール用、でんぷん用の消費量は振れ幅が大きいのがわかります。

ここ数年の収穫量の減少は、アルコール用、でんぷん用の需要減少の影響が大きいことがうかがえます。

minorasu(ミノラス)の画像

出典:農林水産省「かんしょの用途別消費 平成29年産」よりminorasu編集部作成

日本での主な産地は?サツマイモ生産量(収穫量)の都道府県ランキング

サツマイモ(甘藷)の収穫量トップは鹿児島県の26.1万t(全国収穫量に占める割合 35%)です。2位の茨城県が16.8万t(同23%)、3位の千葉県9.4万t(同13%)、4位の宮崎県8.1万t(同11%)で、上位4県で81%を占めています。

minorasu(ミノラス)の画像

出典:農林水産省「作物統計」よりminorasu編集部作成

次に、収穫量が全国1位の鹿児島県をはじめ、上位4県のサツマイモ(甘藷)収穫量と作付面積にあわせ、栽培されている品種や栽培状況について、農林水産省の「作物統計」と「かんしょの用途別消費」をもとに解説します。

※以下、収穫量・作付面積・主要品種については2019年産、用途別消費については2017年産のデータに基づいて記載しています。

第1位:鹿児島県

収穫量(2019年産):約26.1万t
作付面積(2019年産):約11,200ha
主要品種(2019年産):・コガネセンガン(5,190ha)・シロユタカ(3,720ha)・高系14号(1,114ha)
出荷時期:通年(旬は5~11月)

出典:農林水産省「かんしょの収穫量(全国農業地域別・都道府県別)令和元年産」

minorasu(ミノラス)の画像

出典:農林水産省「かんしょの用途別消費 平成29年産都道府県別消費状況」よりminorasu編集部作成

2017年産の仕向け先をみると、でん粉原料用と焼酎原料となるアルコール用が全体の約8割を占めており、生産はでん粉製造業・焼酎製造業の需要に左右されることになります。

なお、「かんしょでん粉」は、ほぼ鹿児島県のみで製造されています。一般には馴染みがありませんが、清涼飲料水などで使われている異性化糖(果糖ブドウ糖液糖)やぶどう糖、水あめなどの甘味料、お菓子・麺類・水産練製品などの食品、化工でん粉として医療用や工業用にも使われています。

2位:茨城県

収穫量(2019年産):約16.8万t
作付面積(2019年産):約6,860ha
主要品種(2019年産):ベニアズマ(3,200ha)・べにはるか(1,900ha)・タマユタカ(130ha)
出荷時期:通年(旬は9~翌7月)

出典:農林水産省「かんしょの収穫量(全国農業地域別・都道府県別)令和元年産」

minorasu(ミノラス)の画像

出典:農林水産省「かんしょの用途別消費 平成29年産都道府県別消費状況」よりminorasu編集部作成

茨城県ではサツマイモ(甘藷)は主に東部で広く生産されており、生食用の栽培面積、生産数量ともに日本でトップです。
また、加工食品向けでは、名産の干し芋となる蒸し切り芋と大学いもが多くなっています。

干し芋の生産シーズンには、農家が干し台の上一面に薄く切ったサツマイモ(甘藷)を敷きつめる風景がそこここで見られます。

3位:千葉県

収穫量(2019年産):約9.4万t
作付面積(2019年産):約4,040ha
主要品種(2019年産):ベニアズマ(2,580ha)・べにはるか(860ha)・高系14号(226ha)
通年(旬は8~翌4月)

出典:農林水産省「かんしょの収穫量(全国農業地域別・都道府県別)令和元年産」

minorasu(ミノラス)の画像

出典:農林水産省「かんしょの用途別消費 平成29年産都道府県別消費状況」よりminorasu編集部作成

東京に近いことから、生食用の市場販売向けが9割を占めます。その他は飼料用・種子用が主な用途です。

隣接する茨城県と同じく関東ローム層が広がる千葉県では、江戸時代からサツマイモ(甘藷)の栽培が行われていました。

明治時代から千葉市を中心にでん粉産業が盛んになり、昭和初期には、生食用とでん粉用の生産数量が同等程度だったようです。しかし、1963年の粗糖の輸入自由化とコーンスターチの輸入増に伴い、でん粉用の栽培は激減しました。

4位:宮崎県

収穫量(2019年産):約8.1万t
作付面積(2019年産):2019年 約3,360ha
主要品種(2019年産):コガネセンガン(2,300ha)・高系14号(835ha)・ムラサキマサリ(265ha)
通年

出典:農林水産省「かんしょの収穫量(全国農業地域別・都道府県別)令和元年産」

minorasu(ミノラス)の画像

出典:農林水産省「かんしょの用途別消費 平成29年産都道府県別消費状況」よりminorasu編集部作成

宮崎県も鹿児島県と同様に、栽培に適したシラス台地を利用して、サツマイモ(甘藷)の産地として発展してきました。温暖な気候のため、収穫は春から初夏にかけて行われ、それを貯蔵することで1年を通しての出荷を可能にしています。

鹿児島県と同様、焼酎の原料となるアルコール用が約7割を占めます。

品種の傾向は鹿児島県と似ていますが、伝統のある「高系14号」の作付面積も大きく、改良型の「宮崎紅(みやざきべに)」などオリジナル品種の普及にも力を入れています。

【参考】日本と世界のサツマイモ生産量

中南米から世界に広がったサツマイモ(甘藷)は、現在中国とアフリカ諸国が生産の中心地です。以下にトップ5と、その生産量を挙げてみましょう。

minorasu(ミノラス)の画像

出典:FAOSTAT (Crops>ITEMS:Sweet potatoes、ELEMENTS: Production quantity)よりminorasu編集部作成
(FAOが2020年2月6日リリース・9月14日改訂したデータによる。FAOSTATの統計データは一部、FAOなどによる推計を含み、データのリリース・改訂によって変わることがあります。)

2018年の世界のサツマイモ(甘藷)の総生産量は約9,200万tで、日本は約79.7万tとランキングでは15位でした。現状、世界の総生産量のうち約58%を占める中国が他国を圧倒しています。

しかし、総生産量の推移をみると、以前に比べるとかなり減少傾向にあります。2008年の総生産量は約1億700万tでしたので、2018年までの10年間で約14%減少しています。

出典:FAOSTAT (Crops>ITEMS:Sweet potatoes、ELEMENTS: Production quantity)
(FAOが2020年2月6日リリース・9月14日改訂したデータによる。FAOSTATの統計データは一部、FAOなどによる推計を含み、データのリリース・改訂によって変わることがあります。)

日本で栽培されているサツマイモ品種の作付面積ランキング

サツマイモ品種

Carbondale / PIXTA(ピクスタ)

現在国内で生産されている品種の中から、上位5位までを特徴も含めて紹介します。なお、データは2017年産のものです。

1位 コガネセンガン(作付面積:7,893ha)
鹿児島県と宮崎県で最も多く栽培されており、高収量を誇る品種です。肉質は粉質できめ細かく、でん粉用品種でありながら、きわめて食味がよいサツマイモ(甘藷)です。

2位 ベニアズマ(作付面積:5,580ha)
茨城県と千葉県の主力栽培品種で、早期肥大型で収量が多いという特長があります。甘味が強いことから、生食用と加工食品用に好まれます。

3位 べにはるか(作付面積:4,656ha)
関東地方が主な生産地で、外観と食味がよいうえに、良品率が高いという特長があります。

4位 高系14号(作付面積:4,211ha)
高知県で育成された品種で、早期肥大型で高収量タイプです。この品種をベースにした新しい品種も多く開発されています。

5位 シロユタカ(作付面積:3,490ha)
コガネセンガンと同様、九州地方での生産が多く、主にでん粉用として利用されています。コガネセンガンよりもさらに高収量タイプであり、甘味が少ないため生食用にはあまり向きません。

出典:農林水産省「令和元年度いも・でん粉に関する資料>(9)かんしょ品種の普及状況」

生産地に学ぶ、サツマイモ栽培の多収化&省力化のコツ

サツマイモの栽培

四季写彩 / PIXTA(ピクスタ)

最後に、サツマイモ(甘藷)の主な生産地が取り組んでいる、高収量化と省力化の事例を紹介します。

【原料用サツマイモ】収量を保ったまま省力化が目指せる「小苗栽培」

鹿児島県では小苗栽培の技術を使って、省力化と高収量確保の両立に取り組んでいます。小苗の植付は慣行栽培よりも機械化しやすいため、育苗から植付までを一貫したシステムで管理できます。

ただし小苗の植付では、慣行栽培に比べると1株当たりの子芋の個数が少なくなる傾向にあります。そこで密植栽培を行い、栽培期間を長くすることで慣行栽培と同等の収量確保に成功しました。

慣行栽培と変わらない施肥量で慣行栽培とほぼ同等の収量を確保し、機械化によって作業時間を大幅に短縮しています。

【生食用サツマイモ】いもの小型化と収量アップを図る「容器苗移植栽培」

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構では「容器苗移植栽培法」として、2分割した種芋を容器に入れて育苗し、約20cmの深さに容器苗を移植する研究を行っています。

その結果、親芋の肥大が抑制され、面積当たりの子芋の収量が慣行栽培を上回ることが確認されました。

品種は、「べにはるか」と「高系14号」が使用され、慣行栽培に比べて面積当たりの子芋個数が、約4~8割ほど増加するという結果が出ています。最近は小型のサツマイモ(甘藷)のニーズが高まっていることから、商品価値を高める効果も期待されています。

サツマイモ(甘藷)の生産量は、仕向け先の需要に大きく影響されがちです。しかし、仕向け先のニーズに応じた新しい品種の開発や、新たな省力化・高収量化の技術開発が行われており、収益拡大の余地は十分にあるのではないでしょうか。

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大澤秀城

大澤秀城

福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。

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