【畑のネズミ被害対策】ネズミの種類と効果的な防除法
農業におけるリスクの1つとして挙げられるのが鳥獣害です。中でもネズミは被害額こそ大きくないものの、食害以外の被害をもたらすこともあるため軽視するべきではありません。そこで、今回はネズミの被害に悩まされている農家の方に向けて、ほ場に発生するネズミの種類やその防除方法を紹介します。
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ネズミの被害は衛生面の問題が取り上げられるケースも多くありますが、農家にとっては食害による収量減などを引き起こすことも問題です。また、病害や寄生虫の媒介などの厄介な問題を引き起こすことのある害獣であるため、防除を怠ってはいけません。
この記事ではほ場に発生するネズミの種類やその防除方法を紹介するので、ネズミ被害に悩んでいる農家の方は参考にしてください。
農業におけるネズミ被害の実態
農林水産省の「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和元年度)」によると、2019年度のネズミによる被害金額は7,900万円となっています。
これは鳥獣害被害全体の約0.6%に過ぎませんが、ネズミによる被害は作物だけではないため、被害額が少ないからといって油断してはいけません。まずは、ネズミがもたらす被害をしっかりチェックしておきましょう。
出典:農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況(令和元年度)」よりminorasu編集部作成
食害
サツマイモ(甘藷) ハツカネズミによる食害
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
水稲 野ネズミ 被害ほ場
出典:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ネズミによる代表的な被害は食害です。ネズミの種類によっても異なりますが、サツマイモ(甘藷)やニンジンといった根菜類をはじめ飼料用の稲や麦類など、非常に幅広い作物が被害を受けます。かじられた作物は品質が低下するため売り物にならず、農業所得の減少につながります。
ネズミは自らの食欲を満たすためだけに作物をかじっているわけではありません。ネズミには前歯の中心にある門歯がずっと伸び続けるという特徴があり、その手入れのために身近にあるものをかじる習性があります。そのため、倉庫内の家具や電気コードなどをかじられることもよくあります。
特に施設園芸においては、配線がかじられて暖房機などの設備が停止して作物へ間接的な被害を及ぼすケースもあるので注意が必要です。ネズミにかじられた配線がショートして火災につながる可能性も考えられるため、被害が大きくなる前に早めの防除を心がけましょう。
病害や寄生虫の媒介
ネズミは各種の病害や寄生虫を運ぶ存在としても知られています。
ネズミが媒介する代表的な寄生虫として挙げられるのが宿主の血を吸うイエダニです。基本的には宿主であるネズミの血を吸っていますが、そのネズミが死んでしまうと血を求めて周囲の人を噛むことがあり、噛まれた箇所は赤い湿疹ができて激しいかゆみが生じます。
また、ネズミはいたるところに出没して病原菌を含む糞をします。特にサルモネラ菌を媒介することで知られており、ネズミの糞が付着した作物を人間が食べると食中毒を引き起こす恐れがあるので気を付けなくてはいけません。
そのほかにも腹痛や頭痛といった症状がでる腸チフスや、2018年に日本国内で流行したCSF(豚熱)といった病害もネズミが媒介する可能性が指摘されています。
出典:松本家畜保健衛生所「長野県畜産試験場における CSF(豚熱)発生に係る一考察」
畑に発生するネズミの種類
crossfade / PIXTA(ピクスタ)
ネズミには大きく分けると、屋内に生息する家ネズミと、屋外で活動する野ネズミの2種類がありますが、区別は絶対的なものではありません。今回はその中から作物に被害を及ぼすことのある3種類のネズミを解説します。それぞれの特徴をよく理解して防除に役立てましょう。
ドブネズミ
ほ場に出没するネズミの中でも比較的サイズが大きいのがドブネズミです。
体長は20~30cm、体重は150~500gくらいまで大きくなる個体もいます。毛は白みを帯びた灰褐色であることが多く、ほかのネズミに比べて耳が小さい点も特徴です。性格は獰猛で人を噛むこともあるので、見つけても安易に近づくのは避けましょう。
ドブネズミは雑食性であることから肉や魚を中心として基本的に何でも食べます。寒さに強く泳ぎも得意なので水気の多いじめじめした場所を好む傾向にあり、屋内では台所などの水回りや下水道、屋外であれば地中に巣を掘って生活しています。
殺鼠剤が比較的効きやすいため、化学的防除が基本となるでしょう。
クマネズミ
クマネズミはドブネズミよりも一回り小さい種類のネズミです。体長は15~25cm、体重は150~200gが一般的なサイズで、毛色は黒色や茶褐色をしています。体の割に耳が大きかったり、尾が長かったりする点でドブネズミと異なります。
また、ドブネズミに比べて機動性が高く、壁面を垂直に駆け上がったり、綱渡りをしたりすることも得意です。そのため、倉庫などの建物内部に侵入して巣を作ることも多く、建物の上層部や天井裏などに生息していることもあります。
クマネズミにはイエダニが多く寄生していることから積極的な防除を心がけましょう。ただし、警戒心が強く罠にかかりにくいうえ、殺鼠剤に強いスーパーラットと呼ばれる個体がいるなど、防除が難しいケースも見られます。
ハツカネズミ
ハツカネズミは一般的に体長6~9cm、体重10~20gの小柄なネズミです。毛色は褐色や黒色でクマネズミと似ているものの、サイズの違いで判断できます。
性格は穏やかで好奇心旺盛ですが、食害や病原菌をもたらす害獣である点はほかのネズミと同様なので防除に努めなければいけません。
ハツカネズミは野ネズミに分類されますが、屋外だけでなく物置小屋や天井などの屋内にも生息しています。寒さに弱い一方で乾燥には強く、水のない空間でも生存できますが、好奇心が強いことから罠にかかりやすいのでクマネズミに比べると対処しやすいでしょう。
畑のネズミの防除方法
CHAI / PIXTA(ピクスタ)
ネズミは用心深く、過去に経験した苦痛や不快な出来事に対する高い記憶力も持っており、すべてのネズミに有効な対策というものはありません。防除においてはネズミの習性をよく理解し、その地域の被害実態に適した防除を根気と工夫を持って行うことが大切です。
ここからはネズミの具体的な防除方法を5つ紹介するので、ご自分の状況に合わせて試せそうな方法をチェックしてみてください。
1.侵入経路や生息場所を特定する
ネズミの防除において、まず重要なのは侵入経路や生息場所をしっかり特定しておくことです。
ネズミが通らない場所に対策をしても残念ながら効果は薄いでしょう。あらかじめネズミが通る場所や住んでいる場所を把握し、そこへピンポイントに対策することで最大限の防除効果を期待できるほか、作業効率もアップします。
ネズミは同じ場所を何度も通ることが多いので、油や汚れで黒光りしているような場所はネズミの通り道である可能性が高いといえます。
また、ネズミは尿をしながら移動しますが、その尿には蛍光物質が含まれています。暗所でブラックライトを照射することで古い尿は黄白、新しい尿は青白く光るので怪しい場所があるときは試してみるとよいでしょう。
ネズミは屋外と屋内のどちらか一方だけを生息域にしているとは限りません。中には作物を食害したあとで倉庫や家屋の周辺に移動するケースもあるので、屋外と屋内の両面から複合的な対策を取ることが重要になります。
2.耕種的(生態的)防除:ネズミの生息環境を破壊する
ネズミは巣を作ってその周辺を生息域とするため、防除に当たってはそもそもネズミが棲みつかないような環境を整えることも大切です。
ネズミの隠れ場所を減らすために、ほ場や畔端、農道といったネズミが巣を作ったり、通り道になったりする場所の雑草を刈り取るとよいでしょう。わらや粗大有機物のあるほ場はネズミが集まりやすいため、作物の収穫後は株際の土を除去してしっかりと踏み固めておくことも有効です。
そのほかにも、「天敵動物の保護」や「モグラ対策」をすると、ネズミにとって生息しにくい環境を整えられます。作物に被害を及ぼさないことが前提ですが、例えば、ネズミの天敵であるイタチやキツネ、ヘビなどが出入りするほ場には警戒心が強いネズミは近づきにくい傾向にあります。
また、農地にあるモグラの通り穴は、ネズミの通り道となってしまいます。超音波発生器や刺激臭のする忌避剤、罠による捕獲などでモグラ対策をすることでネズミの侵入経路が減り、防除に貢献するケースがあることも覚えておきましょう。
3.環境的防除:ネズミを寄せ付けない対策
超音波発生器や刺激臭のする忌避剤は、モグラだけでなくネズミを寄せ付けない環境的防除として有効です。
超音波発生器はネズミが嫌がる高周波の音を発生させてネズミを近くに寄り付かせない効果があります。
ほ場に埋め込むタイプが一般的で、管理する労力があまりかからない点はメリットですが、効き目は個体差によって異なる点や長期間使用するとネズミが音に慣れてしまって効果が低下する恐れがある点はデメリットです。
一方、忌避剤はネズミが嫌う匂いや煙を発生させる防除アイテムです。物理的にネズミの侵入を防ぐ柵に塗布すれば相乗効果でより強固な防除効果が期待できます。
屋内では燻煙タイプや設置タイプが有効ですが、屋外では効果は弱まるため、ネズミやその通り道に直接噴霧するスプレータイプを使用しましょう。
4.物理的防除:罠をしかける
物理的防除はネズミの個体数を減少させることにつながるので、成果が上がれば防除に大きく貢献します。具体的には捕獲機などの罠を巣穴周辺に設置する方法が挙げられますが、そのほかにもほ場周辺に溝を掘り、そこへ落とし穴を設置して捕獲する方法もあります。
ネズミは同じルートをたどって侵入するケースが多いため、侵入経路がわかっている場合には高い効果を期待できるでしょう。
ただし、捕獲した個体は自らの手で処理しなければいけません。捕獲したまま放置すると腐敗してかえってダニの繁殖を助長する原因になることもあるので、ネズミが苦手な人はほかの方法を検討するとよいでしょう。
5.化学的防除法:殺鼠剤を使用する
比較的手軽に高い防除効果を期待できるのが殺鼠剤を使用する化学的防除です。
登録されている薬量をネズミの通路や巣穴の周辺に巻いておくだけで防除できるので、誰でも手軽に実行できます。また、罠などを使用する物理的防除と違ってネズミの処理を自らの手で行う必要がない点もメリットです。
ネズミのエサが不足しがちな晩秋から初冬にかけて、または繁殖が始まる前の早春に実施すると、より高い効果を期待できるでしょう。
殺鼠剤を使用する際の注意点は、ほかの動物にまで影響を及ぼさないようにすることです。
殺鼠剤はいわゆる毒餌なので、食べるとネズミ以外の動物も死んでしまうことがあります。そのため、使用する際はベイトボックス(毒餌箱)を利用して雨などによる殺鼠剤の損壊を防ぎ、周囲の有益動物が食べないように配慮しなくてはいけません。
※農地で殺鼠剤を利用する場合は、必ず、農薬登録において「野ソ」で適用のあるものを使ってください。
野ネズミの巣穴
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
農作物全体におけるネズミの被害はそれほど大きくありませんが、病害や寄生虫を媒介するといった被害も考えられるため、積極的な防除に努めたほうが無難です。
ただし、防除方法にはさまざまな種類があり、ネズミの種類によっても効果的な対策は異なります。ネズミの巣や通り道を把握してから対策を実行したほうが効果的なので、まずはそれらを調査することから始めましょう。
今回紹介した複数の対策を組み合わせて、自らの状況に合わせた最適な防除プランを練ってみてください。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。